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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第61話 盗賊ギルドからの依頼

 俺の眼下に座るこの男は、盗賊ギルドのマスターだった。

 どうりで眼光鋭いわけだが……正直何故俺はここに連れて来られたのか、いや仕事があるとは聞いたが、よもや盗賊ギルド絡みと思うわけもなく、俺はカラーナに目で訴えるが、彼女はぎこちない笑みで返してくるだけだ。


「まぁあんたも驚きだろうがな。カラーナの奴、昨日の夜中やってきて、俺にあんたの事を教えてくれたのさ。だから俺も興味があってな、呼ばしてもらった」


 昨日の? 俺が寝てからのことか! くっ、疲れて泥のように眠ってしまったからカラーナが宿を抜け出てたなんてさっぱり気が付かなかったぜ。


「カラーナ……」


 メリッサも不安そうな目と声でカラーナをみやる。

 俺も気にはなるが。


「ほんまごめんボス。でも別にボスを困らせようと思ってやったんやないのや。話の流れでな――」


「話の流れ?」


 俺が反問すると、キルビルが、あぁ、と代わりに反応し。


「そっからは俺が話すとするか。あんたも豚の胃袋団の事はもう知っているのだろ?」


 ……確かにその名前は昨日食堂できいてはいるがな。


「名前はな。そこまで詳しくは知らないが、オークを従えてるんだろ?」


「それだけ判っていれば十分だ。お前さんのいうとおり連中は、ギルドにも登録せずオークを利用して好き勝手しているような連中だ。当然だが野放しにしてるようじゃ俺達の面子も立たねぇ」


 面子か――仮にも盗賊たちを纏め上げるギルドが、そんな身勝手を許していては示しが付かないってのはまぁわからないでもないが。


「それで、どうして俺達とその件が繋がるんだ? 特に関係もないと思うが?」


「そんなことはねぇさ。単純な話だ、俺がお前さんに連中を潰して欲しい。その事を依頼したかったのさ」


 キルビルは俺をその野獣のような瞳で捉え続けながら、用件を告げてくる。

 しかし盗賊団の話が出てなんとなく予感はしていたが、腑に落ちない点が多い。


「俺達はその盗賊団の名前を知ってるだけだ。それ以外の情報は殆ど無いんだぞ?」


「それなら問題はない。アジトはもう掴んでいるからな」


「……だったら殊更納得がいかないな。面子が大事ならお前たちで潰しにいけばいいだろ?」


 するとキルビルは肩を竦め小さく息をつき。


「それが出来ればとっくにやってる。というよりは既に何度もうちの連中を向かわせた。だがその結果は女以外、首から上だけがご丁寧に箱詰めにされて戻されたという散々たる有り様だった。情けない話だがな」


 つまりそれだけ相手は厄介な連中って事か――


「おいおいそんな奴らの駆除を俺達に託すっていうのか? いっておくが俺はそもそも冒険者だ、盗賊ギルドの依頼を受けられる身分じゃない」


 両手を広げ、呆れたようにいう。左右のふたりの眼差しが尖る。

 だがキルビルが手で制すようにした後、俺に向けて薄い笑みを浮かべた。


「勿論あんたが冒険者なのはこっちも重々承知だ。だが盗賊ギルドが冒険者ギルドに直接依頼なんて出来るわけがねぇし、何もなければあんたに頼むこともなかったさ。だけどそっちにはカラーナがいる。そいつは俺も結構目をかけててな、勿論今でもギルドには名前が残ってる。つまり今回の依頼は基本的には盗賊ギルドのカラーナに対する依頼だ、あんたじゃないから冒険者ギルドは関係ねぇ。ようは手伝ってくれるかどうかだ」


「……そんな理屈が通るとでも?」


「通るさ。でなきゃこっちも納得がいかねぇしな。あんた冒険者としての仕事もカラーナに手伝わせてるんだろ? 昨日のゴブリンのだって情報源はうちだ。自分はうちの仲間を自由に扱い情報までタダで受け取っておいて、こっちの仕事には協力できませんじゃ筋が通らねぇ」


 ……くっ、そうきたか! 正直盗賊ギルドにいたことなんて知ったことか! と突っぱねたいところだし、俺だってそこまでは知らなかった。


 だが、義賊団に参加していたのを知っていながら、それは知りませんでしたで済む話でもないのは確かだ。

 俺はそういった事を含めて彼女を受け入れたのだからな――でも……

 

 俺は横目でカラーナの様子を探る。すると顔を逸らして何か申し訳ない様子……


 別に俺を利用しようとかそういう感じではないのか――


「あんたは冒険者ギルドの事を心配しているようだが、そこだけは大丈夫だと言わせてもらうぜ。何せこれは盗賊団を壊滅させるのが目的だ。犯罪行為どころか人助けにも繋がると言ってもいい。ましてや盗賊ギルド側から依頼料を貰える上、オークの素材を持っていけば冒険者ギルドからも金が受け取れる筈だ。こんないい話はそうはないと思うぜ?」


「……一つ聞きたいが、何故俺をそこまで信用する? それを請けたとして依頼を達成できるとは限らないぞ?」


「いったろ? カラーナに目を掛けてるって? そのカラーナがあんたを認めたんだ。それにゴブリンボスを瞬殺出来るような腕前なら申し分ない。この二人だってそんな真似は出来ないからな」


 ……大体の情報は掴まれてるって事か――


「それを俺が断ったらどうするんだ?」

 

 俺は念の為にそれを確認する。まぁ個人的には実力行使で従わせるとでもいってくれたほうが解りやすくていいんだが。


「どうもしねぇさ。素直に諦める。但しあんたがそれを断るって事は、連中の被害者が更に増えていくって事だ。奴らは基本貧しい村を狙い女や売れそうな若い男や子供を攫う。直接金目の物を奪うのではなく、攫った連中を売り飛ばすのさ。それに女は別のことにも利用するしな。正直反吐が出るような連中さ。だがそういった村は金がねぇから冒険者ギルドに直接依頼が出来ねぇ。場合によっては個々の首に賞金ぐらい掛けられるかもしれねぇが、そんな事でチマチマやってたって大元を絶たなきゃ意味がねぇしな」


 ……そうくるとはな。全く下手に脅しに来るよりよっぽど厄介だ。

 この話を聞いて、知ったこっちゃないといえる程俺はクールではいられない。


「……判った引き受けてもいい。但しこれ以後あんたらの仕事を請ける気はないしカラーナにも請けさせない。それが条件だ」


「くかっ! 逆に俺に条件を突きつけてくるとは大したタマだぜ」


 俺へ言葉を返し、戯けるように両手を広げ、キルビルが笑みを浮かべた。


「だが、それぐらいでないとこの仕事は無理だろうな。まぁ安心しな、今のあんたがいったような事は、カラーナからも言われている。あんたに犯罪の片棒を担がせるような真似はさせないし、カラーナにも今後させないさ。それに……あんたはカラーナの命の恩人だしな」


 このマスターの様子を見るに――どうやらカラーナはこの盗賊ギルドで随分と大事にされていたようだな。

 今回の件、カラーナがここを頼ったのもそれがあるからか? ただ――


「判った、依頼を請けてもいい。但し一つだけいっておくことがある。俺は数日前にあんたらの仲間を三人殺している。それでも納得できるなら請けるとしよう」


 ここまで話が及んだなら、もうこの事は言っておくべきだ。メリッサが不安そうに、ご主人様……と呟いているが、この事が後で知れて約束が反故にされるなんてまっぴらゴメンだからな。

 

 そして当然だが、キルビルが目付きを鋭くさせて、どういうことだ? と訊き返してくる。

 だから俺はメリッサとの出会いの時の事を彼に説明した。


「が~~っはっはっは! そうかそうか。連中をやったのてめぇだったのか。成る程な。いや、だったら気にする必要なんてねぇさ。むしろありがてぇぐらいだ!」


 俺の話を聞いたキルビルが豪快に笑い出した。両サイドの二人も肩を揺らしている。 

 なんだ? いったいどういうことだ?


「フッ、不思議そうな顔してるな? だがな、俺らには俺らのルールってもんがある。奴らはそれも守らず勝手なことをしやがった。だからあんたが殺らなかったとしても、いずれうちが始末をつけてたさ。むしろそれを聞いてなおさら頼みたくなったぜ。依頼請けてくれるよな?」


 ……何故か握手を求められた。

 まぁでもそういうことならもうこっちも引き返せないしな。

 俺はキルビルの手を握り返し、そして正式に依頼を請ける。

 まぁたてまえはカラーナへの依頼という形だけどな。

 

 その報酬は――一〇〇万ゴルド。結構な金額だが、盗賊ギルドが手を焼く相手だ。 

 それぐらいは妥当かもしれない。


「前金で五〇万ゴルドを渡しておく。依頼達成のための軍資金にしてくれ」


「あぁ、ありがとう」


 俺はそういってキルビルから前金を受け取り、盗賊ギルドを後にした――




「……ボス、やっぱ怒っとるん?」


 盗賊ギルドを出て道すがら、俺の背中に細い声でカラーナが問いかけてくる。

 俺はギルドを出てからずっと不機嫌を装っていた。

 実際はそこまで怒ってもいないが、今回のことは黙って許していい話でもないと思っている。

 

「怒っていないといえば嘘になるな――」

 

 だから俺も声の調子を低く重くさせて、彼女を振り返らず返事する。

 隣を歩くメリッサは何か言いたげではあったのだが、俺の雰囲気を察してか眉を落として不安そうではあるが、口にはしない・


「……うち許せなかったんよ。そんな連中が弱い立場の人々を襲って好き勝手してるのが……だからキルビルの事はうちも知ってたし、一度話を聞いてみたいなって思って――」


「それで昨日の夜、勝手に宿を抜けだしてギルドにいき、そして話を聞いた上で、依頼として請けたいと何の相談もなしに決めてしまったのか?」


 立ち止まり、カラーナに厳しい視線を向け問う。

 すると彼女は目を伏せ、ほんまそれはごめんなさいや、と謝罪する。


 少々涙目にもなっていて、その神妙な雰囲気に思わず俺の心も揺らぐ。

 やべぇ抱きしめたいとか思ってしまった。


 だがここはしっかりケジメを付けるためにも、俺は大きく嘆息し腕を組む。

 真剣な顔は崩さずに。


「前もって話はしておいて欲しかったな。カラーナ、いくらお前が信用してると言っても相手は盗賊ギルドだ。場合によってはメリッサだって危険な目に合わせていたのかもしれないのだぞ?」


「……そやな。でもうち、先に言うたらもしかしたらボス何も聞かず断るかも知れへんって……」


「それはつまり、カラーナは俺を信用してないってことか?」


「!? ち、ちゃうねん! でも、でも盗賊ギルドって知ったら……うちかてその事は黙っていたし……」


「カラーナ、ご主人様はそんな事を気にされる方ではありませんよ」


 おっと、俺が言おうと思ったが意外にもメリッサが前に出て諭すようにカラーナに言い出したな。


「もしご主人様がそんな体面を気にされるような方でしたら、私にだってこんな風に接してくれません。だからカラーナ今後はお互いもっと頼ってもいいと思います。隠し事はなしで、私もその方が嬉しいですし」


 メリッサが天使のようなほほ笑みを浮かべ、カラーナに気持ちを伝えた。

 全く大体の事は言われてしまったな。


 カラーナも涙目で、メリッサ~と口にしその表情も崩れていく。


「ふぅ~、まっ、そういう事だな。だからカラーナ今度からはそういう時はしっかり俺に言ってくれ。いいかな?」


「うん、うん、ごめんやボス」


 申し訳無さそうにしてるカラーナに、俺はなんかもう我慢ができなくなり、その頭に手を置いてくしゃくしゃに掻き撫でてやる。


「いや! ちょ! いつもより激しすぎやん! 嫌だぁ何すんのぉ!」


「罰だよこれは。ほらこれでよしっと! この話はもう終わりだ。じゃあさっさと豚の胃袋団とか言うふざけた連中を潰しに行くぞ!」

と、いうわけでちょっと先走った感のあるカラーナ……

とはいえ依頼は犯罪ではなく盗賊討伐です!

そして次回

――くっ!殺せ!

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