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第4話 知らなかった奴隷制度

「私達奴隷は、たとえ契約した主人が死んでしまったとしても、奴隷から解放される事はないのです」


 メリッサの声が俺の耳朶を打つ。

 いいながら彼女は目を伏せどこか哀しそうであった。


 しかし、まさかそんな縛りがあったとは。

 だがよく考えて見ればそれも判るかもしれない。


 何せゲームでも奴隷は一生奴隷である。それはゲームの仕組み上仕方ないとは言えるが、そのシステムがそのまま反映されている世界なら、奴隷は奴隷のままというのもあるのかもしれない。


 いや、しかし、それでもやはり世界としては似ていても、今俺がいるこの世界は一つの独立した世界の筈だ。


 いくらなんでも奴隷は永遠に奴隷とか、それで納得されているのだろうか?

 そもそもなんでそんな事に? 逃げたら駄目なのか?


 俺はその事をそのままメリッサに尋ねてみるが、彼女は首を横に振り。


「私達奴隷は奴隷ギルドに奴隷として登録された時点で、隷属の魔法を掛けられます。これは奴隷を買う際に与えられる隷属器とはまた別物で、魔法を解かない限り一生つきまといます」


 ギルド……そういえば、確かにゲームでは奴隷を買うときは奴隷商人からだったが、裏設定で奴隷商人に奴隷を扱う許可を与えているのは奴隷ギルドって話だった気がする。


「それで隷属の魔法にかかるとどうなるんだ? てか隷属の魔法がかかってるかどうかというのはどこで判断しているんだ? 俺にはさっぱりわからないが」


「あ、はい。それもそのはずです。隷属の魔法に掛かってるかは実際に魔法を使いこなせる人間か、それを知る事のできる魔導器をもった奴隷商人だけですので」


 ふむ、なるほど。メリッサの話だと奴隷の魔法印というのが身体に刻まれているそうだが、それが見えると外見的に美しくないので不可視の魔法式を展開しているんだとか。


「しかしなんでギルドがわざわざそんな事を?」


「建前では購入者のサポートの為となっております。隷属器の場合それを外せる能力を持っている方が少なからずおります。そういった方に頼み隷属器を外して逃げ出すという奴隷がいて――ですが、この魔法式を仕込んでおけばそれもすぐに判るようです」


「サポートね、でも建前というのは?」


「はい、実際の理由は金儲けのためですね。奴隷を買えるぐらい身分の高い者はその分ひとに狙われたり恨みを買うことも多いです。今回みたいに盗賊に狙われたり、家督の奪い合いで暗殺されたりなんて事も日常茶飯事であったりします。その時奴隷契約を結んだ主人が命を失った場合、隷属器に関しては効果を失います。つまりそのままではヒット様のいうように奴隷から解放された状態となります」


「まぁ効果がなくなればそうだろうな」


「しかし、奴隷ギルドというところは欲深い組織です。一度奴隷にしたものは死ぬまで金儲けの道具としてみています。なのでギルドからも隷属の魔法を施し、たとえ主人が死んでしまったとしても奴隷の身分が変わらないよう、決して逃げられないようにしているのです」


 まさかそんな仕組みになっているとはな。これはゲームの中でもなかった設定だ。

 尤も公表されていないだけで開発者側の考えた設定にはあったという予想もできるが、まぁそれは考えても仕方がない。


「ふむ、そういう事か。しかしそうなら今回のような場合メリッサはどんな状態になっているんだ?」


「はい。主人が死んだという事は私に施された魔法式を介して既に奴隷ギルドには知られているはずです。この時点で私は主人なしの奴隷として認識されます。そして奴隷は主人との契約が切れた際には三日以内にギルドや奴隷商人の下へ戻る必要があります」


「三日以内か……それを過ぎるとどうなるのだ?」


「逃亡奴隷に認定され追跡者に追われる事になります……そして追跡者は酷く嗜虐的な思考をもった追跡のプロです。ギルドも商品としてみている奴隷を殺しこそしませんが、追跡者には殺さない程度に二度と逃亡を図れないような拷問を行う権限が与えられていると聞きます」


 言ってメリッサは肩を震わせた。噂で聞いた程度ではあるというが、相当に酷い目に遭わされるらしい。

 追跡者には回復の道具なり魔法なりを使えるものも必ずつくらしく、肉体的苦痛と回復を繰り返すような悍ましい拷問や、女の場合であればその尊厳を踏みにじるような行為にも平気で及ぶそうだ。


 それが何か詳しくは彼女の口からはでなかったが、想像に難くない。


「大体の話は判った。つまり君はこのままではどちらにしても奴隷としての身分は変わらず、そのまま戻らなければ逃亡奴隷として追跡者に追われ、戻っても再び奴隷商人に商品として売り飛ばされると。それならばいっそこの俺の奴隷となりたい、そういう事だな?」


「その通りでございます……助けていただいたにもかかわらず身分もわきまえずこのような願い、無礼な話だとは思いますが――」


「俺から話せといってるんだ。そんなことは気にしなくていいさ。それよりその奴隷から解放する手段というのはないものなのか?」


「魔法の使い手が解かない限りは」


「それを解けるものは奴隷ギルド以外にはいないものなのか?」


「難しいと思います。何より無理して魔法式を知らないものが解除しようとすると、奴隷の心臓が弾け死ぬような戒めも施されております」


 死ぬのかよ……確かにそれだとどうしようもないな。

 俺のキャンセルは魔法のキャンセルも可能だが、それはあくまで直前の効果までだしな。

 一部の場合を除いて過去にさかのぼってのキャンセルは出来ない。


「ギルドの連中は絶対に隷属の魔法は解かないのか?」


「いえ。一応解放するための契約というのも存在します。ただそれは元の奴隷の価値の一〇〇〇倍の金額を納める必要があります。そして当然ですが、わざわざ奴隷にそこまでお金を掛けて解放しようとする人はいませんので――」


 一〇〇〇倍かよ! 確かにそれは大金になるな。正直俺でも無理と言わざるを得ない。


「色々と厄介なものだな。しかし俺も折角こうして知り合えたんだ。このまま君が奴隷商人にただいいように利用されるというのも悔しい。だが、主人を失った奴隷と契約するというのは簡単なものなのか?」


「そのことなのですが……一応制度として主人を失った奴隷を危険な状況から救出したり、保護して送り届けた場合は、その方に奴隷を購入する意志があれば優先されます。ただそれには手続きにお金が掛かることに――」


 そこでチラリと覗き見るようにしながらメリッサが口篭る。


 そういう事か。でもよく考えたらあたりまえだな。

 ギルドは少しでも多くの金になるよう隷属の魔法まで施しているのに、タダな筈がない。


「……いくらなのかな?」


「え?」


「メリッサ。君の値段だよ。いくらあれば俺は君を奴隷として迎え入れることが出来るんだ?」


「ひ、ヒット様……」


 いや、おいおい目に涙を溜めるほど嬉しい事かよ。てかそもそも金額がわからないと出来るかどうかがな。


「私は嬉しゅうございます。そのお気持ちだけで。ただ――」


「ただ?」


「……私の金額でございますが、盗賊からの救出と保護が考慮されはしますが、それでも一五〇万ゴルドほどに――」


 一五〇万――流石に高いな。確かゲームだと奴隷は高級な物でも五〇万とかの筈だ。普通に倍以上って事になる。

 しかも彼女の話だと普通より安くなってそれだからな。

 ただ彼女の容姿で考えればそれほどおかしい金額でもない気がしてくるから不思議でもある。


 そんな事を思って顎を押さえ考えてると、メリッサが眉を落とし心配そうな表情で俺を見上げてきた。


「ごめんなさい無茶を言ってしまって。勿論本当に奴隷として貰えるなどと思っていたわけではありません。そうなれればいいなと――」


「それは直ぐに払う必要があるのか?」


 メリッサは諦めやすいな。だが確かに高いがこっちも乗りかかった船だ。それに本音をいえばゲームでは結局奴隷購入が出来なかったという未練もある。


 まぁだからといって彼女を買ってどうこうするつもりもないが、この世界をゲームの知識の範囲でしか知らない俺からすれば、奴隷とはいえ仲間が出来るのは悪くない。

 実際逃亡奴隷や、その際の処理に使われる隷属の魔法などは俺の知識にもないものだ。


 それに正直見た目はかなりよいしな。

 ただ現実問題として今の手持ちの問題がある。


 なので即金かどうかは知っておかなければ。


「いえ、元々奴隷には金額によって予約出来る場合がありますので、その制度を利用する形であれば五日程度であれば待ってもらえます」


 五日か……正直短いが、奴隷商人やギルドへの引き渡しまで三日間は時間が稼げることを考えれば八日ということでもあるな――


「なぁメリッサ。君は今ここにあるもので金になりそうな物の金額を概算でも出すことは可能か? 商人の奴隷として過ごしていたならその辺の知識とかないものかな?」


「あ、はい多少なら」


 メリッサが目を丸くさせながら応える。

 ふむ多少でも有難いな。

 俺は早速荷物を一旦バッグから取り出し、一箇所に集めそれをメリッサにみてもらうことにする。


「この指輪の一つは隷属器ですので売ることは出来ませんが、残りの指輪は全部で二〇〇〇〇ゴルド程度には、盗賊の持ち物は破損も酷いのが多く錆も目立ちますね。売れないことはないですが、それでも全部で一〇〇〇ゴルドといったところです。冒険者の装備品は魔導器である帰還の玉は売れば二五〇〇〇ゴルドに。他の装備品も手入れの行き届いたものが多いですね。恐らくこちらは全部で八〇〇〇ゴルド程にはなると思います」


 ……正直驚いた。いや合っているかは判らないが、テキパキと手際よく金額を算出してくれた。


 まぁ正直帰還の玉に関しては随分といい値になるなというイメージだが、これは流石にゲームよりはリアルのほうが元の価値が高いという事なのだろう。


 ちなみに、これはまぁ名前のとおりだが使用すると本来のゲームでは復活予定の街、つまり最後に立ち寄った教会のある街に瞬時に帰還することが出来る。


 ちなみに教会というのがポイントではある。教会のない小さな村なんかだと死んだ場合でもそこには戻れなかったしな。


 それにしてもこんな玉があるならこいつらも死ぬ前に使えばよかったのに……という考えもできるが、実際は帰還の玉は使用してから発動まで結構時間がかかる。ゲームでは八秒だったかな。

 だから使うタイミングが重要だったけどな。


 ただリアルだともっと時間が掛かる可能性はある。

 まぁこれもちょっとした裏技があったりもするんだけどな。


「ところでやっぱ転移魔法というのはないんだよな?」


「え? 転移魔法……ですか?」


「そう。好きな街や場所に自由に移動が出来る魔法」


「名称は同じかわかりませんが、そういったものを研究している魔法学者(ウォーロック)はいると聞いた事があります。その副産物として、短い距離であれば魔法の力で瞬間移動が出来る魔法というのはあると聞いたことが有りますね。詠唱と魔法式が複雑で簡単ではないそうですが、ただ遠距離の移動となるとまだ確立はされておりません」


 やはりそうか。ゲームでもRPGでありがちな自由に移動できる転移魔法というのは存在していなかった。

 ただ瞬間移動に関してはムービングという魔法がそれだな。

 戦闘中に多用して面白がってたのがいたよ。


 まぁただ基本的に詠唱が必要なゲームなのでムービングの連続使用は厳しかったみたいだけどな。


 ちなみにこのゲーム。魔法にはそれぞれ詠唱が用意されていて、プレイヤーはそれをキーボードで打ち込む必要があった。


 当然強力な魔法は文字数も多いのでかなり苦労してたようだ。

 メッセージにはショートカット機能もあったので、上手く利用しているのもいたが、それも数に限りがあったしな。


 そしてウォーロックというのは魔法系のジョブで上位職の上、確か最高位クラスに属するタイプだ。

 

 でもこっちではジョブ名の通りしっかり研究に励んでいるわけだな。

 遠距離の移動魔法は、もしかしたらこの世界で研究が進めば開発されることもあるかもな。


 まぁいい。とりあえず今のところはジョブや魔法に関してはゲームの性能がそのまま影響してるのが多そうではあるな。


 さてっと本来の目的に戻るが、取り敢えず今のところ酒の配達で二〇〇〇〇ゴルド、それ以外の指輪や装備品の売却で五四〇〇〇ゴルド。

 後は貨幣を数えてみたが当然商人の金貨が一番高く、銅貨や銀貨もあわせて二八万六千四百八十六ゴルドになった。


 つまり全部で三六万四百八十六ゴルドって事だ。

 まぁ売るものに関してはあくまで予定だけど……ははっ、参ったね全然足りないやっと。


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