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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第92話 セイラの情報

 俺達は砦を出た後、山を下りひたすらステップキャンセルも多用しイーストアーツに向けて南東に突き進んでいた。


 イーストアーツまでの距離は直線で大体七〇km。

 しかし途中、山や深い森を何箇所か越える必要がある為、決して楽な道程ではない。


 正直今俺のマジックバッグには帰還の玉が一つ入っている。

 つまりそれを使用すれば奴らと同じように、ノースアーツまでは直ぐに移動できるが……だが危険過ぎる。


 ガイドという男が帰還の玉を持っていたなら、既にそれで戻っているだろうし、そうでなかったとしても、帰還の玉を使用した時の移動先は固定されているため、それを知っていて連中が何の手立ても打ってないとは考えにくい。


 帰還の玉はまず地点の魔法陣が光ってから、そこに使用者が現れるという仕組みでもあるため、その段階で先手を打たれてしまうと俺のキャンセルでも対処は厳しい。

 

 だから確実性を優先させ、ここはやはりステップキャンセルを交えた移動でイーストアーツを目指すことにする。

 

 ……正直メリッサの事を思うと気が気でないのは確かなんだけどな……ただ唯一安心、といっていいかどうかというのはあるが、少なくともメリッサの命に危険が及ぶことがないというのは救いでもある。


 そもそものあのチェリオの目的がメリッサだからな……歪んだ愛を満たす為といったところだが、あれだけメリッサに執着している男だ、命を奪うような真似はしないだろう。


「それにしても奴らは……どうして俺達の場所が判ったんだ――」

 

 俺は移動しながら、砦での出来事を思い出し呟く。

 インサイトの魔法が使えるとしても場所を断定しなければ判らないだろうしな……


「……チェイサー」


 え? と俺は左手側にいるセイラの声に反応する。

 そして、何か知ってるのか? という目を彼女に向けた。


「……ジョブのチェイサー(追跡者)が仲間にいる……本来は逃亡奴隷を捕まえるのが仕事……」


「あ! それってもしかしてあのけったいな格好した連中やな! うちも追いかけられたわ」


 俺の右手をギュッと握りしめ、カラーナが思い出したように叫んだ。

 どうやらそのチェイサーという奴らにカラーナは捕まり、あのメフィストという男に引き渡されたらしい。


「……チェイサーにマーキングされると……半径五〇km以内の位置情報は筒抜け……」


 位置情報が? それがマーキング……


「あ! そういえば……」


「どないしたんボス?」


「あぁ……思い出したが、確かセントラルアーツを抜ける直前に何かを俺に向けて言ってる奴がいたんだ。あれが……マーキングだったって事か」


「……マーキング……相手を指差し……宣言必要」


 それでか……そうでなかればわざわざ口にする必要はないしな。


「チェイサーというのは他に何かスキルは持っているのか?」


「……ハイチェイス、マーキングした相手追跡……速度十倍……疲れない……パーティーも恩恵」


 ……なんか箇条書きみたいな説明だが、つまり、追跡する時には十倍の速度で走ることが可能で、しかも疲れないと。

 更にパーティーを組んでいるメンバーがいればその恩恵を受けられるってわけか――


 どうりで。いくら位置を知れるからとはいえ、俺達にどうやって追いついたのかと疑問だったが得心がいった。


 十倍でしかも疲れないって事は、相手は時速一〇〇キロ以上を保って駆ける事が可能な筈だ。

 ……とんでも無いな――疲れないって点で考えれば、俺のステップキャンセルよりも長距離移動向けだしな。

 

 勿論追跡するって前提ではあるだろうが……


「あいつら、うちに向かって変な輪っか投げてきたで? あれはなんや?」


「……ホールドリング……魔力で出来た枷……マーキングした相手追い回す……」


 そんなのまであるのかよ……

 それにしても、俺はチェイサーなんてジョブは正直知らない。

 

 ここに来てゲームでも見なかったジョブが色々出てきたな……しかもチェイサーに関しては複数人いるらしいし厄介この上ない。


「チェイサーというのは何人いるんだ? 何か弱点みたいのはあるだろうか?」


「……仲間のチェイサー三人」


 全く変わらない声質でセイラが答える。

 三人か……


「それ、もしかしてうちを追いかけた連中ちゃうかな。ジュウザが絡んどったし三人やったわ」


 そういえばカラーナは、二度騙されたといってたしな。

 その時にカラーナを捕まえたのが、今はチェリオに協力してるって事か。


「……弱点か微妙……でもマーキング……重複できない」


 俺に対して二つ目の質問の回答が返される。

 重複できないって事は誰かがマーキングした相手に別のチェイサーは掛けれないって事か……確かに弱点といえるようなものでもないが――


「セイラ、もしかしてあのガイドという男とジュウザに関しても何か知ってるのか?」


 ガイドは一応予想はしてるが、確実ではないしな……それにジュウザという男だってここまでくると何も能力がないとは思えない。


「……あのふたり不明……私の前……殆ど話さない」


「そうか……」

 

 残念だが仕方ないな。それに――


「チェイサーの情報を知れただけでも助かるよ。ありがとうセイラ」


「……主の質問答えるの……奴隷として当然」


「ちょい! そういう時はもっと喜ぶとか、頬染めてみるとかなんかあるやろ!」


 俺を挟んでカラーナが文句をいう。

 思わず俺も苦笑いだな。

 セイラはセイラでやっぱ無表情だしな。

 まぁそういう子なんだって思うしかないが。


 う~ん顔は可愛いのになんか勿体ないけどな……


 しかし、マーキングか――半径五〇kmって事は、今街にいるにしてもこっちがある程度進むと動向が知れる可能性が高いな。


 しかしこればっかりは避けられようもないか……どっちにしろ帰還の玉はやはりやめておいて正解だったか。

 街なかに現れたらその瞬間ばれてたわけだしな――


 とにかくある程度進んだら気を引き締め、注意して進まないと――


 


 

 

◇◆◇


「さぁメリッサここが君の部屋だよ」


 チェリオに手を引かれ、屋敷に無理やり連れて行かれたメリッサは、彼女のために用意されたという部屋に案内された。

 

 チェリオが特別な部屋というだけあって、街の様子からは信じられない程の高価な調度品が置かれた部屋であった。


 ひとりで過ごすには、十分すぎるほどの広さを有す部屋の天井には、魔導器を使用した綺羅びやかなシャンデリアが飾られ、部屋の奥には黄金をふんだんに使用した天蓋付きのベッドが設置されている。

 見た目にも豪華なベッドであり、一人では持て余すほどな大きさ……そこに枕がふたつ並べられていたことに、メリッサは思わず顔を顰めてしまう。


 チェリオは自慢するようにメリッサに部屋の事を話してきかせ、そしてベッドの更に奥で閉められていたカーテンに手をかけ開け広げた。


 大きな窓ガラスから飛び込んできた光は茜色。

 窓ガラスを開けるとベランダに繋がっており、チェリオに促され外に出た。

 

 メリッサの部屋は屋敷の三階にあたるが、ベランダは街とは反対側の向きに設置されており、眼下に広がるは広漠とした森林、奥には連なる山々。


 ただ、三階といってもこの屋敷は高台に当たる位置に建てられている為、地面までの距離は相当に深い。

 飛び降りて逃げるような真似は流石に厳しそうだ。


「気にいってくれたかな?」


 脱出できないかを探るつもりで、べランダから外の様子を眺めていたメリッサを、どうやらチェリオは別の意味で解釈したようだ。


 そしてメリッサは、それには応えず感情を表に出さず、ただ沈黙を保つ。

 するとチェリオが頬を掻き若干弱ったような表情も見せるが……そこへ、失礼致します、と声がかかりチェリオが部屋の中を振り返った。


「あ、来たようだね! さぁメリッサこっちへ――」


 言ってチェリオは、再びメリッサを部屋の中へ連れ戻す。


 すると部屋にはふたりの人物。

 両方共当然メリッサは知らないが、一人はメリッサとそれほど変わらない年齢のメイド服の少女。

 前を切りそろえ、後ろを首筋辺りまで伸ばした赤茶色の髪。

 まん丸の目をした可愛らしい女の子で、背はメリッサより若干低い……が、その顔はどこか強張った感じであり肩も震え気味である。


 もう一人は壮年の小太りな男で、眼鏡を鼻で掛け、それなりに上質そうな衣装に身を包まれている。


「メリッサ、彼女はこれから君の身の回りの世話をしてくれる侍女だ。恥ずかしい話だが、この屋敷で唯一残ってる世話係でね。勿論必要ならこれからまた増やそうとは思うけど、これはその分優秀さ」


「レ、レイリアと申します。チェリオ伯爵の大事になされているメリッサ様の、身の回りのお世話をさせて頂けるなど大変光栄でございます。ど、どうぞどんなことでもお言いつけ下さい」


 恭しく頭を下げるレイリア。だが、その震えが緊張からではなく、恐れからきているものなのであるという事はメリッサにもすぐに理解が出来た。


「メリッサ、もし何かこれが粗相を働いたらすぐにいってね。直ぐに片付けるから(・・・・・・)


 チェリオの声に、レイリアの顔に冷たい汗が滲む。

 その姿にメリッサは酷く暗鬱な気持ちになる。

 彼女が望んでこの場にいる筈でないことぐらいすぐに判ったからだ。

 更に自分への対応一つで彼女の命はあっさり奪われかねない。


「そしてこの男は、メフィスト公爵に派遣して貰った奴隷商人でね。君の隷属器の調整で来てもらったんだ」


「奴隷商人のブールです。どうぞ宜しく。いやぁしかし流石はチェリオ伯爵が大事になされているというだけあってお美しい。隷属器の調整にも気合が入るというもので」


「ふふっ、美しいのは当然さ。メリッサほど美しい女性はこの世には他にいないからね」

 

 奴隷商人のおべっかにも、チェリオの言葉にも、メリッサはうんざりする思いであり――更にここで隷属器の主を書き換えられることにも、覚悟はしていたが受け入れられない自分がいた……


 


 

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