第77話 無双!
「が~~~~はっはっは! 解ったらとっとと平伏せ! 地面に頭を擦り付け詫びを入れよ! そこのドワーフとエルフの娘が大事ならな!」
ボンゴルが指を突きつけ、嫌らしく唇を曲げながら全員に向けて言い放つ。
くそっ! 調子に乗りやがって! だが、今回のきっかけはドワンの出来事。
勿論俺の私怨もあるにはあるが、ドワンが悲しむような真似だけは避けなければいけない。
だが、だからといって――
「はぁ? 馬鹿かてめぇは? なんで俺達がてめぇのいうことを聞かないといけねぇんだよ糞が!」
え? と俺は声の主に顔を向ける。キルビルだ。盗賊を代表してマスターのキルビルが声を上げたのだ。
いや、確かに冷静に考えれば彼らには関係のない話ではあるが――
「そやで! 本当この豚もあったま悪いわ。何が人質やねん。そんなの関係あるわけないやろ」
「え!? ちょ! カラーナ! 何を言っているの?」
メリッサが慌てた様子で彼女に声を掛ける。
俺もカラーナに顔を向け、
「お、おいカラーナそんな言い方!」
と思わず語気を荒らげてしまうが。
「いやヒット。みんなの言うとおりだ。これは俺達家族の問題。それにあんたらを巻き込むわけにはいかねぇ。おい! ボンゴル! この件は俺が全ての責任を負う! それで勘弁してやってくれ!」
ドアンがボンゴルに吠えるように言った。
だが当然俺は納得がいかない。
「おい! ドワン! そんな事勝手に!」
「馬鹿か! てめぇみたいな下劣なドワーフ一匹で釣り合うわけねぇだろが! 責任を取るって言うなら全員をてめぇで説得しやがれ!」
俺の言葉に重ねるようにボンゴルが叫ぶ。
くそ! どっちが下劣だこの屑が!
「ちょいまちぃ、ドワンも何言うとんねん? 別に何の責任も負うことないやろ。そもそもこんな奴のいうことを聞く理由がないねん」
後ろからカラーナが何のことはないように言う。
それに俺は振り返り怪訝な気持ちで問いかけた。
「どういう意味だカラーナ?」
よく考えて見ればさっきの発言にも違和感があった。
これまでの付き合いで、彼女がそんな非情な性格でないことは俺だって解ってるつもりだ。
「ふん! 貴様の奴隷は、どうやら見た目はよくてもオツムが悪いらしいな。もしかしてこの状況が解ってないのか? いいか私は!」
「うっさいわこのボケ豚! いつまで調子こいてんねん!」
「な!?」
「ははっ、カラーナの言うとおりだ。さっきから滑稽な事だな。攫う? 人質? 全くカラーナの心配が的中したな。仲間にしっかり見張らせておいて正解だったぜ」
カラーナに追従するようにキルビルが言うが、え? 見張らせて?
「まさかカラーナ!」
「そやねんボス。なにせうちも一応は盗賊ギルド所属や。悪党の考えそうなことぐらい察しがつくねん」
そういうことか――つまり……
「ぴゃぴゃ~~みゃみゃ~~」
「この声は! エリン!」
「あぁエリン! エリーーーーン!」
ドワンとエリンギが振り返り、その小さな脚を必死に動かし近づいてきたエリンに駆け寄った。
その後ろから盗賊ギルドのメンバーと思わしきふたりも近づいてくる。
どうやらエリンは彼らの手によって守られたらしい。
「ば、馬鹿な! 馬鹿な!」
ボンゴルの狼狽した声を俺は耳にしつつ、エリンが母親の胸に飛び込んだ様子を目にする。
横に立つドワンも、
「エリン、エリン良かった――」
とつぶやいて父親の顔を見せる。
「ナイスやふたりとも! エリンを助けてくれたんやね!」
「まぁ、こいつらの腕は確かだからな」
カラーナとキルビルが近づいてきたふたりに向けて労うように言う。
だが、ふたりは後頭部を擦り。
「いや、まぁ俺らが助けたっていうか」
「何というか……」
ふたりともどこか困惑した感じにいっていて歯切れが悪い。
なんだ一体?
「エリン、大丈夫だった怪我はなかった?」
「怖い目にあったな、でも無事でよかった」
エリンギとドワンに頭を撫でられ気持ちよさそうなエリンだが、ふたりを見上げるようにして口を開き。
「みゃみゃ~ぴゃぴゃ~あのね、あのね、おしょとであしょんでたら、おとこのひちょがちゅかづいてきゅたの~」
一旦ふたりから離れ両手をぱたぱたさせながら説明する。
きっとそいつがボンゴルの手のものだったのだろうな。
「そしゅたらね、エリンにお菓子をきゅれるっていったの! りゃからね、ちゅいていったの」
知らない人に簡単について行ったら駄目だぞ!
「そしゅたらね、はこのなかにおしきょめりゃれたの!」
「あ、連中が馬車に押し込んだんでさぁ」
なるほど……このふたりはその現場をしっかり押さえていたわけだな。
「しょしたらね、ナイフをりゃしゅてきて、おとなしゅくしろ! ていってきゅたの~」
「まぁ……そんな目に――」
「全く、こんな小さな子になにしてんねん! こわかったやろ?」
メリッサとカラーナも心配そうな目でエリンに言った。
確かにそんな目にあえばこんな小さな子だ。不安で仕方なかったことだろ、可哀想に。
「う~んちょね、りゃから、りゃから、エリンがぶっちょばしたの!」
「ぶっ飛ばしたのかよ!」
俺は思わずツッコミの言葉を叫んだ。てか、え? なにそれ?
「しょしたらね、べつのしとも、しゃわいで、ナイフをふりみゃわしはじめたの」
つまり相手はもう一人いたって事か! 狭い車内でナイフを振り回すなんてなんて奴だ……
「りゃからね、風の精霊しゃんにおねがいしゅて、びゃらびゃらにしゅたの」
「バラバラにしたのかよ!?」
「……おい、これどこまでが本当なんだ?」
「いや、全部本当っす。俺達が助けようと馬車に近づこうとしたら、反対側の扉から一人吹っ飛んでいって壁に叩きつけられてたし……」
「その後すぐに、突風が吹き荒れたかと思えば、馬車がばらばらになったんでさぁ」
……盗賊ふたりが俺達に説明してくれた。
子供の他愛もない嘘ってわけではなかったようだ……
「貴方……エリンはしっかり貴方の血を受け継いでいますね」
「何を言う。精霊魔法をそこまで使いこなすなんて、お前に似た証拠だよ」
そんな事をいいながら周りの空気もなんのそので、いちゃいちゃぽい雰囲気になるドワーフとエルフ……どこのバカップルだ――
「つ、つまりあれやな、エリンはドワーフの怪力と――」
「エルフの、魔法を扱う技術の両方を受け継いでるってわけですね……」
とんだハイブリッドだな……
「く、くそ! なんだってんだ! 畜生が!」
おっと忘れるところだったが、このトラブルの張本人が悔しそうに喚いてるな。
「残念だったな。どうやら相手が悪かったようだ。それにしても……こんな幼気な子にまで手を出そうとするとは、流石に看過できないぞ」
「大人ふたりをぶっ飛ばしたり、切り刻んだりする子供の何が幼気だ!」
……それをいわれるとあれだが。
「ふん! 何をいおうが貴様が俺の娘に手を出したのは事実! 言っておくが俺は自分の事はともかく、家族に手を出されて大人しくしてるほどドワーフ出来てはいないのでな」
拳を握り、ぽきぽきと骨を鳴らしながらドワンがボンゴルを睨めつける。
そして当然だが俺も含めて全員の意志は同じだ。
こいつはやってはいけないことをした。その落とし前はきっちり付けないとな。
「覚悟を決めるんだな。もうお前を助けるものもいない」
「……確かにな。だが! 舐めるな! だったらこの私がお前たちに目にもの見せてくれる!」
「はぁ? 豚顔のキモいおっさんに何が出来るいうねん」
カラーナが挑発の言葉をぶつけた。
俺も同じ意見だな。所詮商人でしかないこいつが――
「舐めるなよクズ共だ! 喰らえ! 吸引せし燃素、引火し燃素、わが熱を込めし吐息を持って、愚かなる者を燃やし尽くさん――」
そういってボンゴルが突如詠唱をはじめ、大きく息を吸い込みだし、その太鼓腹が更に倍近く膨れ上がり――これは!?
「ブレストインフェルノ!」
刹那――ボンゴルの口から吐き出された業火が大きく広がり、その場の全員を包み込もうと迫り来る。
強烈な熱を肌に感じた。
しまった! 油断した、まさか商人のボンゴルがこんな魔法を持ってるなんて――駄目だキャンセルが間に合わな……
「土のせいれいしゃんおねがいみゃの!」
俺が自分の浅はかさを呪ったその瞬間、エリンの声が届き、かと思えば全員を炎から守るように頑強な土の壁が構築され、迫る炎を遮断した。
轟々という強烈な炎から全員を守り、そして炎が消え去ったかと思えば赤茶けた壁は瓦解し、元の土の姿に返っていく。
「すごいわエリン!」
「あぁエリンのおかげで俺達は助かった!」
「なんだあの幼女エルフすげぇ!」
「あの子の力で俺達は焼かれずに済んだ!」
「あんなにちっちぇのにどこにあんな力が……」
「ファンになりそうだぜ!」
「…………」
ま、まぁともかくエリンのおかげで助かったのは事実だ。
「く、くそ! だがまだ終わりではないぞ!」
往生際の悪いやつだな。
だが、こんな商人がスキルを使うとは流石に思わなかったが――
「クリエイトショッピング! ドラゴントゥース購入!」
何だ? ボンゴルが何かのスキルを発動させると、その手に大量の竜の牙が現出した。
マジックバッグから出したなどではない。
何もないところからそれを取り出しやがった!
「いでよ! ドラゴントゥースソルジャー! 奴らをぶっ殺せ!」
「な、竜牙兵だと!?」
俺は思わず驚きの声を上げてしまう
竜牙兵は文字通り、竜の牙から生み出される兵士で、ゲームでも道具として購入した竜の牙を使えば誰でも作り出すことが出来た。
その実力は、一匹あたり上位職のナイト程度ではあるが――正直数が多い! 奴のばらまいた牙は一〇〇はあり、当然生み出される竜牙兵も一〇〇! 牙が一斉に変化し手に盾と剣を持ち竜の顔を持つ竜牙兵が今ボンゴルと俺達の前に並び立つ!
くそ! 数も多くてキャンセルどころじゃなかった!
「チッ! 仕方ねぇ! てめぇら気合入れろよ!」
キルビルの声にその仲間たちが、おおぅ! と応える。
ドワンも表情を引き締めその仲間たちもやる気だ。
「ボス! うちらも当然戦うで!」
「わ、私も頑張ります!」
「……判った、だが無茶はするなよ」
もう、ふたりは言っても聞かないだろうしな。
だが絶対に怪我は負わせない! 俺が必ず――
「あ! エリン!」
て、ん? 何かトコトコと……エ、エリンが単独で前に!
「ちょ! ま! あぶな――」
「いっ、ちぇ~の~ちぇ!」
――ドオォオオオォオオォオン!
……エリンが前に出て、地面に手を置き、何か掛け声のような物を発したかと思えば――左右から地面が捲れ上がり、そのまま竜牙兵一〇〇匹を巻き込んで――サンドイッチのように捲れた地面で挟み込んでしまった……
つまり、確かまだ三歳だと記憶してるエリンが、単身地面を捲り上げ、一〇〇匹の敵をプレスしたというわけだ。
事が終わり、ドシーーーーン! という音で捲れた地面がピッタリと元の位置にはまり、土埃が巻き上がる。
そして竜牙兵は元の牙に戻り、というか粉々に砕けて牙の形すら保ってなかったが……まぁようはエリンの手によって殲滅した。
「皆をいちゅめるなんて、ゆるちゃないなの!」
腰に手を当て、プンプンという擬音が見えそうな勢いで幼いエルフ幼女が言い放つ。
そしてこっちを振り返り、にぱぁ、と笑って、
「やっちゅけたなの!」
と無邪気に口にした。
暫しの沈黙。勿論俺も、言葉をなくした――
が、若干の間をおいて、周囲から一斉に歓声が沸き起こる。
「マジですげぇあのエルフっ娘!」
「やべぇ! もうロリコンと言われてもいい! おじさん惚れた!」
「あの娘は俺の嫁にする!」
「ざけるな! 娘は誰にもやらーーーーん!」
ドワンがキレた。
かなりの親馬鹿ぶりではある。
そしてトコトコとエリンがパパとママの下へ。
「エリン! 本当に凄い!」
「全くだ。いや、正直凄すぎな気もしないでもないが……」
凄いどころじゃないぞ。正直言葉も無い。
「みゃみゃ~ぴゃぴゃ~」
「うん?」
「どうしたのエリン?」
「エリンねぇ~もう、ねみゅねみゅなの~」
瞼を擦って可愛らしくエリンが訴えた。
俺と同じように呆気にとられていたメリッサとカラーナがほわんとした表情をみせる。
いや、確かに愛らしいが――
「みゃみゃ~りゃっこ~」
「はいはい、もう甘えん坊さんね」
「まぁ流石にエリンも疲れたのだろう」
……うむ、エリンギが愛娘を抱きかかえ、すぅ~すぅ~と寝息を立てる幼女エルフ。
とても微笑ましい光景だが、なんだろうか。
何か小骨が喉に引っかかったような、そんなすっきりしない気分だ――
すると俺の肩を何者かが叩く。首を巡らすとキルビルの顔があったが――
「まぁあれだ気を落とすな」
「いや! 落としてないぞ!」
「ボス大丈夫や! うちは判ってんし! これは仕方ないと思うで!」
「そ、そうです! これがご主人様でも、きっと殲滅出来たと信じております!」
やめろ! その憐れむような眼差し!
「……てか、ボンゴルの野郎がいなくなってるな――」
「なっ!?」
ドワンが気がついたように口にし、俺も顔を巡らすが確かにいない!
しまった、エリンの事に気を取られすぎてる間に逃げたのか! くそ!
「ここまできて逃してたまるか! 俺はボンゴルを追う!」
というわけで無双しましたね。えぇエリンが。
ドワーフの怪力×エルフの魔法=超ハイブリット幼女エルフ
次回よりタイトル変更!
主人公キャンセル~ハーフ幼女エルフの異世界無双!~
乞うご期待!
……嘘です




