第68話 心が滅入った時は取り敢えず風呂
どうやってセントラルアーツの街にまで戻ってきたのか実はよく覚えていない。
無意識にステップキャンセルを多用していたようだし、俺の両手を掴むふたりが心配そうに声を掛けてきていたが、俺は生返事ばかりで話してる内容はさっぱり頭に残っていなかった……
あの後、俺達は大人しく村をでた。攫われた娘達が何かを言っていたようだがそれすら頭に入ってこなかった。
どっちにしろもうあの村に戻ることはないだろう。
……別に感謝されたくてやった事ではなかった。
だが俺のした事が無意味だと言われ、それがずっと心のどこかに痼のように残っている。
四〇〇万ゴルドは盗賊達が攫った女などを売り払って得たお金だったのだろう。
だからこそそれは今危機に瀕している彼女たちの為に使ってあげるべきかもしれない、そんな都合のいいことを思ってしまった。
でも実際はそんなもの言い訳に過ぎず……ただ自分の力ではどうしようもなくて金の力に頼った……それが真実なのだろう。
そしてあの場で何も出来ず見過ごすよりは俺が肩代わりし、一時的でも村を救うことが出来て、感謝でもされれば、それであの場で何も出来なかったという事実からは目を背けられる――
俺はこの村を救ったんだ確かに金は底をついたが、人のためになる事に使ったんだ、だからこそこの金は無駄金ではない!
そう思い込むことが出来ただろう。
だがそんな打算的な思いはあの村長の言葉で粉々に打ち砕かれた――
俺は結局問題の本質から目を背けていただけ……その結果残ったのなんて何もない。
一時的に、そう本当に一時的に彼女たちを延命したにすぎないんだ――
そんな事を考えいていたら急に心にぽっかりと穴があいてしまったような……そんな気分になって虚しさだけを覚えている俺がいた。
「ボス! ほら! 盗賊ギルドについたで! しっかりしいや!」
「え? あぁそうか……」
こんな俺でもカラーナは見捨てたりしないんだな……メリッサもずっと俺の手を握りしめてくれている――でも特にメリッサには、申し訳なさすぎて今の俺はまともに顔をみれない……
「……まさかこんなに早く片がつくとは思ってなかったぜ。まぁ信用してないわけじゃないが、一応証明になるものを見せてもらってもいいか?」
「……ちょ! ボス! ほら、もってきたやろ? 首や! 頭の首!」
首? あぁ、そうか。首か首……?
「俺は首って事か?」
「何いうてんねん! ちょ! これどう使うん!?」
「あ、カラーナ。出したいものを思い浮かべれば出せますよ」
「思いって……あの豚顔を? しゃあないなぁほんま!」
言ってカラーナがテーブルの上に頭を置いた。
あぁ、首ってこれか……
「……確かに情報と合致するな。判ったエービルって屑の事はこっちに任しておけ。しっかり落とし前付けさせてやるから」
「あぁ頼んだで。あんな奴……」
「判った……しかし――」
キルビルが俺を見上げる。
「とりあえずこれが残りの五〇万ゴルドだが……あんた大丈夫か? 今朝あった時となんか違うというか、覇気がないというか……何かあったのかカラーナ?」
「けっ、結構大変な仕事やったしな。気が抜けたんやきっと!」
気が抜けた……? あぁ俺に気を使ってくれてるのかカラーナ……
「ふ~ん。まぁとにかく約束は約束だ。カラーナはあんたに任せるよ。まぁでもなんか困ったことがあったらいつでも相談にきな」
……任せる? 俺なんかが、カラーナを? 本当にいいのか俺なんかで――
「ほら! いくでボス! もうひとつのギルドの方にもいかんと! じゃあなキルビル~」
「おお~しっかり可愛がってもらえよー」
「……ヒット大丈夫にゃりか? 何か元気がないにゃんね?」
……なんやかんやで冒険者ギルドまではきた。
気乗りはしなかったが、素材は売る必要があるしな……
メリッサやカラーナも心配そうにしてるし、動くのは動かないと……それにしても――
「ニャーコはなんかいつも脳天気そうだな。猫だからか?」
「にゃ! なんにゃそれにゃ! 失礼にゃ! 獣人差別にゃん!」
「ふぅ、まぁどうでもいいか……とりあえず素材を出す」
「何いってるにゃ! どうでも良くないにゃ! それに素材をこんなところで出すなにゃ!」
「固いこといわんといてや。別にえぇやろ! 大した量でもないし!」
「お、お願いしますニャーコさん。ご主人様はあまりお体の調子がよくないようで……」
ふたりが俺に気を使ってくれてるようだ。
こんな俺に、勿体ない話だ……
「……むぅ。まぁそれなら仕方ないにゃりね。それにしても大丈夫にゃりか? 無理しないでも明日でもいいにゃん」
「大丈夫だ。それより急いで頼む。あまり調子が良くないのは事実だ……」
「むぅ、受付嬢扱いが……て! これオークにゃん! 随分一杯にゃんね。北の跡地の方にでもいったにゃんか? だとしたら相当無茶にゃりよ?」
「うん? あぁまぁそんなところだな。散歩してたらいた」
「さ、散歩にゃりか!?」
「か、狩りいうたんや狩り! いいからはよしてや!」
「わ、わかったにゃりよ。でもなんか調子狂うにゃん……」
そういってニャーコが査定室に引っ込んだ。
え~と、で、何するんだったかな……駄目だ頭がまわらない、力が出ない――
「ボス! ボス呼んでるで!」
「え?」
「あ、あのニャーコさんが査定終わったと……」
「ん、あぁそうか……」
「はいにゃん。これがオークの素材分で一〇〇〇〇ゴルド×一〇で一〇万ゴルドにゃん。……結構凄いことにゃりが……感激が薄いにゃりね? 本当に大丈夫にゃん?」
「……あぁ問題ない。またくる――」
俺はそういって心配するニャーコをよそにギルドをでた。
勿論カラーナとメリッサは、気にしないで下さい、とか、あの村長が頭おかしいねん、とか色々気を使っていってはくれたが……
ギルドをでた頃にはすっかり陽が落ちて辺りも魔導器の灯りのみが頼りになりつつあった。
なのでとにかく今日はもう宿に戻ることにした。
カウンターでアニーにも、なんか元気が無い、とか言われたがな……そんなに顔に出ているか、まいったな本当に、意気消沈とはこのことを言うのか。
メリッサの件もあるというのに、自分の馬鹿さ加減に――呆れる……
「ボスとりあえず飯くうん? それともお風呂とかどや!」
「そ、そうですね! ご主人様少し気を紛らわしたほうが……」
部屋に戻るなり俺はベッドに倒れこんでしまったが、そんな俺にふたりが声を掛けてきた。
だが、正直そんな気力がわかない。
ふたりには悪いが……
「ごめん。俺今日はもうここから動きたくない……飯と風呂はふたりで適当にすましてしまってくれ――」
自分でもあきれるぐらいの素っ気ない返しだったと思う。
嫌われただろうか?
……でももしかしたら俺なんて嫌われた方がいいのかもしれない――
「なぁ――たら……で」
「えぇ――でも――れは……」
何かひそひそとふたりが話す声も聞こえてきた。
いよいよ愛想をつかされたか?
俺から離れる相談かもしれない……でも彼女たちにとってはもしかしたらその方が――
「ボス! 風呂行くで!」
「お、お風呂ですご主人様!」
「……は? いや、だからそれは――」
「つべこべいわんと! はよ起きいや!」
「ぬぉ!」
な、なんだ! 急に布団を捲られて! む、無理やり――
「ほれほれ! はよ立って! いくで! メリッサそっちもってな!」
「は、はい!」
「いや! おいなんだよ! そんな無理矢理!」
「えぇからはよはよ!」
俺は半ば強制的にふたりに引っ張られ部屋を出る。
ご、強引すぎるぞ!
「アニーこれボスのマジックバッグや! よくみといてや! 風呂かりんで!」
「ん? ……へ~オッケー頑張ってね~」
はぁ? 何だ頑張ってって? 意味が判らん!
で、廊下もぐいぐい押されて……浴場に向かう階段前まで来たが……ふぅ、たく仕方ない――
「判ったよ……俺はここで待ってるから――」
「何いうとんのや! こっからが本番やねん! さぁメリッサ!」
「は! はいカラーナ!」
は? いや本番って……お! おい!
「ちょちょ! ちょっとまてお前ら! こっちは、こっちは女湯だぞ! 間違いだ! 間違い!」
「間違いやない!」
「ま、間違いじゃありませんご主人様!」
は、はぁ?
な、なな! 何を言ってるんだ!? てか階段もぐいぐい押されて――ちょ! 本当に女湯に!
「ほらボスついたで! ほらさっさと脱ぐ脱ぐ!」
「いや! おい! 脱ぐって! まずいだろ! こんなところ他の客に見られたら!」
「大丈夫やねん、ここ他に女の客なんていないねん。なっ! メリッサ?」
「は、はい。いつもふたりで貸切状態でしたので……」
他に、いない? そ、そうかだったら……て!
「いやそれでも駄目だろ! やっぱ出る!」
「ここまで来てなにいうてんねん! ほらメリッサ! もう逃げれんようにした!」
「は、はい! 失礼しますご主人様!」
ば! め、メリッサまで何を言って!
「ば! お前まで! ちょ! パンツまで――」
「往生際がわるいで! ほーーーーれーーーー!」
「な~~~~~~~~!」
そして俺は素っ裸にされ、ふたりに腕を引かれ、風呂場へと連れて行かれ……くっ! とにかく目を!
「……ボスいつまで目をつむっとんねん」
「そ、そんな事言われたってな……」
「ご、ご主人様お体流しますね」
「じゃ、じゃあうちも本腰入れて……」
「お、お体に本腰って……ふぁ! なぁ!」
お、俺の右腕に何かぷにぷにしたものが……
「ど、どや? て、天然の柔らかタオルやで? き、気持ちえぇやろ?」
「き、気持ちっておま! これむ……」
「で、では私はお背中を――」
お背中? て! ふにって! 超柔らかいマシュマロみたいな感触が、背、背中に~~~~!
「ちょ! メリッサまで何してる!」
「め、メリッサだって勇気振り絞ってるんやで! 今も恥ずかしそうにしてるけどな、ボスを元気づけようと必死なんや!」
え?
「お、俺を元気づけ?」
「そ、そや。ボスずっとあの村での事を気にしとるやろ?」
「そ、それでカラーナがそんなのふっとばすような事で、元気にさせようって……」
……ふたりとも俺のためにそんな事を?
「……うち頭良くないからなぁ。こんな事しか思いつかないねん。……でもなボス、確かにボスのやったことはほんまごっつぅううう! アホ! やとは思うわ」
「……」
「でもなぁそれでえぇねん。うちはボスがそんなだからすくわれたねん! メリッサもそや! 今日のあれは村長が馬鹿やねん! 間違いない! あんなん何が問題を先送りやねん! それが重要やねん! 日が伸びればその分考えることができるやろ。それをどうするかはあいつらの問題や! でも……でも少なくともボスはあの場では盗賊に攫われたあの子達を助けたんや」
「そうですよご主人様。それにご主人様がいたから盗賊たちから救いも出せたんです」
「そや! 何もしょげることやない! 大体全員助けようなんていうのが間違いや! いいやないか目の前の困ってる人を助けるだけでも。何もしないで傍観してる男なんかよりずっとボスのほうがかっこえぇで!」
「そうです! ご主人様のおかげで助かった方もたくさんおられます! ご主人様は最高のご主人様ですし、それに、そ、それにわ、私の大事な、愛すべき、ご、ご主人様です!」
「も、勿論うちもボスの事、だ、大好きやで!」
……カラーナ、メリッサ。
ふたりともこんなに俺の事を心配して、無理して恥ずかしいのを我慢して……
ハハッ、全く俺も何をくよくよ考えていたんだか……そうだな。例え他の誰にも理解されなくても――このふたりが判ってくれるなら、それでいいんだ……
「ありがとうメリッサ、カラーナって! ぬぉ! ご、ごめん!」
俺はふたりにお礼を、と思ってつい目を開けたら褐色の、ふ、膨らみが! やばい! と、俺は咄嗟に目を瞑る――が。
「あぁん、もう! 折角目を開けてくれた思うたのに!」
「お、思ったって、おま! だって裸――」
「そんなの決まっとるやろ! ここはお風呂なんやで? うちもメリッサも堂々とその、ボスのみとんねん! だ、だからボスもみてくれてかまへんのや」
「そ、そうですご主人様。わ、私も――」
言ってメリッサも背中から、俺の左腕側に移動してくるのが判った。
ふ、ふにょふにょした感覚が、でも本当にい、いいのか? いや、いいんだよな?
「……じゃ、じゃあ本当に目をあけるぞ?」
「あ、改めて言われたら照れるやろ! はよあけいって!」
……よし! あけよう!
俺はそう決意し瞼を開き、一瞬の眩しさに耐えながら、すっと右を見る。
……そこにはカラーナの肉感的な裸身があった。
健康的な褐色な肌に張りのある肉体。
しかしそれでいて女性らしさを決してそこなっていない躍動的な美!
「そ、そんなごっつぅ見られるとそれはそれでは、恥ずかしいもんやね……」
「ご、ごめん!」
そういいつつも俺は視点を左のメリッサに移す。カラーナとは対照的なふにふにとしていてとても柔らかそうな肢体。水気を帯びて垂れ落ちるブロンドの髪と重なり、きめ細やかな白い肌がより映える。
何より素晴らしいのは、細身にも関わらず存在を主張するふたつの双丘!
ふ、ふたりともタイプは違うが間違いなく美しい。
まさに美の女神の加護を受けたかの如く容姿と肉体を兼ね添えた……て! や、やばい!
俺は思わず顔を背け下を向く。こ、これは、いい加減、や、やばい、俺の息子が――
「ちょ! ボスどうしたん? とつぜ――」
「きゃっ! え、あ、あ、あの、あの――」
カラーナの口が止まり、そしてメリッサの慌てたような声……や、やっぱこれ――
「そ、そやな。こんなところにおるんや。ボスもやっぱ男だったんやな! そ、それは少し安心したわ」
ちょ! おま! もっとこう! 何か言い方が!
「……なぁボス。どうせなら。も、もうここまできたら、う、うちらと――」
て! か、カラーナ! 手! 手! おま、それどこ、ふぉ!
「おお~これは中々立派な浴室ではないか」
……へ?
「え?」
「ひゃ!」
ふ、ふたりのこの声……やっぱ今の何者かの声とは当然、べ、別だよな……て、事は――
「うん? なんだ他にも先客がいたのだな。これは失礼した、て! おお! メリッサではないか! 奇遇であるな。で、そっちにいるのは確か……え~と確か……」
て、おいおいおいおい! ま、まさかこの声!
「いや! てか、なんであんたがおるん!」
「うん? そんなの決まっておるだろ。私もこの宿に今日から宿泊しているのだから……て、なんだもう一人おられ……」
思わず俺が顔を上げると……すでにアンジェの裸体がそこにあった――
カラーナとメリッサの良さを併せ持ったような……蒼髪の美しい、戦女神といって差し支えない、そんなパーフェクトボディが、俺の目に焼き付いたわけだが――
で、今、俺とまぁなんだ。目があってる、わけだなこれが。
「や、やぁアンジェ。ひ、ひさし、ぶり?」
人間わけがわからなくなると、思いもよらない行動に出るもので……俺はつい普通に挨拶をしてしまったわけだが、当然アンジェがそれを受け入れられるはずもなく――その直後アンジェの裸身がみるみるうちに紅く染まり、声が、弾けた――
「きゃっ、きゃぁああぁああぁああぁああぁああぁあ!」
色々悩んだヒットですが……風呂は正義です♪
そして次回……修羅場?
もし気に入って頂けたならこのすぐ下の評価や感想を頂けると作者のEXPが上昇しレベルアップ!裸祭りか!?
+.(・∀・)゜+.゜LVUP♪
 




