第70話 娘
side マイリス
「ガンダル!」
私が駆け寄るとそこには事切れたビューティーの姿と目も虚ろなガンダルの姿があった。その胸には剣が深々と突き刺さっていてどう見ても助かりそうにもない。
「ガンダルしっかりして!」
「――マイリス、か。何だお前、そんな顔して。お前を攫ったクズが死んだところでどうでもいいだろう?」
弱々しい声でガンダルが答えた。自分を卑下したようなセリフ。確かに出会いは最悪だった。だけど事情がどうあれ彼らは私を助けてくれてここまで来てくれた。そんなガンダルを恨む気持ちなんて今の私にはない。
「何馬鹿言ってるのよ! クズなんかじゃない! 一緒に戦ってきた仲間でしょう!」
思わず声を張り上げていた。自然と目に涙が溜まっていくのを感じた。
「……ヘヘッ、お前はとんだお人好しだな。お、俺なんかの為に涙まで流してよ」
「誰か薬! 薬を――」
「無駄だ」
私が声を上げるとガンダルが私の手を握り悟ったように言った。その目は自分の死を覚悟した物だった。
「俺も、長くねぇ、だけど良かったぜ。俺みたいなクズでも最後に人の役に立てた。まして父娘ほど年の離れた女に看取られて、ヘヘッ、まるで本当に娘でもいたかのようだぜ」
「だったら、だったら生きてよ! 私の事を娘だって言うなら生きて一緒にいなさいよ!」
堰を切ったように涙が溢れてきた。だけど私はガンダルの手を握り続けた。まだ、まだ何か手が
あるはずだ。
「無理だ、よ。俺は、助からねぇ」
「諦めないでよ! そんなのらしくない」
「そう、だな。俺らしく、ねぇか。でも、もう、いいんだ。俺は、俺の、人生に、悔いは、ない。散々悪事を働いた俺だがお前と出会えて、良かったぜ。だから最期に俺からの願いだ――お前は、生きろ絶対に生き抜け、よ――」
そう言い残してガンダルの目から光が失われていった。どうして、どうして皆、私の前からいなくなるのよ――
「……マイリス」
「クゥ~ン――」
セイラとウィンリィが駆け寄ってきた。私を心配しているのがわかる。もうガンダルの手からは体温が感じられなかった。ガンダルは、身を挺して私たちを助けてくれた――いやガンダルだけじゃない。盗賊だった彼らが一丸になって命がけで私たちを助けてくれた。
「もう、泣かないよ。こんなのガンダルが喜ばないから。だから最期の願いを守る為にも私は生き残って見せる」
そう決意し私は涙を袖で拭い立ち上がる――そう、泣くのは後でいくらでも出来る。今はこの町を取り戻すことだけ考えるのよ。亡くなった皆の死を無駄にしない為にもね――
◇◆◇
「やれやれ、まさかサツイまでやられるとはな」
「これで高みの見物を決め込むことは出来なくなったな」
真紅の鎧に包まれた男、バイオレンスに向けて俺は言い放った。フォルスは残念な結果になったが――こいつの仲間はすべて倒した。三対一で数的にも有利な状況だ。
「お前を倒して冒険者ギルドの支配からこの町を解放して見せるさ」
「お前がか? 全く俺たちセブンスも随分と舐められたものだな」
セブンス――前もそんな名称を聞いたな。どうやらセブンスとやらは相当腕に自信があるようだな。
「だったらそのセブンスとやらの実力を見せてみろよ」
「――すぐにわかる。ブレイクサイクロン!」
バイオレンスが叫んだ。だがブレイクサイクロンだと!? まさかブレイカーの技を使うなんてな。だが可能性はある。別にあのジョブがザック専用というわけじゃないからな。
そしてバイオレンスは一回転するようにしながら持っていた巨大な大剣を振った。豪快な動きから衝撃波が周囲に撒き散らされる。
「十字受け!」
俺は双剣を交差させて相手の攻撃に備えて。重い衝撃にバランスを崩しそうになったが何とか耐えたぜ。
「ジーニ!」
だが後ろからスピニッチの叫び声が聞こえてきた。嫌な予感がして振り返ると地面に倒れるジーニの姿。様子を確認したスピニッチは苦悶の表情で首を横に振った――そんな、今の一撃で即死だったというのかよ……。




