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ep3-町の変化

「かくしてマスターは悪の大魔王みたい役になった訳で正義の味方から狙われると思うけど心配しないでね、私たちがちゃんと守るから」


 朝、僕は二人の味方と別れ、本分である学校へと登校するために家へと戻ってきていた。さすがに高校生ともなれば少々遅く家に帰ってきたところで何も言われない。カルバーニさんとシトニーさんはどこかに身を隠したようで、想像していたような非日常は訪れないみたいだ。


「ホントは夢だったのかな……?」 


 二回にある自分の部屋へと戻ってみても女武者とカルバーニさんが戦ったような痕跡はなく、綺麗に片付いている。むしろ片付きすぎている。


「うわっ!」


 本棚を見ると僕の秘蔵の写真集たちが綺麗に並べられていた。親にバレないように隠し場所を幾つかに分けていたもの全てが集められ巻ごとに並んでいる。僕は昨日の女武者とカルバーニさんの戦闘が夢ではないことを確信した。


 それはそれとして気を取り直し、いつも通り制服に着替えて一階のリビングにて母が作り置きしてくれている朝食を食べながらテレビのスイッチを入れる。ニュース番組を見ながら朝食、歯磨き、登校の準備を済ませるのが僕の朝の過ごし方だった。

 だがこのテレビで僕はやはり非日常に突き落とされていることに気づく。僕の手から滑り落ちたリモコンの床にぶつかった音がやけに響いた。



『け、今朝、事実上日本は魔王により占領されました! 既に自衛隊は壊滅、他国への連絡は何故か繋がりません! どうか皆様は家から出ないよう―――――キャァァァ!』



 女子アナウンサーの悲鳴と共にモザイクが画面一杯に映し出される。僕は床に落ちたリモコンをゆっくりとテーブルの上に置き、トーストされた食パンをかじる。

 どうやらいきなり世界は終焉を迎えたみたいです。



「マスター、世界が大変なことになってるよん」

「この黒幕がマスターってことになってるのが面白いよね」



 ガラッとバスルームのドアが開き、思わず僕は飛び上がったが現れたのは風呂上がりの金髪モデルと少女だった。

 二人ともタオルで髪や体を拭いているが、一糸纏わぬ姿である。しかも水を滴らせながら僕の方へとやってくる。


「服……着てください」


 色々と驚きすぎて初めて見る家族以外の女性の裸体への反応も薄くなってしまった。


「それよりあの、これも僕が黒幕……なんですか?」


 ニュースでやっていた日本を征服した魔王の件である。


「そうだね。魔王よりも上の位に位置付けられているみたいだよん」

「マスターどんまい。ますます出歩けないね」


 どうやら僕は、世界を征服した魔王を召喚したどこぞの神官みたいな位置付けになっているらしく、世界の大いなる力によって僕の元へ派遣されて来た二人が調べたところ世界の白血球こと『正義の味方』内の危険度ランキングで最優先事項に上がっているらしい。


「安心して大丈夫だよん。私たちがいる限りマスターは無事だから」

「女武者をやっちゃったから僕らも見事に悪役の仲間入りしたんだけどね」


 シトニーさんがどこからか僕の妹のジャージと下着を持ってきて着替え始めている。カルバーニさんはもちろん妹の下着や服が合うわけもなく、僕のジャージを着たのだがそれでも胸や丈が苦しそうだ。丈が足りないのは男としては少しショックだが。


「家族や友達が外にいるんですけど大丈夫なんですか?」


 両親は仕事のため朝早く家を出ているし、妹も家にいないところこら既に登校しているのだろう。もし危険な状態にあるのであれば早く助けにいかなければならない。


「大丈夫じゃないよん」


 一言、カルバーニさんが言い放つ。

 その言葉には他の人間への哀れみや心配は含まれていないみたいだった。


「この家から一歩出ればたちまち魔王の手下共に襲われちゃうから生きているのかも怪しいね。助けに行くの?」


「行きます」


 助けられるかはわからないが、行くことができるのなら行くべきだ。


「生きてるかわかんないよ?」


 妹のジャージを妹より着こなし、体から上がる蒸気がやけに色っぽく見せるシトニーさんが僕を見つめて言った。


「信じます」


 僕がそういうと、カルバーニさんとシトニーさんは僕の目の前で片膝を着いた。いきなりの主人と従者のような状況に僕はどうしていいかわからず、とりあえず食べかけの食パンを皿の上に置いた。


「カルバーニ・シラトーゼ。マスターの仰せの通りに」

「シトニー・ベラー。マスター、指示を」


 二人は一変して僕に指示を仰いだ。

 だが助けられているばかりの僕が偉そうに指示を出せるわけもなく、雰囲気に負けて二人の前に正座をする。

 そして僕は両手を三角形を作るように床につけ、頭を下げた。


「どうか僕を助けてください」


 それはあまりにも無力な悪役の、あまりにも情けない願いだった。


「がぜんやる気になってきたよん!」

「偉そうに頼んできたらぶっ潰そうかと思ってた」


 二人はそう言いながら玄関を飛び出していった。

 まずは僕の家の周辺の敵を一掃するらしく、それはマスターである僕の安全のためだそうだ。なんとも頼り甲斐のある二人である。



「マスター、もう大丈夫だよ」


 シトニーさんが顔についた返り血を拭いながら玄関から顔を覗かせた。外には相当数の敵がいたらしく、玄関の向こうからはまだ悲鳴(敵の)が聞こえている。カルバーニ無双中のようである。


 シトニーさんに守られ外へ出てみると、こんもりと積み重なった人ならざる者たちの死体がそこかしこに確認できた。流石魔王と呼ばれるだけはある。その手下たちは画面のなかでよく目にする屈強そうな豚頭のオークや狼男、空を飛ぶヴァンパイアたちであり、人間では太刀打ちできるとは思えない。


「ちょっとマスター、失礼」


 カルバーニさんが僕の体を抱えて、ぴょんと屋根の上へと飛び上がる。


「見て。この町はこんな状況さ。でも空を見るとなにか白いのが飛んでるでしょ?」


 言われる方向を見てみると、確かに白い翼を生やした何かが空を舞っている。あれも敵なのだろうか。


「私たちの敵ではあるよ。でも昨日の女武者と同じ正義の味方さ。私たちとは違う力で召喚された世界の矯正力、白血球、正義の味方。あいつらが動いてるってことは魔王も時間の問題、人々の命も無事だ。明日になればきれいさっぱり元通りになっているだろうね」


 つまり僕たちが命を張ってまで動く必要はないということである。むしろ正義の味方に発見されないよう隠れておいた方がいい。


「マスター。僕らはマスターを売ったお友だちとやらを探しだした方がいいんじゃないかい?」


「そうですね。でも僕はそいつが誰だか知らないんですよね……」


「大丈夫さ、それは私たちが調べよう」


 それは二人の派遣元、元締めに聞けばわかることなのだろう。


「カルバーニちゃん、任せた。僕はマスターの護衛をするから」

「なっ! ちょっと卑怯だぞ!」


「マスター、行こ」


「え、あ、うわぁ!」


 僕は屋根から引きずり下ろされ、家の中へと連れ込まれた。

 この世界のことは正義の味方に任せ、僕らは僕を黒幕に仕立てあげた『友達』。そいつをぶん殴って正義の味方の前に連れていくのがやるべきことのようだ。

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