100 アイゼルの街
ついに節目の100話を迎えることが出来ました。皆様の応援のおかげです。作者としては予定よりもかなり早いペースで投稿出来たと思っていますが、皆さんはいかがでしょうか? 今回は特に何もしない予定でしたが、記念として出来立てホヤホヤの101話を1時間後に投稿します。久しぶりに1日に2話投稿になります。
ここまでお付き合いしてくれた方々に感謝するとともに、どうぞ最後までお付き合いいただくようにお願い申し上げます。
「ほう、冒険者がこの国に入るのなんてずいぶん久しぶりだな。お前たち異教徒だろう、この国では異教徒は目をつけられやすいから気をつけろよ」
アルストラ王国の国境の街アイゼルで門番の兵は比較的愛想良くタクミたちを迎え入れた。国全体が魔女狩りで大変な事になっていると聞いていたので、やや拍子抜けするくらいの態度だ。彼がこっそりと教えてくれた話によると、この国は国王と教会で権力の二重構造になっており、最近ではお互いを蹴落とそうとして緊張状態にあるそうだ。それだけ国王側の教会への反発が強いので、彼がこのような態度をとるのはなるほどと頷ける。
それにしてもラフィーヌのギルドマスターが話していた通り冒険者すら入国しないというのは事実のようだ。魔物が出た時の対処は大丈夫なのかと他人事ながら心配になってくる。おそらくはこの国出身の冒険者たちは自由に活動できる場を求めて他国へ流出しているだろうから、下手をするとギルドですらまともに活動をしていないかもしれない。
此処までの道中は順調で一度だけ立ち寄ったギルドでどうしてもと頼まれてゴブリンの集落を殲滅する依頼を受けたのを別にすれば、角ウサギやオーク、オーガなどが時折現れるだけだった。それだけに此処から先は波乱の予感を秘めていそうだ。
「入国したはいいがどこで情報を仕入れるかだな。取り敢えずはギルドに行ってみるか」
タクミの言葉に従って一行は冒険者ギルドを目指す。普段タクミの言う事など中々聞かない女子たちも、他にいい案が無いので従うしかなかっただけだ。
番兵の話によると、この街の冒険者ギルドは広場の先にあるとの事だった。広場に向かう道は直線の一本道なので迷う事は無い。
タクミたちが歩いているのは広場に通じる大きな通りだが、不思議な事に誰一人歩いている姿が見当たらなかった。一体どうしたことだろうと首を傾げながら通りを進む一行の前に徐々に広場が近づいてくる。
「あの人だかりは一体何?」
先頭を歩く圭子が指差す先がどうやらその広場のようだが、そこに大勢の群衆が集まっている様子が窺える。
好奇心の塊の圭子が人だかりを掻き分けて中心が見える場所まで進み、そこで目にしたのは・・・・・・
「この女は魔族と契りを結んだ疑いで我々が取り調べたところ本人が事実と認めた。よって此処に神の名において裁きを下す」
神父のような服を着た男が手にした書類を読み上げて、柱に高々と括り付けられた若い娘に今にも刑を執行しようとする場面だった。
「何よ、あれ!」
街に入っていきなり魔女狩りの生々しい現場に出くわした圭子は思わず息を呑む。そこに彼女に遅れて他のメンバーが追いついてくる。
男は長々と娘の犯した罪を告発して、最後に刑を言い渡す。
「神の意思によってこの者を火あぶりとする」
凛とした通る声で刑が告げられて、教会騎士が準備に取り掛かる。柱に縛られている娘は体中に痛々しい拷問の痕があり、すでに息も絶え絶えな様子で真っ青な顔で項垂れて何の反応も出来ない。
「今回の裁きに異議のある者は申し出よ」
これは決して裁判の公平を期する為に言っているのではない。
俗に言う『最後の慈悲』というもので、被告の娘の家族や知人が彼女を苦しませない刑の執行を望むのであれば、先に命を奪ってから火にかけるという選択をするかどうかを聞いているのだ。
当然そのためには教会への莫大な寄付が必要になる。
「異議があるに決まっているでしょう!」
広場に居る数千人にも及ぶ群集全員の耳に届く大きな声が響く。タクミは『アチャー』という表情で額に手を当て、他の女子たちは『やっぱりやらかした!』という顔をする。
その大声の主はもちろん圭子だった。彼女は刑場に張り巡らしてある柵を拳の一閃で薙ぎ倒してズカズカと中に踏み込む。
「物的証拠はあるの?」
圭子が難しい言葉を使ったのは驚きだ!
「証拠だと! お前は何をバカな事を言っているのだ! 本人が罪を認めた以上これに勝る証拠はない!」
胸を張って断言する男、だが彼は致命的な間違いを犯していた。圭子に向かって『バカ!』と言ってしまったのだ。人間真実を突きつけられると凶暴になる傾向がある。彼女の場合はその度合いが非常に極端だった。
「ふん!」
右の拳は鳩尾に左の拳は下から顎を突き上げる。一瞬にして意識を失いドサリと地面に倒れむ男。
「バカって言う奴がバカなんだからね!」
子供のケンカか! 腰に手を当てて男を見下している圭子。いい年をしてもう少し分別のある人間になって欲しいものだ。それにしてもその攻撃が寸分違わずに急所を的確に捉えている。本当に恐ろしい娘だ。
「教会に対する反逆者だ! あの者を捕らえろ!」
警護をしていた教会騎士団の隊長らしき者の声が飛んで圭子を取り押さえようと10人が取り囲むが、彼女は全く余裕の笑みを見せている。柵の周りを埋め尽くす観衆は『大変な事を仕出かしたぞ』と固唾を呑んでその行く末を見守っている。
「待ってもらおうか」
さすがにこのままでは収拾が付かなくなるのでタクミが溜まりかねて刑場の中に進み出る。
「俺たちはAランクの冒険者だ。お前たちが束になっても敵わないぞ」
瞳に殺気を込めて隊長を睨み付ける。その物理的に精神を圧迫する殺気に気圧されて騎士たちはジワジワと後退りを始めていた。その隙に他の女子たちも中に入り込んでいる。
「岬、あの娘を降ろしてやってくれ。空と紀絵は治療を頼む。美智香、こいつの目を覚ましてくれ」
岬は柱に近付いてそれほど力を入れずに地中深く埋まっていた柱を引き抜いてからその体を戒めていた縄を指先で引き千切り、収納から取り出した毛布の上に娘を静かに横たえる。
次いで駆けつけた空がその状態を見るが残念そうな表情で首を横に振る。
「両足と全ての指と左腕、肋骨3本を全て骨折に加えて全身の打撲、直腸および生殖器の損傷と出血、顔面の火傷と左目の失明、これでは手の施しようがない。何よりも本人が生きる希望を失って死を望んでいる」
倒れてピクリともしない娘は度重なる拷問と夜毎に繰り返される無残な陵辱によって完全に生きる気力を失っていた。特に魔族と体の関係を持った者を清めるためと称して繰り返し残忍な方法で行われた拷問官たちによる性的な虐待が、彼女の生きる意志を根こそぎ奪っていった。まもなく婚約者との結婚を間近に控える身には余りに残酷過ぎる行為だった
魔法とて万能ではない。どんなに効果のある回復魔法でも本人が死を望んでいてはその体を回復させる事は出来なかった。空が首を振るのは止むを得ない。
せめて苦しむ事無く死を迎えられるように空は鎮痛薬を取り出して右腕に注射する。その横では紀絵が水筒を取り出して薄っすらと開いた口からゆっくりと水を流し込む。
娘の目が微かに開いたように見えたが、すぐに閉じて二度と開く事は無かった。やがてわずかに上下していた胸の動きが止まり、彼女の魂は天に昇っていく。
その様子をじっと見つめながら、女子たちはそれぞれのやり方で娘の魂が安らかになるように祈りを捧げた。
そして美智香は静かな怒りを込めて倒れている男の真上から全力で水の塊を落とした。約30トンにも及ぶ大量の水が頭上から降ってきて、男は意識を取り戻すと同時に溺死の寸前まで追い詰められている。水に流されてバタバタともがく男の姿は観衆の失笑を誘っていた。
「ようやく目が覚めたようだな」
ゴホゴホと咳き込む男を見下ろしてタクミは冷たい声を放つ。すでにこの男への死刑執行の意志は固まっているのだが、タクミの中で問題はどのようにその刑を下すかに移っていた。
この話の続きは2時間後に投稿いたします。




