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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第84話 村での一夜

「申し訳ございません! ゴールド・ステイル様!」


 金庫を任されていた行員の男が平伏し、支配人のゴールドに許しを乞う。

 その姿を片眼鏡の奥に光る瞳で見下ろし、そして口を開いた。


「私は貴様に、なぜこのような事になっているのか説明して欲しいといって言っているのだがね。そんなみっともない謝罪など何の価値もない」


 行員の蔕のような髪がブルブルと震え、顔中には脂汗が滲んでいた。

 まさか自分が管理している間にこのようなことが、金庫に保管されていた金貨や金塊、総額五〇億ゴルド相当が何時の間にか盗み出されていたのである。


「そ、それが、た、確かに金庫に鍵は掛かっておりましたし、侵入者なども見受けられなかったのですが――午後の確認の際金庫を開けると、な、中身が、空っぽの状態でありまして――」

 

 その報告にゴールドがため息を吐き出し、冷淡な視線を男に落とす。


「それで――今日! この金庫に近づいたものは、お前以外に誰もいないのか!」


 ゴールドの声に怒声が混じる。声音には明らかな苛立ちが感じさせた。


「そ、それがその金庫が安全か一度見てみたいとライト卿がお見えに――ただ、それは私がしっかり付き添っておりましたので……」


「……ほうライト卿が。それで、一人でやってきたのか?」


「い、いえ、護衛が一人と奴隷が二人、あ、帳簿に記入がございます!」


「……見せてみろ――」


「は、はい、ただいま!」


 行員の男は慌てすぎて、途中何度も転びそうになりながらも階段を駆け上がり、帳簿を取り外し戻ってきた。


「こ、こちらに、こちらに記入が――」


 必死な様相で行員が帳簿を手渡す。

 それを受け取りペラペラとめくるゴールドだが。


「……一体何処に記入されているんだ?」


 気色ばんだ顔つきで詰問され、男は、そんな馬鹿な! と声に出し帳簿を確認する。

 しかし――そこに記入されてたはずの文字がない。


「そ、そんな、確かにここに……」


「なるほど。つまり貴様は見事にライト卿に騙されていたというわけか」


「そんな! あの方は爵位を持ち、預金も相当な額を、それ、なのに――」


「……それで信用を得て、機会をまっていたといったところか……だがそれに引っかかる貴様はやはり無能。お前、この責任をどうとるつもりだ?」


 ゴールドが問いかけると、あ、あ、と呻くように口にし、そしてひたすら頭を下げ謝罪の言葉を述べる。


「……当然だが、この金庫にあったお金の一部は貴様に負担して貰う必要があるな」


「は、はい! 一生かけてでも!」


「……一生か、だがそこまで待ってはいられんな。今すぐ身体で返してもらおう。先ずは舌!」


「ぎひゅ!?」


 行員の男は口を抑え傾倒し、通路をじたばたと転げまわる。

 しかし舌を失ったその口からはもうまともな言葉は出てこない。


「ふん、貴様の汚らわしい声などもう聞きたくはないからな。さて、次は耳! 目! 手! 脚!」


 ゴールドが指差し指定するごとに、行員の身体の部位が次々と欠損していく。耳は消え両手両足もなくなり、両目は暗い闇のみが広がっている。

 そしてその痛みは想像を絶するものだったのだろう、胴体と頭だけになっても、その身はビクンビクンと痙攣し続けている。


「ふん、もう用はないな。頭だ、くたばれゴミが」


 冷淡な瞳でその身を指さし宣言すると、男の首から上が消失し痙攣も収まった。

 

「ふん、これで無事貴様の借金は完済だ。まぁ命と引き換えだがな――」


 独りごち残された胴体を放っておき、ゴールドは金庫を開け億へと足を踏み入れる。


「……確かに見事に空だが――」

 

 そういいつつ、がさごそとゴールドは何かを探る。


「ふむ、さすがにこれは無事か……だが、やはり金はそれなりに痛いか――一度領主様にお知らせせねばな……」


 呟くように口にし、金庫から出て扉を閉めた。

 そして上の階から別の行員を呼ぶ。


「このゴミは片付けておけ。それと金が盗まれた件はとりあえず口外するな。そしてライトという貴族の住む屋敷に何人か調査に向かわせろ。まぁ無駄だとは思うが念の為だ」


「は、はい承知致しました。ただこの金額分はどうしたら――」


「貴様はそれを私に訊くのか? 考える力もないというならその男と同じ運命をたどるぞ。どんな手を使ってでも掻き集めるように行員全員に伝えろ!」


「は、はい! 承知致しました!」


 男は背筋を伸ばし、蛇に睨まれた蛙の如く面持ちで返事をすると、胴体だけになったそれを持ち、急いで元の場所へと戻っていった。

 それを眺めながらゴールドは舌打ちし、使えない連中だ、と一人零した――






◇◆◇


 俺達はセントラルアーツを出た後は、とりあえず北に向かうことに決めた。

 理由はそれほど難しいものではなく、東はあのチェリオ伯爵というのが治めるイーストアーツが存在し、わざわざそっちに向かう必要はなく、南と西はそれぞれ山脈が聳え立ち、道が険阻で逃げるには向かない。


 その為、北を選び逃亡ルートを組んだ形だ。それにノースアーツを上手く越えることができればアーツ領からも離れることが出来る。


 これまではメリッサを奴隷として迎え入れる必要があったから、そこまでは考えていなかったが、この状況ならもう話は別だ。


 ただ、ふたりの話だとノースアーツは魔物の襲撃にあい壊滅した領地であり、今はセントラルアーツの管理下にあたるとか。

 ただあまりに酷い状況の為、手付かずで放置されたままなようだ。


 だから魔物は凶悪かつ数も多いとか――だが、厳しい山越えよりは魔物相手の方がまだマシだ。

 正直魔物なら俺は負ける気もしないし、彼女たちを守りながらもでも進む自信はある。

 

 ステップキャンセルは厳しい山だと使いにくいが、ノースアーツを越える道ならそこまで厳しい山道なんかもないしな。

 境界沿いの砦がある場所は岩山になっているが、それぐらいは問題ない。


 ただ、既に空は茜色に染まり、このまま逃げ続けてると当然夜がやってくる。

 そうなるとステップキャンセルもある程度限定されるな……

 

 俺はある程度進んだところで一旦止まり魔法の地図を広げた。


「とりあえずノースアーツから、この領地を抜ける方向で考えたいが、今日中はムリだろうな……」


「てかボス、うち領地を抜けるのは無理やと思うで」

「私もそれは出来ないかとは思うのですが――」


 ……やはり領地を脱することにはふたりは消極的だ。

 この状況でかなり違和感がある発言だが、ただ無理と思っているだけで行きたくないというわけではないようだ。

 

 だから、とにかく後のことは抜けてから考える方向で――しかしそれでも砦までは北に、いや正確にいえば北東に向けて八〇km程の距離がある。

 それを一晩でいくのはやはり厳しいだろうな、視界の問題もあるし、俺のステップキャンセルは過程をキャンセルしているだけだから、手をつないで一緒にキャンセルで移動してるふたりも歩いているのと同じだけの疲れは蓄積していく。


 俺は一応この世界に来て体力は確実に上がっているが、それでもメリッサやカラーナとは違いスキルを使用してる分の体力も消費するし、カラーナはある程度盗賊稼業の恩恵で体力も持つだろうが、メリッサがどの程度持つかというのもある。


 流石に休みなしで八〇キロの距離を移動するのは無茶がすぎるしな……

 ここから三〇km地点、ノースアーツに入る手前に村がありそうだな――そこで一泊するか。

 野宿よりはましだろうし、今は大分金も余っている。

 宿代として握らせれば一晩ぐらい泊めてもらうことも可能だろう。

 ただ手配書とやらが回っていると厄介だが……騒ぎを起こしたのは今さっき。

 それにあの様子なら手配書がセントラルアーツに回ったのが今日と考えるべきだし、こんな小さな村にまですぐに出回るとは思えない。


 まぁ最悪、顔が知られていたとしてもキャンセルで乗り切る事は可能だしな。

 追手のこともあるが、それでも俺のステップキャンセルだからこそ、この距離を短時間で移動できるのであって、馬車や馬ではもうすぐ夜になるこの時間帯で追いつくのは不可能――


「よし! ふたりとも今日は村で泊まる場所を提供してもらおう」


 俺は彼女たちにそう告げ、一応大丈夫と考える理由も説明する。


「まぁ確かにこの村やったら大丈夫かもしれへんな」

「そうですね……それに夜ノースアーツにまで足を踏み入れるのは確かに危険そうですし……」


 ふたりも納得してくれたので、俺達は更にステップキャンセルで三〇km先の村を目指したわけだが――





「これはまた予想外だな……」

「ひ、酷い――」

「ボス、こらもうあかん。生存者は多分おらへんわ……」


 村に入り俺達の目に飛び込んできたのは――腐肉を喰らう魔物の群れだった。

 どうやら村は襲撃され、カラーナの言うとおり生き残りもいそうにない状況だ。


「……せめて村人の無念を晴らすため、この魔物は全て殲滅させよう」


「そやな――」

「わ、私も戦います!」


 俺はメリッサには無理しないよう告げ、先手を切って斬りこんでいく。

 村を襲撃した魔物はキラーウルフと二本足で立つ狼型の魔物のウェアウルフだ。

 

 そして俺が近づくのを認めるとウェアウルフが唸り、キラーウルフが三匹飛びかかってきた。

 やはりウェアウルフのほうが立場は上か。


 だが俺にとっては問題ある相手でもない。 

 最初の三匹はまず左の一匹をすくい上げるように振った刃で斬り裂き、もう一方の腕で刺突し右のキラーウルフの顔を抉る。


 真ん中から迫る残りに関しては、振り上げた左の刃を手首のスナップで返し、脳天に向けて振り下ろす。

 

 これで終わりだ、キャンセルを使うまでもない。

 俺があっさりと三匹片付けると、今度はウェアウルフが激昂し中々の素早い動きで俺の横を取り、伸ばした牙で水平に引っ掻いてくる。


 その一撃をバックステップで躱すと、前のめりになってそこから飛び込みザマに攻撃スキルのダブルクローを放ってきた。


 左右の爪を連続で振る攻撃。一撃目を食らうとほぼ間違いなく二撃目まで持っていかれる。

 正直キャンセルを使えば、攻撃は止められるが――この程度の相手はキャンセル無しで片付けたい所。


 なので俺は先ず左の爪を、跳躍しながら振り上げた刃で無理やり軌道を変え防ぐ。

 俺が飛んだことで相手の右の爪を空振った。


 俺のこれはフライスライサー、感覚的には蛙飛びアッパーとかそういうのに近いが、流石にこの身体だと跳ぶ高さが違う。


 そして俺はスキルを空振り、隙だらけのその身へ、頭上から体重をのせた一撃を喰らわしてやった。


 相手はこれで絶命。

 そこで、ふぅ、と一息つくが左の民家側からも更に何匹か出てきたな。

 

 ――まっ、サクッと狩ってしまうかなっと――






「ボスこっちも終ったで。メリッサもキラーウルフを数匹殺ってくれて助かったわ」

「いえ、カラーナの方がやはり凄いです。相手も強そうでしたし」

「そんなんでもないで。あれ人みたいに歩く癖に頭そんなによくないねん」


 俺が魔物をあらかた片付けると、カラーナとメリッサも戻ってきた。

 カラーナの軽口から問題はなかったと察し、メリッサも怪我はない。

 ミラージュドレスの効果は絶大で、この魔物程度じゃ攻撃を仕掛けようとしても翻弄されるのがおちだ。


「でもやはり生き残った方はいませんでしたね……」


 メリッサの形の良い眉が落ち、無念の表情を浮かべる。

 そやな、とカラーナも影を落とし――そこへポツリと頬を打つ冷水。

 空はすっかり暗くなったが、まるでこの村を憂うように、空が泣いた。


「やはり村に立ち寄っていて正解だったな。こんな状況ではあるが……とりあえず凌げそうな家屋を借りて今日は休むとしよう」


 俺達は適当な木造の平屋を見つけ、そこに身を寄せた。

 ここは魔物の襲撃による傷みが少なく、降ってきた雨を凌ぐには持って来いだ。

 

 ただ当然ベッドなんかは何もなく、調度品も皆無と言っていい。

 街からは急いで脱出した為、当然準備する暇もなく、食料の類も持ち合わせていないため、あるのはマジックボトルに入ってる水だけだ。


 俺達が選んだ家屋にも、これといった食料はない。どれだけ貧しかったかが判るが――とにかくふたりを待たせて適当に何かないかを探して回る。


 メリッサとカラーナも一緒に探すと言ってくれたが、雨も酷くなってきたので、風邪を引いたら大変だしすぐ戻るよ、と伝え俺一人で探す。


 民家の数はそれほど多くはないので、探すのにそれほどの時間は要さなかったが、出てきたのは干し肉が数切れ程度であった。


 だが、食べないよりはマシだろう。それを持ってふたりの元へ戻り食事をとる。

 

「……でもこの村に住む人達はどんな生活を送っていたんでしょうか……」


 メリッサはこの村の惨状と、これまでに心を痛めているようだ。

 

「そんな事を考えてもしゃあないで。今は今後の方が大事やし、それにしても雨、朝には止むとえぇけどな――」

 

 カラーナの言葉に、そうだな、と頷きつつ、メリッサをみやる。

 どんな状況であれ落ち着いてくると……やはり気になってしまうな。

 ただ訊いていいものかどうか――


 俺がそんな事を逡巡していると、床に座っているメリッサが目を伏せ、きゅっとドレスの裾を握りしめた後、意を決したように顔を上げた。


「ご主人様は気になりますよね? 私とチェリオの関係――」


「……気にならないといえば嘘になるが、でも話したくなければ無理しなくてもいいんだぞ?」


「いえ、いずれはお話しなければいけないとも思っておりましたので……あのチェリオ・バルローグは、私の婚約者だった男です」


 婚約――ただの知り合いって感じではないと思っていたが、まさかそんな関係だったとはな――カラーナは黙って聞くのに徹してるようだが、でもそこまで話されるとどうしても気になる事はある。


「そうか……でもそれならば何故――奴隷に?」


 俺は若干ためらいながらもそれを尋ねる。


「……私はメルキス家――子爵の位を持つ商人の家系に生まれました。父と母、妹と私の四人家族です。そしてバルローグ家はその当時からイーストアーツを治める伯爵家であり、そこの先代に父は懇意にしてもらっておりました。私とチェリオはその関係で知り合ったのです」


 商人の家系……そうか彼女の持つ多くの知識は、その環境で培われたものなのかもしれないな――


「……チェリオは私の事を慕ってくれ好意も寄せてくれておりました。チェリオと私の婚約の話が持ち上がり、互いの家の間で結ばれたのもそれがきっかけです。チェリオがどうしても私を妻に迎えたいと……ただ当時一四歳の私は正直いうとチェリオに恋愛的感情は持ちあわせておりませんでした。彼は年上でしたが、見た目が幼く、私から見るとまるで弟が出来たようなそんな感覚でしかなかったのです――」


 そこまで話した後、メリッサは俺の顔を覗き見る。

 俺がその話を聞いてどう思うかを気にしているのだろうが、微笑んで話を続けるよう促した。

 俺はメリッサの過去がどうであれ、その気持ちに変化はない。


「……でもこの結婚が成立することは家名を上げる為にも大切であることは私も理解していました。貴族の娘として生まれた以上、それも宿命と思い、私は彼の気持ちを受け入れようと婚約に同意致しました。順調に行けば私が一五の誕生日を迎えると同時に結婚の儀を執り行う予定で話も進んでいましたが――」


 そこで一度口篭り、その美しい碧眼に悲しみを滲ませる。


「でも、その婚約は破棄されました。一方的にバルローグ家側から……おまけに取引も停止され今後一切屋敷に足を踏み入れることも禁じられました。にも関わらず流れた噂は――私が別に男を作りバルローグ家の嫡男を裏切ったというもので、この事がきっかけで家の評判も落ち商人としての信用も失い――そして没落致しました……」


 ……恐らく色々と掻い摘んだ話なのだろうが、メリッサは当時の事を思い出してるようで、声も所々が掠れていた――だがメリッサは泣きだしたい気持ちを抑えるようにして更に話を紡げていく。


「後から知った話ではありますが、どうやらチェリオ・バルローグが赴いた名高い貴族の集まる舞踏会で、彼がさる貴族の令嬢に見初められたとか――バルローグ家からしてみればその令嬢との話を纏めた方が利に繋がると思ったようです。ただ、何も理由なく婚約破棄では悪い噂が立つ可能性がある、だから――」


「逆にメリッサを悪者にして、一方的に婚約を破棄した理由を作ったというわけか――」


「……ほんま悪どい貴族の考えそうな事や。聞いてるだけでムカムカするねん」


 黙って聞いていたカラーナも堪らずといった具合に声を上げる。

 確かにな――そんな貴族としての面子を保つために人を陥れるのも平気だとは……本当にロクでもない連中と言えるが――


「辛いところ、こういう事を言うのもあれなんだが、つまりメリッサが奴隷になったのはもしかして……?」


「……はい。爵位も保てず屋敷も失い、私の家族は蓄えも失いこのままでは路頭に迷うほかありませんでした。それに出来た借金も多く……少なくとも妹か私のどちらかを奴隷として売らなければいけない程の状況にまで追い込まれたのです」


「……それで両親は、君を売ったのか?」


「ご主人様それは違います。むしろ父も母も妹だってそんな事は望んでいなかった――でもどうしようもない事もあるのです。だから私は自らすすんで奴隷になることを望みました。幸い商人としての教育も受けていた私は、かなりの高値で買ってもらうことになり、それで借金の問題もかなり解消されたのです。だから私は後悔はしてませんし、今でも家族が幸せに暮らしていることを願っています」


 そうか、と呟き、できるだけ優しく微笑むよう努めた。

 しかしまさかそんな過去があったとはな……


「それでメリッサ。今はご両親は?」


 俺が問いかけるとメリッサは静かに首を左右に振る。


「一度奴隷に堕ちると、もう家族との連絡を取ることは許さません……ですから――」


 ぐっとメリッサの喉が波打つ。

 ……辛いだろうな。家族に見捨てられたわけでもない、ただ他にどうしようもなくメリッサはその道を選び家族との暮らしを諦めざるを得なかったんだ。

 だけど――


「メリッサ。今の君はもう自由だ。遠慮なんてする事はない……この件が落ち着いたら、メリッサの家族を一緒に探そう」


「ご、ご主人様――」


 メリッサの目に涙が溜まり、堰を切ったようにぼとぼろとその涙が頬を伝った。

 

 俺はそっとメリッサの肩を抱き、そしてその顔を胸に引き寄せ髪を撫でた。

 横目に映るカラーナも黙ってその様子を見続けていた――

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