第3話 魔王様、新勇者の誕生ですよ!
雲一つない青い空の下、“ハイリッヒ海”に面する『テロリアの町』
“町”とついているがこの大陸一の都市。SSランクの冒険者ギルドが集い、屈強な戦士達を世に送り出している。
そのテロリアの町に佇む朱色の屋根の家。そこに今旅立とうする勇者がいた。
「リカルダ、忘れ物ない?」
「ないよ。ちゃんと整理したし」
リカルダと呼ばれた少年は、靴を履きながら答える。
「そう?死ぬとか駄目よ。必ず帰って来なさいよ?わかった?」
「大丈夫。そんなに心配しなくてもいいからさ」
と、リカルダは立ち上がりドアノブに手をかける。
「必ず帰ってくる!じゃ、また!」
「ちょっとは手紙よこしなさいよ!」
「わかった!」
とリカルダは家を出て行った。
「本当に大丈夫かしらねぇ…あなた」
リカルダの母は、靴箱の横にある写真立てを見る。
父らしき人物が笑顔で、リカルダと思われる赤ちゃんを抱いている微笑ましい写真だ。
「ふふっ…そう?それなら心配いらないわね」
リカルダは家を出ると、商店街前の交差点に出る。
「ウェルミナ〜!遅れたー!」
と、リカルダはレイピアを持った赤毛の女の子に、手をあげ駆け寄る。
ウェルミナと呼ばれた女の子は、リカルダを見ると、怒った様子で眉間にしわを寄せる。
「もう!遅い!何分待ったと思ってるのよ!?」
「え?3分ぐらいじゃないのか?」
「違う!10分よ!この馬鹿!」
今にもレイピアを抜きそうな勢いで、リカルダに詰め寄る。
「ごめんごめん!反省してるからさ」
悪びれた様子もなく言うリカルダに、呆れたのかウェルミナは、
「ったく、どうだか!」
と言ってそっぽを向いてしまった。
「ほら、ギルドに行くんだろ?ここで駄弁ってるのも仕方ないし」
リカルダはウェルミナの手を繋ぎ、引っ張る。
「ちょっ、ちょっと!」
「ん?ギルド行くんじゃねーの?」
「ああ、うん。そ、そうだったわね」
赤面しているウェルミナを見て、リカルダは怪訝な表情をする。
「おかしな奴…」
「なっなんですって!アンタに言われたくないわよ!」
こう喋っている内に、テロリア一のギルド『グランツ・テイルズ』についた。
「失礼しまーす…」
そう言ってギルドの中に入る。中にいたギルドメンバーらしき人々の視線が、リカルダ達に集中する。
「す、凄い見られてるわ…私達何かしたっけ?」
「いや、していないと思う」
やがて、受け付けと思われる場所に着く。
「あの、このギルドに入りたいんですけど…」
「ブッ…アナタ達の冒険者ランクを伺いたいのですが…」
受け付けにそう言われ、リカルダとウェルミナは顔を合わせる。
「このギルド、ランク制限ってあったか?」
「私に聞かないでよ…」
ウェルミナは腕にかかれた、赤い模様を見せる。そこにはFランクとかかれているのが、わかる。
「冒険者ランクはFランクよ」
「ええっー!マジかよ!Fランクぅぅ!?」
「そんなランクでうちに来たのかよwww」
冒険者には“冒険者ランク”というものがある。
低 F → E → D → C → B → A → S → SS 高
ランクは冒険者の実績、実力(強さ)を表す。
ランクは上の通りF.E.D.C.B.A.S.SSとあり、
誰も冒険者は初めは“F”。
依頼と実績を積んでいくと、次のランクに昇格できるという制度。
最高ランクは“SSランク”冒険者を極めた強者は“SSランク”に昇格でき、勇者と名乗る事ができる。
Fランクは、このように蔑み笑われる事があるのだ。
冒険者ランクが“F”ランクと聞いて、周りの冒険者達が驚愕の声、笑い声をあげる。
「な、何よ!Fランクの何処が悪いのよ!」
「ハッハハハ!ここに入れるのは、最低“B”ランクの冒険者だ。それなのに最低ランクのFランクが来ただと?随分このギルドも舐められたもんだなぁ」
「Fランクのお子ちゃまは帰った帰った!Bランクになったら来るんだな。まぁ、Fランクのお前らには無理な話だと思うけど!」
ワーハッハッハッ!
男の言葉にメンバー達は笑い声をあげる。
「はじめはアンタ達もそうだった癖に!生意気なことを言うんじゃないわよ!」
「皆さん、それは言い過ぎなのでは?」
受け付けがフォローするも、メンバー達の笑い声は止まらない。
「俺達にはここは無理みたいだ。ウェルミナ、ここは引こう」
「引く?引くですって!?」
「うん、知らなかった俺達が悪いんだし…」
悲しそうな目で微笑むリカルダを見て、ウェルミナの怒りは更に膨れ上がった。
「リカルダ…!アンタそんなのでいいの?それじゃあ、いつまでたっても一人前の冒険者にはなれないわよ?」
「…Bランクになったらまた一緒に来よう」
ウェルミナの問いに答えず、ウェルミナを説得するリカルダ。
「っ〜!だからアンタは…」
「ん?お前達は…」
ウェルミナがそう言いかけた時、階段の方から男性の声がする。
「この声っ…もしかして!」
ウェルミナは声のした方へと体を向ける。
白髪を長く伸ばした体格のいい男が階段をゆっくりと降りてくる。
その姿を見たウェルミナは顔をパッと明るくする。
「ゼーレさん!!」
「やぁ、ウェルミナにリカルダ」
太い声で二人の名前を言うゼーレという男に、リカルダはポカーンとする。
「なんで、俺の名前を?」
「フフッ、君の父親から君の事を、耳が痛くなるほど聞かされていたからね」
ニコニコと言うゼーレ。リカルダはニコニコ
するゼーレを不思議にそうに見ていた。
「マスター!?このガキの事知っているんですか!?」
メンバー達がワーワーと声を上げる。
「知っているもなにも、この子は“勇者ハイル”の子供とその幼馴染さ」
勇者ハイル「戦ったら最後」と噂され畏怖されてきた男。
黒髪をなびかせ、風のように素早く相手を斬りつける。その攻撃はすざましく、ドラゴンを一撃で倒してしまう。という言い伝えもある程だ。
ゼーレの言葉にリカルダは何故か、嫌そうな顔をした。
「ええっー!!そうなんですかぁぁぁ!?」
メンバー達はマジかよと言った表情で、ウェルミナとリカルダを再び見つめる。
「ウェルミナ、今回は何の用でここに来たんだ?」
「用もなにも!このギルドに入りに来たんです!入ってもいいですか!」
キラキラとした目でゼーレを見つめるウェルミナ。
「ああ、いいとも!」
「やったぁぁぁっ!ありがとうございます!」
ウェルミナはぴょんぴょん跳ねながら喜び、リカルダの腕に抱きつく。
よほど、嬉しかったのだろう。
「いいんですか!?マスター!こいつらは最低ランクのFランクですよ!?」
「FランクだろうがDランクだろうが、この二人はギルドに入ることになってたからな!」
「えっ?それはどういう?」
「細かい事は気にするな!よし、二人とも腕を貸せ!」
リカルダの質問を流し、二人の腕に手をかざす。
ヒュュュッッッ!
二人の腕が青い光が包まれる!
暫らくして光が収まると、
冒険者ランクの下に赤い文字で『Grant's tales』(グランツ・テイルズ)と書かれているのがわかる。
「これで、ギルド所属完了だ」
「凄い…更新されてる!」
腕を見て感激の声をあげる二人。
「後はこの受け付けのねーちゃん。サリーに聞いてくれ、それじゃあ!」
とゼーレはギルドを出て行った。
「やったぁ!リカルダ!」
「ブフフォッ、微笑ましいですね〜。私も恋したいな〜可愛い女の子と!」
サリーはそう言って頬を赤らめる。
「え?」
「ちょっ、何言ってるのよ!別にそういう中じゃ…!」
「はいはい、わかってますよ。所で、お二人共はFランクなんですよね?」
「まぁ、そうだけど」
「それなら“冒険者受託所”に行ってこれを受けて来て下さい!」
サリーはリカルダに二枚の依頼が書かれた紙を渡す。
「『スライム10匹の駆除』『ヒハリネズミの針5個入手』です。どれも基礎的で簡単な依頼です。報酬は差し上げますので、終わったらまたギルドに帰って来て下さい」
「分かったわ!初めての依頼よ!リカルダ、頑張りましょうね」
ウェルミナ達はギルドを出て行った。
メンバー達はウェルミナ達が出て行った事を確認すると、
「何なんだよ、Fランクの癖に!」
「ホント、あいつらムカつくぜ!」
口々に文句を言う一部のメンバー達。
「なぁ、俺考えたんだけどよぉ、あいつらを罠に陥れねぇ?」
一人の男がニヤニヤしながら男達に言う。
「罠?おいおいそんな事していいのかよ?」
「別にいいだろ、あんなガキにしてもよ!」
「クックックッ…おもしれぇじゃねぇか!あいつらに思い知らせてやろうぜ!現実はそんなに甘くねぇってな!」
そう言って男達はギルドに出て行った。男達とすれ違うように、一人の少女がギルドに入って来た。
「まぁ!バニラさん、お帰りなさい!」
バニラと呼ばれた白い衣服を着た少女。背に弓をかけている。
「ねぇ…あの男達…何処へ行ったの?」
「さぁ?わかりません。それより、今日新しいメンバーが入ったんですよ!」
サリーは興奮したように話す。
「ウェルミナさんとリカルダさんって言う方達なんですよ!Fランクの冒険者なんですけど、それはもう可愛いお方達で!特にウェルミナって言う人が!」
「…このギルドBランク以下は入れないんじゃ…」
「ああ、それがですね!マスターが受け入れて!」
「へぇ…受け入れてか…」
バニラはギルドを出て行こうとする。
「バニラさん、何処へ行くのですか!もっと
お話をしましょうよ!」
「また後でね…」
「ええっ〜そんな〜!」
ションボリ顔のサリーを残して、バニラはギルドを出て行った。
『グランツ・テイルズ』に入った、ウェルミナとリカルダ。この二人の存在が世界を大きく左右する存在とは誰も知らない。
ーキャラクター紹介ー
・リカルダ…伝説の勇者ハイルの息子。天然。あまり声を発さない方。剣士で剣の扱いは一流。
“なんで、俺の名前を?”
・ウェルミナ…リカルダの幼馴染。天然なリカルダに手を焼いている。ツンデレ騎士で、レイピアでの攻撃を得意とする。
“っ〜!だからアンタは…”
次回もみたまえ!