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103 審問の館

お待たせいたしました。引き続き魔女狩り編です。審問の館に踏み込んだタクミたちが目にしたものは・・・・・・


後半にかなり残虐な描写があります。苦手な方は飛ばしてください。

 地下に降りるとそこは石造りの薄暗い通路だった。警戒しながら10メートル程先に進むと木のドアが一つあるだけで他には何も無い。


 ドアにはやはり鍵が掛かっているが圭子の軽いひと蹴りで簡単に鍵の部分が吹き飛びドア全体も歪んでいる。彼女の蹴りは一体どれだけの威力を秘めているのだろう。


 ドアの先は地下牢になっており、全部で10の独房がある内の奥の2つに力なく女性が横たわっていた。


「今すぐ助けます」


 岬が牢の鍵に手を掛けて一気に引き千切る。『ガシャン』という音を立てて独房の出入り口が開くが、中の囚人は身を小さくして怯え切って首を横に振るだけだった。


 その囚人は見た感じは10台の若い娘でタクミたちとほぼ同年代だが、恐怖と苦痛でやつれ切っており青白い顔をこちらに向けて体を震わせていた。彼女は牢の扉が開くたびに恐ろしい目に合ってきたので、その音を聞くたびに条件反射で身を震わせてしまうのだろう。


「恐れないでいい、今から助ける」


 空が近付いて彼女の体をチェックしようとするが、首を横に振って『来ないで! お願い、もうやめて!』とうわ言のように掠れた声を上げ続ける。


「タレちゃん、この子を押えていて」


 岬が粗末な寝台から起き上がりかけようとする娘にそっと近付いて、彼女の髪を優しく撫でてからその頭を軽く押える。娘は両手と両足を頑丈な鎖で拘束されており、岬に頭を抑えられた事で身動きを封じられた。


「ちょっと眠ってもらう」


 空は鎮静剤のアンプルを取り出して彼女の腕に注射する。薬の作用であっという間に目を閉じる娘、その様子を見た岬がすぐに手足の鎖を外していく。


「症状は理解した。両肩の脱臼と足の指の全損、背中の打撲。おそらく精神的にも大きな傷を負っているが、まだ生命力が残っているから回復は可能」


 この娘はここに捕らえられてからの日が浅かったのか、刑場に引き出された娘よりはまだ傷は浅かった。ただしその心に癒し難い大きな傷を負っているのが明白なだけに、この先どう生きていくのかという大きな問題が残ると空は言いたかった。特に神経が集中している足の指を切り落とされた痛みと、おそらくは酷い方法で陵辱された心の傷が彼女の精神を大きく苛んでいた。


 それでもせめて体の傷は直して少しでもまともな生活が出来るように手助けをしようとする空、その表情から窺えるように真剣に魔力を流して娘の回復を図っている。


 だが聖女と呼ばれる空をしても切り落とされた指を復元するのは簡単ではなく、彼女の額に汗が滲む。ハンカチを取り出してそっとその汗をぬぐう岬、他の女子は何とか回復することを祈ってその様子を見つめている。タクミだけはもう一つの残った独房の様子を見に行ってこの場は不在だ。


 空が魔力を流し始めてから3分以上が経過すると、娘の体に変化が起こり始めた。無残に切り落とされていた足の指が少しずつ再生を始めたのだ。5分もすると見事に元通りに10本の指が生えそろう。これは単に魔法の力だけでなく、3000年後の再生医療の技術も組み込んだ空にしか出来ない高度な技法だった。


「これで体の傷は何とか治せた。あとは心の問題」


 空が言う通りで娘が心の傷を癒すにはこの先長い時間が掛かる。すべてを克服出来るかどうかは彼女次第で、可能ならば手厚い看護を受けた方が良いがこの世界でどこまで期待できるかは分からない。


「タレちゃん、この子を外に運び出して欲しい」


 空の言葉に頷いて岬が娘を抱きかかえて外に連れ出す。念のため圭子も同行して二人が門の前にやって来ると一人の男が転がり出てくる。


「タニア、タニア! 生きていたか!」


 その男は娘の父親のようで彼女に取り縋って涙を流す。


「拷問で受けた体の傷は治してありますが、この子は口には言い表せないような恐ろしい目に遭っています。どうかご家族で優しく接してあげてください。今は薬で眠っていますが少ししたら目を覚まします」


 岬は男にそっと娘の体を渡そうとするが、普通の人間には眠っている成人女性を抱えるのは大変な事だ。周囲の手助けもあって何とか岬から我が娘の身柄を貰い受けて、男は何度も頭を下げていた。


 二人が再び地下に戻るともう一つの独房に捕らえられていた女性はすでに手当てを終えており、泣きじゃくりながら春名やシロに慰められている最中だった。こちらの娘は意識がはっきりしているので、圭子に連れられて同じように家族に引き渡される。


 圭子が戻ってきたところで全員が地下牢の並ぶ通路の先に進み出す。薄暗い通路は再び10メートル続いて、そこには先程と同様にドアがあった。ノブに手を掛けると今度は鍵が掛かっていない。


「いくぞ」

 

 タクミが全員の顔を見て声を掛けると女子たちは力強く頷く。そしてドアを開けた先には見るも無残な光景が広がっていた。


 そこは被疑者に対する拷問部屋で様々な嫌悪感を抱く器具が並ぶ中で、二人の女性が酷い扱いを受けたままで放置されていた。クリモフの仲間たちはおそらく彼女たちの拷問をしている最中に、この館を街の住民が取り囲んでいるとの報告を受けて慌ててどこかに出て行ったのだろう。


 一人の女性は全裸にされて天井から吊るされて、その足には鉄製の重りがぶら下がっている。全身の関節が軋む様な耐え難い痛みを覚える酷い仕打ちだ。その女性は苦しみのあまりに意識を失って口から泡を吹きながら白目を剥いている。


 タクミはナイフで重りを切り落としてから、天井の滑車を操作して、女性の体をゆっくりと降ろしていく。彼女の体は岬が受け止めて、毛布を敷いた床に静かに寝かせる。


 もう一人の女性は、鉄の寝台に両手と両足を固く拘束されていた。その体には無数の傷跡が刻まれて、この場で行われた拷問が、いかに残虐なものだったかを物語っている。


 刑場に引き出されたあの娘が生きる事を諦めて死を望んだとしてもこれでは彼女を責められない。長期間このような苦痛に晒されたら人間の神経が持つ筈が無かった。


 すぐに空が手当てを始めると、今まで苦痛に歪んでいた女性の表情が穏やかになる。だが彼女の目は焦点が全く合っていなかった。残念な事にすでに精神に異常を来たしており、これは回復魔法でも元には戻せなかった。


 やるせない思いを抱えたまま女子たちは犠牲者を連れて外に出る。


 なぜ人間はここまで残酷になれるのかとつい考えてしまう。確かにタクミを含めて彼女たちの内で圭子、美智香、岬の3人はこの世界で多くの命を奪ってきた。だが、決して面白半分でやった訳ではない。この世界では生きる事が自体が戦いなのだ。生き残るためには相手の命を奪わなければならない。それでも苦痛を長引かせる事無く一思いに命を刈り取る方がここで目撃した拷問に比べて余程人道的だ。


 宗教が暴走した挙句にそのある種の狂気と呼べる行いが引き起こされた。自分たちは決して正義の味方ではないが、このような残虐な行為を見過ごす程のお人好しでもない。悪行の報いは必ずその身で償わせるという思いを胸に一旦館の外に出る一同だった。


 


 

 

読んでいただきありがとうございました。次回は館に居る悪いやつらにお仕置きとなるのでしょうか? それとも・・・・・・


引き続き感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は火曜日の予定です。

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