表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/322

第39話 ジョブ持ち

 この化け物の戦い方には特徴がある。だがそれがあたっているかはまだ判断ができない。

 そして、今はあまり悠長に考えている場合でもない。


 再び相手が腕を交差させる。焔が来るのだろう。

 だが残り二五秒ある――まだ相手にキャンセルは掛けれない。

 しかし、モーションが大きいのは救いだ。俺もアンジェも相手の動きを確認した瞬間、左右に飛び退く。

 その瞬間、俺とアンジェを隔てる灼熱の壁が空間に伸びる。

 躱しこそしたが熱量が凄い。温度が一気に上昇したようで、額から汗が吹き出てくる。

 だが逃げてばかりでは仕方ない。俺はステップキャンセルで一気に化け物の横まで移動した。

 残り二〇秒――

 

 化け物を挟んで向こう側にはアンジェの姿もみえる。風の精霊獣の力で加速したのだろう。

 そして俺はこいつの脇を双剣で横に斜めにと斬りつけ、更にダブルスライサーからキャンセルしてのXスライサーと決めていく。

 アンジェはシルフィードダンスで風の力が乗った剣戟を逆側から叩き込んでいく。


 だが――怯む様子が全く見られない。そして焔の息が収まり、かと思えば化け物が一歩後退する。


「効いたか!」


 アンジェの表情に期待の色が滲む。だが――これは。


 残り一〇秒――駄目だ間に合わない!


「アンジェ飛び退け!」


 俺の言葉で気が付いたのかアンジェが後方に大きく飛び退く、俺も同時に後ろに飛ぶが、それとほぼ同時に化け物が大槌を滅茶苦茶に振り回し始めた。

 狙いをつけてるような攻撃じゃない。とにかく槌で正面を乱打する。しかしやたらめったら振り回される乱撃は、前面のほぼすべてをカバーするほど範囲が広い。

 槌で地面を打つ音が何度も耳を鳴らした。奴の正面にはまるでモグラ叩きのごとく勢いで無数の窪みが生まれていく。


「くそ! なんなのだあいつは? 無茶苦茶だ!」


 唇を曲げ忌々しそうにアンジェが呟いた。しかし奴が攻撃を続けている間に一〇秒は経過――とりあえず回復はしたが。


「マッドラッシュ――」


 そして俺は化け物の使っているスキル名(・・・・)を呟く。

 それに、何? とアンジェが聞き返してきた。


「パワーハウリングにダンクアタック、そしてこのマッドラッシュ――焔だけは別だが、このスキルで何か思いつかないか? アンジェ?」


 俺の言葉でアンジェがハッとした表情を見せる。


「そんな……まさか――」


「どうやら気が付いたようだな。そう、あの化け物が使ってるのは全てウォーリアの持つスキル――」


 ウォーリアは、ゲームでは戦士系の上位職だったジョブだ。腕力に秀でていて筋肉バカといったイメージではあったが、まぁそれはそうとつまりだ。


「ヒット、まさかお前はあいつがウォーリアのジョブ持ちだといいたいのか?」


「あぁそのとおりだ。ほぼ間違いないとも俺は思っている」


「馬鹿な! ありえん! 例えユニーク種といえど、魔物のジョブ持ちなど聞いたことがないぞ!」


 そう、確かにジョブ持ちの魔物なんてゲームにも存在しなかった。

 だが、個々のスキルだけならともかく、三つとも使えるとなると、そう考える他ない。


「ぐうううぉおおおおお!」


 くっ! とアンジェの顔が歪む。そして化け物は再度パワーハウリングで力を上昇させる。


「アンジェ! とにかく今は奴を倒すのが先決だ! それで訊くが必殺技は何かあるか?」


 は? とアンジェの目が丸くなる。だが今はそんな事で呆けてる場合じゃない。


「ないのか? 何かあるだろ! 奴を倒せそうな強力な一撃が!」


「あ、あぁ一つだけ。だが無理だ、それを使用するには集中する時間が必要だし、相手はそんな暇を与えては――」


「大丈夫だ! いいかアンジェ俺の言うとおりにしてくれ!」

 

 そういって俺はアンジェに作戦を伝える。


「それでいいのか? しかし――」

「俺を信じろアンジェ! 来るぞ!」


 再び化け物が腕を交差させる。なので俺とアンジェは別れてその焔を避け、そして俺は化け物から十歩分ほど離れた位置で動きを止め、マジックバッグからスパイラルヘヴィクロスボウを取り出した。


 それを肩に担ぎ、キャンセルで連射する。放たれたボルトは隙だらけの脇に次々命中するが、貫通せず半分ほど食い込んだところで止まってしまう。


 それぐらい化け物の肉体は強固だ。しかもやはりこの攻撃でも全く怯む様子がない。

 ゲームでいえば一切ノックバックしないタンク系の魔物みたいだ。


 だが、問題はない。ダメージを与えることが目的ではない。

 それよりも――よし! こっちを向いた! そして一旦腰を沈め、跳躍! 大槌を振り上げ俺目掛けて飛びかかってくる。

 ウォーリアのスキルであるダンクアタックは、ようは跳躍の勢いを利用した攻撃。

 だがその威力は絶大。一発の威力だけでみるならウォーリアの持つスキルで最強。


 それはさっきの一撃をみても判る。まともに喰らえば間違いなく俺はヤラれる。

 だが、まだ引きつける。アンジェの準備が整うまで――巨大な影が俺を覆う。巨岩が降ってきてるかのようなそんな気さえする。


 が、確認した! アンジェの立ち位置。そして集中――俺は迫る化け物に向かって再びキャンセルを発動させる。


 その瞬間――空中にいたはずの化け物の姿は消え、跳躍する前の位置に出現する。

 そして表情こそみえないが、狼狽えてる筈。そしてモーションが大きければ大きいほどキャンセルを喰らった相手の隙も大きくなる。


 化け物には後三〇秒キャンセルは使えない。だがアンジェには別だ! 

 そして今アンジェは化け物のすぐ斜め後方、俺からも視認できる位置でスキルの為に力を溜めている。


 俺はそれを――キャンセルする!


「な!? これは――」


 アンジェが驚きにその翡翠のような眼を見開いた。

 アンジェを守護していた精霊は、その姿を変え彼女の全身を包み込む鎧と化している。

 

 エレメンタルリンク(精霊換装)――それが彼女の選んだスペシャルスキルか。

 ゲームに存在した正に必殺技とも言える強力なスキル。

 これは発動までに時間が掛かる事に加え、消耗が激しいという欠点はあるが、ノーマルなスキルより遥かに効果が高い。


 スペシャルスキルは高位職以上のジョブにそれぞれ用意されたものだ。

 ただ覚えるには結構キャラを鍛える必要があった為、彼女が習得できているか? といった問題が残っていたが、大丈夫だったようだな。

 まぁ実際アンジェの能力は高く、ほぼ大丈夫だろうと踏んではいたが。


 そしてこのスペシャルスキルを使用する為に必要な溜め時間――これは俺が組むことであっさり解消される。

 キャンセルすれば待ち時間が〇になるわけだからな。

 

「こ、これもヒットの力なのか?」


「そうだ! だがそれは一度やると次まで時間が掛かる! それで決めてくれ!」


 何せこれも、効果の大きい魔法やスキルほど待ち時間が増える。

 そのスキルをキャンセルした為、アンジェへの再キャンセルには一分もかかるらしいからな。

 だが、その分、威力に期待が持てる。


「わ、判った! 決めてやる! これで! シルフィードダンス!」


 前もって敵の戻る位置に控えさせておいた為、アンジェのスキルはすぐに発動され、恐らく彼女が得意としているであろう攻撃スキルが化け物の身体に叩き込まれる。

 

 エレメンタルリンクによってパワーアップしているアンジェの剣戟は、さっきまでとは比べ物にならないほどの威力を秘めていた。


 正しく嵐のごとく円の動きで、敵を中心に旋回するようなステップとともに、風に乗った刃が目にも留まらぬ早業で化け物に叩きこまれていく。

 

 アンジェの動きに合わせるように、周囲の大気が渦を巻き始め、そしてついに竜巻と化した。

 轟々と響く風の音。嵐のように吹き荒れる風圧に、油断したら俺の身体も吹き飛ばされそうだ。

 

 そして竜巻の中でズタズタに切り裂かれているであろう、化け物の叫びが空間内にこだまする。

 どんなに攻撃を加えても全く効いていなさそうだった奴のその叫びは、この戦いに終止符が打たれた事を示していた。


 そして竜巻の中から跳び出し宙を舞う美しき戦乙女。

 空中で一回転し俺の目の前で着地し、同時にスキルの効果が切れ全身鎧から元の、というかかなり小さな狼に変化する。

 それだけ消費が激しかったという事か。

 

「あっ!」

「おっと!」


 彼女の足がもつれ、バランスを崩しそうになったのを俺が支えた。これで今日二度目だな。


「す、すまない。まだ、覚えたてで、全く情けないな」

「そんな事はない。アンジェのおかげで敵を倒すことができたんだ」


 竜巻が消え去り、姿を見せた謎の化け物は、身体中から血を吹き出し背中から地面に倒れた。

 もう起き上がることはないだろう。


「馬鹿を言うな……私が奴を倒せたのはヒットの力だ――ヒットがいなければ私など……」


 アンジェが顔を擡げ、翡翠のような瞳と俺の目が合う。

 濡れた瞳に、俺は目が離せない。このまま吸い込まれそうな――


「ご主人様ーーーー!」


 俺とアンジェは、パッ! と慌てたように離れ、身体を回し何もない壁に目を向ける。

 ち、違う! 今のはあれだ! 勝利を喜び合っていただけだ!


「はぁ、はぁ、良かったご主人様ご無事で――」


 彼女に向き直ると、メリッサが息を整えた後、指で目元を拭い、安堵の表情を見せる。

 どうやらかなり心配を掛けてしまったようだな。


 そして、駆け寄ってきたメリッサに俺は微笑みかけ口を開く。


「メリッサ心配を掛けたな。だがもう大丈夫だ。あの化け物も倒したし、これでこの鉱山も元の作業に戻れるだろう」


「はい――ですが不謹慎かもしれませんが、私はご主人様がご無事でいた事のほうが嬉しいのです。それに――」


 メリッサはアンジェに顔を向け。


「アンジェも無事で良かった――」


 言って顔に安心の笑みを浮かべる。

 ……が、肝心のアンジェはメリッサから目を逸し。


「う、うむ! ヒットの力も大きかったぞ! さ、流石は、メ、メリッサの、ご、ご主人様だ、だな!」


 いや! 何その狼狽え! 所々どもってるし! メリッサに目を向けない、というか向けられないというか! 違う! さっきのは違うからね! 結局何もしてないし!


「……あの、何かありましたか?」


「何もないぞメリッサ!」

「何でもないのだメリッサ!」


 てっ! 何故声がこういう時に揃う!


「は、はぁ……」


 やばい、ちょっと怪訝そうだ。とにかくここは!


「よし! 何はともあれ素材を集めないとな! ギルドにも報告しないといけないし!」


「は、はいそうですねご主人様。私もお手伝い致します」


「あ、あぁそうだな。ならば私も手伝おう」


 ふぅ、なんとか誤魔化せたな……まぁ何はともあれ――素材を集めてしまうか。

中々その場の雰囲気に流されやすいヒットです






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公最強物だと思って見に来たが、ただの成り上がりストーリーのようが気がしてきた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ