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十三月の物語

十二月の野良

作者: アルト

 ぶるる、と冬の寒さに震える。

 目の前には高く積もった真っ白な壁が鎮座している。

 しかもだんだんと高くなっていくと言うオマケつき。


「あーもうっ!」


 隣を見れば除雪作業をサボって、しかもこのクソ寒い中で半袖にカーゴパンツの同居人君は近所の子供を相手に雪合戦をしている。

 当たったらその場に座るというルールで、一対八で、しかも手袋もなしで、十三連勝中。少しは手加減してあげてほしいと思う、子供たちもムキになって雪玉に石を詰めたりし始めているから私が怖い。


「少しは手伝ってよ!」

「て言うか、ここだけやってもあれだよ?」


 指差された方向は我が家から見える真っ白な壁……の下にあるはずの道路。


「全員で一か所を狙っても当たらないぞ、逃げ道を塞ぐように投げるんだ」


 要らないアドバイスを……子供たちががむしゃらに投げ始めて、


「わぶっ」


 私にもあたる。

 しかも石が入っているから痛い。


「もうっ」


 角スコを投げ捨てて、流雪溝の蓋を乱暴に閉めて白い壁に向かっていった。


「雪なんて嫌だぁーっ!」


 ストレス発散に思い切り蹴ろうとしたらつるっと滑って縁石でゴツンと頭を打った。

 人間痛いことがあると泣いて痛い痛いと言うが、度を過ぎた痛みには悶絶するしかない。

 後頭部を押さえて私が丸まって数分、いつの間にか雪の布団に埋まっていた。


「ぶはぁっ」

「人間って冬眠できるらしいんだ。やってみたら?」

「やらないからね? こんなところでやったら氷漬けになるからね?」


 冷えすぎて痛くなってきた手を口元に当てて温めながら、一旦我が家へと退避。温水暖房で温まろう。

 と、家のドアに手をかけた時。


 みゃー


 どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

 あたりを見ましても猫なんていない。気のせいだろう。そう思ってもう一度手をかけると、


 みゃー


 確かに聞こえた。

 もう一度ゆっくりと白く雪の積もった場所を見てみると、黒い点がポツリ二つ。

 近づいてみれば白猫が一匹、雪の中に半分埋まっていた。

 とりあえず抱き上げて玄関前の雪がない場所で下して確認する。

 首輪はない、耳も切られていない、タグもない。

 ということは野良?

 …………うちで飼うor保護することはちょいと厳しい。

 このまま放置か、いや施設か……。

 考えていると上から黒い塊が落ちて、ずぼっと雪の中に突っ込んだ。


「……ミィちゃん?」


 むくっと顔を出した我が家の飼い猫は、白猫に近づくとみゃーみゃーなーなー会話らしきものをしたのち、私の足元に座った。

 白猫はそのまま雪の降る中に消えていったけど、なんだったのだろう?


 ---


 私の名前はミィ。

 さる事情からさるお方に拾われて随分と経つ。

 今日も外の天気は雪であり寒い。

 今日も温かいパイプの隙間に入ってだら~ん……。

 今日も彼女と彼はお外で何かしている。

 そういうわけでなにもせずにだら~んとする至福のひと時を……。


「おーい」


 なにやら聞きなれた元仲間の声がしたような気がする。


「おーい」


 声が聞こえたような気がする。


「おーい」


 まあいいや、このままだら~ん……すぅすぅ……。

 そのまま眠ってしまい、しばらくするとまた、


「おーい」


 いい加減にしつこいなぁと思い、温かいパイプから離れて寒い窓際へと向かう。

 二重窓だが、だからどうした。

 私の肉球はしっかりと鍵を回せる。

 窓を開けるとヒュウと寒い風が流れ込んできて、下を見れば彼女の足元に白猫が。

 知っているぞ、あの白猫は野良時代の仲間だ。

 私は窓から飛び降りた。

 この程度の高さなどどうということはない。

 ほら、綺麗に着――ズボッ!

 …………冷たい、痛い、柔らかい。

 急いで雪の中から出ると、あの白猫のところへと行く。


 少し話してみると、来春の暖かくなる頃まで野良仲間で温かい場所に引き籠もって猫ダンゴになるとかなんとか。

 だからちょっとの間、会えないからその挨拶にと。

 うん、私が捕まってから会いに来てないよね、そもそも雪が降り始めるより前に移動始めるよね普通。

 色々突っ込んでみると今年の寒さで野良の長老が死んじゃったとか何とかでまとめ役がいなくなったのが原因だそうだ。


「んじゃまた来年」

「はいはーい」


 白猫は降りしきる雪の中に踏み出すと、毛の色とあいまってすぐに見えなくなる。

 無事に冬を越してくれるといいのだが……。


 ---


 後日、家の裏にある温水暖房の元がある場所に猫の集団がもふもふの猫ダンゴになってたとかなんとか。



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