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1 クラスごと異世界に

新しい投稿になります。ぜひ読んでください。

 気が付くと石造りの学校の教室2つ分くらいの部屋に、剣崎けんざきタクミのクラスの生徒全員が居た。


 チャイムが鳴って教科担当の教師が出て行った直後のタイミングで、彼らの教室が突然光に包まれて、気が付けばこの場所に来ている。


 意識を取り戻したのは現在タクミただ一人で、他のクラスメートはまだ目を覚ましていない。


 部屋を一通り見渡してみると、ドレスを着た身分の高そうな女性と神官のような服装をした男が立っている。


「おや、もう目を覚ましましたか。皆さんが気を取り戻すまでもう少しお待ちください」


 神官のような男の声が聞こえるが、どうも彼の話している内容と口の動きが同調していない。このままでは気持ちが悪いので、タクミはそっとMCSマルチ・コントロール・システムの端末を調整する。この端末は銀河中に張り巡らされたネットワーク『PNIシステム』に接続する端末だ。インターネットに接続出来るスマホのような物と思ってもらえれば構わない。ただしその機能は地球の科学レベルでは考えられない性能を誇っている。


 MCSは自動的に先程の言語を解析して、彼の脳内に言語情報を流し込んでいく。その結果わかったことは、英語に近い発音と文法を持った言語であることだった。


 そうこうする内に隣に居た十六夜いざよい 春名はるなが目を覚ます。


「あれ? 私いつの間にか寝ちゃいましたか?? やっぱり物理の時間は退屈ですね」


 まったく危機感を感じさせない口調で話しかけてくる春名。その表情は隣にタクミが居れば何も心配要らないと雄弁に語っている。春名は朝起きるのですらマンションの隣の部屋に住んでいる彼にすっかり依存している有様で、学校に居る間も含めて1日の殆どをタクミに頼って生きている何事も他人任せの性格だった。


 何かにつけて手の掛かる春名とタクミはかれこれ10年以上の長い付き合いだった。3歳の時に春名がタクミの隣の家に引っ越して以来の幼馴染で、高校に入ってからも常にタクミの隣にいる存在だ。


 タクミが抱いている春名への感情は殆ど家族のようなもので、彼に頼りきった春名の性格については今更特に何も言わずに放置している。現在の状況についても何らかの相談をしたいところなのだが、春名は頭の中で常に綺麗なお花が咲いていたり突然カーニバルが開催されたりという脳天気な状態なので、このような非日常的な危機に臨むにあたっては『これ以上頼りにならない人間は居ない!!』と断言できる人物だった。それでも一応の状況の説明はしておこうと思い直してタクミは話し出す。


「春名、どうやら違う星に来てしまったようだ」


 タクミは冷静に事実だけを告げる。余計なことを言っても春名の脳内では斜め上の解釈をする可能性が高いのだ。


「ええーー!! せっかく地球にも慣れてお友達もいっぱい出来て、来週はケイちゃん達と秋葉に遊びに行く予定だったのに・・・・・・」


 日本とはまるっきり違う世界に来た事実よりも、秋葉原に遊びに行くことの方が春名にとってはより重要な案件だったようだ。彼女の言葉でお分かりのように、タクミたちは異星人だ。


 惑星調査員として地球にやってきて活動していたタクミと、そして春名は彼の幼馴染・・・・・・ 赴任したタクミの後を追いかけて『留学』の名目で地球にやってきたのだった。


 彼らが他のクラスメートよりも早く目を覚ましたのは、単にワープや異次元航行に慣れていただけで、身体的な特徴は地球の人間と大差がない。と言うよりも春名に至ってはその身体能力はクラスでぶっち切りのビリだった。これは惑星ごとの生物的な違いというよりも、春名が持って生まれた運動音痴のせいに他ならない。


 そうこうするうちに、クラスメート達が一人また一人と目を覚まし始めた。皆『一体ここはどこだ?』と口々に話しているが、普段から周囲に出来るだけ干渉しない事にしているタクミはあえて何も言わいようにしている。当然春名にも『何も言うな!』と口止めをするのも忘れない、でないと彼女は仲のいい子達に色々と話してしまう恐れがあった。



「勇者の皆様、此度は私達の召喚にお応え頂きありがとうございました」


 突然部屋の中に身分の高そうな女性の声が響いた。


「一体どういうことだ!」


「早く帰してください!」


 一様に不安を口にする生徒たち、その中で一部のアニメやその手の小説に嵌っている皆様・・・いわゆるオタクやその予備軍達は歓喜の声を挙げていた。


 ちなみに、春名と仲のいいケイちゃんたちのグループもそちらに片足を突っ込んでいる側だった。彼女達は決して軽症とは呼べない厨二病に犯されており春名も多大な影響を受けている。というか、率先してグループの先頭を突っ走っている。春名を含めて仲がよろしい女子4人のグループで、皆それなりに可愛いのにクラス内の評価は『本当のもったいない!』とか『いい所もあるのにデメリットがあまりに壮大過ぎる!』といった『残念な子扱い』で一致している。 


 その中でケイちゃんこと、桑原くわはら 圭子けいこが春名の所にやって来た。


「ハルハル、ついに私達にも大チャンスが転がり込んできたよ! これで念願の魔法少女の仲間入りだー!!」


 右手を突き上げて、どこかの世紀末覇者が昇天する時のようなポーズを決めている。彼女の性格を最大限に褒めれば『物事に拘らないサッパリした人』だが、クラスの過半数の人間は『敵に回すと命の危険が危ぶまれる暴力女』という解釈をしている。そしてそれこそが正解だった。


(お前はどう見ても肉体派で、魔法少女キャラではないだろう!)


 そのやり取りを隣で聞いていたタクミは、心の底から盛大に突っ込んだ。もちろん声には出さない、彼は出来るだけ周囲に干渉したくはないのだから。というよりも仮に圭子を敵にしてまともに相手にすると、いくら厳しい戦闘訓練を乗り越えてきたタクミでも相当の覚悟が必要だった。


 そんな彼女らのたわいもない会話をよそに、この国の王女と名乗った女性は淡々と説明を続けている。


「あの、元の世界に帰ることは出来るのですか?」


 クラス委員の北条ほうじょう あかねがクラス委員の責任感から手を挙げて質問をする。いかにも委員長という雰囲気を身にまとう優等生キャラだ。しかし、いつもは背筋をきちんと伸ばしている彼女も、さすがにこの突然の出来事にどう対応してよいのかまったくわからない様子で、その口調は自信なさげだった。


「残念ながら皆さんをここへ呼ぶ召喚の術式に大量の魔力を消費してしまったので、すぐに元の世界に戻すことは出来ません」


 王女は冷たい声でそう告げると、殆どの生徒から落胆の声が上がる。女子生徒の中には泣き出す者も現れた。それはそうだろう、ついさっきまで平凡な高校生として過ごしていたのが『気が付けば異世界に来ていて戻れない』では、大抵の人間は失望や落胆を抱くはずだ。


(はいはい、そう気を落とさなくても大丈夫ですよ、本星と連絡が取れればすぐに帰れますよ)


 タクミは帰りたい生徒は帰してやろうと思っていた。本星の許可が下りればそれほど手間が掛かる問題ではない。地球に戻ってから関係者の記憶をほんの少し操作すればいいだけの事だ。


「皆さんしばらくはこの世界で過ごして頂く事になりますが、ぜひ皆さんの力を借りたいことがあります。それはこの世界の平和を脅かす魔王を倒すことです」


「魔王キターーー!!」


 タクミの横で圭子と春名が声を揃えてと叫んでいる。二人してコブシを突き上げてノリノリの様子だった。彼女たち以外にも離れた場所から『やったぜ、魔王討伐だ!』という声が聞こえてくる。


(誰かこいつらを止めてくれ!)


 心臓が頑丈にできているのか、神経が太いのか、それともどこかのネジがぶっ飛んでいるのかは定かではないが、脳天気な二人のことは放っておくことにして、タクミは王女の話しの続きを聞いた。


「皆さんには様々な力が授けられています。それらはステータス画面で見られますので、『ステータスオープン』と唱えてみてください」


 タクミは言われた通りにウィンドウを開いてみたが、少し気になる事を発見した。


 それは原始的ながらも『星間ネットワークインターフェースシステム』(通称PNI)と全く同じ原理で作動するシステムだったのだ。このシステムは広大な銀河の中で情報や人、物の移動を瞬時に行うだけでなく、惑星内のインフラは言うに及ばず人々の生活全般に広く活用されている統合システムの総称だ。インターネットを極限まで発達させて、銀河規模に広げたものだと思ってもらえれば理解し易いかもしれない。


 PNIシステムが通じていれば本星と簡単に連絡が取れる筈なのだが、先程から何度かこっそりと連絡を入れても全く通じないのがタクミにとっては気掛かりな点だった。だが連絡が通じない事情の調査は後回しにして、彼は可能な限りこの場で情報収集に努めようと考えを切り替える。


 手始めにステータスウインドウにMCS端末を接続してソースコードを読み出してみると簡単に解析できた。あまりの呆気なさにタクミは拍子抜けしている。


(なになに、攻撃力が900で防御力が1000か。かなり正確に分析しているな)


 彼の身体データは常にMCS端末で確認できるので、その数値とほぼ変わらない値が表示されていることにかなり驚いた。


 周囲で特に男子生徒達から『俺は剣士で攻撃力60だ!』などといった声が聞こえてきたので、ウィンドウに並んでいる数値を彼らに合わせて100前後に下げておく。


 同時に職業欄に記載されている『バイオニックソルジャー』を『ソルジャー』に表記を変更しておいた。万が一誰かにステータスを見られても、これなら特に不信感を与えないはずだ。生体兵器と呼ばれてもおかしくない自らの能力をこれで他のクラスメート並みにカムフラージュできる。


 彼は惑星調査員として地球に赴任する際に特別な訓練を受けているため、その身体能力が常人の数倍に引き上げられている。もっとも戦闘用のパワードスーツを身に着けるとこれがさらに数倍に引き上げられるのでこの数字自体には彼本来の戦闘能力に対してあまり意味がない。


 一通りの操作を済ませてウインドウから視線を上げると、目の前で圭子が両手を床に付いてうな垂れていた。いつも強気な彼女に一体何が起こったのかとタクミは頭に『???』浮かべてその様子を見守る。よーく耳を澄ますと『魔法少女の夢が・・・私の夢が・・・・・・』とぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。。


「春名、あの姿は何事だ? 何か悪いものでも食べたのか?」


「ケイちゃんは職業が『拳闘士』で魔力がほとんどないそうです。どうやらそれでガックリきているようです」


 『どこから突っ込めばいいのだろうか!』とタクミは率直に思った。任務から離れた場所ではなるべく正直に生きようと常日頃から心掛けている。


 何しろ彼女の家は空手の道場で、それだけでは飽き足らずに圭子はムエタイと柔術までかじっているのだ。根っからの武闘派で脳筋の圭子が魔法少女を夢見る方が真理に反する行為だ。世の中には全知全能の神様でさえも『無理!』と首を横に振る無茶な願いが存在するのだという事実をタクミは見せ付けられた思いだ。


 ただここで『願いが叶わなかった』という理由だけでヤサグレ切った圭子に下手に声をかけると、象でもぶっ飛ばす拳が飛んでくるのでタクミはそっと春名のそばに移動した。


「春名はどんな感じなんだ?」


 彼女のステータスを覗き込む。


「こんな感じですよ!」


 そこには職業『令嬢』の記載とほとんど一桁の数値が並んでいた。確かに彼女は本星の王族に連なる名家の娘で、ご令嬢であることには変わらないのだが・・・・・・


 それでもここまであからさまに誰かに守ってもらう存在というのは、生きていく上でいったいどうなんだろうとタクミは思う。


 そのとき突然立ち上がった圭子がガバッと春名を抱きしめた。


「ハルハルは私の嫁だからね! ハルハルのことは私が守るからね!!」


 つい癖で絞め技っぽくなっているようで春名が苦しそうにしている。必死でその腕をタップするが、あまりに弱々し過ぎて圭子には届いていなかった。次第に春名の顔色が真っ青を通り越して白くなり始めている。瞳孔が拡大をする危険な兆候が現れたのを見て、慌ててタクミは圭子を止めにかかった。


「圭子、右腕が頚動脈に入っている。そのままだと春名が落ちるぞ!」


 その声に圭子がハッとして力を緩めると同時に、キッとした眼でタクミに向き直る。


「ふん! 春名に付きまとう虫けらの分際で私に意見するとは10年早い!! 春名に手を出したら私がただではすまさないから覚悟しておけ!!!」


 高らかに宣言する圭子の威勢はいいが、抱き付かれている春名の方はさぞかしいい迷惑なだろう。


「タ、タクミ君、私は早く手を出してもらいたいんですから! それにしてもたった今、一瞬遠くの方に大きな川が見えたような気がします」


(多摩川の夢でも見たのか?)


 異星人のタクミは三途の川の話は耳にした経験がないようだ。学校の近くを流れる川のことだと思い込んでいる。朦朧とした意識からようやく現実世界に戻ってきた春名が訴えるが、タクミは彼女たちのどちらの意見もスルーすることにした。どちらに味方をしても結局自分が悪者に仕立て上げられる予感がしたからだ。『君子危うきに近寄らず』とは至言だと彼は実感している。


 周囲のクラスメートが大騒ぎをする状況などまるっと無視をしてそのような傍から見ればアホらしくなるような遣り取りをしているところに、春名や圭子と仲のいい『ムーちゃん』こと武藤むとう 美智香みちかがやって来る。


「二人ともいい加減馬鹿なことはやめて! 5~6人のパーティーを作らないといけないからね! それより何でゴミ屑ののタクミがここに居るの?!」


 何も話を聞いていなかった春名と圭子ははその言葉にハッとする。反対に『虫けら』に続いて『ゴミ屑』呼ばわりされたタクミは地味にへこんでいた。現れた美智香は傍若無人な性格の圭子を止められる貴重な人材だった。その言葉に圭子は春名に抱きついていた手を放してタクミの方向に向き直る。


「しょうがないから、タクミ! お前は用心棒と荷物持ち役で入れてやる!!」


(荷物持ちはともかく、お前には用心棒なんか必要ないだろう!)


 タクミの心の声は全く無視されて、圭子の横柄な言葉に春名が横から反論する。


「タクミ君は私のボディーガードなんですよ!」


 どちらの意見もスルーしたかったが、タクミの意志はやっぱり無視された。申し開きの僅かな時間さえも与えられないらしい。圭子の辞書には『虫けらの意見など無用!』という格言が1ページ目に記載されているのだろう。美智香の口の動きを読み取ると『ゴミ屑ごときが』という言葉を聞き取れないような小さな声で発しているように見えるが、タクミは精神衛生上の観点から見なかったことにした。


「あとは・・・・・・空! どうせ仲間が居ないんでしょう!! こっちに来なさい!!!」


 完全な命令口調の圭子の言葉でやってきたのは工藤くどう そら、メガネをかけた地味な存在で、クラスで一番ちびっ子の女子だ。それだけではなくて胸もまっ平らで、しょっちゅう小学生に間違われる。そのくせ、他の女子3人が秋葉系なのに対して彼女は池袋系というか・・・・・・ 要するに腐女子だ。BL本と妄想が大好物の変態女子で、最近はマニア本にまで手を出しているらしい。


 空がやってきて5人揃ったところで再びステータスの話に戻る。どうやら圭子は魔力がない自分だけではないと信じたいらしい。


「で、ムーちゃんは職業はなに?」


 圭子の問いに当然のような答えが返ってきた。


「魔法使いに決まっている! 私はケイちゃんみたいな腕力勝負はしない!」


「この裏切り者!!」


 美智香の首を絞めようとする圭子をタクミが羽交い絞めにして止める。タクミがかなり本気を出さないと彼女を抑え切れなかった。


「空ちゃんの職業は何ですか?」


 ようやく圭子の憤りが収まってから、春名が聞いてみると意外な答えが返ってきた。


「聖女」


「ええーーー!!!」


 彼女の本性を知っているタクミを含めた4人が一斉に驚きの声を挙げる。BL好きな変態聖女様がここに降臨した瞬間だった。


 

 

 

読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークをお寄せいただけると幸いです。


1時間後に第2話を投稿します。

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