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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第73話 準備は整った

「いやはや、一億ゴルドとはまた随分と大きな金額をご希望ですね」


 シャドウは口元には薄い笑みを浮かべながらも、その細目をこじ開け、俺の本意を見極めるかのように、小さな黒目でじっと見据えてくる。


 冗談だとは流石に思っていないか。尤も当然俺は本気だが。


「て! ボス何いうてんねん! シャドウから金を借りるって! しかも一億ゴルドやて!?」


「ご、ご主人様それは流石に……」


 俺の発言で暫く呆けていたいたふたりが声を上げる。

 まぁ流石に一億ゴルドなんてきけばそういいたくなるのも判るな。おまけにシャドウから借りれば利息が馬鹿みたいに高い――しかし。


「すまん、二人は黙っていて欲しい。これは俺にとってどうしても必要な金額なんだ」


 シャドウから視線はそらさず、そしてしっかりと決意の篭った声で発す。


「ボス――」

「ご主人様……」


 どうやら俺の真剣さが判ってくれたのか、ふたりはそれ以上は何も言わない。


「……ふむ、冗談で言っているわけでもなさそうですね」


「当然だ。こんな事不真面目に言えるか。で、どうなんだ? あんたは前に俺になら金を貸すって言っていただろう?」


 少し前のシャドウの言葉を持ちだして俺は告げる。

 するとシャドウは肩を竦め、

「それはいいましたが金額が金額ですからね。しかもヒット様とは初めてのお取引、それで一億ゴルドは流石に大きすぎです」

と少々呆れ気味に口にする。


 ……やはり簡単ではないか、だが。


「なるほど。つまり一億ゴルドも貸す程は金はないって事か、裏で随分名がしれているといっても大したことはないんだな」


 俺はシャドウに挑発の言葉をぶつける。


「……安い挑発ですね。そういうのは相手を見て行った方がいいですよ? 流石にそんな事でむきになったりはしませんし」


 ふふっと小馬鹿にするような笑い。

 ……まぁこれで乗るなら苦労はしないか。

 だが――


「その感じなら一億ゴルド用意することは可能みたいだな」


 シャドウの眉根がピクリと跳ねる。


「ふむ、私が用意できるかどうかも対応から察したって事ですか。まぁでもそれに関しては隠すことでもないですね。勿論貸すに値するとなれば一億でも二億でもお貸ししますよ。ただ返せるかどうかも判らない相手に貸せる金額ではないですがね」


 薄い笑みを浮かべながらシャドウが口にした。だがその言葉が聞ければ十分だ。


「それなら問題はないといっておくよ。何せ俺が借りたいのは明日。そして返すのも明日。借りた分をその日の内にそっくりそのまま返してやる」


 シャドウの表情が変わった。ちょっとした疑心を持っていたようであったが、元の興味深そうなものに変わっている。

 両隣のカラーナとメリッサも、どういう事だろう? というような不思議そうな顔で俺を見ているが。


「面白いお話ですね。一億ゴルドをその日の内に返すと?」


「そうだ」


「なるほど。しかしそれが出来たとして私に何の利が?」


「ボンゴル商会が潰れる。あんた嫌いだろ? 今までの話でそう判断した」


「……ふふっ、なるほどなるほど。いやいや確かに仰るとおりボンゴル商会は少々うざったい連中でしてね。ドワンの件だけでなく私の付き合いのあった店は何件か潰されてます。それにどうにも私の事が気に食わないのか、ちょいちょいちょっかいを掛けても来る。なのでこちらとしても何とかしたいとは思っていたので、ヒット様がそれを担ってくれるというなら確かに有難い。ですが――」


 そこまで言葉を綴った後で一拍おき。


「一体この情報と一億ゴルドでどうやって? ボンゴル商会を?」


 ……やはり隠したままというわけにもいかないか。


「正確にはそれと俺の能力(スキル)を使ってだ。それで間違いなく潰せる」


「……能力ですか?」

 

 言ってシャドウが再びカップを口に近づけたので――俺はそれをキャンセルする。

 するとシャドウが、面喰らったような顔を見せる。

 

 だがいまいちその感覚が掴めないのか小首を傾げるが。


「ボス! 今何したんや!? まるでシャドウの時が戻ったような……そんな気がしたで!」


 カラーナは流石に間近でみたら気がついたか。オークとの戦闘中も使ってたが、お互い動きまわってる状態だとわからないもんだしな。


「私はなんとなく何度かみてるのですが……やはりご主人様の能力だったのですね――」


 流石はメリッサはよく観察してるな。

 

「……つまりヒット様は時を操る能力があるという事でしょうか?」


「いや、それは少し違う。簡単に説明すると――」


 俺は自分のスキルの効果を掻い摘んで説明する。ただジョブ名とスキル名は曖昧にしておいたけどな。

 キャンセルとかキャンセラーとかは話してもややこしくなりそうだし、とりあえず今回使う能力についてのみ説明する。


「成る程、面白い能力もあったものですね。ふむ……」


 シャドウは俺の説明を聞いた後、顎を押さえ考える仕草を見せ。


「確かにそれであれば潰せる可能性は高そうです。が、それでも正直言うと完璧とはいえないですがね……」


「大丈夫だ! 俺が保証する! 何なら俺自身を担保に掛けてもいい! 信じてくれ!」


「ちょ! ボス! やったらうちが担保になるわ!」

「いえ! でしたら私が!」


「ちょっと待って下さい。金額が一億ですよ? その担保にそれで足りると? 正直これはかなり無茶な話ですし、いくらヒット様が自信あるといっても、私からしたら一億も貸すのはギャンブルに近いです」


 ……くっ! 駄目なのか……勿論メリッサとカラーナを担保にするつもりはないが――それなら……


「ですが、全く勝ち目がないならともかく、そうでないなら私はわりとそういうギャンブルは大好きだったりします」


「……へ?」

 

 俺は思わず顔を上げ間の抜けた声を発すが――


「ふふっ、安心して下さい。ボンゴル商会を潰して欲しいのもそれで銀行に歪を生じさせるのも私としては願ったり叶ったりでもあります。ですので一億ゴルドお貸しさせて頂きますよ――」






◇◆◇


「はい、それではこちらが一億ゴルドになります。ご確認下さい」


「え? あ、あぁ、いや! てかおい!」


 俺達は人気のない路地裏に回ってそのやりとりをしてるわけだが……ついシャドウに向かって声を張り上げてしまった。


「どうしたのですか? 正直あまり目立たないほうがいいと思いますが」


「そういわれても声を上げたくもなる。なんで堂々と銀行から金をもってきてるんだよ?」


「ほんまや。うちもびっくりしたわ。お金を用意するから付いてきてください言うから、どこいくかと思うたら……」



「ぎ、銀行に入っていかれましたからね……」


 そう! そうだ。いまこの男はライトの格好でいるわけだが……ふたりのいうように俺達を表に待たせて堂々と銀行に入り、そして一億ゴルドを持ってきた。


「まぁまぁ。大した問題じゃないですよ」


「いや……重要だろ――銀行にもダメージを与えられればとさっき話したわけだし……」


「あぁそのことなら問題無いですよ。私も銀行をいいように利用しているだけですから」


 にこやかな表情でなんてことはないように話しているが……


「てか何者なんだあんた? 銀行と付き合いがあるって事はまさか貴族なのか?」


「この格好の時は形だけはそうなってますね」


「形だけ?」


「えぇそうです。愚かな貴族には私からお金を借りて踏み倒そうとする馬鹿もいる。そういう連中はしっかりケジメをつけさせてもらいますが、そのついでに身分も頂いたりしてるのですよ。それを有効活用しているだけですから」


 身分を頂く……そんな事が出来るのか? 

 ……まぁこいつならわりとなんでもありな気がするな。

 

「さて、それでは金額をご確認を……とその前に借用書だけ取り交わさせて頂きましょうか。一応そこはきっちりしておく必要がありますからね」


「あぁ。だがこのお金は確認まではするが、借りるのは明日にしておくよ。実際動くのは明日だからな」


「あぁそれなら御安心を。契約上、今日借りても明日借りても条件は同じにしておきますので」


「うん? いいのか?」


「えぇ、私もこれを持って帰るのは少々骨ですしね。ではこれが証書です。ご確認を」


 俺は手渡された書面に目を通す。確かに利息関係に関しては明日からの日数になってるな。

 一〇日で二割って事は五日で一割って事か。

 これも聞いていたとおりと……


「わかった、ここにサインすればいいのか?」


「はい、私の分とヒット様の分でそれぞれサインを――」


 既にシャドウのサインはあったので、俺も二枚にサインする。

 そして印はないのでそれぞれに拇印を押した。


「確かに――それではこちらを確認ください」


 シャドウはそういって一億ゴルドを取り出す。

 俺はてっきり金貨がジャラジャラ出てくるかと思って、こんなとこで出すのか? と驚いたが、実際は金塊が二〇本出てきただけだった。


「一本五〇〇万ゴルド分の価値がある金塊が二〇本です。今回の場合こちらのほうが使いやすいでしょう。表面に価値も刻まれてますしね」


 そうなのか? と俺は金塊を確認するが、後ろで見ていたメリッサが俺に伝えてくる。


「ご主人様。これは間違いなく五〇〇万ゴルドの金塊です。こんなに沢山は流石に驚きですが……」

「う~んこういうのみるとうちも手が疼くわ」


 なるほど……メリッサの目は確かだし、シャドウのいう価値も刻まれてるしな。

 カラーナは流石もと盗賊といったところか……貴族専門で狙ってたわけだし、こういうのを見る機会も多かったのかもしれない。


 ちなみに金塊は一本あたり一kgぐらいだ。二〇本でも二〇kgでバッグにいれても十分余裕がある。


「さて、これで取引は終了ですね。皆様のご武運を祈りますが、本日はこれからどうなされるのですか?」


「あぁ明日の準備でまだ回るところがあるんだ」


「左様ですか。ふむふむ。ところで一つお聞きしたいのですが――」


「うん? なんだ?」


「はい。明日まさかそのままの格好で動かれるわけではないですよね?」


 ……あ、そういえば考えていなかった――


「……おやおや、その表情、さてはヒット様そのことは失念していたようですね」


 見透かされたか……


「まぁいいでしょう。乗りかかった船です。それぐらいは私の方で何とかしてあげますよ。用事がひと通り終わった頃にまた店に来てください」


 う~ん俺としてはそこまで頼るのもどうかと思ったが、サービスだというので潔く申し出を受けることにした。


 どちらにせよ何とかする必要はあるしな。

 そしてそこで一旦シャドウと別れた俺達は明日の準備の為必要なところを回り、そして全て準備が整ったところでシャドウの店に向かった。


「主様より、こちらを用意するよう仰せ付かっておりますので――」


 店に入るとコアンが恭しく頭を下げ、用意したそれを手渡してくれた。

 どうやらシャドウはいないようなので、それを受け取りお礼をいって俺達は店を出て宿に戻った。


「アンジェちゃん、一度戻ってきたけどまたすぐ出ちゃったのよね~」


 宿に戻り、なんとなく気になってアンジェの事を聞いたらその返事。

 ふむ……まぁ一度戻ってきてるなら俺が心配するでもないが――


「あの騎士、一体何をそんな駆けずり回っとるのやろか?」


「確かにずっと何かしら動いてる感じですよね」


 カラーナとメリッサが不思議そうに口にした。


 俺も気にはなるが……彼女は基本的には強いしな。盗賊の時は人質をとられてしまいあんな目にあってたが、そうでなければ簡単に遅れを取るような人物ではないだろ。


 とりあえず今は明日の事が大事だしな。

 なのでその日は風呂と夕食を摂った後は、早めに床についた。


 三人で同じベッドに寝るのは少しは慣れたと思う。むしろ今となってはふたりの柔らかさが心地よいぐらいだ。

 さぁ明日はボンゴル商会を――

 




 

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