第41話 とりあえず依頼をこなす
「なんかよう。さっき入っていったべっぴん騎士様が出てきて、詳しいことはあんたらに聞いてくれっていって、また走り去っちまったんだが、一体中はどうなってるんだ?」
とりあえず領主の事は一旦置いておいて、依頼を達成しようと鉱山の出入口に戻ったのだが、その途端、例の鉱夫に質問を浴びせかけられた。
表情としてはかなり中の様子が気になる模様。まぁそれもそうか。
「中の問題は解決した。俺と彼女、そして今去っていったという騎士でオーグ共を殲滅したからな」
俺が質問に答えると、ふたりの鉱夫は一旦顔を見合わせ、嘘だろ? と怪訝そうに口にする。
なので、面倒だったがオーグの角をバッグからその場に出してやった。
地面に投げ出された大量の角にふたりは更に驚き、弾けるようにどこかへ駆けていく。
そして直後、耳殻を打つ吠え声。
「お前ら~~~~! やったぞ! 中のオーグ共が全部倒されたーーーー! 作業が再開できっぞ~~~~~~!」
どうやらふたりは、逃げ出した鉱夫が待機している小屋に向かっていたようだ。
そして彼らの声に当然他の鉱夫もぞろぞろと姿を見せ始め――
「オーグが倒されたって本当か!?」
「こ、こんな兄ちゃんと巨乳のねぇちゃんがオーグを?」
「とてもそうは見えないが……」
「で、でもこの大量の角――」
「ま、間違いねぇよ! オーグは全滅したんだーーーー!」
うん。なんか突然屈強な男たちに囲まれ、マジマジと眺められながら思い思いの言葉を投げつけられ、かと思えば歓声が上がって、よくやった兄ちゃん! なんていいながら肩とか腰とか叩いてきやがる。
メリッサもちょっとびびってしまってるだろ! たく、まぁでも喜んで貰えてるならいいけどな。
「俺がここの鉱山を任されているドラムだ。皆を代表してお礼を言わせて貰う。本当にありがとう助かった」
そういって四角い顔の厳ついおっさんが頭を下げてくる。
鉱夫らしいというか、一応はここの管理を任されている鉱山長らしいが、Tシャツと作業用のズボンだけという出で立ちで、あまり他の鉱夫と格好は変わらない。
今俺とメリッサがいるのは、鉱夫達が控えていた休憩の為の小屋だ。
ちなみに鉱夫たちはオーグが倒された事を知り暫くは燥いでいたが、ひとしきり騒いだ後、このドラムに怒鳴られて仕事に戻っていった。
全く逞しい連中だと思う。
その後、鉱山長に小屋へ連れて来られたわけだが、中には椅子もテーブルも設置されていないので、地べたにそのまま座ってる形だ。
ドラムも胡座をかいたまま頭を下げている。
本当に休憩するだけの小屋って感じだな。
「頭を上げてくれ。俺は冒険者だ。今回はたまたまだが、ギルドで依頼をみていても当たり前に駆けつけたさ。まぁ当然報酬はギルドから貰うけどな」
「あぁ当然だ、これだけの事態だったからな。それで何か書く必要はあるのかい?」
「いや、これは緊急案件になるだろうしな。少なくともこの件に関してはこっちから書いて貰うものは無いが、ただ後からギルドの職員が事情を聞いたり調べたりはあると思う」
「あぁ、まぁそうだろうな。いやしかし本当に助かった。まさかこんなに早く作業に復帰できると思わなかったしな。最初無謀なビギナー冒険者や女騎士が中に入っていったと聞いた時は、驚いたもんだがな。しかしあんた本当にビギナーなのかい?」
「まぁな。たまにはこういうビギナーがいてもいいだろう? それに今回は騎士の助けもあったしな」
「あぁ、そういえばさっさと出て行ったらしくお礼も言えなかったが、その女騎士というのは何者なんだ?」
「さぁ? 俺は流れの女騎士としか聞いていないな」
「私もそうですね」
俺とメリッサはそう恍ける。
アンジェは一応はお忍びで来てるぽかったしな。ここは普通に誤魔化しておいた方がいいだろ。
「ふむ。まぁいいか。また来る時があったらお礼をいうとしよう」
「あぁ、そうしてやってくれ。ところでこれは別件なんだが、本来俺は他の依頼でここに来ていてな、鉄鉱石と魔鉱石を分けて欲しいんだ」
「うん? なんだ運搬の依頼か。てことは馬車で来てるのか?」
「いや、俺はこのマジックバッグがあるからな。これに入れていく」
俺は腰に巻いてあるバッグを指さし告げる。するとドラムは目を丸くさせて驚いて。
「ビギナーでマジックバッグ持ちとはな。道理でたったふたりでここまできてるわけだ」
ふむ、マジックバッグ持ちというのは結構驚かれるものなんだな。
「まぁな。それで鉄鉱石三kgと土の魔鉱石一kgに火の魔鉱石一kgを貰いたいんだ。代金はドワンから頼まれたといえば通じると聞いてるがな」
俺が依頼書の通りにドラムに告げると、彼の眉間に僅かに皺が寄り難しい顔を見せる。
「ドワンというと、やはりセントラルアーツのドワンだよな?」
「あぁそうだ。ドワーフのな。彼から依頼を請けてきたんだけどな」
俺が返答すると、ドラムは逞しい腕を組んで、うむぅ、と唸った。
「この鉱山を救ってくれたあんたに、こんな事をいうのは心苦しいんだが、悪いがそのままじゃ鉄鉱石も魔鉱石も譲るわけにはいかねぇんだ。すまねぇ」
はぁ!? と俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そんな! どうしてですか!」
メリッサも顔を前に突き出し、食い掛かるように声を上げる。
「悪いな嬢ちゃん。実はドワンの店に関しては悪い噂がこっちにも流れてきててな。経営が相当ヤバいらしいじゃねぇか。うちも最近は税金だなんだと厳しくてな。不安材料のあるところにはもう卸す事が出来ないんだ」
悪い噂――それはこの間ドワンの前で近づいてきた連中の事か? いやこの感じだと他にも噂を流してる奴がいるように思える。
勿論大元はボンゴル商会とやらなんだろうが。
「おいおい、その噂は俺も聞いたことがあるが、正直信憑性の欠片もない話だと思うぞ。そうでなきゃ俺も仕事を請けたりしないしな」
「そうですよ! お店にも顔を出しましたが、そんな経営不振だなんて事はありえません!」
「しかしな。火のないところに煙は立たないっていうだろ? 噂が流れるって事はなにかしら原因があるのだろう。そうなると、こっちもはいそうですかと渡すわけにはいかないのさ」
……その火は明らかに放火によるものだけどな。
しかし参ったな――
「それはどうしても駄目なのか?」
「……少なくとも今まで通りではな。即金が条件だが、今回はあんたの顔もあるし、何割か払ってくれるなら卸してもいい」
「いくらだ?」
「そうだな……この量なら最低八万ゴルドは収めて欲しいところだ」
八万ゴルドか――
「判った。それは俺が立替えて払おう。だから今用意してもらっていいかな?」
「!? 本気か? 俺はてっきり一度戻ってから相談になるかと思ったぞ!」
まぁその手もあるが、正直面倒だしな。それに――
「俺はドワンを信用してるからな。勿論これで俺が戻って支払いを渋るようなら後で教えるよ。そしたら取引停止にでも何でもするといい。だが俺からの連絡がないようなら、今後も付き合いを続けて貰えないか?」
「……あんたも随分とお人好しだな。まぁいい判った。そこまでいうなら今回何も問題ないようなら、何とか出来るよう善処するよ」
「あぁ助かる、それじゃあこれが八万ゴルドだ」
俺はマジックバッグから金額分の金貨を取り出し、ドラムに渡した。
「確かに受け取った。それじゃあ用意してくるから少したったら鉱山の中まで来てくれ」
判ったと頷くとドラムが小屋を出て行く。
「ご主人様――」
「ははっ、呆れたかな? お金が必要だって時にこんな真似して」
呟くように呼びかけてくるメリッサに顔を向け、俺が言葉を返すと首をぶんぶんと左右に振り。
「私はご主人様を誇りに思います」
言って俺の腕をギュッと抱きしめてくる。
ふむ、柔らかい感触がたま……いや、そんな事を言ってる場合じゃないが、まぁでも役得だな。
でも嫌われなくて良かった。これでドワンが支払ってくれなかったら笑い草だけどな。
「これが鉄鉱石三キロに魔鉱石の土と火が一キロずつだな」
そういってドラムは大きめの秤にのせて確認を求めてくる。
数字を見てみるが間違いはない。
しかし鉄鉱石はともかく魔鉱石もやはりゲームと見た目は似ているな。
石と言っても水晶みたいなもので、その名の通り魔法の力が宿った石でもある。
属性によって色が異なり土は黄土、火は炎の如き赤、風は緑で、水は青だ。
後は希少なタイプで聖属性で白色の魔鉱石、光属性で黄金色の魔鉱石、そして闇属性で黒色の魔鉱石なんてものもある。
そしてこの魔鉱石を加工し、魔導器を作成したり魔法の効果が付与された装備が造られたりしている。
「確かに受け取ったありがとうな」
「いいさ。寧ろこっちのほうが本来は申し訳ないぐらいだ」
マジックバッグに収めつつ礼をいうと、後頭部を擦りながらドラムが眉を落とす。
本来は彼だってこんな事は言いたくなかったのだろうな……
「それにしても税は本当に苦しそうだな」
「あぁ、全くだぜ。今回の件だってかなりやばかった。鉱山は毎日使用税も取られるし、魔物が出るからって待ってはくれないからな。収入が減るとすぐにでも奴隷落ちしそうな鉱夫も少なくない」
毎日……確かにそれはかなり苦しそうだな。
「それも領主が変わってからなのか?」
「あぁそうだな。以前はここまで締め付けは厳しくなかった」
「ふむ……どこも重税に苦しんでるんだな。これは例えばの話だが、逃げ出そうとか、少し過激だが反旗を翻そうとしたものはいなかったのか?」
「はぁ? 馬鹿言うもんじゃないぜ。そんな事を出来るわけがないだろう」
「何故だ? やはり領主に貴族や騎士が付いているからか?」
「勿論それもあるが、とにかく領主様に逆らうなんて許されるはずがない! あんたもそんな滅多なことをいうもんじゃないぞ」
……なんか凄い慌てぶりだな。相当に恐れているみたいだが……
「なぁあんた、ここの新領主にはあった事があるのかい?」
「ば、馬鹿なことを言うな。俺らみたいな人間が領主様にお目通りを許されるわけがないだろう!」
つまり見ていないという事か。
「ご主人様。領主様に関しては私も逆らうなどはお考えにならないほうが宜しいかと思います……ご主人様に何かあっては私はもう生きていけません――」
そ、そこまでか。う~ん、メリッサがこんなにも心配してくるとはな。
……まぁ仕方ない。これ以上この話をしていても進展は無いしな。
とりあえず立替えたとはいえ、受け取るものは受け取ったし戻るとするか――
ドワンはきっと大丈夫そう信じているヒットです




