第56話 マイリスの覚悟と目覚め
「スピニッチの意見に俺も賛成だ。奴らは先ず諦めない。それに俺は諦めた結果奴らにいいように利用されどんどん追い込まれていった町を知っている」
アドベンフッドがまさにそんな街だった。逆らうことを諦めた結果冒険者が好き勝手し放題で、町の人々もわけのわからない借金まで押し付けられ盗賊にも狙われ命の価値も軽くなっていく。
「この町の冒険者も同じだろう。実際町も冒険者に乗っ取られたも同然なんだろう? この森は奴らの目的がはっきりしている分、尚更容赦なんてしない」
「せやな。今回は上手いこと返り討ちにしたったけど今度はもっと仰山引き連れてやってくるで。ただでさえ燃えやすい森や。こんなところで戦い続けたら森が全焼してしまうで。ほんまかなわんわ」
俺が自分の考えを述べると、カラーナも追随して族長を説得しようとしてくれた。他の皆も同じ気持ちだろう。
「にゃん。元冒険者ギルドの受付嬢としてはにゃんとも居たたまれない気持ちにゃん。でも、あの冒険者がろくでもないのは確かにゃん」
「……待つより攻めるのが得策。市街戦に持ち込んだ方がまだ戦いやすい」
「アンッ!」
ニャーコやセイラ、それにフェンリィも同意だ。
「――私はこれがいい機会だと思ってる。強い仲間も揃ったわ。お父様の事やっぱり忘れられない。今こそお父様の守った町を取り戻す時だと思う」
マイリスも改めて自分の覚悟を言葉にして発した。これにグリーンは何を思うか……。
「――話はわかった。ならば各々が思うようにするといい。だが私はここを動かない。神木を放ってはおけないからな」
皆の話に難しい顔を見せていたが、グリーンはこれまでよりは柔軟な考えを示してくれた。
「勿論、というより行くと言っても俺はここに残った方がいいと判断したさ。幾らなんでもここを放置してはおけないしな。それにエリンのこともある」
眠っているエリンを横目に考えを伝える。
「ボス、エリンがどないしたん?」
「あぁ。今回エリンはここに残していこうと思う。エアと交信できる力がある以上、何かあったときの為にもね。だからグリーン。どうかエリンを守ってはもらえないか?」
「それは勿論だ。私の命に変えてもエリン様はお守りいたす」
グリーンは俺の意を汲んで承諾してくれた。やっぱりエアのことがあったからグリーンはエリンに崇拝に近い意識を持ってるようだ。
それに今休んでおけばいざとなればエリンの力は強大だし、なんとなくだがエアの影響がある範囲の方が心強くも思える。
「あたしは行くよ! 姐御と一緒に冒険者連中を蹴散らしてやる!」
アイリーンが鼻息を荒くさせた。彼女も冒険者には苦い思いをしているからな。
「僕も行くけど、エメラルドはどうする?」
クローバが聞く。エメラルドは少し考える素振りを見せるが。
「……お兄様。私も行きます。何が出来るかわからないけど、この結末をお兄様の代わりにしっかり見届けたい」
エメラルドが決意を持って伝えると、グリーンは沈黙を保ったままコクリと頷いた。
「決まりね。勿論私も行くわ!」
「……その本気なのか?」
マイリスが同行する意志を見せるがスピニッチが疑問の声を上げる。
「何だおっさん。何か文句があるのか?」
「おっさ……まだ24歳なのだが……」
ガンダルの発言にスピニッチが肩を落とす。いや、そうなのか? まさかまだ20代だったとは……
「それはそれでだ。マイリスは流石に危険が過ぎるだろう。何もジョブも持ってないわけだし」
確かにそれは俺からしても不安な点だ。もっとも今のマイリスは行くなと言っても聞かないだろう。
「だとしても行くわ。これは私の使命でもある。父の仇討ちをしたいという気持ちもあるけど父様が愛した町を取り戻したい。その為なら盗賊でも何でもどんな力だって借りるわ! だからこそ、自分だけ安全な場所から傍観なんて出来ない。私がこの手で――」
そこまで語り、ピタッとマイリスの動きが止まった。そして――
「くっ、何かが私の中に、これって――」
「おいおい、これはまさか?」
「ジョブに目覚めたんか!」
ガンダルとカラーナが声を上げる。そして若干の間をあけて、マイリスが顔を上げた。
「――これ、私にも見える。ジョブが【ベーグム】って――」




