第52話 御神木を見る一行
俺たちは族長であるグリーンに案内されて、狙われていたという御神木の前に向かった。
「これが――御神木です」
「これは、凄いな――」
俺達の目の前には空に届くような、いや雲を貫くほどに巨大な大樹の姿があった。本当、心の底から驚いた。その巨大さは勿論だが、これだけの大樹にも関わらずかなり近づくまで気づくことが出来なかったからだ。
「不思議なの。こんなに大きな木、さっきまでわからなかったなの」
エリンが大樹を見上げながら俺が思った疑問と同じことを口にする。
「うちも驚きやわ。こんな巨大な木があったのにうちが気づくことも出来なかったなんて、ちょっと自信なくなるわ」
「姐御に察知出来ないなんて生意気な木ですね! おい! 空気を読め!」
「……それ言っても仕方ない」
「ガウ……」
カラーナはジョブがら周囲の気配に敏感だ。しかし、それでも気づけなかったぐらいこの大樹の隠れ方は見事だったということか。
あとアイリーンが中々罰当たりな発言してるな。セイラもフェンリィも呆れた目を向けてるぞ。
「ニャーコも気づけなかったにゃん。でも気にしないにゃん」
「お前はそうだろうな」
「ヒット、中々失礼にゃん」
猫のポーズしながらニャーコが文句を言ってきた。可愛いけど残念な性格してるからな。
「いつ見ても御神木様は神々しいです」
「これほどの神木を燃やそうなどと罰当たりもいいとこだ」
「はッ! 確かにデケェが所詮はただの木だろうが。木材にして売っちまった方が役に立つだろうさ」
「なんて罰当たりな……」
耳をほじくりながらガンダルが場違いなセリフを吐いた。盗賊らしい発言ではあるけどな。スピニッチが即座に反応していたしクローバが睨んでいた。
「ガンダル。この木は貴方が考えている以上にノマデスにとって大切な物。不用意な発言は避けて欲しいわね」
「ハッ、それは悪うござんした。今後気をつけますよ」
マイリスがガンダルを注意すると軽口ではあったが、へいへい、と応じていた。一度は攫った相手の筈だが、彼女の言うことは比較的素直に、と言っていいかは微妙だが聞くようだな。
「……この御神木には自然神エアが宿っています。御神木というのはただ崇める為だけについたわけではなく事実神が宿っているからこそ」
「それは凄いやないか。なぁボス」
「あ、あぁ。しかしエアか……」
エアといえば地球の神話でも有名所だな。だけどゲームの設定ではエアは出てこなかった。今更だがこの世界はやはり似てはいても別物なのかもしれないな。
「いくら神が宿っていると言われても俺らにはさっぱりわからないぜ」
胡乱げに語るのはガンダルの仲間のホークだ。鶏冠頭を持ち上げながら神木をマジマジと見ている。
「神の気配を感じ取れるのはグレイトネーチャーであるグリーン族長だからこそだな」
グレイトネーチャー……俺が知らなかったジョブだがその力はかなり強力だった。自然と深く結びついたジョブのようだが、それ故にこの御神木に宿る神がわかるのか。
「エリン様やそこのフェンリル殿は何か感じませんか?」
「……フェンリィ?」
「ガウ?」
グリーンの問いかけにセイラが小首を傾げた。フェンリィも何で? といった目をしている。
「唐突に申し訳ありません。フェンリルもエルフも自然とは切っても切れない相手。故に興味を持ちました。しかしその神獣はフェンリィ様と申されるのですね。素晴らしいご芳名でございます」
グリーンが頭を下げた。そういえばノマデスの民はエルフやフェンリルを崇めているんだったか。
「神獣フェンリルは勿論森を生きる偉大なる民エルフも我々は尊敬しやみません。こうして出会えたこともきっとエア様のお導きでございましょう」
グリーンが恭しくエリンとフェンリィに向けて言い放った。なるほど。それがあったからこそ御神木の前まで連れてきてくれたのかも知れない。
そうなるとフェンリィは勿論エリンのおかげでもあるわけか。
「すごいやんフェンリィもやけどエリンも大したもんや……エリン?」
ん? カラーナがエリンの頭を撫でて問いかけたけど、何かに気がついたようだ。
「……ご主人様。エリンの様子がおかしい」
「クゥ~ン……」
「にゃん? 一体どうしたにゃん?」
三人が揃ってそんなことを口にしたから俺もエリンに近づき様子を見てみたが、エリンは目を見開きそのまま時が止まったかのようにピクリともしなくなっていた。
「お、おいおい! まさか他にも伏兵が!?」
あの冒険者に生き残り連中がいて何かしらのスキルを行使したのかも知れない。
「けれどボス、周囲に気配なんて感じられへんで!」
「ガウガウ!」
「……フェンリィもわからないと言ってる」
「ニャーコにもさっぱりにゃん」
カラーナにもフェンリィにもわからない? それにニャーコだってシノビのジョブを持っている以上気配には敏感の筈なのに――
「こ、これはもしや!」
その時、グリーンが驚きの声を上げた。何かを悟ったような様子が感じられる。
「族長は何か知っているのか?」
「もし私の予想通りなら――」
『――私はエア。この森にて封印を守りし神』
え、エリン? 今までピクリとも動かなったエリンが口を開き語りだした。だけど、この声は明らかにエリンではない。しかも、今確かにエアと――
 




