第56話 エルフ店主は子持ち人妻
前にも一度あっている、幼女エルフのエリンが彼女をママと呼んでる事。
そしてボルトが合作なことなどから、このエリンギがドワンの妻である事は理解できた。
てかオススメされたの奥さんの店かよ! いや公私混同とまで言わないし、実際安いんだけどな。
「まぁあの人から聞いて来てくれてたんですね! その上、早速お買い物までして頂いて嬉しい限りです」
「みゃみゃのみちぇでも、ありがとうちゃまみゃの~」
……というわけで、エリンも可愛らしくペコリと頭を下げてきたけどな。
でも、だからといってあのお金を返してくれる気はなさそうだ。
しっかりしてると言うべきなのか……てか、よく考えたらあのボムが起動した瞬間キャンセルすれば問題なかったな……
まぁ気づいたのが遅すぎたんだが。
「でも驚きです。ドワンさんの奥様がこんなにお若いなんて……」
メリッサもびっくりしてる感じか。ただ見た目はともかく、エルフだしな。
メリッサよりは年上だと思うが。
「いやうちは寧ろ、ドワーフとエルフの間に子供がいることのほうが驚きやわ」
あぁそっか。カラーナはドワンの店にきてなかったから、エリンの事はわからないか……
「よく言われます。実際そのせいで同族からは認めてもらえず、夫婦揃って駆け落ち同然にお互いの故郷を出ることになりましたし――」
さらっと笑顔で重いことを言ってくれてるな。
確かにエルフとドワーフは仲が悪いらしいけど。
「でも後悔はしてないです。確かに年齢的に、結婚前に先に子供が出来ちゃったという事は非難も受けましたが――」
つまり出来婚ってやつか……流石にこっちの世界じゃあまりいい顔されないのだろうか?
「あのエリンちゃんはお幾つなのですか?」
メリッサがエルフ幼女に目を向けながらエリンギに尋ねた。
確かにちょっと気になるところだな。
「はい。今年で三歳ですね」
エルフ幼女エリンの髪の毛を撫でながらエリンギが応えた。
まぁ確かエルフは二〇歳をピークに、それから殆ど見た目は変化しない種族だった筈。
但し二〇歳までは順当に歳を重ねるから、エルフだからと見た目幼女で一〇〇歳みたいな事は基本的にはないようだ。
「寧ろ俺は、貴方とドワンの年齢の方が気になるけどな」
「ふふっ、歳の差が離れすぎててちょっと恥ずかしいのですが、私が一五〇歳で、あの人が一二〇歳なんですよ~」
……いや、そこまでいくとよくわからないっていうか、もう三〇歳ぐらい大した違いでもないだろって気もするが……
ただ、確かエルフは平均寿命は八〇〇歳、ドワーフは二四〇歳だったか。
つまり人の寿命を八〇歳で見るなら、エルフは大体十分の一でみて人で言えば一五歳、ドワーフは三分の一でみて、人で言えば四〇歳って事か……
四〇歳と一五歳、しかも出来婚……やっぱ犯罪だろこれ!
「でも種族の壁を乗り越えて結婚とか素敵です」
メリッサが目を輝かせながら羨ましそうにいう。 やっぱ結婚とか憧れるものなのか。
「う~んでも子供は完全に母親似なんやな。ドワーフ成分ゼロやし」
カラーナ……本当に遠慮がないな。
「あら、そんな事はないのですよ。エリンはあの人の血もしっかり受け継いでいますし、見た目にも眼の色とかそっくりなんです」
父親から受け継いだの眼の色だけかよ――
まあ暫くはそんな話を続けていて、メリッサは馴れ初めまで聞いたりしていたけどな。
彼女が初めて森へ一人で外出に出た時に、凶暴な魔物に襲われて、そこをドワンに救われたんだとか。
彼女は元々戦闘が得意なタイプではなかったらしい。
しかもドジだ。森のなかでも完全に迷ってたらしいな。
よく生活出来てたな~信じられへんわ、とカラーナが呆れ顔で言っていた。
で、そんなエリンギはドワンに救われた事で一目惚れ、種族の壁を超えて愛しあい娘を授かったと――
……なんかわりと良くあるテンプレな話な気もしないでもないが、メリッサは感動してた。
そういう純粋なところもいいと思う。
「ところで本題なんだが、このボルトはさっきの話いけそうかな?」
「そうですね。後で主人に聞いてみます」
「あぁ頼む。今の値段が一二本セットで二四〇〇〇ゴルドか。加工するからもう少し値段は上がるかな? そのあたりも判ったら詳しく教えてくれると嬉しい」
俺がそう言うと、任せて下さい、とニコニコの営業スマイルで応えてくれた。
まぁ普段のドジさはともかく、商品を見る分には仕事はしっかりしてそうだしな。
ドワンに関しては言わずもがなってとこだし。
ちなみに俺がショックボルトにのみ惹きつけられたのは、キャンセルとの組み合わせが大きい。
他の三種はどれも、あたってからの効果が問題で、キャンセルに組み込めないという欠点がある。
ファイヤとアイスは、あたってから燃えたり冷やしたりする為、キャンセルポイントでキャンセルしても効果が出ない。
一方もう一つの爆破の方は、効果が出た時にはボルトその物が破壊されるから、これも戻せない。
しかし、ショックに関しては、当たった瞬間に電撃が迸り、痺れの効果を与える。
その為、効果が出た後にキャンセルが可能だ。
それに相手を痺れさせるというのは、今後使える状況もありそうだし持っていて損はない。
まぁそんなわけで、ショックボルトは購入しておこうかなと思った俺だが。
「ふたりは何か良さそうなのあったかな?」
俺はカラーナとメリッサに尋ねる。
馬鹿みたいに高いのは無理だが、役立ちそうなものなら少しぐらい買ってもいいと思うしな。
「うちはないけど、メリッサはなんかさっき興味深そうにみてたやろ? あれ聞いてみたらどや?」
「え? で、でも――」
「何だ、何かあるなら遠慮なんてしなくてもいいんだぞ? どれだい?」
メリッサは少し遠慮がちにではあるが、壁際の棚の場所まで進み、そこから一つの器と棒をもって戻ってきた。
「これは?」
「あ、それは薬草調合セットね。へぇ~もしかしてドラッカーなのですか?」
エリンギが尋ねると、メリッサはぶんぶんと首と手を横に振り、まだ違います、と否定する。
だが、なるほど。更に詳しく聞くと魔法の力が込められたすり鉢とすりこぎらしい。
器も棒も銀色で魔法式がしっかり施されている。
これによって通常よりも薬草などを粉末にする作業を楽にしているらしい。
また入れる素材の種類によって、すり鉢部分の溝もそれに合った形に変化するそうだ。
すりこぎの棒に関しては、作業中の疲れを軽減する効果があるらしい。
メリッサはどうやら、俺がドラッカーに向いているといったのをきっかけに、本気でジョブ習得を目指す気になったようだ。
「これは結構自信があるんです。私も今のマジッククリエイターになる前は、ドラッカーでしたから。すり鉢とすりこぎでよく調合したものですが、その時の大変さからこの道具を造るに至ったのです」
なるほどね。経験を元に作られたなら、信頼性は高そうだな。
「これはいくらするものなんだ?」
「え! でもご主人様……」
「いいんだ。それにドラッカーを勧めたのは俺だしな」
「毎度有難うございます~そうですね。さっきの件もありますし、本当は三五〇〇〇ゴルドといいたいところですが、三〇〇〇〇ゴルドで大丈夫ですよ」
サービスするという約束は守ってくれてるわけか。
メリッサのためにも買おうとは思うが。
「カラーナは本当にいいのか? 何か気になるのがあればいってくれよ」
何せここでメリッサだけというのもな。気にしないとは思うが一応確認だ。
「う~ん、そやな~。あぁそうや。だったらこれがえぇ」
そういってカラーナは小さな袋を持ってくる。中には指の間に挟めそうな程度の灰色の玉が三つ入っていた。
「スモッグボールですね。地面などに投げつけると発動し煙幕を発生させます」
「こういうのあると、意外と便利やねん」
なるほどな。流石盗賊系のジョブ持ちといったところか。
「ちなみにこちらは三個セットで一五〇〇〇ゴルドですが、一〇〇〇〇ゴルドでいいですよ」
眼鏡のレンズを押し上げながら、サービスです、という感じに言ってきたな。
なので俺はこのふたつを購入してふたりに渡す。
「ボスあんがとな」
「ご主人様、私一生の宝に致します――」
カラーナとメリッサは言動一つとってもやはり対照的だな。
でも、喜んで貰えてよかった。
ちなみに俺は俺で、ボルトとは別にマジックボトルを購入。
これはようは魔法の水筒だ。水なんかをたっぷり入れて持ち歩ける上、腐敗を防ぐ。
で、値引きがあったりもしたが、合計で八万ゴルドの出費。水筒が結構したんだよな。
まぁ仕方ないか。とりあえず支払って、ボルトの事は一本見本を渡しつつ、お願いして店を出ようかと思ったのだが。
「あのご主人様。私はここでエリンギさんに薬作りの事でご教授頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
どうやらメリッサは想像以上にやる気らしい。
エリンギも、
「私の知識が役立つなら喜んで」
と乗り気だ。
そしてなんだかんだで結構長居してしまったので陽も暮れ始めているが、エリンギはメリッサに泊まっていってもいいといっている。
まぁそんなわけで、折角やる気になってるところを駄目だとも言えないしな。
だから明朝迎えに来るという話になってメリッサが勉強のために使うという薬草も手渡し、俺とカラーナは二人で宿に戻ることにする。
て……うん、つまり今夜はカラーナとふたりきりという事か……なんか妙に緊張してしまったりもするが――




