第29話 宿を探して
「おい、なんかすげぇ叫び声が聞こえてたが何かあったのか?」
おっと流石にあれだけの声が上がれば、気がつくか。
ドワンが扉を開けて半分ほど身を乗り出して訊いてきた。
「あぁ、実は今チンピラに絡まれてな。武器持って襲ってきたから返り討ちにしたところだ」
「……これだけの人数をか?」
そういいながらドワンが扉から出てきて問いなおしてくる。
ふむ、まぁ確かにこれは多いけどな。
「ちょっと俺がやり返しただけで仲間を呼んできてな。まぁ正当防衛ってやつだ」
「そうか、しかしあんたやっぱかなり腕利きの冒険者だったんだな」
まぁ否定はしないけどな。
「しかし多いな。死体このままってわけにはいかねぇしな」
顎鬚に手を添えながらドワンが言ってくる。
そういわれてみればそうだが――
「なぁ死体だけ一箇所に集めておいてもらうことは可能か?」
ドワンが俺にそう訊いてくるが、そうだな。
「それぐらい問題ないやっておくよ」
「そうか。それとこいつらのもってる武器はどうする、俺の方で買い取ろうか?」
そういえば確かに物はともかく数は多いしな。
「お願いできるか? 実はちょっと入り用でな」
何せ直前まであった一〇〇万ゴルドが、銀行に盗られるというわけのわからない状態だからな。
「そうか、だったら――」
いってドワンが連中の武器をマジマジと眺め。
「全部似たようなもんだな。まぁ色付けて五万ゴルドってところだがいいか?」
「あぁ助かるよ」
今は少しでもありがたいしな。
するとドワンは一旦店に入り金貨を持って出てくる。
「ほらこれが買い取った分だ。じゃあ後はこっちでやっておくから纏めるのだけ頼む。そうすればそのうち回収されてくしな」
ぶっきらぼうにそう言って俺に金貨を手渡すと、ドワンは扉を閉め店に戻っていった。
こいつらの目的に関してそのまま伝えても良かったんだがな。
まぁ余計な心配を掛けるだけだしな。
それに雇われたのがこいつらだけなら、暫くちょっかい掛けてくることもないだろう。
さてとりあえず死体だが、これはまぁそんなに手間ではない。入れれるだけ一旦マジックバッグに収めて、で適当な場所に再度出すだけっと。はい完了。これを数回繰り返すだけだな。
……てか何気に聞き流してたが回収されるのか、そうか――まぁゲームみたいに消えるわけ無いしな。
さて後はギルドにいって依頼書を渡すとするかな。
……てか今日俺よく腕を切ってるな。全部で三本か。腕きりの~みたいな変な異名を付けられるのは勘弁願いたいものだ。
そんな事を考えながら馬車に戻ったんだが……なんかメリッサが、ぼ~っとしてるな? どうしたんだ?
「……れの――な……ッサ……」
何かブツブツ呟いてるな? 本当に大丈夫か? てか今の今までずっと呆けていたのか?
「おいメリッサ。おい」
「え!? あ! ご、ご主人様!」
「どうした? ぼ~っとして? 何かあったか?」
「い、いえいえいえいえいえいえいえ! みゃいれす! なにもないれす!」
そうか? 何かおかしい気もするがな。首も相当強く振ってたし。
「具合が悪いとかか? それならちゃんといってくれよ?」
「違います! 違います! 違います! そんな事ではないです!」
そうか? まぁ確かに元気そうではあるか。
「まぁなんでもないならいいけどな。それでまた冒険者ギルドに向かってもらってもいいかな? 何度も往復させて悪いんだが」
「そんなことはありません! ご主人様のご希望の場所に向かいますので!」
「あ、あぁ頼むよ」
なんか凄い力が入ってたな。
「あの、ところで大丈夫でしたか?」
馬車を走らせるとメリッサが少し心配そうに眉を落とし訊いてきたな。
勿論さっきの事だろうが。
「あぁ問題ないさ。怪我もないしな」
とりあえず全員しっかり死んでもらったしな。
ただボンゴルの件は頭の片隅にでも入れておいたほうがいいな。
「そうですか。良かったです……そ、それで、あの」
うん?
「どうした?」
「あ、いえ。先ほどのご主人様のあの、や、やっぱり何でもないです! とにかく急ぎますね!」
……? なんだか頬も少し紅いしちょっとおかしい気もしたが、とりあえずそのまま向かってもらい本日三度目の冒険者ギルド到着と相成ったわけだ。
「確かに依頼書は預かったにゃん。早速担当に回すにゃん。早ければ今日中に見積もり持っていくにゃん」
「あぁ頼んだよ」
それにしても今日中か。こういう仕事は早いんだな。
「それにしても早速依頼主から指名もらいとは中々やるにゃりね」
「それもご主人様の人柄故です」
メリッサが妙にニコニコしながら俺を持ち上げてくれる。
なんか今度は急に上機嫌だな。
「ところで依頼がなんで届いてないかは判ったかにゃん?」
と、そういえばその事があったか。
「いや詳しくは。ただ聞いている限りだとドワンも少し勘違いしていたところがあったようだ。今回は俺がしっかり聞いているから大丈夫だろう」
「なんだそうだったにゃんか。詐欺まがいの事を冒険者がしていたらどうしようかと思ったにゃん。信用問題に関わるにゃりね」
……これはまぁ、そのまま伝えるにはラグナという冒険者が少し気の毒な気もするしな。
顔もしらないけど。
それに厄介な依頼者と思われてギルドにしぶられても嫌だしな。折角指定してもらったわけだし。
まぁそれでもこのままじゃ一五〇万には程遠いか……多少は補完されたがやはり銀行が痛かったな――
「それで順調に話が進めば依頼はいつから請けられるんだ?」
「見積もりを担当が持って行って話が纏まれば、明日には出せるにゃん。指定の依頼にゃん他の冒険者には回らないようしておくにゃん」
「あぁ頼むよ。それで確かマウントストーンまではそんなに離れていなかったよな?」
「ご主人様。ここからですとマウントストーンは馬車で三時間ほど北東に進んだ先にございます」
「先に言われたにゃん」
あぁメリッサは優秀だからな。
まぁとりあえず話も終わったしメリッサとギルドを後にした。
この調子だと依頼はドワンのを請けることになるだろ。
明日は朝からナンコウ草を採取にいき、戻ってから依頼を請けるコースだな。
「メリッサ今日はいろいろ忙しくて悪いが、このまま服屋に寄れるか? 出来れば男女で下着を取り扱ってる店がいい」
「え!? 男女ですか?」
「そうだ。君の分のそのなんだ、替えも必要だろ?」
「そんな! 大丈夫です私は。これ以上ご主人様にご迷惑はお掛けできません!」
いやそういわれても一枚でずっとってわけにはいかないだろ。
「いいから行ってくれ。替えがないと不便だろ。俺も必要だ」
「はい! 勿論ご主人様は常に身なりをおとのえになるべきお方。ですが私にまで気を使って頂かなくても洗濯して使いますので」
「いや洗濯ってその間はどうするんだよ? すぐ乾くわけじゃあるまいし」
「そ、それはその、その間だけ身につけずに」
て、おい! 顔を紅くさせながら何いってるのこの子!?
「駄目だそんなもの! 自分の着てるものみてみろ! そんな短いドレスで、の、ノーパンとか危険すぎます! 認めないぞ!」
ちょっと歩いただけで、危険地帯丸見えになってもおかしくないぐらいなんだからな。
「ご主人様……そうですよね私の醜いものなど」
いや何故そうなる。
「ば、馬鹿な事をいうな。メリッサのは綺麗に決まってるだろ。ただ、そのなんだ誰か他の物にみられたら嫌だし、俺も照れくさいしとにかくそういうわけだから店に向かってくれ!」
「ご主人様……私の為にそこまで――判りました! お店に向かいます!」
なぜこの会話の流れで瞳を潤わせているのかよく判らないが、とりあえず俺たちは店に向かった。
「ありがとうございました」
店員に見送られ俺達は店を出た。メリッサの教えてくれた店は恐らくは中々安い店なのだとは思うが、それでも俺とメリッサの下着の替えに、それと俺はズボンも麻のを二着ほど購入し、全部で四〇〇〇〇ゴルドも使用してしまった。
預金は一〇〇万ゴルドあったのが預けた瞬間五〇万ゴルドに変わり、残りの現金はもう八〇〇〇〇ゴルドと少ししか残っていない。
おまけに預金は一度には下ろせず五〇〇〇〇を下ろせるのも一〇日後だ。
こういっちゃなんだがメチャクチャだな。なんだよ預金した瞬間に五〇万ゴルド持ってかれましたって。考えてる俺が一番理解できん!
くそ! なんとか出来ないもんかと考えてみるがな――とりあえず一度は銀行を見てみるべきか。
「あのご主人様本当にありがとうございます。ですが資金は大丈夫でしょうか?」
むぅメリッサも申し訳なさそうにしてるな。
ここで俺がしみったれた顔していても仕方ない。
実際かなり財布は心許ないが明日ナンコウ草を採取すればとりあえず一〇万ゴルド以上は間違いない。
それでも一五〇万は中々大変だがどうにかするさ。
「これぐらい問題はない。俺はいつでも稼げるしな。それより今日の宿を見つけないと、昨日のところはもう無理だしな。メリッサ部屋に風呂が付いている宿でいいところは知っているか?」
「え? 部屋にですか? 西門から東門に抜ける途中のホテルと呼ばれている所でしたら個別にお風呂も付いておりますが」
「そうかだったらそこに向かってくれ」
「ですがご主人様ホテルだとかなり料金の方が……」
むぅ? やはり高いのか……しかし多少なら仕方ない。というかここまできたらもうケチケチしてても仕方ないしな。
「とにかく行ってみれくれ。どのぐらいするのかもみてみたいしな」
「はい承知いたしました」
言ってメリッサが馬車を走らせ目的の街路に出る。
改めて見ると確かにホテルという綺羅びやかな看板の掛けられた施設が何箇所か設けられているな。
ゲームでもあったが俺は入ったことがない。
だから値段もよくは知らなかったりする。
まぁとはいえそこまで馬鹿みたいに高いわけじゃないと思うが――
「いらっしゃいませ」
……流石に内装が全く違うな。昨日の宿もそこそこと思ったが、床は大理石で立派な柱まで立っている。
エントランスも昨日の宿より倍ぐらい広いしな。
カウンターにいる受付の男も黒服だ。
やばい急に不安になってきたぞ。
「ご宿泊ですか?」
「あぁそのつもりなんだけどな問題ないか?」
「はい当店は奴隷が一緒であってもきめ細やかなサービスを心がけております」
「そ、そうか……」
口調もぜんぜん違うな。頭も深々と下げてきて愛想もいい。
奴隷を蔑視するような素振りもみせない。
まぁそれでも奴隷が一緒であってもという断りはいれてるけどな。
「ただ一点だけ。当ホテルでは奴隷がご一緒の場合は正式な主従関係であるかのご確認だけはさせて頂いております。滅多にあることではありませんが、時折逃亡奴隷を幇助しようとなされている方もおりますので――」
……やばいな。俺は別に逃亡奴隷を助けてるわけではないが、まだメリッサを正式な奴隷として迎え入れてはいない。
その事を説明するか? いや寧ろだったらなんで連れ回してるんだと訝しまれるかもしれない。
しょうがないここは素直に諦めるとしてそのまま――いや、ここでやっぱりいいとかいったらそれはそれで怪しいだろうし、キャンセルするにもまだ泊まると決めたわけではないしな。
そうなると――
「その前にここは一泊いくらだろうか? それは先に知っておきたいのだが」
「これは失礼いたしました。奴隷と一緒であれば当店はダブルのご提供とさせて頂いており、一泊三〇〇〇〇ゴルドとなります」
「三〇〇〇〇! それは無理だ! 高すぎる! こっちの予算は三〇〇〇程度でしかいないのに!」
「え? さ、三〇〇〇ゴルドでございますか? それですと流石に――」
「だよな! うん、どうやら来るところを間違ってしまったらしい。悪いな手間を取らせてしまって」
「いえいえ。それでは是非次はご予算に余裕のある時にでもご活用ください」
俺は入口前に立っているボーイに見送られながらメリッサとホテルを後にする。
てか、どんな金額でも予算とあわないといって出るつもりだったが、一泊三〇〇〇〇かよ! 高すぎだろ!
「おや? これはこれは奇遇な」
俺が今日の宿をどうしようと頭を悩ませながらホテルを出ると横からそんな声を掛けられた。
誰かと思ってみてみると、高そうな白スーツに身を包まれた男がニコニコとした笑顔を浮かべて立っている。
金色の髪を油で撫で付けパッと見、貴族然って感じだけど――
こいつは誰だ一体? う~んでもこの白々しい笑顔には見覚えがあるような、てか縁無しの眼鏡にこの細目――て!
「シャ――!?」
「おっと……」
シャドウはそういって俺の口を右手で塞ぐ。
「こちら側ではライトで通してますのでそれでよろしくお願い致します」
俺へ細目を器用に使ってウィンクを決めながら、頼み事をするようにいってくる。
てか、なんでこんなとこにこいつがいるんだ?
 




