第6話 魔王様、新勇者達が危険ですよ!
『グランツ・テイルズ』に入ったウェルミナとリカルダは、サリーから頼まれた依頼の一つ。『スライム10匹の駆除』を果たすため、『カラクサ平原』に踏み出していた。
枯れ色になった丘を突き進むウェルミナ。
「ここが『カラクサ平原』か!リカルダ、もたもたしないで早く来なさい!」
「わかってるって」
とリカルダはウェルミナの後に続く。
「スライムは湿った場所を好むらしいよ。ここで湿った場所と言えば、川辺。こっちの方向だよ」
リカルダは何処かへ突き進もうとするウェルミナを引き止める。
「そ、そんな事知ってるわよ。さぁ川辺へ行きましょう!」
「お前ってさ、魔物辞典読んでないの?」
「魔物辞典…?」
「魔物の習性、弱点が書いてある勇者にとって読んでなければいけない書物。ほらこの前図書館で一緒に借りたやつだよ」
「よ、読んでるわよ!読んでないと思ったのかしら!?」
ウェルミナは言葉ではそう言っているが、感情を隠し切れていない。
「読んでないな」
「読んでるわよ!」
「読んでないだろ」
「読みましたー!」
「読んで「読みましたしー!」ないだろ!」
ドサッッ!ガシャァァン!
リカルダとウェルミナが口喧嘩していると、突然、近くの小屋から誰かが暴れているような音が聞こえる。
「なんだ?」
「キャァーッ!!!!助けてぇ!」
と女の子の叫び声がし、ウェルミナ達は急いで小屋に向かう。
「どうしたの!?」
ドンッ!と強くドアを開く。
そこには、女の子の服を無理矢理脱がそうとする男の姿があった。
男はウェルミナ達に気づいていないのか、夢中で女の子の服を破こうとする!
先に動いたのは、リカルダだった。
「氷衝斬!!」
キィィィィン!
リカルダの剣が冷気を纏う!
氷衝斬…剣に冷気を纏わせ素早い動きで衝突するように攻撃する技。当たった者を氷漬けにしてしまうという。
「はああっっ!」
リカルダは男に急接近する!
「なんだ!?」
フイュュュッ!
やっとリカルダの攻撃に気づいた男だがもう既に遅し。
グサッッッ!!
リカルダは男を斬らないで、横の壁に剣を突き刺す!
パキッ…パキパキ…
剣を突き刺した壁は冷気に侵食され始める。
「ひっ…ひぃぃぃぃ!!」
男は慌てふためきながら小屋から逃げて行った。
「…逃げたか」
「ねぇ、アンタ大丈夫!?」
ウェルミナは女の子に駆け寄り声をかける。
「う、うん。大丈夫…」
女の子はそう言って笑顔を見せるが、目から涙がボロボロと落ちていた。
「大丈夫じゃ、ないじゃない!」
ウェルミナはそっと抱きしめ、女の子を慰める。
「うっ…」
ウェルミナは腕にある傷跡のような物を見て、
「酷い事をされたのね…もう安心して…」
ウェルミナの優しい言葉に女の子は安心したのか、大きな泣き声を上げる。
「う…う"ぅえ"え"え"ぇぇぇん!!」
「よしよし、もう大丈夫だから」
数分のウェルミナの慰めにより、女の子は泣き止み笑顔を見せるようになった。
そこで、ウェルミナ達は依頼の事もあり女の子と別れることになった。
「ごめんね。依頼があるから…」
リカルダは女の子に優しく手を振る。
「ええっ…リカルダにぃちゃん達、行っちゃうの…?」
「う、うん。また依頼が終わったら会おうね」
「嫌だ!私もいくぅ!」
女の子はウェルミナに抱きつく。
「ちょっ、ちょっと…」
ウェルミナは迷惑そうに戸惑う。赤面しながら。嬉しいのか困っているのか。
「今から戦うってのよ?アンタには危険過ぎるわよ…」
見た目からすると年齢は10歳足らず。魔物と10歳足らずの女の子が戦うなんて危険過ぎる。
「危険じゃないもーん!私だって戦えるよ!ねぇ、着いて行っていいでしょ?ウェルミナねぇちゃん〜!」
女の子はウェルミナの腹を頬ですりすりする。
「…リカルダどうする?」
「別に?ついて行きたければ、着いてこればいいよ」
「やったぁあ!!」
女の子は嬉しそうな様子で、飛び跳ねる。
「え、いいの?リカルダ?」
「いいんじゃない?この子もこう言ってるんだし」
「まぁ…そうね」
ウェルミナは困った顔だったが、納得した様子だった。
「あ、聞き忘れてたけど、君の名前は?」
「私ぃ?私はバフォ…じゃなくて、フォメって言うの!よろしくね!リカルダにぃちゃん!ウェルミナねぇちゃん!」
新しい仲間、フォメが加わったリカルダ一行。
しかしこのフォメが、とんでもない事態を巻き起こす根源となる。
《少し遡り、バニラがギルドを出て行った、グランツ・テイルズでは…》
「ああ〜暇だな〜!」
ギルドの受け付けを担当するサリーがぐったりしていた。
「ウェルミナさんは出て行ったし、バニラさんも出て行っちゃうし…」
(それに何か妙な胸騒ぎがするんだよな…気のせいかな?)
サリーは机に指で文字をなぞる。
(ウェルミナさんとリカルダさん…大丈夫かな…心配だ)
「あらあらサリー?疲れたの?」
緑の髪をサイドテールにした女性が、サリーに声をかける。
「ああライムさん、はいちょっと…」
ライムと呼ばれた女性は微笑み、
「じゃあ受け付け変わってあげる」
「えっ?そんなのダメですよ。ライムさんはまだ安静にしとかないと!…おっと!」
「ほらどいたどいた!」
とライムはサリーを退け、無理矢理受け付けの椅子に座る。
「貴女にはワタシの分まで苦労させた。その返しよ!か・え・し!」
「でも…!」
「サリー、気になるんだったら行って見たら?」
「えっ…?なんでその事を…?」
驚くサリーにライムはウインクを見せる。
「ふふっ、表情を見れば分かるわよ。さぁ、早く行きなさい!」
「えっ…うっえっーと、ありがとうごさいます!」
サリーは私服に着替えギルドを出ると、目の前の病院に人だかりが出来ていた。
「(ん?何かあったのかな?)あのー、何かあったんですか?」
「ああ…一年前、魔王の城に旅立った勇者の仲間が帰ってきたんだ」
サリーはおじさんの言葉にはっとなる。
(セレーナさん達!やったんだ!)
「帰ってきたって事は!魔王を倒したんですね!?」
「いや、そうでもないみたいだ」
おじさんは険しい顔つきになる。
「それは…どういう事ですか?」
「魔王の城まで辿り着いたらしいが、道中で惨敗したらしい」
「どけー!怪我人が通るぞー!」
「彼女以外の全員が殺され、一人で帰ってきたそうだ…」
と布の上に寝かされた金髪の髪の女の子がサリーの視界に入る。
「はっ!セレーナさん!」
「おっ!お嬢ちゃん!?」
人混みを掻き分け、セリーナの元へと駆け寄る。
「セレーナさん!セレーナさん!!」
セレーナと呼ばれた女の子はそっと目を開ける。
「あなたは…サリー?」
「そうです!サリーです!」
サリーはセレーナの手を強く握りしめる。
「そう、良か…たわ…あなた…会えて…」
セレーナの声は弱々しくなって行く。
「セレーナさん…?」
「サリー…あな…にお願…がある…」
「お願い…?なんでしょうか?」
「『カラクサ平原』に…悪魔が…!冒険者…助け…あげて!」
「かっ、『カラクサ平原』?」
(『カラクサ平原』…?って…まさか…!)
サリーは驚愕の表情を浮かべる。
セレーナは優しい微笑みを残したまま、病院に運ばれて行った。
「『カラクサ平原』…!リカルダさん達が行った場所!早く助けにいかないと!」
サリーの嫌な予感が的中。
サリーは必死な思いでカラクサ平原へと足を運んだ。
(ウェルミナさん、リカルダさん!無事でいて…!)
サリーの脳裏に浮かぶ、二人の顔。それが更にサリーの不安をかきたてるのであった。
ーキャラクター紹介ー
・ゼーレ…テロリア一のギルド『グランツ・テイルズ』のマスター。見た目はいかついが甘い物好きとか…?リカルダの父親。勇者ハイルの親友でもある。
“君の事は耳が痛くなるほど、聞かされていたからな”
・サリー…ギルド『グランツ・テイルズ』の受付担当。男には興味がなく、女の子が好き。(ショタはOKだそう)ウェルミナを気に入っている。
“皆さん、それは言い過ぎなのでは…”
・バニラ…ギルド『グランツ・テイルズ』の一員。冒険者ランクSのアーチャー。何か秘密を持っている。
“…ここランクB以下は入れないんじゃ…”
次回も見てくれよな!