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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第94話 罠と潜入

「中々面倒なものだね」


 そんな事を呟きながら、チェイサーふたりと共に、ジュウザはイーストアーツを離れ北西に向けひた走っている。

 既に陽は落ちあたりは闇に包まれているが、追跡のプロであるチェイサーは、こんな闇の中でも危なげなく進み続けている。

 彼らのスキルであるハイチェイスの恩恵を受けているジュウザは、とにかくふたりの後ろを付いていくだけだ。


 チェイサーの一人はヒットにマーキングを終えている。

 ガイドの話では、イーストアーツに向かってきているという事なので、北西に向かっていけばそのうちチェイサーの索敵範囲に引っかかるだろう。


 ジュウザからしてみれば、朝でも別にいいのでは? という思いもあったが、今から向かえば相手の隙を突けるだろうというガイドの判断。


 チェリオ伯爵からしても、邪魔者はさっさと排除したいという思いがあるようだ。


 それにジュウザの能力(・・)であれば、連中を倒すのは容易いだろうとガイドは言う。

 既にジュウザはガイドからヒットの能力を知らされている。

 更にザックの代わりに彼に目も貸しているのだ。

 何か他に力を持っていたとして視る事さえ出来れば看破できる。


「ジュウザ様、補足致しました。このまま北西に向かい続ければ、捉えるのに三十分も掛からないかと」


「そっか今も移動を?」


「いえ、この時間ですから野宿でも決め込んでいるのでしょう」


 なるほどね――とほくそ笑む。

 そうであれば、もし既に眠り続けているような状況であれば片付けることなど造作も無いことだ。


(これは思ったより簡単な任務になりそうだねぇ)


 そんな事を考えつつ、チェイサーの後ろをぴったりついて、ヒット達を襲撃するため彼らは疾駆し続けた。





「もう間もなくですジュウザ様。それに奴は一歩も動いていない。眠っている可能性があります」

 

 そっか~、と相変わらずジュウザは軽い調子で返す。

 とりあえず戦闘準備はしているジュウザだが、もしかしたらこの二人だけでも問題なかったか、等とも考え始めていた。


 場所は、目的の連中からみたら、一つ目の山を越えた麓の森だ。

 既に休んでいるのは山越えで疲弊したのが理由かも知れない。

 残りは距離にして数百メートルほど。

 この速さなら数秒もすれば辿り着く、後は寝首をかいて終わりか――そう思い、前を走るふたりを眺めていると……そのふたりが、一瞬にして、消えた。


「はっ!?」


 思わずジュウザがその場で急停止する。いつもどこか飄々としているジュウザの表情に、この時ばかりは焦りが滲んだ。


「落とし穴……だって?」


「ジュウザ! 会いたかったでーーーー!」

「炎が生まれた、この手に生まれた、それは無数の炎子、一つ一つは弱くとも、集まり塊まれば破壊を生む、さぁ炎爆なる灼弾よ――【ファイヤーボール】」


 その時、茂みの中からふたつの影が飛び出した。

 ひとりはジュウザの横から、その顔は彼もよく知る女盗賊。


 そしてもうひとりの姿にも、思わず眉を顰めた。

 そのメイド服姿の女は、跳躍しながら、ふたりのチェイサーが落ちた穴に向けて炎の魔法を撃ち放っていた。


(セイラめ、裏切ったのかよ)


 カラーナの、ソードブレイカーを使用した刺突の一撃を咄嗟に抜いたシミターで受け止めつつ、後ろに飛び退きそのまま藪の中へ移動する。

 一旦相手に自分の姿を見失わせよう、そんな考え。

 そして落とし穴の方から聞こえた激しい爆発音。

 あちゃ~、などと口にしつつ、叢の中を移動しようとすると――何かが脚に引っかかったような感触……そしてバキバキという音を奏でながら、ロープに吊られた丸太が振り子の軌道でジュウザに迫り、その脇腹を捉えた。


 ガハッ! と思わず呻きつつ丸太の衝撃で横に吹っ飛び無様に下草の中を数回転げる。

 仰向けの状態で、まさかこんなトラップまで……と思いつつズキズキする脇を押さえた。


 ジュウザは能力的には戦士系ではない。また見た目に拘る性格のせいか、例え革製の物でも鎧の類を装備する事もない。

 その弊害で、防御力に関しては皆無に近く、些細な事でもダメージに繋がってしまう。


 今の丸太ひとつとっても、肋が何本か持って行かれているのは間違いがなかった。

 痛みと熱で喘ぐように呻く。


 すると何時の間にか近づいていた彼女が、その腰にまたがるようにして覆いかぶさり、喉元に刃を重ねた。


「やっとや。やっとあんたを殺せるんや。この! 裏切りもん!」

 

 その瞳に宿りしは怨嗟の炎。恐らく何もしなければ、間違いなくその首は刈られることだろうが。


「……ちょっと待ってよカラーナちゃん。つれないなぁ、この体勢ならもっと他に楽しめる事があるんじゃないの?」


「こんな時にまでふざけたこと言うんか! あんたは!」

 

 歯牙をむき出しにし、喉元にあてたダガーの力が強まる。

 しかしこのような状態に陥りながらも、ジュウザの様子にはまだ余裕が感じられた。


「……カラーナ、君に僕は殺せないよ、だって君が本当に恨む相手は僕じゃないもの」


 この状況は普通に考えれば絶体絶命といえるが、しかしジュウザは決して慌てることなく、優しく微笑みカラーナに声をかける。


 すると、何を! と声を張り上げるカラーナだったが、直後、その瞼が落ち、どことなくトロンとした様子でジュウザを見つめだした。


「そう……そうさカラーナ。君が憎むべきは僕じゃない、僕も君も騙されていたのさ――あのヒットにね……」


 そういってジュウザはカラーナの頬を優しくなでた。

 するとカラーナの目付きが変わり、ヒット――ヒット! と憎しみをその瞳に宿したまま、ジュウザから離れ駆けていった。


 上手く言った――にやりと口角を吊り上げ、ジュウザは痛みを堪えながら立ち上がる。


「愛すべきものに逆に命を狙われ、あの男はどうするかな」


 くすくすと悪戯を仕掛けた少年の如き顔で笑う。

 この展開はジュウザが最も好きなパターンでもある。


 そしてジュウザは念の為、あの裏切り者の様子も見に戻ったが、予想通りチェイサーは死んでおらず、二体一の戦いが繰り広げられている。


 チェイサーふたりに、あの女が勝てるわけ無いか、と考えつつ、これからどうするかを考える。

 肋の痛みを抑える術はある。実際もうそれを行っているし、自然治癒力も高めることは可能だ。


 ならばカラーナを相手するご主人様でもみて、楽しもうかなどと不謹慎な事を思ったりするが。


『ジュウザ。そっちの様子はどうだ?』


 ふと脳内に響きガイドの声。パートナーとして契約した彼は、遠方にいるガイドとも念話が可能だ。


「う~ん、ちょっとだけ焦ったけどもう大丈夫かな。後はチェイサーともう一人だけでも終わると思うよ」


『もう一人? ふむさてはあの手か、まぁいい実は状況が変わった。手が空いたなら後は任せて戻ってきてくれ』


「はい? 何だよ~ちょっと見物したかったのに、何かあったのかな?」


『あぁ、どうやら侵入者のようでな。魔物が何体かやられた。それに――』

 

 ガイドの話にジュウザはやれやれと肩を竦めるが、そういう事なら仕方ないか、と高みの見物を決めれなかったことを残念に思いつつも、帰還の玉を取り出し、後をチェイサー達に任せイーストアーツへと単身引き返すのだった――






◇◆◇


「全く、ウィンガルグの力がなかったらと思うとぞっとしないな」


 伯爵の屋敷に潜入するため岸壁を登るというルートを選んだアンジェであったが、視線を落とした先に広がる光景を見て、そんな事を呟いた。


 彼女が言うように、今アンジェはウィンガルグを両手両足に纏わせ、風の力で自分の身を崖にぴったりと押し付けるようにしながら、高台の上に鎮座する屋敷を目指していた。


 こんな事をするぐらいなら、風の力で浮き上がれば手っ取り早い気もするが、跳躍と違い空中を浮かぶような浮遊は制御が難しく、魔力の消費も桁違いである。


 無理すれば出来なくもないかもしれないが、屋敷に潜入した後の事を考えるなら余力を残しておくべきだろう。


 尤も今アンジェが行っている所為も、普通の精霊使いならばとても真似できないような芸当ではあるが。


 しかしそれはそれとして、アンジェはとにかく先を急ぐため、登るその手を更に早める。

 屋敷は既に目と鼻の先といえる状況だ。

 そこまでたどり着ければ、後はかなり楽になる。


 アンジェが急いでいるのには当然理由があった。

 アンジェはこの街に入った時、予想以上に魔物が多く存在していた事に驚いた。


 レジスタンスに聞いていた通り、確かに人の気配などほぼ感じることは出来なかったが、魔物が多いというのはそれ以上に厄介な状況でもある。

 

 しかし、それでもなんとか奴らの目を掻い潜り、先を急いだアンジェであったが、こんなところにまで!? と思えるような場所にいた魔物と遭遇し戦闘になった。


 魔物は、前に相手したリザードマンが三匹で、倒すことには特に苦労はしなかったが、死体を処理するような余裕もないため、比較的目立たない場所に固めて放置し、この潜入に挑んでいる。

 

 だが、当然魔物の死体が見つかると、潜入に気づかれる可能性が高い。

 だからこそ急がねばならない。


 そしてアンジェは、無事崖を登り終え、よし! とついつい声が出てしまう。

 丁度いい具合に、ベランダはそこから飛び移れそうな位置にあった。

 岸壁とは違い、三階ぐらいの高さであれば、ウィンガルグを纏った跳躍で十分に飛び移ることが可能なのである。


 アンジェは一旦深呼吸し息を整え、そして手足に纏わせていたウィンガルグを両足のみに切り替えた。

 飛距離ではなく、高さを重視する場合は、マント形態よりは脚に纏わせるほうが効果が高い。


 そしてベランダを見上げ、眉を引き締め、踏み込む脚に力を込め一気に――飛び上がった。



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