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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第72話 ヒットの考え

「まぁまぁそれはそうと、折角来てくれたのですから、どうぞ色々見ていって下さい」


 シャドウがニッコリと営業スマイルを浮かべ俺に言ってきたのだが……正直本来の目的はここで買い物をするためではないのだが――


「これなんていかがです? 羅刹の黒腕という珍しい品で、装備すると強力な剣技を使いこなせるようになるのですよ」


 そんな俺の気持ちもつゆ知らず、シャドウは棚から展示品を持ってきて得々と語りだす……これいつもに比べて本当に楽しそうだな……


 で、これはなんか見た目悪魔の手みたいな、正直装備すると呪われそうなそんな品なのだが……しかし薦めてくれてるしな、俺はその言葉に乗っかる形で応対する。


「それは凄いな、手に装備する小手みたいなものか?」


「はい、あ、ですが今は着けないでくださいね。それ装備した人は誰から構わず斬り殺しちゃうので」


「こえぇよ! 本当に呪われてるんじゃねぇか!」


 俺は思わず吠えるように言った。なんてもんを薦めてくるんだこの男は!


「ではこれはいかがですか? 予言の水晶です。これに魔力を込めるとその人の未来が見えるのです」


「マジで!? それは本当に凄いな……」


「み、未来……私とご主人様の――」

「うちと……ボスの――」


 メリッサとカラーナがうっとりしたような顔でそんな事を呟いてるな。 

 俺との未来がそんなに気になるのか?


「ふふっこれはうちでも自慢の一品なんですよ」


「確かにそれはよく判るが、よく残ってるな。そんな品なら欲しい人が殺到するだろう?」


「そうなんですよね。不思議な話です。一度未来を読むのに寿命の十分の九を失うだけなのですが……」


「それだよ! 間違いなくそれが原因だ! なんだよ十分の九って! 半分でもありえないのにそれ九割寿命持ってかれてるだろ!」


「あぁどうりで、説明も聞かず視た方の未来が自分の死だったわけです」


 犬耳少女が思い出したようにいった。

 ……そりゃそうだ、それだけ寿命を持ってかれたら視えるのは死だけに決まってる。

 ある意味とんでもない詐欺商品だ……てか普通に呪われた水晶だろそれ。


「よ、良かったわ、あぶなかったねん」

「本当ですね……」


 ……ふたりともさては試そうとしてたな。


「う~ん、気に入りませんか? それでは……」


「待て待て! ストップストップ! 違う俺は別にここに買い物に来たわけじゃないんだ!」


 いい加減キリがないので、俺は右手を突き出し待てを掛けるように言った。

 するとシャドウが疑問符を浮かべたような表情で振り返り。


「おや? 違ったのですか? では取引で? ですが申し訳ありません。そちらは前も話した通りで……」


「いや、それも判ってる。俺が今日尋ねた用件はふたつ。その内の一つは……ある情報を知りたいからだ」


 俺は眉根を寄せ、真面目な顔でシャドウに告げる。

 すると黒に包まれた彼は、ふむ、と顎を擦り何かを期待するような微笑を浮かべた。


「なるほど、どうやら楽しそうな話が聞けそうですね。いいでしょう、ではどうぞ奥へ――」


 そして俺達はシャドウに促されるまま、奥の部屋へと向かった。





 通されたのは小さなダイニングのような場所で、木製のテーブルに革製のソファが置かれている以外は特に何も配置されていないシンプルな空間であった。


 ただシャドウが黒一色で身を固めているのに対し、部屋は床から天井まで一面白であり、そのせいか随分と明るく感じられる。


 俺達はシャドウに部屋に通され、ソファに薦められるがまま腰を掛けた。

 固くはなく、かといって沈みすぎることもなく、程よく弾力のある座り心地の良いソファである。

 素人目だが値段もそれなりにしそうだ。


「どうぞ――」


 俺達が腰を掛けた直後、あのコアンという少女がトレイに中々洒落たポットとティーカップを乗せてやってきた。

 暗殺ギルドに所属していたと聞いていたが、一つ一つの所作は丁重かつ淑やかで、洗練されたメイドのような雰囲気をも思わせる。


 そして各人の前に皿とカップを配置し、香りの良い紅茶を注いだ後、深々とお辞儀をし奥に引っ込む。

 その途中、ありがとうコアン、とシャドウが声をかけると犬耳が嬉しそうにピコピコと揺れていた。


 ……ちょっと可愛らしいと思う。


「お、これうまいなぁ。香りもえぇし」


 カラーナは紅茶の準備が整ったと同時に、遠慮なくそれを口にする。

 らしいといえばらしいかもだが、メリッサが、

「か、カラーナせめて頂きますぐらい」

と彼女へ窘めるようにいう。


「別に知らん仲やないしえぇやろ?」


 するとカラーナは一旦カップを置いてから軽い調子でシャドウに尋ねた。

 にっこりとシャドウが微笑みを返し応える。


「えぇ勿論。どうぞ皆さんも遠慮なさらず」


 シャドウに薦められるがまま俺とメリッサも紅茶を啜る。

 確かに味はいいな。後味もいいのですっきりするし落ち着く香りでもある。重要な話の前には丁度いいかんじだ。


「さて、じゃあ早速で悪いんだが」


 俺は喉も潤ったことで話を切り出すことにする。


「はい、私の分かる範囲であればお答えしますよ」


 シャドウはそれがどんな内容なのか随分と期待している様子だ。

 なので俺はまずは知りたい情報の事を彼に尋ねたが――


「……ふむ、なるほど。いやこれはまた随分と意外な事を知りたがりますね」


 シャドウは顎に指を添え、唸るように言った。


「実はうちも、なんでボスがそんなんを知りたがるのか見当がつかんねん」

「ご主人様、じ、実は私も……」


 カラーナが肩を竦め、メリッサはおずおずといった感じに口にする。

 確かにふたりにも詳しい説明はしてないからな。


「そうですね私もそれは気になるところですが」


 ふむ、まぁ何も言わずそれを教えてくれと言っても怪訝に思うだけか。

 だったら、と俺は口を開き。


「俺がそれを知りたいのはボンゴル商会を潰すためだ」


 はっきりとそう断言した。

 これに関しては既に知ってるカラーナとメリッサは驚きはしなかったが、シャドウは興味深そうに、ほう、と目を丸くさせる。


「これはまた……随分と大胆な発言を――」


 そういってシャドウは紅茶を一口啜る。俺はその顔を見つめ様子を探る。

 だが……その顔はどこか期待してるような色が滲んでおり、それで俺は予想通りシャドウとボンゴル商会に繋がりがないことを確信した。


 この流れで問題があるとしたら、シャドウとボンゴル商会に何かしらの付き合いがあった場合――


 だがそれは俺の中ではほぼありえないという考えがあった。

 理由は単純でシャドウの今の裏取引だ。


 最初こそそんな取引に参加するのは、盗品とかやましい物を持つものばかりと思っていたが、この領地の現状を知り考えは変わった。

 実際俺もここで長く活動するとしたらシャドウを頼るだろう。

 そうでないと銀行に知られ預金という形でお金を徴収されるからな。


 そしてボンゴルは銀行とは深い付き合いをしているらしいしな。

 更にただでさえ銀行の事があるというのに、多くの冒険者などはわざわざ安く買い叩かれるというボンゴル商会に物を売りにはいかないだろ――そう考えればシャドウは、ボンゴルに疎まれている可能性はあれど親密な付き合いではないと予想することは出来るってわけだ。


 そしてシャドウの様相から間違いなく付き合いはないと判断した俺は、とりあえず彼の次の言葉を待つ。


「しかし何故にボンゴル商会を?」


 だよな。やはりそれは確認してくるだろう。なので俺はこれまでの経緯をシャドウに説明した。


「ほう――ドワンの店がそんな事に……」


 俺がひと通り話し終えると、神妙な面持ちでシャドウが呟くようにいう。

 その口ぶりが俺は気になりシャドウに問う。


「もしかしてシャドウはドワンの事を知っているのか?」


「えぇ。ドワンには私も色々と手を貸していましたからね。特に銀行対策をメインにね――」


 その言葉でメリッサが、あ! と声を上げ。


「どうりで……それでしたらあの安さも納得が出来ます」


 メリッサの言葉で俺も得心がいった。ドワンが他よりも質の良い品を安く提供できたのも、シャドウの協力があったからって事か。


「それにしても、確かにボンゴルの連中がドワンの店に目をつけて悪い噂を流したり、営業を妨害するような真似をしているような話は耳にしてましたが、早くもそんな強引な手で来るとはね。相変わらず無茶な連中だ」


 シャドウが呆れたように口にする。

 

「あぁだが知っているなら話が早い。俺はドワンの店を……いやそれは確かに理由の一つだが正直に言おう、俺自信がここ最近色々な事にむかついてならないからあの商会を潰したいんだ。そうすれば銀行も何かしらのダメージを受けるんじゃないかと思ってな」


 俺の話に更にシャドウは驚いたようだ。

 何故銀行を? とも訊いてきたのでおれはもうこれまでの事を洗いざらい話した。


「あ~っはっはっは、いや、こ、これは、はは……」


「お、おい何がおかしいんだ!」


「あぁいや、これは失礼……ですがくくっ、いや本当に貴方の話は聞いていると飽きない」


 シャドウは腹を抱えだしそうな勢いで、本当に愉快そうに笑う。

 くっ! こっちは結構苦労してるというのに……


「シャドウ笑いすぎやで」


「はは、いやすみません。ただ、本当に貴方はとんだお人好しだ。こういっては失礼かもしれませんが頭に馬鹿が付くほどですよ? 全くメリッサさんも大変ですね」


「え!? いや私は……」

「あぁ~いやそれにはうちも同意するわ。ほんま大変やで、ボスは稼いでも稼いでも何故かすぐに金が消えんねん」


「な!?」


「いや全く。話だけ聞いているとわずか数日の期間でメリッサさんを購入できるぐらいは余裕で稼いでいる筈なのに、全く何かに取り憑かれているのでは? と思える程ですな」


「くそ! 悪かったな」


「まぁまぁ私はいい意味で言ってるつもりなのでご気分を害されないよう――さて、ですが大体の話はわかりましたが、肝心のその情報についてですが……少々お待ちください」


 そういってシャドウが少しの間席を立ち、そして何か用紙を手に持ち戻ってきたが――


「貴方の望む情報は全てこれに記載があります。よければどうぞ」


「うん? あ、いいのか?」

「えぇ構いませんよこれぐらい。私としても更に貴方に興味を持てましたしね。ふふっ」


 俺はわりとあっさり手渡されたそれに拍子抜けしそうな思いではあったが、渡された用紙に目を通す。

 ……うんばっちりだ! これなら――


「ただやはりわかりませんね。一体それでどうボンゴル商会を潰すというのですか?」

 

 シャドウはまだ納得がいっていないといった感じか。

 そして両脇のふたりも興味津々といった目で、俺の答えを期待してるようだ。


 そして――実際シャドウの言うとおりこれだけでは意味は無い。

 寧ろ彼にはもうひとつ大事な頼みがある。

 だから俺は真剣な目でシャドウを見据え。


「実はシャドウ、これも重要なのだが更に大事な頼みがあんたにある」


「うん? 更にですか? ふむ……それは一体?」


「それはな――俺に一億ゴルド貸して欲しいんだ!」




 



中々の大金ですね


さて次回は!

次の更新は本日16時予定


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