第4話 魔王様、まずは周辺から片付けて行きましょう
そして、少し時間がたったその頃。
城前では、白髪をなびかせたフルーレティと赤色のマントをつけたベリトが居た。
片手に一つずつ、もう片手に一つ。フルーレティが青白い水晶を持ち静かに目をつむっていた。
「おい!フルーレティ!」
と、一つの水晶にベリアルの顔が浮かび上がる。
「まだなのかよ!何分待っていると思っているんだ!」
「まだよ。私の能力はそう便利じゃないの」
「勇者の居場所を確認するのには、時間がかかるそうです。もう少し待ちましょう」
「わかァったよ。後三分な…」
「ガープを『ヒスイの森』に到着させました」
もう一つの玉にフルーレティの部下、青白い馬に乗ったバティンの顔が映る。
「凄いな、バティン。一瞬で俺のペットを『ヒスイの森』に運ぶなんて…」
バティンの後ろから、赤いボディにギザギザの歯を生やした恐ろしい怪物を4匹つれたガープがひょこと顔を出す。
「こんな能力大したことないですよ」
「いや、凄いですわよ。私もそんな能力が欲しいですわ…」
『憎悪の洞窟』という場所にいるベリアルの玉からリリスの声が聞こえてくる。
「ごめんなんだけど、作戦の内容を聞きたいんだけど…」
ガープが申し訳ないという顔してベリトに尋ねる。
「忘れたのですか?今回の作戦は城周辺の勇者を始末する事さ」
会議の後、謁見の魔にベリアルとベリト、リリスにフルーレティ、ガープの5匹の悪魔が集められた。
アドラメルクからシルエラの命として、「城周辺の勇者を始末しろ」と命じられ、今作戦を実行しようとしている所だ。
ベリトの言葉にベリアルはつまんねぇと言わんばかりの顔をする。
「ったく…!人間が集まる都市『テロリアの町』を奇襲した方がいいんじゃねぇの?ここら辺の勇者は他の奴らに任せてよぉ!」
「何を言ってるのですか。都市を攻撃すると多くの人間に俺達の姿を見られてしまいます。それに、勇者を滅ぼそうとしている事がバレたら…シルエラ様に矛先を向けられてしまうぞ」
「そうですわ。それに、都市にはSSランクの勇者達が集まっていますわ。都市に奇襲を仕掛けても、飛んで火に入る夏の虫ですわよ」
ベリトの言葉に付け足すようにリリスは言った。
「大丈夫だ!この俺が全員潰してやるよ!」
この後ちょっとしたベリアルとの口論が続いたが、ガープのしれっとした怖い発言で、口論も収まった。
その冷たい空気の中、ベリトは何か考えていたようだった。
「バフォメット達は今頃、何をしているのでしょうか…」
「バフォメット?」
「ええ、バフォメット達が呼ばれていたので…」
ベリト達が命令を受け退室する際に、バフォメット達もアドラメルクに呼ばれていたのだ。
「バフォメットなら、今さっき見何処かへ行きましたわよ。何処か知りませんけど」
「そうなの?バフォメット達何するんだろ…?バフォメットに戦力になる能力とかあったけ?」
「さぁ?」
「ちょっと皆、静かにして」
フルーレティの言葉に再び静まり返る。
フルーレティの脳裏に城周辺の地図が現れる。ヒスイの森に赤い人影が4つ、憎悪の洞窟に2つ。
赤い影がこちらに向かって来ているのが分かる。
フルーレティは目をパッと開く。
「ベリアルそっちに2人の勇者。ヒスイの森に4人の勇者がこっちに向かって来ているわ!」
「おっ!来たか!」
「了解ー!さっさと始末するぞ!」
フルーレティの報告を受け先に動いたのは、ガープの方だった。
ガープの連れた赤い4匹の怪物が空に大きく口を開ける。
その口の中から、赤い弾のようなものが発射される。
「さぁ、魔物達も行っておいで!」
ガープの背後から何匹もの魔物が出てき、勇者の方へと進んでいく。
「城には近づかせないよ。勇者さん達」
ニヤニヤと笑うガープを残して魔物達は勇者の方へと向かって行った。
「よし、この森を越えればいよいよ魔王の城だ!」
大きなアックスを背負った勇者が空高くそびえる城を見て言う。
「やったぁ!」
黒い帽子を被った女魔道士が城を見て、嬉しそうな表情を浮かべる。
「おいおい、観光で来たんじゃないんだからな」
「分かってるよ〜もう!」
こちらも魔道士と思われる男が女魔道士の頭をポンポンと叩く。
「あれ、なんでしょう?」
白い衣服に身を包んだ僧侶が何もない空を指差す。
「何もないが…?どうした?」
「ほら、こちらに何か向かって…!」
暫らくすると、沢山の赤い魔物がこちらに近づいているのが見えてきた。
赤い玉状の体に耳が生えた魔物は、ギザギザの口を開く。
ヒュッッッ!!
口に赤い弾が現れ、弾を勇者達に放つ!
「痛っ!!」
ボゴォッッ!!バァァァン!
赤い弾は女魔道士に直撃し、爆発する!
「皆!大丈夫か!」
砂埃が舞い、勇者は仲間の安否を確認する。
「勇者様!女魔道士さんが…!」
勇者は女魔道士の元へと駆け寄る。
女魔導士の服は爆発で所々破け、酷い火傷。当たった箇所と思われる頭からは、赤い血が染み出ていた。
「今すぐ治療を!」
「はい!わかりました!」
僧侶は女魔道士の腕に魔力を込める。が、
治療を邪魔するかのように赤い魔物は、僧侶に赤い弾を発射する!
「えっ!嘘!」
赤い弾が自分に発射された事に気づいた僧侶は、思わず女魔道士を庇うように屈み込む!
バォォォッッ!バゴォォッッ!
ヒスイの森に激しい爆音が響き渡る!
「うっ…あれ?(痛く…ない?」
僧侶は自分の身なりを見る。弾が直撃した形跡はなく、痛みもない。
当たった筈なのに…
僧侶は恐る恐る前を見ると、そこにはボロボロになった勇者の姿があった。
装備は爆発で破損、手にアックスを持ちただ倒れることもなく立っている。
「勇者様…」
「俺の事は気にするな。ここは俺が食い止める!」
「フッ、カッコつけやがって!俺がいるということも忘れんなよ!」
勇者の横に男魔道士が並ぶ。
「ガァァァッ!」
ヒュュュッッ!
赤い魔物は再び赤い弾を放ってくる!
「次は俺達のターンだ!聖なる結晶!」
男魔道士は杖を取り出し、光輝く氷の塊を赤い弾に放つ!
赤い弾と氷の塊がぶつかり合い、
バボォォォッ!!!
と爆発が起こる。
その爆炎の中から氷の針が分散し赤い魔物を襲う!
ブスッ!グサッ!スユッッッッン!
赤い魔物達は氷の針に刺され、黒い煙となって消えていく。
「凄い…」
僧侶は目の前の光景に呆気にとられていた。
「はっ!魔物達が正面から来てるぞ!」
「何!?」
勇者は前を向く、そこには大量の魔物がこちらに向かってきていた。
「迎え撃つぞ!」
「ああ!」
勇者と男魔道士が魔物の群れへと向かっていく!
「おらぁぁ!」
ドサッッ!ドスッッ!
勇者はアックスを振り回す!
魔物達は勇者の振り回しように、驚き攻撃を辞める。
「今だ!」
「炎弾!」
ボォォォォッ!
男魔道士は燃え盛る炎の玉を、魔物の群れにぶつける!
パキッ…ボォォッ!
と音を立てながら燃えて行く魔物。
「よし!」
喜んでいるのも束の間、上空から尋常じゃないほどの赤い魔物が赤い弾を放ってくる!
バコォォォォッ!バァァァッン!
激しい爆発を起こし、勇者達を吹き飛ばす!
「キャーッ!」
僧侶は女魔道士と共に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる!
「うっ…皆さん!」
僧侶は砂埃の中、仲間を探す。
「くっそ…」
「男魔道士さん!」
膝をつき全身に火傷を負っている男魔道士と勇者を見て、男魔道士の近くにより治療しようとする。
「俺の事は構わず、女魔道士を癒してやれ」
と男魔道士と勇者は立ち上がり、戦い続ける。
僧侶は再び女魔道士の治療をする。が、
「そっちにワイバーンが行ったぞ!」
「えっ!ワイバーン!?」
僧侶は横を振り向く。
そこには急降下し、口を開けるワイバーンがいた。
ワイバーンは僧侶と女魔道士に向け炎を放つ!
その瞬間、勇者が女魔道士と僧侶を突き飛ばした。
「えっ…」
ボオオオオオオオッ!
赤い炎に包まれる勇者。
「ゆ…勇者様ぁぁぁぁぁ!」
僧侶は焼かれる勇者を見て涙を流す。
赤い魔物は次々に赤い弾を男魔道士に放つ!
ボォォォォッン!バォォォッッッ!
「なっ!?まだ居…」
弾は男魔道士に直撃。爆発する!
「っ…!?」
僧侶は涙で霞んだ目で男魔道士を探す。が、何処にも見当たらなかった。
「そっ、そんな…」
僧侶の脳裏に笑顔の二人の顔が浮かぶ。
「私っ…何も!」
上空には赤い魔物が口をあけこちらを見つめ、背後にはおびただしい魔物。
僧侶は死を悟り、泣き崩れた。
何度治療しても治らず目を覚まさない女魔道士、自分を庇い焼け死んだ勇者。爆発に巻き込まれ消えてしまった男魔道士。
「うっ…嫌だ…皆…」
顔を覆いただひたすら泣く僧侶。
そんな僧侶に近づくガープが居た。
ザッザッ…
焼けた芝生をブーツでゆっくりと歩くガープ。その顔は狂気に彩られていた。
「どうしたの?そんなに泣いて…?」
「私を…殺すんでしょ?」
僧侶はガープを睨む。
「いや…それはどうかな?」
ガープはそう言って僧侶の頭をわしづかみにする!
「君は…僧侶じゃない」
「…違う!」
ガープの手の平に黒い切れ目が現れる。
「君は勇者の一員でも、何もないんだ…」
「私は僧侶!勇者様…あの方の一員…」
「違うよ…君は…」
フィィュュィィン!
黒い切れ目が開かれ、そこに現れた目が赤く光る!
「何も価値もない人間なんだ」
僧侶の目がたちまち赤くなり、体が前のめりに倒れた。
「あら?終わりましたの?」
憎悪の洞窟で勇者達を倒し終えたリリス達が、ガープに近づいてきた。
「ちっ…倒しちまったか…」
「あれ?ベリアル達早いね。もう倒したの?」
「ええ勇者が二人とも男でして、私の美貌で引きつけているうちに、ベリアルさんが攻撃。簡単に仕留められましたわ」
「別にお前のハニートラップなんざなくたって、俺は一人でやれたぜ」
「んまぁ、相手はSSランクの勇者なのですわよ?」
と強がるベリアルに釘を刺すリリス。
「うっせぇ!そんな事よりな、ガープ。その女をどうすんだよ?」
ベリアルは僧侶を指差す。
「ちょっとね…利用するだけさ」
「利用?性的な意味で?」
「ははっ、違うよ。別に俺の好みじゃないしね」
ニタニタと笑うガープ。
一体何を企んでいるのだろうか?
こうして、事は上手くいき城周辺の勇者は始末されたのだった。
ーキャラクター紹介ー
・ベリアル…赤い髪の俺様イケメン。お気に入りは空を飛ぶ赤い戦車。よく戦車に乗って移動するが、凄い邪魔。リリスと喧嘩が絶えない。
“大丈夫だ!俺が全員潰してやるよ!”
・リリス…ピンクの髪を生やした美女。基本Sだがシルエラの前になると、ドMになる。本人によると艶のある髪が自慢とか。ベリアルと喧嘩が絶えない。
“あら?おわりましたの?”
・ベリト…錆びた王冠を被った赤い衣服を来た男兵士。赤い愛馬を可愛がっている。何故か各国々の王を良く知っており、王がどんな性格かも知っている。自分もどうして王に詳しいのかがわからない。
“バフォメット達は今頃、何をしているのでしょうか…”
・ガープ…4匹の怪物を連れている茶髪の青年。怪物の事をペットと呼び攻撃方法として使っている。毒舌で恐ろしい事をしれっと吐く。人の記憶を忘れさせる事ができる。
“何も価値もない人間なんだ”