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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第37話 ヒットに捧げる初めて

 メリッサとアンジェに任せておけと伝え、それぞれの隧道を調査に向かった俺だったが――

 結果として右から三つ目の穴までは結局オーグはいなかった。


 まぁつまりだ。この時点でオーグがいるとしたら残った左端の隧道の先でしか無いわけで。


「流石だな。まさかこんなに早く三箇所も調べあげてしまうとは」


「はい! ご主人様は全てにおいて完璧ですから」


「うむ。盗賊団を瞬きしている間に壊滅させたり、群がる一〇〇〇〇を超す悪漢を、バッタバッタとなぎ倒すなど、少々誇張がすぎるのではとも思ったが、メリッサのいうことに間違いはないのかもしれないな」


 すみません。それ思いっきり誇張です。盗賊は団じゃなくて三人ですし、悪漢も基本三人、多くて三〇人です。

 てか俺が調査してる間に何を話してるんだメリッサ!


「まぁとにかく。残り一箇所だけであるなら、私もここにとどまり続ける必要はないな」


 うん? 何か腕組みし納得したように頷いてるけど。


「勿論そうとなれば私も今度こそ一緒に付いていきます!」


「え? いや、でも一応念の為、ここで待ってた方がいいんじゃないかな~なんて」


「馬鹿を言うな! 後はその左端しか残っていないのだろう? ならば調査してる間に外にでるという心配もないではないか。むしろこの先に大量のオーグが潜んでるのは明白! ならば私も騎士として同行いたそう!」


「勿論私も奴隷としてご主人様にしっかりついていきます!」


 ふたりとも妙に熱の篭った視線で俺を見てくるな。

 ふぅ、メリッサも強引なところがあるが、この女騎士も負けず劣らずってところか。

 寧ろアンジェの方が気が強いぶん、譲らぬ! という空気がピリピリ感じられる。


 ……まぁ仕方ないか。それにアンジェが来ると言ってる以上、メリッサを残してもおけないわけだし。


「判った。それじゃあ一緒にいくとするか。ただどれも隧道はなかなか長かったしな。だから俺の瞬間移動で先を急ごう」


「うむ、確かにそのとおりだな。しかし便利だなヒットのその魔法は」


 まぁ魔法じゃないんだが。


「それではご主人様――」


 そういってメリッサが先ず俺の右手を取った。そして俺はアンジェに左手を差し出す。


「……何だこれは?」


 疑問げに小首を傾げるアンジェ。そうか説明が必要か。


「俺の瞬間移動は、手をとった相手とでないと一緒には移動出来ないんだ。だから俺の左手を握ってくれないか?」


「――ッ!? 手、手を握るだと!」


 ……うん? なんだ突然のけぞったようにして驚いたりして?


「まぁ、そうしてもらわないと一緒には移動できないしな」


「し、ししっ、し、しかし、だ! と、殿方の、て、手を握るなど! お、お付き合いしてるわけでもないのに! しょんな! ふ、不埒な!」


 ……はい? いや、てか変なところで噛んでるし、顔も紅いし、なにこれ可愛い。


「と、とにかく! 他に方法はないのか!」


「うん、ない」


「な!? い、いや、でもだな……」


「いや手を握るだけだろ? そんな迷うような事でもないだろ?」


「ば、馬鹿を言うな! 私の初めてをそんな簡単に捧げられるものか!」


「……は、初めて――」


 メリッサが軽く呆けてるな。まぁそりゃそうか。普通に誤解を招きそうな言葉だが、俺のいた世界じゃそんなバージン(手を繋ぐ)、幼稚園ぐらいでみんな済ましてる。


「もしかしてアンジェは、男性とお付き合いしたことがないのですか?」


 メリッサ。そういう事はわりとあっさり訊いちゃうんだな。

 しかしアンジェは、ガーン! みたいな顔してしまってるぞ。


「私の親はそういった事には厳しかったのだ……それに、騎士になると決めてからは男にうつつを抜かしてる暇など――」


 左右の人差し指を顔の前でツンツンとさせて、愚痴るようにいう女騎士。

 ……このギャップはポイント高いな。


「しかしなアンジェ。そういうのは大事に取っておくような物でもないぞ。寧ろ早めに捨てておかないと、いざ本気の恋に落ちた時に困るかもしれん」


「そ、そういうものか?」


「私もご主人様の意見に賛成です。今のうちに握っておかないと、いざその時に戸惑ってしまって上手く対応できませんし」


 俺達の言葉に、うむぅ、とアンジェが唸ってみせる。迷ってはいるみたいだが、もうひと押しっぽいな。


「アンジェ。そもそもそんな初めてなんてものは取っておいてもいいことはないぞ? 確かにそういう恥じらいを好む男もいるが、重いと思ってしまうものだって数多くいる」


「む、むぅ、それを言われると……た、確かに守り続けているのも少し固すぎるか……だが、メリッサはいいのか? 私の初めてをヒットに捧げても?」


「そうですね……ご主人様は初めてを奪ったぐらいで変わったりはしないと信じております」


「勿論だメリッサ。アンジェの初めてを奪ったところで俺の君に対する気持ちは変わらない」


 ご主人様、とメリッサは俺に濡れた瞳を向けてくる。それに微笑を浮かべるアンジェ。


「なるほど……メリッサ、君はいい主に出会えたようだな。そして私も、このヒットになら初めてを捧げてもいいとすら思えてきたぞ」


「その意気ですアンジェ!」


「あぁ! 私は決意したぞ! さぁ貰ってくれるかヒット? わ、私の初めてを――」


 頬を染め、少し伏し目がちに、そして照れくさそうにはにかみながら、アンジェが俺に初めてを貰って欲しいと伝えてくる。

 勿論俺はそれに依存はない。ゆっくりと手を伸ばす。


「こ、これが男の、意外と太いな、だけど逞しくて――暖かい……」


 こうして俺は無事アンジェと一つになれた。

 ……うん、手だけどね。てか今更だが、なんだこのやり取り! てか、たかが手を握るだけでどんだけ決心いるんだよ!





 とりあえず無事アンジェの手を取ることが出来たため、俺は両手に華状態で残った一つの隧道をキャンセル移動で進んでいく。

 

 二、三回キャンセルした限りだと、これといった変化もないし、オーグもいなかった為、もしかしたらさっきのでアンジェが全て倒してしまったのか? とも考えたものだが。


 そこから更にキャンセル移動を続けると、鉱夫たちの屍体が目に飛び込んできた。

 どうやらこのルートにいた鉱夫はオーグ共の手で惨殺されたらしい。

 更に進んだ先では冒険者の遺体も見つかった。


 その中には、女の冒険者の姿もあった……この世界に来て初めての女性の遺骸に心が押しつぶされそうな気分になった。

 死因は胸部への一突きか。軽装だったのが災いしたのかもしれない。

 

 オーグは人間のように武器も扱う。冒険者の遺骸は全部で三体。中には顔を焼かれたようなのもいる。レッドオーグの炎だろう。


「酷い――」


 メリッサは瞳に悲しみを宿らせ、細い声で呟く。

 そしてアンジェもまた怒りに拳を震わせていた。


 すると横道の奥から人とは明らかに違う唸り声。

 そして少し湾曲した道の向こうから五体のオーグ。

 グリーン、ピンク、イエロー、ブルー、レッドが一体ずつだ。

 これがいつもなら、軽く突っ込み入れたいところでもあるが、こんな有り様を見た後ではとてもそんな気にはなれない。


「貴様らぁあぁあぁあ!」


 怒りの声を上げ、アンジェが弾けたように飛び出した。

 俺もステップキャンセルで即座にレッドオーグの正面に移動し、その首を刎ね、隣で呆けているブルーオーグの脳天をかち割った。

 

 アンジェの方へ顔を向けると、細身の刃に風の精霊の力を乗せ、イエローとピンクをズタズタに斬り裂いていく。

 怒りがそのまま剣に宿ったようだ。

 

「ギィ!」


 一体残ったグリーンオーグが背中を見せて逃げ出そうとする。

 俺は逃すまいとステップキャンセルをしかけたが、一足早く、なんとメリッサが背中からエストックでの刺突を浴びせトドメを刺す。


 そしてオーグが絶命したのを認めたメリッサは、その場でへなへなと腰を落とし、カタカタを小刻みに肩を震わせ続けた。


「大丈夫かメリッサ!」

 

 俺は彼女の下へ駆け寄り声を掛ける。

 するとゆっくりと振り返り、ひゃい――と上擦ったような声を上げている。

 獣型の魔物と人型の魔物ではやはり意味が違うか……恐らく初めて人を殺してしまったような、そんな感情を抱いているのだろ。


「ご、ごめんなさいご主人様。で、でも、何故か震えが――こんなことじゃご主人様の奴隷失格……え?」


 俺は膝を折り、ガバッ! とメリッサを抱きしめて、その頭を撫でてやる。

 そして耳元で、よくやったメリッサ、と囁いた。


 俺の背中を彼女も抱き返し、そして涙混じりの声で、ありがとうございますご主人様、と呟く。




「メリッサ、君の気持ちは犠牲になった人々にきっと通じてるさ」


 落ち着きを取り戻したメリッサが立ち上がると、アンジェが彼女を励ますような言葉を投げかける。

 その表情は優しさに満ちている。

 

 そして、私も初めて敵の命を奪った時は震えたものさ、と淋しげな笑みを浮かべる。

 メリッサに気を使ってるのか、それともその時の事を思い出しているのか。

 

 ……正直言うと俺は初めてこの世界で戦いを演じた時は何も感じなかったのだが――まぁそれはいいか。

 彼女のおかげでメリッサもかなり救われてるしな、感謝しなければいけない。


 しかし……この場に穴でも掘って遺体を埋めてやりたいとこだけどな。

 でも今は時間がない。とにかくまだオーグが残っているのは判った。 

 この奥に、まだまだ大量にいる可能性もある。

 

 俺はアンジェとメリッサに、彼らの無念を晴らすためにも、オーグ共を殲滅させようと告げ、二人の手をとって更に奥へと移動を再開させる。


 暫く進むと隧道の突き当りにぶち当たった。

 ただこれはあくまで本来の隧道という意味であり、その横にあまりに不自然な穴が空いてるのを発見する。


 掘ったという感じではなく明らかに崩れたといった感じだ。

 恐らく大量のオーグはここから出現したのだろう。


 俺は更に二人の手を取り奥へと移動する。

 すると――その横穴を抜けた先に、アンジェが戦いを演じてきた空洞よりも更に広い空間が存在し、そこに大量のオーグの姿があったのだった――

というわけで遂にヒットにバージン(手を繋ぐ)を捧げてしまった女騎士アンジェなのです!


…………ご、ごめんなさい!石投げないで!ヾ(・ω・`;)ノぁゎゎヽ(;´・ω・)ノ゛



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