第69.5話 イーストアーツの伯爵
※注意
読む人によっては胸糞が悪くなる話です
名前だけ出てきていた伯爵とあのザックが登場する話です
人が無意味に殺されます女も幼子も死にますそういうのが苦手な方は注意して下さい
この話を読まなくても進行上はそこまで問題になりません
「おいおい全く手応えなさすぎだろてめぇら」
「あ、ぐぅうう、あぁあぁあ――」
「い、いや! いや~~~~!」
右足を切り落とされ、地面で呻く男を見下ろしながら、ザックが溜め息を吐くようにいった。
彼の横ではレザーアーマーを着衣し、槍を構えた若い女が悲鳴をあげていた。
その声を耳にしたザックの眼は既に男への興味を失っている。
だがアイアンメイルに身を包まれたその男は、手持ちのバトルアックスを杖代わりに何とか立ち上がり、ザックに野獣の如き瞳を向ける。
「お、お前は逃げろ! こいつは俺が!」
「うっせぇんだよ! 雑魚が!」
命がけで食い止める! その決意をザックは魂ごと断ち切った。
頭蓋から股ぐらまで大剣が侵食し、そして男の身体は左右に分かれ地を舐める。
大量の出血と共に零れた臓物が、地面とザックの靴を汚した。
「チッ! 汚れちまっただろうが糞が!」
死者に唾を吐きかけ、更に罵る。
そして身体を女に向けた。震える手で槍を必死に握りしめ、ザックの命を狙っている。
「こ、この悪魔! あんた達のせいで……あんたの!」
「……くくっ、いいねぇ、その表情。すげぇそそられるわ――」
女にとって不幸だったのは。彼女の容姿が平均より高い位置にあったこと。
更にその体付きも……悪くはなかったことか――
今のザックに勝負を楽しもうなんて気はなかった。
ただ女をやりたかった。
ザックの刃が一瞬にして槍を砕き、そして鎧と一緒に下着さえも切り裂き、女の表情が恥辱で歪む。
「い、いや……」
右手で胸の前を隠し、左手で下を隠し、そして震える。
その所作の一つ一つが、ザックの中の野生を更に掻き立てる。
だが、やはり女にとって不幸だったのは――別の男が近づいてきたこと。
「ザック~、お楽しみな所悪いんだけど。集まれだってさ」
「……はぁ!? なんだそりゃ! おいジュウザ! 反逆者は好きにしていいって話だったろうが!」
「そうはいってもねぇ。僕も命令を伝えにきただけだし」
ジュウザという、そのどこか人を舐めたような口ぶりの男を睨めつけながら、ザックは一つ舌打ちする。
「いくらなんでも五分ぐらい時間あるんだろうが。それで――」
「いいのかな~? 伯爵様に逆らうなんて?」
「……くそ! むかつくな! おいてめぇ! 運がよかったな……」
え? と女の表情が変わる。辱めから開放される……そんな安堵に満ちた表情を一瞬浮かべるが――
「ぐふぇ!」
女の細首をザックの豪腕が捕らえる。そして万力のようにギリギリと締め付け。
「てめぇはすぐに、ぶっ殺してやるよ!」
猛る声そして、ブチン! という肉の繊維が千切れる音と共に、ポロリと女の頭が地面に落ち転がった。
それをザックは容赦なく右足で踏みつぶす。女の顔は見るも無残な姿に変わり果てた。
「あ~あ。結構綺麗な子だったのに勿体ない」
「ふん! 俺がやりたいときにやれない女なんざ生きてる価値もねぇんだよ!」
「うわ! 酷い! 女の敵!」
ジュウザは口ではそんな事を言っていても、顔はどこか楽しそうであり、女の死をこれっぽっちも悼まっていない。
「ふん、てめぇだって女相手に好き勝手してんだろうが。この間だって、裏切った盗賊団の女を更に騙したんだろ? ひでぇ男だぜ」
「え~でも僕はほら。騙す直前までは幸せにしてるつもりだし~」
「チッ、よく言うぜ。おい! セイラ! そこのゴミはてめぇでしっかり片付けとけ!」
ザックはすぐ後ろで控えていたメイド姿の奴隷を怒鳴りあげる。
すると彼女は、承知致しました、と抑揚のない声で応え、言われたとおりに動き始める。
「うわ~折角の可愛いメイド奴隷をこき使ってひっどいな~」
「うっせぇ! いいからさっさといくぞ!」
どこか飄々としたジュウザを尻目に声を張り上げ、そして二人は視線の先に見える大きな屋敷へと戻っていった。
「ふたりとも聞いてよ~私の探しものが遂にみつかったのさ~~」
「……探しものですかい?」
両手を祈るように組み、嬉々とした表情を浮かべるチェリオ伯爵にザックが問い返した。
「そうなんだよ! 私にとって大事な大事な存在。それをようやく取り戻せる日が来たんだ!」
「それって前にいっていた女の子の事かな?」
「正解だよジュウザ~。今日やってきたふたりが教えてくれてね~ただね。可哀想な事にわけのわからない男と一緒らしいのさ。それを聞いて、いてもたってもいられなくてね。ついふたりを殺しちゃったよ~」
「殺したのかよ……」
「伯爵らしいや~」
呆れたように呟くザックと愉快そうに笑うジュウザ。
「まぁそういうわけでだ。チャリオ伯爵はこれからセントラルアーツに赴く。我々もそれに付き従う形だ」
「……ガイドか」
ザックが一瞥をくれた相手は、細身で濃緑色のローブに身を包まれた男。
爬虫類のような目をザックとジュウザに交互に向けている。
「彼の言うとおりだよ。これから直ぐに出発しよう! 私の大事な人が待っているからね!」
チャリオはどこか少年を思わせるような瞳をキラキラさせながら、決意の声を上げる。
「セントラルアーツか……まぁそれはいいとして、ここを離れるのは問題ないのか?」
「大丈夫、許可は貰ってるさ~今日ザックが潰してくれた程度の相手なら回してもらった者達で十分だしね」
「伯爵様はこうと決めたら早いからね~」
「そうか、まぁそれなら俺も文句はないな。セントラルアーツではやり残した事もあったしなぁ……途中でここに戻ることになったから無理だったがな……」
「おいおいザック、今回の目的はあくまで伯爵様に同行だからね~」
「ちっ! わ~ってるよ」
「ふふっ、楽しみだな~さてそれじゃあいこうか~」
「しっかし相変わらずひでぇ街並みだな」
屋敷から出て、暫く歩いたところでザックが目を眇めいう。
その後ろからは無言でセイラが付いてきていた。
「ザック~かりにもこの街を治める伯爵様の前でそれは失礼じゃない? まぁ否定はしないけど」
そういってジュウザもケラケラと笑う。
彼らの言うとおり、確かに街は酷い有様であった。
活気など一切なく、道端には骨と皮だけになった骸が放置されているのが見て取れる。
周囲の家屋も住んでいるのか住んでいないのかがわからないほどボロボロに朽ち果てた物が多く、道端に座り込んでいる人々の目からは大凡光が失われてしまっていた。
「でもさぁ、これぐらい静かな方が過ごしやすいよね~」
このイーストアーツを任されし伯爵は、現状を嘆くどころか、寧ろ楽しそうに微笑み、声を上げた。
「まぁ静かちゅうか、辛気臭ぇって感じだけどな」
「口が過ぎるのでないかな? ザック」
「いっとくがガイドてめぇもかなり辛気臭いぞ」
「……全く失礼な男だな。このような男と組まないといけないとは」
「はぁ? 組む! おいおいなんだそりゃ!」
チャリオ伯爵の横を歩くガイドの言葉にザックが目を剥いて叫んだ。
「ザック私が知らないとでも? あなたどうやら一度負けたらしいですねぇ」
「な!?」
「セントラルアーツでのやり残したっていうのも多分その事だよね~」
くすくすと愉快そうにジュウザが口にすると、ザックがキッ! と睨めつけ。
「てめぇかジュウザ? くそ! 言っておくがあれは油断していただけだ! 次は負けねぇ!」
「はいはいっと」
「まぁ私と組むんですから。今度があるなら間違いはないと思いますがね。まぁ出会うとは限りませんが」
「ちっ! 寧ろ意地でも探しだしてやりたいぐらいだけ――」
「お、お願い致します! お話を聞いてくださいチャリオ伯爵!」
その時、横からふたつの影がチャリオ達の行く手を阻むように飛び出し、そして地面に跪き平伏した。
ふたりはどうやら夫婦のようで、男は浅黒い肌で角ばった顔をしており、女は胸に赤ん坊を抱きかかえ男の後ろで媚びるような目を向けている。
男女ともに頬は痩せこけ、着ているものもボロとしかいえないようなものだ。
女に関しては元の容姿は良いのだろうが、身体は痩せこけ、ボロの隙間から飛び出させ赤ん坊を何とか支える腕は、枯れ枝のように細い。
そしてその手の中に存在する小さな命も、鳴き声もあげずただただ静寂を保っている。
寝ているのではないのだろう。もう泣きあげる体力もないのだ。
「あん? なんだてめぇらは! 邪魔だ! ぶっころ――」
しかしザックは汚物でも目にしたような顔で怒鳴りあげ、この哀れな夫婦を追い払おうとするが――
「まぁまぁザック。彼らもこの町で暮らす大事な民だ。無下にしてはいけないですよ。それに今日の私は機嫌がいい。お話、聞いてあげますよ?」
何の気まぐれか、伯爵は優しく微笑みながらザックを手で制し、夫婦達に目を向ける。
その姿は一見すると人の良さそうな男にみえた。
「あ、ありがとうございます!」
男は頭をペコペコと何度も下げ、そして伯爵を見上げた。
自分とは全く違う、高級そうな布地で仕立てられた赤地のエンペラーコートに身を包まれしその姿も、若々しい肌と首筋まで伸ばされた豊かな金糸のような髪も、全てが整えられており、彼らにとってはまるで別次元に存在する人間のように思えたことだろう。
あまりに恐れ多く……そして畏怖すべき存在――だが、それでも男は勇気を出して申し立てる。
「お、お願いでございます! な、何卒我らにお恵みを……見ての通りまだ幼い赤子を世話しながらも、私も妻もずっとろくな食事にありつけておりません。妻は栄養不足が祟り、我が子に乳すら与えられずにおります。ですからどうか……お恵みを、施しを――」
男は何度も何度も頭を下げ、心から懇願した。目に涙さえも浮かべ、愛する妻と我が子の為、恥も外聞もなく願い続けた。
今靴を舐めろと言われたなら、きっとこの男も妻ですら、ペロペロと躊躇うことなく、舐めたことだろう。
それぐらい彼らは必死なのである。
すると、ふむ、とチャリオは顎に指を添え一考した後にっこりと微笑み。
「それならば私がいいことを教えてあげましょう」
チャリオ伯爵は人差し指を立て、何かを思いついた子供のような無邪気な様相で――それを告げた。
「食べるものがないなら自分たちの腕を食べればいい。そうすれば腹は満たされるし、栄養もきっと得られると思うよ」
「……は?」
驚愕に目を見開き、男はその短い一言を発した。
だがその一言は色々な思いの混じった一言だったであろう。
だが――
「おや? 腕は気に入らないかな? では脚でもいいし、なんなら臓物でもいいだろ。とにかく自分の身体を食べて飢えをしのげばそれで――」
「ふ! ふざけるなよあんた! こっちは、こっちは真剣に頼んでるんだ! それをそんな――」
男は思わず跪いた態勢から伯爵に跳びかかり、そのコートの裾を掴んだ。
だが、その瞬間――銀閃が男の口元をなぞり、その勢いで下顎から上が宙を舞う。
「これから大事な人に会いに行くというのに汚らわしい手で触れおって! ゴミが!」
鞘に長剣を収めながら、伯爵は先程とは打って変わった冷淡な瞳で、物言わなくなった骸を見下ろした。
そして汚らわしいと言わんばかりに、脱いだコートを無造作に放り捨てる。
「い、いやあああぁああ! 貴方ぁああ! 貴方ぁああぁああ!」
「チャリオ伯爵、どうぞ代わりのお召し物です」
すると女の慟哭など気にもとめず、ガイドがバッグから取り出した新しいコートにチャリオの袖を通させた。
どうやらそれもマジックバッグのようだ。今は彼が持ち役を担ってるらしい。
「うん、ありがとうね~。う~んでもこっちはつい殺しちゃったなぁ。さてそっちの方の願いはどうしたらいいかなぁ」
チャリオは新しいコートに着替えた後、再び、にこにことした笑みを浮かべながら、そんな事をいった。
まるで誰かにクイズの答えを求める、無邪気な少年のような目で。
「だったらいい手がありますぜ。しかも全てが円満に解決する」
「へぇ~それはなんだいザック?」
「それはなぁ、先ず――」
言ってザックは、未だ悲しみにくれる女の腕から赤子をひょいと持ち上げた。
「い、いやあああぁ! これ以上何する気なのよおおお! 私の、私の子供をかえ――」
だが女が全てを告げるより先にザックは赤子を地面に思いっきり叩きつけ、更に問答無用で踏みつけた。
幼い赤子の肉体が、ザックの脚力に耐えられるわけもなく、中の物も全てぶちまけ、地面の染みへと変わる。
「これでミンチ肉が出来上がりだ。栄養確保出来んだろ?」
「い、いやあぁあああぁ! ああぁあああぁ! こんなの! こんなのおぉ! 人でなし! 悪魔! あんた達ぐむぅ!」
「うるせぇんだよ糞女!」
ザックはそう声を上げ女の口を手で塞ぎ、もう片方の腕でボロを剥ぎとった。
その下には一切の衣を身につけておらず。
やせ細った裸体のみが顕になる。
「伯爵様よぉ。このふたつの塊も乳が出ないんなら意味が無いとおもわねぇか?」
するとチャリオは、う~ん、と唸った後、そうかもね、と楽しそうに微笑んだ。
「だろ? だからこんな邪魔クセェもんはよ!」
「ヴぅぅううぅうむぅううぅうぐうぅうう――」
女の目に涙。そしてザックの手は彼女の膨らんだ脂肪を締め付け、そして一気に――引き千切った。
「ぐふうぉおおぉお!」
涙が紅く染まり、口からガボガボと鮮血が溢れ出る。
ガッツは手を外し女のその小さな口に手にした肉塊を押し込んだ。
そして女の様子など気にもとめず、もう片方もその握力で剥がし、べチャリと夫だった物に向けて投げ捨てる。
「ほらこれで餌の問題は解決しただろ?」
「おお! 素晴らしい! いやはやこれでこの夫も食料にありつけるね」
「う~んですが伯爵。残念ながらこの男には既に食べられる口がありません」
「お?」
「それにこの女は乳を上げたくても既にその乳がありませんし、例えあげれたとしても上げるべく赤子はもうおりません」
ガイドがチャリオに向けそう告げると、パンッ! と伯爵は額を手で打ち。
「いやこれは一本とられたな~そうかなるほどね~つまりこれの答えは――」
その視線を、物言わぬ骸と化した哀れな家族に投げ捨てチャリオは言う。
「所詮ごみはごみって事だね。使い道が見いだせない役に立たないゴミクズってね。あはっ!」
無邪気に微笑み、高らかに笑い声を上げる。
「全く伯爵ってばお茶目だよね~」
「まぁ間違ってねぇよ。俺がやれない女はただの汚物だ」
「うん! でもほら街を出る前にゴミは片付いたし。これで心置きなく出れるよね~う~んやっぱり平和って大事だよね~」
大きく伸びをし、何かとても良いことをしたような、そんな調子で伯爵は明るく言い放った。
「さて、さぁ待っててよメリッサ~この私が今向かえにいくからね~」
その言葉にザックの眉が跳ねる。
「ちょっと待ってくれよ伯爵。今なんていったんだ?」
「うん? メリッサだよ。私の愛しの人さ。絶対に手に入れないとね……」
一瞬チャリオのその瞳がジメッと淀む。
しかしザックはそれよりも、もっと別なことに興奮し、喜色を貼り付けていた。
「どうやら俺の目的も達成できそうだな――」
そしてチャリオがそれじゃあ出発するとしよう、と声をかけると、その言葉に三人は頷き、満面の笑みを浮かべるチャリオ伯爵に従い、街を出てセントラルアーツに向けて旅だった――




