第63話 アサシンの領域
「スピニッチ悪い助かった」
矢を放ったのは弓使いのスピニッチだった。そのおかげで俺も助かった。
「だが、済まない――」
しかし仲間が一人……首を切られたフォルスの目から光が失われていた。仲間のジーニも悔しそうに奥歯を噛み締めている。
「――戦いに赴いているのだ。我らノマデスの戦士にも既に覚悟はできていた。それにヒットが悪いのではない。我々の敵は目の前にいるこいつらだ」
スピニッチがバイオレンスとサツイを睨めつけた。ジーニは特にサツイに対する憎悪が強そうだ。
フォルスを殺したのがサツイからなのだろう。しかしこいつのジョブはアサシン。
中々厄介なジョブだ。特に今この男が使った殺陣は範囲内に踏み込んだ相手の急所を瞬時に切り裂くスキル。
だが今のはスキルはスキルでもスペシャルスキルだ。一度使った後は暫く使えない時間――クールタイムが発生する。
「今の殺陣は連続で使えない! 畳み掛けるなら今だ! スペシャルスキル――セイバーマリオネット!」
俺は双剣の複製を生み出し手数を増やした。その上で更に固有スキルを重ねがけする。
「セイバーダンシング! 疾風双刃! 闘双剣!」
俊敏さを向上させ更に剣速を上げ闘気をまとって双剣の切れ味も増した。
「行け!」
ジーニが連れ歩いていた狼たちに命じた。一斉にサツイに向けて狼が飛びかかる。
「――悪いが俺をただのアサシンだと思ったら大間違いだ。殺気術・殺気眼――」
サツイの目が光った。かと思えば襲いかかった狼の動きが止まり、サツイが前進しすれ違いざまに狼の喉を切った。
何だ、今のは? 殺気術? そんな技、俺の知識にはない。いや待てよ確かマサムネも殺気を利用していた。
それにマサムネの技も俺の知らないものだ。この世界はゲームに近くても人々は生きていてそれ相応の歴史もある。
その中でゲームにあったジョブに定められたスキルだけではなく独自の進化を遂げ開発された技もあるということか。
それがこいつの使う殺気術――
「殺気術・殺気刃――」
「サせるかよキャンセル!」
今のは明らかにジーニを狙っていた。どんな技かはわからない。だがこれ以上仲間は殺させないぜ。
それにどんな技だろうとキャンセルは出来る筈だ!
「――俺の技が?」
サツイが小首を傾げていた。やはり今のキャンセルで技は消えたようだ。
発動前だったから普通のキャンセルでいけたようだな。
「スパイラルアロー!」
スピニッチの放った矢が回転しながらサツイに迫った。
だがサツイはその一矢を横に飛んで避けた。
「そこだ! ジャイロスライサー!」
俺はサツイが避けた瞬間を見逃さなかった。その隙を――今度は俺自身が回転しサツイに突っ込む。
「殺気刃!」
サツイがまた殺気を利用した技を放った。キャネルをしたがクール時間が短い。
ゲームにはなかった独自の技だからか。一方俺は武器スキルを行使してしまった以上発動中にキャンセルは使えない。
「何!?」
だが俺が複製した双剣が相手の技から俺を守ってくれた。前もって出現させた双剣を防御モードで展開させておいた。
これで自動で相手の攻撃はガードされるわけってわけだ!
「仲間の仇だ!」
「――ッ!?」
そして俺の技はサツイを捉えた。切り刻まれたサツイが空中へと投げ出される――




