自信
「…ん…あ…」
小さな声とともにアンズが目を覚ます。
「!!あのオークは?」
「俺が倒したから大丈夫だよ」
アンズは周りを見渡し、倒れたオーク?を見て安堵の表情を浮かべた
「それにしてもよかったです。柊さんが無事で。私達ではあの速度にはついていけませんので」
「あの生物はオークと言って人型の生物です。知能は低いのですが、身体能力が非常に高く棍棒みたいな物をふりまわして獲物を捕らえ、生活しています。しかしオークはこの山には生息していないはずなんですが…」
この山で生息していないはずの生物が見つかる。この世界の魔王の勢力が強まっているということだろうか
「それより速くここを離れましょう。でないと…」
ザザザ…草が擦れる音がする。すると新たなオークが姿を現した。木陰にいたおかげか、こちらには気づいていない。オークは倒したオークを見つけると低く大きな声をだした。
「オークは十数体程度の群れで行動しています。一匹を見つければ他の仲間があらわれます。」
アンズが小声でそう伝える。すると先ほどの声に反応した4匹のオークが現れ、そのオークを四人で運ぶ。
「オークは魔物としては珍しく埋葬をします。死んだ仲間を見つけると自分達のアジトに持っていき、その肉を食べ、残りを土に埋めるそうです」
なるほど…つまりこの運び先にアジトがあるわけか
「つまりオーク達の跡をつければアジトにつけるわけだ」
「はい。ですがアジトには十数体のグループをまとめるリーダー格のオークがいるはずです。リーダー格のオークは他のオークに比べ知能が高く、統率力があります。私達が人里近くにオークの群れを発見した時は、100人単位の討伐部隊を結成して駆除にあたります」
「ですので1人で行くのは危険です。村に戻って大人達に協力してもらい、倒してから山越えをしましょう。」
アンズからの提案を聞く。しかしここで撤退をしたらあいつらのアジトがわからなくなる。
この時俺は心に自信が生まれていた。アンズが気を失っている間、身の毛もよだつ経験をしたことにぞっとした気持ちの他に魔物という分かり易い敵を倒すという感覚が最高に気持ちがいいという感情が生まれていたことに気づいた。俺はとっさにあのオークを倒したという事実が俺に自信を与えたのだ。
この感情に俺は逆らえず、
「いや、このチャンスを逃したらあいつらのアジトがどこにあるのかわからなくなる。跡をつけよう」
「勇者としてここで行かなきゃという気持ちは分かります。でも…」
「アンズはここに居てくれ。大丈夫あいつらと戦うわけでもない。あいつらのアジトを確かめに行くだけだ。確かめ終わったら戦わずに帰ってくる」
「ホントですよね」
真剣な眼差しでこちらを見つめられる。戦う気がないと言えばウソになる。だが
「ああほんとさ。信じてくれ」
と口に出す
「わかりました。ですが危なくなったら途中でも戻ってきてください。死なれでもしたら私…」
涙目で訴えるアンズ。しかしもう引き返せない。アンズに背中を向け、俺はオーク達の後を追った。
草木をかき分け、オークたちは前へ進む。その後方に俺は音を立てないように進む。
オーク達はまだ俺の存在には気づいてない。俺は気づかれないように細心の注意を払う。
10分は歩いただろうか。その先に開けたスペースにつく。葉っぱや木の皮で作ったであろうベッドのような物が点在する。真ん中には食料となったであろうふにプニの残骸が散らばっていた。オークはパッと見十匹程度居るようだ。
ここがアジトか…。俺は慎重に近づき先ほどのオーク達の様子を見張る。彼らはアジトの中に入ると真っすぐ最も大きなオークの元へ向かう。あれがこの群れのボスのようだ。俺は自分の中に沸き立つ高揚感を抑えられなくなりつつあった。
彼らは話を終えると、ボスが大きな声で轟く。すると周りに大量にオークが集まる。すごい数だ。数十匹はいるだろう。
するとボスはオークの死骸の肉をちぎり、投げる。それを周りに集まったオークが奪い合う。これがこいつらなりの葬式らしい。全ての肉を投げ終わると棍棒で地面を叩く。できた穴に骨を入れる。すると集まった大量のオークが一斉に声をあげる。数秒後オーク達の声が静まると集まっていたオーク達が散っていく。葬式が終わったらしい。
ボスらしきオークはそのまま寝床に戻り寝に入った。他のオークはそのままアジトから消えてしまい、いるのは数匹のオークとボスのオークのみである。これはまたとないチャンスだ。俺は慎重にボスの後ろに周り剣を構える。背中の守りを固めるオークは一匹、こいつをボスにバレないように殺し、そのままボスを殺す。そうすれば統率力を失ったオーク達はきっとバラバラになり、殲滅できる。一対一なら先ほどみたいに勝てることが分かっている。
俺はイケると思い好機を待つ。辺りは夕焼けで紅く染まる。
背中を守るオークが欠伸をする。その瞬間を狙い剣を振りかざし、首を切断する。その横振りの勢いをそのままに縦に大きく振りかぶりボスのオークに降りかかる。
行けっ!!
しかしその剣先は無情にもボスのオークのこんぼうに弾かれる。そのまま体勢を崩し、地面に激突する。ヤバイと思い、目線をあげると目の前には巨体のオークが立ちふさがる。この時俺は言いようのない恐怖を感じた。そのままオークは棍棒を振りおろし俺の腹に直撃する。激痛が全身を走り、口から血を吐く。
俺はこの時死を悟った。そして自分の愚かさに腹が立った。
そしてオークはもう一撃を顔面に振りかぶってきた。
身体は激痛で動かない。俺は諦め目を瞑った。