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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第81話 再会

「ではこれが預かっていたバッグと、ヒット様が銀行に盗られたという一〇〇万ゴルドです。どうぞお受取りください」


 店に帰り、満面の笑みでシャドウは俺にマジックバッグを返してくれた。

 あまりにも素直に戻してくれた上に、テーブルの上に置かれた一〇〇万ゴルド分の金貨に間違いが無かったので、俺は寧ろ不気味に思えたほどだ。


「ボス、ちゃんと中身を確認せな」


 出された紅茶に、相変わらず遠慮無く口をつけるカラーナに釘を差すように言われる。

 勿論それは確かにな……なので俺は中身を確認するが――


「……確かに元通り、二千万ゴルドも間違いないが……なんか変なのが入ってるがこれはなんだ?」


 俺はバッグから、見慣れない蓋のついた容器を取り出し、シャドウに尋ねる。


「それはサービスです。協力してくれたお礼でもありますね。まぁうちで扱っていた品です。よければどうぞ。あ、ただ、今は開けないでくださいね。まぁここで開けても問題無いと思いますが、魔物が好む強烈な匂いを発して周囲の魔物を呼び寄せるというものなんで」


「はぁ!? いや、なんだよそれ! 何に使うんだよ?」


「さぁ? どうなんでしょうか? 変わった道具なのでつい店に置いてしまってましたが、売れないですし、それに展示していて間違って蓋を開けられてもいやなのでどうぞどうぞ」


「いや! どうぞって、それただ不要品を押し付けてるだけだろ!」


 俺が唸るようにいうと、何がおかしいのかクスクスと笑い、でも、シャドウはもう返しても受け取る気はなさそうだ。


「まぁ、意外とそういうものが役立つ時があるかもしれませんよ?」


「いやどんな時だよ……てか、バッグは本当にあっさり返してくれたな」


 俺が目を細めつつシャドウに問うように言うと、えぇまぁ、と返しつつ、机の横に置いてある十数個のマジックバッグに目を向ける。


「私が欲しかったのは、あくまでこの中身ですから」


 そういって一つ開け、中から金塊を取り出し、ふふっ、と笑う。

 にしてもな、今シャドウの脇にあるマジックバッグは全て俺のと同性能なわけだが。


「それにしてもやはり凄いですね……それ全てご主人様のマジックバッグの複製なのですから――」


「全くや、うちもシャドウがそんな能力持ってたなんて思わへんかったで」


 メリッサが感嘆の声を漏らし、カラーナは右手を振り上げ意外だったといった顔つきで口にする。


 まぁ確かにな。ただ今回の計画はシャドウ曰く、この男の能力と俺の能力、どちらが欠けても成立しないという事だった。


 そう、シャドウは――ジョブ持ちだった。

 シャドウクリエイター(影使い)、それがこの男の持つジョブ。

 

 そして、この多くのマジックバッグは、俺のマジックバッグを元にシャドウコピー(影複製)でシャドウが創りだした物だ。


 このスキルは、生物以外であれば影の本体とそっくり同じものを複製することが出来るらしい。

 かなり万能そうなスキルだが、複製できるのは影を作れる朝から夕方限定で、夜になると消滅してしまうのが欠点だとか。

 

 だからこそ、今回の計画は太陽の出ている朝から堂々と行ったわけだけどな。

 

 そしてもうひとつのスキルであるシャドウクラフト(影細工)は、自分の影を色々な形に変化させることが可能なスキル。


 あの時金庫の前で訪れた暗闇は、シャドウがこのスキルを使い、影で俺達を覆う事で起きた出来事だ。


 そしてその瞬間に、カラーナがドレスを脱ぎ身軽な格好で金庫に侵入。

 同時にシャドウが影人形を創り出し、ドレスに身を包ませた。

 

 これはカラーナの体術が極めて優れていたから出来たこと。

 金庫に入った後は天井に張り付き、更にシャドウから借りていた魔法効果の施された擬態マントによって、行員がチェックをしても見つかることなく済み、更に俺のキャンセルで鍵も閉められることはなかった。


 そしてその後は、カラーナがシャドウの複製したマジックバッグに金庫の中の金貨や金塊を詰め込んでいったわけだが、これも勿論カラーナ一人で五〇億を素早くなんて本来無理な話。


 しかしシャドウが事前に用意し、バッグに仕込んであった魔導器のおかげで手早く作業に移ることが出来たようだ。


 なんでも風の力が付与されていて、周囲の物を吸い込む力がある魔導器だったらしい。

 元々は俺の世界にあった掃除機のような使い方をするためにある魔導器なようだが、吸引力を上げ、金塊でも余裕で吸い込めるほどにパワーアップされていたようだ。


 それにしてもよくこんな物を用意出来たなと思ったりもしたが――意外だったのは、これらの魔導器の作成者はあのエリンギだったって事だ。


 尤も彼女は、何に使うかなどは聞いていたわけではないようだけどな。

 にしてもあのドジっ子エルフがね……ただシャドウの話だと、少なくとも魔導器を作る能力に関してはエリンギは相当なものらしい。

 

 まぁそんなわけで、今回の作戦に関してはシャドウ自身がいうように、彼一人でも勿論俺一人でも成し得なかった事といえるだろう。

 俺のスキルとシャドウのスキル、それにカラーナの身体能力にメリッサの行員を惹きつけるだけの魅力。


 そして本人は知らないと思うがエリンギの魔導器。

 これらがあったからこそ成功できたってわけだ。


 まぁそれはいいのだが――


「それにしてもシャドウ、正直この依頼の件なら、何もあんな真似をして俺からバッグをとるような事をしなくても良かっただろ?」


「……はて? 言っている意味がよくわかりませんが、何故でしょうか?」


「そりゃ俺だっていろいろ助けてもらってるわけだし、別にそんな真似をしなくても協力は出来たと思うからな」


 俺はそう返し、紅茶を一口啜った。

 そしてシャドウの細目を見据えるが――


「……ヒット様は変わった事をおっしゃられますね」


「変わったこと? なんでだ? 別に普通に俺の気持ちを言っただけだが」


「ふむ――でははっきりと申し上げましょう。私があぁいった手に出たのは、貴方を信用していないからですよ。口約束だけで、いざその日になって止められても困りますので」


「!? な、なんだよそれ。だったら信用してない男にあんたは依頼したってのか?」


「勿論です。この計画の為には貴方の力が必要不可欠でしたから。ですから貴方が絶対に協力してくれるようバッグを奪ったのです。奴隷購入のためにお金が必要なのは知っていましたし、期日も僅かとあれば、バッグを盾にすれば動かざるを得ないだろうとも考えてました」


「…………」


「……言葉もないといったところですか? ですが私からしたら貴方の考え方が不思議だ。私と貴方は出会って間もない。なのに何故信用できると?」


「それは……」


 ……俺は言葉に詰まった。情報を教えてもらったり、お金を借りたりしたのでつい身近に感じてしまったが、それは全て俺がシャドウから与えられたものだ、シャドウが俺を信用できるような事などよく考えてみればない――


「……これは貴方が私に思ってることでもいえますがね。もし私を貴方が信用してるというなら甘いとしか言い様がないですよ?」


「シャドウ。もうその辺にしときや。前もいったやろ? ボスは――」


「お人好しですか? でもそれも度が過ぎるといずれ痛い目にあうと思いますよ。例えば貴方が口にしてる紅茶ひとつとっても、睡眠薬や毒の類が入っていないとは限らない」


「な!?」


 俺は思わず絶句し喉を押さえる。

 ご主人様! とメリッサも心配してるが。


「冗談やてボス。これにそんなもの入ってへんわ」


「え? そ、そうか、いや言われてみれば……」


 そんなのが入っていればとっくに効果が出てるはずだしな……メリッサも胸を撫で下ろし安堵している。


「カラーナの言うとおり、今のは只の喩え話ですからね。ただやろうと思えば私もそれぐらいは出来た。ヒット様は恐らくご自分の能力に随分と自信があられるようですが……例えその力があったとしても、今いったような事があれば対処しきれないのではないか? と私は思っております」


 ……シャドウのいう通りだ。確かに俺のキャンセルは状態異常に関しては対処が出来ない。

 肉体に負う怪我なんかもそうだ。


 そう考えたら確かに……睡眠薬や毒なんてものが入っていたらどうしようもなかったか――


「まぁとはいっても。少なくとも今のヒット様の状態であれば毒が入っていても安心でしょうが」

「て、おい! なんだよそれ!」


 俺は思わず突っ込んだ。不安がらせたり大丈夫と言ったり、一体何なんだ!


「いえいえ、ただ、今毒が入っていたとしても犠牲はカラーナだけで済んでるでしょうから、ヒット様は無事でいられるなと思いましてね。気が付かれませんでしたか? 貴方が最初にここに来た時から、一番初めに紅茶に口をつけていたのは誰だったか……」


「あ――」


 メリッサが小さく呟いた。俺もカラーナをみる。

 

「……シャドウ勘ぐり過ぎやで。そんなの偶然や、シャドウとは知らん仲やないし、気兼ねなく口にしただけや。ボスもそんな顔せんといてや」


「……まぁカラーナがそうおっしゃるなら。ただ貴方は私から見ても少々危ういところがある。自分の力をあまり過信せず精々お気をつけを。何せ貴方が私の大事なお客様なのは確かですし、また協力を願うことがあるかもしれないですからね」






◇◆◇


 ヒット達を見送り店に戻るなり、ふぅ、とシャドウは一つ息を吐きだし。


「少々余計な事まで言いすぎてしまいましたかね――」


 そう独りごちた。ただ彼の言った気持ちに嘘はない。

 シャドウはヒットを今回の件の要としてかなり重要視している。

 だからこそ死なれてほしくはない、が、実際立場的にもかなり危うい。


「――このまま素直に事が運べばいいのですが」


 そういいつつ、シャドウはヒットと共に盗みだした金の詰まったバッグを見やる。

 この中には五〇億近くの金が入っている。

 そしてこれは、銀行が多くの人々から強制的に搾取したものだ――


「中々大変ですができるだけ早めに――」


「主殿ーーーー!」

 

 と、そこへ使いに出していたコアンが、息急き切って飛び込んできた。


「おやおや一体何事ですか?」

 

 少女の慌てぶりに、その細目を見開きシャドウが尋ねる。

 すると彼女がシャドウに一枚の紙を手渡してきた。


「ぼ、冒険者ギルドでこんなものが貼られていたようで……」


 シャドウはそれに目を通すと、その表情を曇らせる。


「……全く心配した矢先からこれですか――」






◇◆◇


「ボス、あれは本当ちゃうからな。気にせんといてな」


 カラーナはいつもどおりカラッとした口ぶりで言ってはくれるが――なんとも情けない限りだな。


 どうやら俺は、いや勿論助けてもらってるという認識はしてたつもりだが、どうやら思っていた以上にふたりに救われていたようだ。


 ただ、だからってここで俺が塞ぎこんでも彼女たちを困らすだけだし、そんな事で心配かけたりしないと俺自身心に決めたことだ。

 だから――


「ふたりには本当に感謝してる。俺はもっとしっかりしないとな。胸を張って俺に任せろ! といえるようなそんな男になるよう頑張るよ」


「そんな……私はご主人様の事を誇りに思っておりますし、今更ですわ」


「まぁいうても、人がいいのは少し考えものやけどな」


 メリッサもカラーナもこんな俺を慕ってくれている。

 期待に応えられるよう頑張らないとな。


「さて、とにかくメリッサを正式に迎え入れないとな。期日もぎりぎりだし急ぐとしよう」


 俺はふたりにそう告げるとその手を取って、奴隷商館へと急いだ。

 色々とあったが、金もあるし――これで間違いなく契約ができる!





「メリッサいよいよやな!」

「え、えぇ……」


 奴隷商館を目の当たりにし、メリッサとカラーナが声を上げた。


 確かに……何か、まだあれからそこまで日は経ってないはずだが、なんとも言えない気持ちになる。

 結構苦労したしな……でもそれも今日で終わりだ!


 俺はメリッサを今日! 奴隷として迎え入れる!





「よ、ようこそいらっしゃいましたヒット様。さぁさぁどうぞこちらへ!」


 奴隷商館に入ると、奥から前に対応してきた男が現れ、俺達をテーブルにまで案内してくれた。

 そして今回は、メリッサとカラーナが席に座っても何も言わず、向こうから本題を切り出してくるが。


「本日はそこのメリッサ様(・・・・・)とのご契約の件ということで宜しいのですよね?」


「え? あ、あぁそうだが――」


 なんだ? どこか違和感が……


「判りました! いやヒット様でしたら必ず期日にはメリッサ様をお連れしてくれると信じておりました。では早速! 隷属器に主人の登録をいたしますので、さぁどうぞこちらへ」

「きゃっ!」


 男は立ち上がると、メリッサの腕を掴み、無理やり引き摺るようにして奥へと連れて行こうとしやがった――なにしてるんだこいつは。


「おいちょっと待て!」


 俺は叫びあげその男の肩を掴む。すると男は苦虫を噛み潰したような表情で俺を振り向いた。


「何でしょうか?」


「何でしょうかじゃない! 一体どういうつもりだ!」


「どういうつもりって……隷属器に貴方様の登録を施すだけですよ。そう言ったではないですか?」


「代金も受け取らずにか? それにあんたの顔。一体何を焦って何を企んでる? 第一おかしいだろ? 金に汚い奴隷商人が確認もせずそんな事」


「そ、それは……とにかく! すぐに済みますからこの奴隷を――」

「もういいですよ」


 その時、奥から随分と若そうな男の声が俺の耳に届いた。

 俺はその声のした方へ視線を移動させる。

 そこには――赤地のエンペラーコートに身を包まれた、いかにも身分が高そうな男。


 恐らく今の声を発したのはこの男だろう。俺達が店に来た時はまだ奥に引っ込んでいたようだが――背は俺の胸ぐらいか? 金髪碧眼で首筋まで髪は伸ばされている。

 見た目には少し幼さの残る少年のような顔立ち。


 そして――俺はその男の後ろに並び立つ四人の一人に視線を固定させた。

 隣にメイド服の女を従わせたその顔は、中々忘れられるものでもなく。


「くくっ、やっと会えたなぁおい」


 ……どうやら向こうもしっかり俺のことを覚えていたようだ。

 全く、何か厄介事が起きそうな、そんな重苦しい雰囲気を感じて仕方ない。


「ジュ、ジュウザ!」

「あっれれー? カラーナちゃんじゃない。おひさだねぇ。元気してた?」


 するとカラーナの張り上げた声が耳に届く。何だ知り合いなのか? ただチラリと彼女を覗き見ると、恨みの篭ったそんな瞳を男に向けており、ジュウザという男の軽い雰囲気とは全く別の感情が沸きあがっているのが見て取れるが――


「……そん、な、どうして、ここ、に、チェリオ――バルローグ……」


 だが、俺が何よりも驚いたのは、メリッサのその反応であり……


「……久し振りだねメリッサ、やっと、再会できた――」


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