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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第69話 アンジェとカラーナ

「一体何を考えているのだお前たちはーーーー!」


 アンジェの怒鳴り声が食堂に広がった。

 あの後、当然急いであの場を離れようとした俺達だったが、アンジェの逆鱗に色々触れてしまったようで、ただ風呂を上がって終わりというわけにはいかなかった。


 で、結局アンジェに捕まった俺達は、そのまま食堂に連行。

 そして何故かはよく判らないが三人揃って地べたに正座をさせられている。

 なんだか子供が親に叱られているようなそんな気分だ。


「あ、あのお食事は?」

「後からでお願いしたい!」


 キッ! と瞳を尖らすアンジェの言葉に、ショタ系シェフもすごすごと戻っていった。

 うぅ脚が痺れそうだ……


 そしてそれから暫く男と女とはについてや、女性としての節度やら、男の甲斐性に至るまで、アンジェにお説教を喰らい続け――


「だ、だいたい貴様等は女湯に男と、な、何をしていたのだ! 全くけしからん! 不埒だ! 不潔だ! いいか! お風呂というのはもっと神聖な――」


「あ~~~~! ガミガミガミガミガミガミガミ! うっさいうっさいうっさいわぁあぁ! ほんまーーーーー!」

 

 カラーナがキレた!?


「大体なんやの一体! よく考えたらなんでうちらがあんたなんかに説教されなあかんねん! おっかしいやろ! 別に何の迷惑もかけてないやろが!」


 カラーナが立ち上がり、アンジェに言い返す。

 なにか妙な導火線に火が点いたぞ!


「カラーナ少し落ち着かれたほうが……」

「これが落ち着けるかい! だいたいなんやのこいつ! うちこんな女よう知らへんで! なんでこんな偉そうなん? ごっつぅ鼻につくわ!」


「な!? 誰が偉そうにしとるというのだ!」


「それや! そのしゃべり方や! なんや! なんで上からやねん!」


「だ、誰が上からだ! 私は元からこの口調だ! 貴様に文句を言われる筋合いじゃない!」


「何が貴様やねん! なんであんたに貴様いわれなあかんねん! それがムカつくいうとるんや!」


「くっ! 言わせておけば! 第一貴様だって私のことをあんたなどと失礼ではないか!」


「うっさいぼけぇ! うちは初対面はみんなあんたや! それが普通やねん! だいたいうちのあんたは温かみがあんねん! あんたの貴様みたいな冷たい言い方とちゃうねん!」


「か、カラーナ。ちょっとソレは無理が……」

「ボスはだまっときぃい!」


「は、はい……」

「ご、ご主人様……」

 

 すまんメリッサ。いやなんかもうマジで怖いです。


「全く話にならん! ヒット! なんなのだこのがさつな女は!」


「はぁ? それはわるうございましたなぁ。あんたみたいなご立派な騎士様とは、うちは育ちも教養もちゃいますから。まぁおかげさまで、小さな事でガミガミうるさいヒステリックな女にはならんですんだんやけどな!」


「だ、誰がヒステリックだ!」


 アンジェが右手を振りぬいて叫ぶ。やばい一向に収まりそうにない。


「ヒステリックやろが! こんなお風呂ぐらいで怒鳴り散らすなんてな! 心狭いねんほんま!」


「お風呂ぐらいだと! き、貴様浴場をなんだと思っているのだ! あの場はお前たち専用の風呂ではない! ここの宿泊客が利用するためのものだ!」


「んなの知っとるわボケナス! でもなぁあの時間は本来誰も入ってこないねん! 宿泊客専用の時間やし、女の客かて、うちとメリッサしかおらんかったのよ! それをあんたが突然やってきたんや! 悪いのはあんたやろが!」


「宿泊してる私がお風呂を使って何が悪いというのだーーーーーー!」


 更にキレた! 当然か!


「カ、カラーナ流石にそれは無茶を言いすぎですよ。アンジェも同じ宿に泊まってるわけですし……」


「そ、そうだぞ。俺もそう思う」

 

 ……てか俺、情けなくないかこれ?


「む、むぅ……」


「ふ、ふむ、メリッサは流石によく判ってくれている。だが、そこまで判ってるならなぜあのような、は、破廉恥な真似を!」


「いや、それは本当にすまない事をした……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 俺とメリッサはその件に関しては素直に謝った。

 それに関しては俺達が間違っているわけだしな……ただカラーナはまだ納得していないようだが。


「ふん。だ、だいたいちょっと裸みられたぐらいで叫びすぎやねん」


「な、何がちょっとなものか! だ、男性に裸を見られたのだぞ! わ、私の、は……」


 アンジェの顔が思い出したように真っ赤になる。

 俺の脳裏にも記憶が……ほんとご馳走様です。


「ふん、ほんま裸を見られたぐらいで何かまととぶっとんねん、オ・バ・ハ・ン」


 はぁ!? とアンジェが声を張り上げた。

 そ、相当気に入らなかったようだが――


「だ、誰がおばさんだ! 私はまだ二〇だ!」


「二〇? なんやねん二桁やん。やっぱおばはんや、おばはんが裸見られたぐらいできゃーきゃーきゃーきゃーほんまキモいわ」


「な、なな! だ、だったら貴様は何歳だというのだ!」


「うちは一八や! ビッチのビッチやで!」


 うんカラーナ。何かあっかんべぇしながら得意気にいっているが、一八でも二桁なんだぞ? そしてピとビの違いは大きいぞ?


「そんなの二歳しか違わんではないか!」


「あほか! その二歳が大きいんやないか! みてみぃ、もうあんたの肌もガビガビやないか!」


「え! 嘘!」


 アンジェ……頬に両手をやって気にしてたのか? 大丈夫だぞ。十分に綺麗だ!


「ふん! 大体初めて男に裸みられたわけでもないんやろ? 大袈裟やねん! ほんま――」


「…………」


 ……アンジェが顔を伏せて黙ってしまったぞ……


「な、なんやのん。急におとなしゅうなって、う、薄気味悪いで!」


「そ、そのとおりだ……」


「はい?」


「だから! そのとおりだと言っている! わ、私は! 私にとってヒットは、い、色々な初めてを捧げた男なのだ!」


 その言い方やめて~~! 何か誤解されるから~~!


「え~なに~ヒットがその女騎士さんの初めてを奪ったってぇ~?」


 ややこしいのがやってきたよ! いいからカウンターで寝てろよあんたは!


「……へ、へぇ、そ、そうなんや。なんやしっかりボスも性欲あるんや、ふ~ん。そうなんや――」


「いや! まてカラーナ! 何か誤解してるぞ!」


「何が誤解や! ボスのアホちん! うちが裸でベッドに潜り込んでも、さっぱり手も出してこなかったやないか! それなのになんでこの女はいいねん! 最低やーーーー!」


「え? 裸でベッドって……えええぇええぇえええ!」


 メリッサが驚いている! やばい収拾がつかないぞこれーーーー!


「は、裸でだ、と……」


「い、いや待てアンジェ。これは違、いや違わないんだが、とりあえず落ち着こう、な?」


 てかなんでアンジェにまで気を使ってんだよ俺……うん、怖いからだな。

 何故かはよくわからないが、肩を震わせて怒ってるような……


「ヒット貴様はこの宿で一体何をしておるのだぁあぁああぁああ!」


「いや、だから!」


「うちもういやや~こんなおばはんに先こされるなんてボスのあほんだら! スカタン!」


「ご主人様のベッドに、は、裸で、か、カラーナが……」


「おお~いい感じで修羅場だね~」


 アニー楽しんでるんじゃない! てか何だよこの状況! どうすんだよ!


「飯だーーーーーーーーー!」


「……へ?」


「うん、だから、夕食冷めちゃうしね。折角作ったのにさ。いい加減大人しくしてくれないと……捌くぞ?」


「どうもすみませんでしたーーーーーー!」


 その場の全員がほぼ同時に頭を下げて声を揃えて謝罪した……

 てか見た目ショタなのに、こ、こえぇえぇえ!






◇◆◇


「ふむ、しかしここの料理は美味だな。しかもどこか温かみのある味だ」


「いや、てかなんであんたが一緒の席でたべとん?」


「むぅ? 良いではないか。食事は大勢で食べたほうが美味しいであろう」


 アンジェの発したその言葉に、俺は思わずくすりと微笑んでしまう。

 あれから結局アンジェも交えて俺達は一緒に食事を摂っているわけだが――


「むぅヒット、何がおかしいのだ?」


「あぁいやごめん。ただ最初はカラーナもそういって同じ席で食事を摂りだしたなって思いだしてな」


「はぁ? じゃあうちはこの女騎士と一緒やいうことかい? かなわんわほんま」


「な、なんだそんな言い方はないだろ!」


「そやかて、初めてが手を握ると裸を見られたことなんて、そんな紛らわしい事いう騎士さん勘弁してほしいわ」

 

 うん、まぁ一応さっきの件はアンジェと俺とメリッサの説明で色々誤解はとけた形だけどな。


「そ、そっちが勝手に間違ったのだろう。それに私からしてみれば、その、じゅ、重要な……」


 アンジェが横目でチラリと俺を見てくる。 

 みょ、妙に照れくさいな。

 と、まぁそれはそうと。


「そういえばアンジェはどうしてここに?」


「え?」


「あぁ確かにそやな。ここは騎士様なんかが泊まるような部屋ちゃうで。騎士様いうたらあれやろ? ホテルとか泊まるんやろ?」


 カラーナが少し皮肉っぽくいう。

 たださっき程の嫌悪感は感じない。改めて言葉を交わしたことでアンジェに対する警戒心は解けたようだな。


 まぁ彼女の性格はいいしな。少なくともこの領地のクソみたいな貴族連中とは違う。


「ホテルなんてそんな高級なところに泊まれるわけがなかろう。私だって色々あって路銀は心もとない。そこへここの宿の事を教えてもらってな。だが予想以上にいい宿で感謝している」


「へぇ~なんや結構わかっとるやないか。そうやねんここはいい宿やねん。飯もうまいしな!」


 カラーナは更に距離を縮めているし、アンジェも笑顔で接してるな。

 出会いは最悪だったが、カラーナもからっとした性格だし、どこか共通点があればすぐ仲良くなれてしまうのだろう。


 まぁただ俺が知りたかったのは――


「あの、でもアンジェ。確か王都に戻る予定だったのでは?」

  

 俺の訊きたかったことはメリッサが言ってくれた。

 その答えが気になるところだったが――アンジェは、むぅ、と唸り。


「じ、実は王都には戻れなくなってしまってだな。それでまぁ色々見て回ってるところだ。何せこの領地はかなりひどい状況のようだしな……」


 そういってアンジェが目を伏せる。表情に影が落ちた。


「何かあったのか?」


「……いや、ただ途中立ち寄った村などは本当に苦しそうでな。心が傷んだものだ。だが私ではその場でできる事などなく……力の無さが歯がゆいよ」


 そういう事か。きっと俺が今日アンジェに任され向かったような村が他にもあったのだろう……

 俺だって……いや、よそう。その事を引き摺るのはもうなしだ。


「それで王都に戻れないことと、アンジェがいっていた用事とは関係があったのかな?」


「うん? あぁそうだな。実はその宿を教えて貰ったのもその関係だ。この街である人物にあっていてな」


 ん? つまりアンジェの用事はこの街での事だったというわけか……


「誰やのんそのある人物って?」


 カラーナが興味深そうに訊く。俺もメリッサも気になるところではあるが……


「すまないがそれは約束でな。他言無用となっている。騎士として、誓い言を破るわけにはいかないのだ」


「はぁ? 何やそれ。全く騎士言うのはこれやっからな~」


 カラーナは両手を広げて、辟易とばかりに言う。

 

「す、済まない……」


「いや、別にカラーナも判ってると思うさ。勿論俺もな。そういうことなら詮索はしないし、それはこの宿のルールでもある」


「でも私はまたアンジェとあえて嬉しいです。カラーナとも親しくなれたようですし」


「は、はぁうちが親しく?」


 カラーナが自分を指さして目を丸くさせた。

 するとメリッサがくすくすと笑う。

 

「ま、私はカラーナは嫌いではないがな」


「な、なんや突然! 調子狂うわ~」


 その会話に俺も笑みをこぼし、そしてそれから談笑をし食事も終え、俺達は部屋へと戻ることにしたのだが――




「あ、アンジェはその部屋なのか?」


「うむ、丁度入れ替わりで空いたようでな。というか、ヒット達もこの階なのか?」


 ……そう。アンジェの部屋は三階のシングル部屋。

 それに対し俺達は――


「全く妙な偶然やな。ちなみにうちらはそこのダブル部屋やで」


「ほう、そうなのかダブ――」


 ……アンジェの表情が固まった。もうピキッ! て音が聞こえてきそうなぐらい固まった。


「ダブルの部屋に、と、泊まっているのか?」

「そやな」


「三人で泊まっているのか?」

「そやな」


「……ベッドはどうしてるのだ?」

「そら三人で一緒に寝とるにきまっとるやろ?」


 ごめん、やめてくれカラーナ。アンジェの引き攣った笑顔がなんか怖い……


「何や一体。第一うちもメリッサもボスの奴隷や。一緒の部屋にいても何もおかしくないやろ?」


「ぐむぅ!」


 アンジェが身動ぎながら唸る! いやカラーナの言っていることは間違っていないと思うのだが、何故か罪悪感を感じてしまうぞ!


「……ヒット」

「は、はい!」


「いやなんでボスそんな行儀よく返事するん?」


 お、思わず背筋が伸びてしまうんだよ!


「い、今のは本当か? も、もしかしてそのなんだ、ごにょごにょ……」


「え?」

 

 俺は思わず聞き返してしまった。いや、だって最後の方、何を言っているか聞き取れなかったし。


「だ、だからヒットは! その、こ、この子たちと、だ、だから! ごにょごにょ……」


 肝心なところが聞き取れないぞ!


「あぁそういうことか。勿論や! うちらは毎晩ヒットと愛し合っとるで!」


「ちょ! カラーナ!」

「おま! 何を言ってるんだよ!」


「あ、愛し、あ、ああ、あい、あいあ、あいしいいいいいしいししいししとい、いいいぃうのは、あれか! やはり、ああ、あの、お、おしべーーとーーめーーしべーーがーーーー!」


 ちょ! アンジェが顔真っ赤にさせてショートした!


「ち、違うぞアンジェ! 俺達はあれだ! なんか信じてもらえるかわからないが! と、とにかくやましいことは一切してない!」


「いやボス、うちらとするのやましいことと思っとるん?」


「いまそこ突っ込むのかよ! いや思ってないというか、なんというか!」


「あ、愛し、私とご主人様があ、愛し……」


 メリッサもなんかショートしてる!


「とにかく何もないアンジェ! それは本当だ!」


「……本当か?」


 う!? こ、この下から覗き込むようなそれでいて、愛玩動物がちょっと寂しがってるような、そんな瞳! は、反則だ……


「……まぁ確かにほんまや。まだうちもメリッサもボスとはなにもあらへん。でもなぁ、お風呂の事もあるしなぁ。今夜はボスかて流石になぁ、野生が目覚めると思うで。まぁそういうわけやから」


 言って、カラーナが俺の腕に組み付き、な、なんだ? まるでアンジェに対抗心でも燃やしてるかのようなそんな笑顔で。


「メリッサもはよ部屋戻ろうや。そしてボスと熱い夜を……ふふん。なぁボスぅ」


「いや、なぁっておま! 別に俺は……」


「あ、熱い夜……ご主人様と――」


「メリッサもちょっと落ち着……」


「よっし! 決めた!」


 て、うん? 何かアンジェが急に何か決然とした顔を見せてるが……


「今夜はふたりとも私の部屋にこい!」


「…………は?」


「は? じゃない! さぁ朝まで一緒に語り明かそうじゃないか!」


「ちょま! 何でやん!」

「ほらメリッサも!」

「え? あ、はい」


「はいじゃない! ちょ! ボス何かいうてやってや!」


「……たまにはいいんじゃないか?」


「ボスううううううぅうううう!」


 こうしてメリッサとカラーナはアンジェに連れられ、彼女の部屋に引きずり込まれた。

 俺はそれを笑顔で見送ってから、部屋で装備品を脱ぎ、そしてベッドに横になる。


 ……いや、ぶっちゃけカラーナの言うとおりあの風呂はやばかった――流石にそれで一緒に寝ると煩悩もキャンセルしきれん!


 というわけで、一人になると妙に広く感じるダブルベッドに潜り込み、俺は静かに目を閉じた――

色々な困難を乗り越えた結果!

ヒットは一人で寝るのでした


さて次回はあいつが登場する話になります……


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