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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第90話 メイド奴隷のセイラ

「チッ! だからあれほど調子に乗るなといったのだ――」


 目を通してザックの末路を知ったガイドは、愚痴るように零しながら、ザックとの契約を強制的に解除した。


 契約時には相手の同意も必要なガイドのジョブではあるが、解除は彼の方から自由にできる。

 ガイドのスキルは補助としては優秀だが常にパートナーに出来るのは一人のみであり、ここで解除して置かなければ他の人間と契約を結べない。


「仕方ない……だが奴の力が知れたのは大きいか。早く戻ってお知らせするとしよう」


 ガイドはそう独りごちると、懐から帰還の玉を取り出した。

 自身が戦う術を持たない彼は、自分に危害が及ばないよう、常にこういった魔導器を持ち歩いている。


 ガイドが右手で帰還の玉を握り魔力を込めると、地面に幾何学模様の魔法陣が刻まれる。

 そして――八秒後、その姿は既にその森には無かった……






◇◆◇


「なんや、あのトカゲみたいな陰気臭いんは逃がしてもうたん?」


 俺が一通り戦いでの出来事を説明し終えると、カラーナがため息混じりにそう言った。

 言葉的には、何で、とでも言いたげな不満を感じる。


「俺だってやれるならザックと合わせて片付けたかったけどな。あの男は安全な場所から俯瞰してるような奴だ。離れていたんじゃどうしようもない」


 肩を竦めてカラーナに返す。

 すると口を尖らすようにして不服そうな顔を俺に見せた。


「でもあのガイドっての、話聞く分にはボスの能力を見破ってもうたんやろ? 逃したら後が厄介そうやねん」


「そうだな。まぁその辺の対策は考えないといけないと思うが……先ずはメリッサが優先だな。早く助けにいかないと」


「そやな。ボスは気づいとるん?」


 カラーナの質問は、メリッサがどこに連れて行かれたか? という事だろうが、流石カラーナはあの状況でもしっかり聞いていたようだな。


「あぁ、イーストアーツだろ。あのくそ伯爵、領地を見せると言っていたし、それに帰還の玉で戻ったなら地図で行けば直線で結ぶとイーストアーツが一番近いしな」


 流石ボスやな、とカラーナは頷き感心してくれたが、まぁこれぐらいはな。

 ただ、それはそうと――


「彼女はどうするかなってところだよな……」


 呟きつつ身体をセイラの方へ向ける。


「このままにしておくん?」


「いや、とりあえず縄は解こう」

「え? 大丈夫なん?」


「あぁ問題ない。前も彼女はザックが気絶した瞬間、何もしなくなった。彼女はなんというか、そういうタイプだ」


 正直なんと表現していいか困るんだけどな。この子の場合。


「セイラ、君の主はもういない。だから縄を解くけど暴れるなよ? てかザックの事は判ってるかな?」


「……声で理解した」


 相変わらず抑揚のない声で機械みたいに話すな……まぁ問題なさそうだし、ナイフで正座して姿勢を保ち続ける彼女の縛めを解く。


 するとすくっと立ち上がり……踵を返して、とことこと出口に向けて歩き出したよ――


「おい、どこに行く気だ?」

 

 流石に気になるしな。俺は引き止めるようにメイドの背中に問いかける。


「……奴隷は主を失ったら速やかに帰る」


「帰るって奴隷ギルドとかにか?」


 ぴたりと立ち止まって応答したセイラは、俺の続けての質問にコクリと頷いて返した。


「奴隷ギルドってセントラルアーツの方にあるんだろ? ここからセントラルアーツまでの道は魔物が大量に潜んでる。流石に一人じゃ危ないと思うぞ?」


「……死んだならそれまで」


 随分とドライな考え方してるな……てか本当に言われたとおりにしか生きてないって感じだが、流石に放っておくのはな……


「なぁ俺達と来るか?」


「……言っている意味が判らない」


「……いや、流石に女の子を一人放っておくのは忍びないしな。ただカラーナと互角に戦える腕があるなら」

「ボス! 互角やない! うちが勝ったんや!」


 ……そこは譲れないのか。


「まぁとにかく、セイラはメイドのジョブ持ちだろ? サポートしてくれると助かるが……」


 まぁこれは何かしら理由をつける為にいった事ではあるけどな……


「……それは」

 

 セイラは艶やかな黒髪を靡かせながら俺を振り返り、なんとも感情の読み取れない瞳を俺に向け言葉を紡ぐ。


「……私を……買うと?」


 ……あ~なるほど。

 彼女の場合そういう話になってしまうのか。

 う~んとりあえず買うとだけは答えておくべきか。

 ただなんとなく勝手に決めるのが忍なく、カラーナの顔を見つめてしまうが――


「はぁ……別にいいんちゃう? ボスの決めることやし、うちも流石にもう慣れたわ」


 溜息混じりに言われてしまった――


「それになんか、うちもこの子放っておけん気がするし……」


 カラーナは憐憫の瞳をセイラに向けつつそう言葉を紡いだ。

 

「ところで、その、君は幾らなんだ?」


 この状況で何だが、一応買うという話でいうなら聞いておかないとな。

 とは言え今は買うとかそういう状況でもないんだが。


「……二〇〇万ゴルド」


 二〇〇万か……まぁ二〇〇〇万ゴルド以上ある今となっては、実際に買うことになったとしても問題はないけどな。


 ……まぁ逃亡中なんだけど。


「判った。それでいい、買うという事で先に進もう」


「……ならギルドか商館に……行かないと」


 ……やっぱそこはそういう話になるのか。


「駄目や。却下や。うちらはメリッサを助けに行くねん。やからボスが買うにしても、それは全て片付いたらの話しや!」


「……奴隷は三日以内に」

「つべこべうっさいねん! 大体あんたさっき負けた時好きにしろいうたやろ!」


「……言った」

「やったらその約束守りや! うちらに黙ってついてくるんや! えぇな!」


「……判った」


 そ、そこは素直に従うんだな。

 まぁおかげで話は纏まったけど。


 さて、それじゃあ直ぐにでも追いかけて、といいたくはあるがその前に。


「セイラ、早速で悪いんだがカラーナの傷を癒せる魔法は使えるか?」


「そんなんえぇって。その内治るし~」


 そうは言ってもな。こういうのは痕が残ると大変だし。


「……可能」


「本当か? じゃあお願いしていいかな?」


 セイラがコクリと頷いたので、カラーナに傷を見せるよう促す。

 

 褐色の肩や腕、シャツを捲ると背中にもくっきり鞭で打たれた痕が痛々しく残っている。

 

 その傷痕一つ一つにセイラが手を翳し、初級の回復魔法であるヒールで癒していった。

 メイドの嗜みで基本的な魔法は全て使えるようだな。


 ちなみにこの傷で、痕が残らないぐらいまで回復するのに要する時間は三〇秒ってところか――やはりすぐってわけにはいかない。


「ありがとな……て言うのもなんか変な気分やけど――」


 苦笑まじりにカラーナがお礼を言う。

 まぁその傷つけたのは他ならぬセイラだしな……


「……奴隷は主に従う」


 相変わらず感情は読めないが、どうやら一応俺を次の主とは認めてくれたようだな。


 しかし魔法が使えるセイラが仲間になってくれたのは僥倖ともいえるか……カラーナの話だと攻撃魔法も使いこなせるみたいだしな。


「よし、傷も回復したしすぐに出るとしよう。目指すはイーストアーツだ!」


 俺の言葉にカラーナが頷く。

 セイラは……無表情だがとにかく――


 待っていろよメリッサ……必ず助けに行くからな!




 


◇◆◇


「ようやく辿り着いたか――」


 アンジェはイーストアーツの街を前にして一息つきつつ、安堵の表情を浮かべた。

 彼女は今、街の周囲に広がる森の中からその様子を探っている。


 伯爵に何としても会い話を聞く! そう決めてセントラルアーツを離れて彼女がこの場所まで辿り着いたのは三日目の朝のことであった。

 

 東の空で煌めき続ける太陽を見上げながら、結構掛かってしまったものだと独りごちる。


 アンジエはウィンガルグの力を借りることで、移動時にかなりの速度て駆けることも可能だが、当然その力を行使するには魔力が必要だ。


 その為、朝から晩まで走り続けられるというものでもない。

 寧ろ三日目に辿りつけたのもかなり早い方と言えるだろう。


 何よりイーストアーツに入ってからは魔物の数も増えた。

 ノースアーツに比べればましとはいえ、それらと戦いを繰り広げながらの道程だったのだ、正直野宿をしていても気が休まる暇も無かったといえる。


 村にでも立ち寄って休む場所でも提供してもらえたならまだ楽だったのだが――


「しかしここの領主も一体何を考えているのだ――」


 何かを思い出したように拳を強く握りしめ、イーストアーツの街を眺めながら奥歯を噛みしめる。


 何せ途中立ち寄った村の有り様はとにかく酷いものだった。

 セントラルアーツに向かう途中の村も酷かったが、それよりも更に見るに耐えない状態であり、その多くは死を迎えるのを待つばかりであり、また魔物に襲われ壊滅している村もあった。


 アンジェはそれらの惨状を目にする度に伯爵への怒りを募らせたものだが――

 しかし今は冷静に街の入口を見つめながら考えを巡らせている。


 できれば直ぐにでも向かいたいところではあるのだが……


(……なぜ街の入口を魔物が守っているんだ?)


 その様子を怪訝に思いながら思考を巡らす。

 一応は人の住む街の筈である。だが守っているのが魔物である以上、アンジェが話をして道を譲ってくれるわけもないだろう。


 だがかといって、あんなところで魔物相手に一悶着起こしては、騒ぎが大きくなるだけである。


 さて、どうしたものか、と顎に指を添えるアンジェであったが、瞬時に瞳を尖らせ耳を欹てる。

 何者かの気配を感じたのだ。しかも――複数。


「大人しくしろ!」


 すると、若い男の声音が届き、同時に刃が彼女の首に押し当てられそうになるが、アンジェはその小剣を持つ男の腕を取り、いやぁ! と気勢を上げ反対側へ投げ飛ばした。


 男は軽々と宙を舞い、そして叢に落下しゴロゴロと転がった。


「こ、このアマ!」

「抵抗する気か!」

 

 周囲に集まってきていた連中が剣や斧を片手にアンジェに襲いかかる。

 だがそれも、アンジェにとっては敵ではなかった。

 狼藉者の手に握られた武器を次々と弾き飛ばし、そして一人の男の首に宝剣の刃を突きつける。


「貴様ら伯爵の手のものか!」


 アンジェは襲ってきた男たちにだけ聞こえるような声音で詰問する。

 

 だが、男たちの反応は意外なものであり――


「え? あ、あんたこそ伯爵の部下とかじゃねぇのかよ?」

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