表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武士大神(もののふおおかみ)   作者: ぽんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/117

太陽(ひ)は雲に隠れる

 神楽は数年ぶりだったが、少年は見事に舞ってみせた。


 前回は異国で舞った。日の本ジパングの文化をしりたい、との要望に応えたのだ。


 この日の為に御方から下賜された名笛「桜花おうか」は、聴く者すべてを魅了した上に、落涙させた。

 それはじつに物悲しく、せつない節であった。


 御方だけではなく、嗣子祐宮さちのみやの姿もあった。年齢としのわりには小さくて細い。この嗣子にまで、策謀の魔手が伸びているのかと思えるほど、その姿は病的である。


 ありがたいことに、例の南朝の末裔大室寅之助の事故死・・・は、祐宮へ危害をくわえるよりかは、懐柔策へと方向転換させたようだ。


 この夜が今上天皇の尊顔を拝する最後となることを、だれもが予感していた。


 少年の暗躍だけでは、もはやどうにもできぬ。その暗躍で打撃を受けた側は、今上天皇の覚えがめでたい会津中将を疑っているはずだ。

 政治的な圧力がかけられるのも、時間ときの問題であろう。


 徳川家と幕府のごたごたがつづくうちにあっては、これ以上の関与は難しい。

 そろそろ掌をひく潮時だ。

 

 そして、それを望まれたのが今上天皇だった。この日を最後に・・・。


「辰巳、心から礼をいわせてほしい」

 この日、御方はかなり無理をなさっていた。それでも、床から起き上がられ姿勢を正し、少年の舞と笛をご覧になられた。


 寝所には、祐宮と会津中将、そして少年のみ。

 だが、人払いをしているはずのこの御方の寝所の周囲に、多数の気配が感じられた。

 探りを入れているのだ。


 少年は、それらの気配をことごとく断ち切ってやりたい、という衝動にかられた。さらには、その気配の元凶も。


「祐宮のことも助けてくれたのだろう、辰巳?」

 御方は気づいていらっしゃった。少年は、ただ深々と頭を下げるしかない。


「会津中将、辰巳。わたしたちは誠に感謝している。今後、祐宮とどのような関係になろうとも、これまでのこと、祐宮も充分にわかっておる。身勝手かもしれぬが、これからのこと、どうか許してやってほしい」

 この日、御方は会津中将と少年の掌をとられ、そうおっしゃられた。


 その予見ともいえる御言葉が現実となるのに、さほど時間ときは要さなかった。

 御方には未来がみえていたのかとうかがえるほど、その御言葉は適切であった。


 そして、その帝の御言葉を心に刻んだのは、祐宮、否、後の明治天皇も同様だ。


 敵対することになった後も、心の奥底では真実を、そして、会津中将や少年を父帝同様よく理解されていた。


 義弟の後を追うように、孝明天皇が崩御した。慶応二年(1866年)十二月二十五日。


 少年の舞と笛を鑑賞されてから、わずか二ヶ月後のことであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ