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第3話 メリッサの頼み事

「お、お待たせいたしました――」

 

 メリッサがどことなく気恥ずかしそうに馬車から下りてきたが……それもよく分かる。


 いや、正直男の俺には装備が出来ないし、ゲームの中だとあまり気にしてなかったというのもあるが――


 これはこれで結構エロいな……


 ミラージュドレスは肩の部分からVネックで谷間が強調される仕立てがされており、更に下肢の丈も中々に短い。

 正確には太ももがガバっと顕になってるぐらい短い。

 超ミニってやつだ。正直これだと下着とあんまりかわらないんじゃないか? て気もする。

 いやヘタしたらそれより過激かも……自分で渡しておいてなんだが――


「いや、なんかごめん。まさかこんなデザインと思わなくてな」


「そ、そんな! 凄い素敵だと思います! 下着のままよりは全然本当に素敵です! ありがとうございます!」


 頬を染めながらも必死にフォローしてくれる。

 ここに来て最初に知り合ったまともな人間がいい子で良かったと心から思った。


「そんなお礼なんていいさ。あ、でもちょっと訊いていいか?」


「はい! 勿論です。ヒット様なんでもお聞きください、あ、全ての事にお答えできるかはわかりませんが……」


「勿論わかる範囲で答えてくれればいいよ。あと様とか照れくさいから、普通に呼んでくれていいからね」


 何せもとが日本人だからな。そのあたりはあまり図々しくもなれない。


「え? 普通にというと?」


「うん、だからヒットとかそのまま呼んでくれて構わないってこと」


 俺がそう告げるとメリッサは首をブンブンと横に振り否を示した。


「とんでもありません! 助けて頂いてしかも奴隷の身分である私などが名前をそのまま呼ぶなど!」


 う~ん、なんかこういうの読んだことあるな。 奴隷だからか。別に俺の奴隷ってわけじゃあないんだけどね。

 てか主人死んだんだから、もう奴隷でもないだろうに。


「じゃあせめてさんとか君とかそんなのでいいからさ」


「……わかりました。それではヒットさんと呼称させて頂きます。凄く恐れ多くも有りますが――」


 なんか凄い畏まってるな。俺的にはすげぇやりにくい。なんか物語で普通に接して欲しいと主人公がいってる気持ちがわかる気がするが。


 ……まぁいっか。とりあえず質問だが。


「え~とそれで、先ずここ、この辺りはアーツ地方で間違いなかったよな?」


「はいその通りでございます。ここはアーツ地方のコンボ大森林でございますね」


 うん。この辺はやっぱそのとおりか。まぁ地図にも表示されてたし間違いはないと思ってたけどな。


「そうか、それじゃあ今度はメリッサ、君に関する事だが、この馬車は一体どこに向かってたのかな? それでこの死んでるのは誰になるんだ?」


「この馬車の持ち主は商人のトルネロです。護衛の冒険者を雇って、この森を北東に抜けて走った先に所在するセントラルアーツの街にお酒を運んでいる途中だったのですが、この盗賊達に襲われてしまって……」


 ふむ。セントラルアーツか。街を望める丘の上に、この地方を治める領主が居城を構えてる街だな。

 そこそこ大きな街だった記憶がある。


「そうか――災難だったな。それでこの馬車とか遺体とかはどうしたらいいだろうか? 荷物とかは盗賊を退治したから無事なんだろ?」


「左様でございます。馬車に関しては持ち主が死亡してしまいましたので……ヒットさんが望めば所有物とする事も可能です。商人ギルドにトルネロの証明証を届け、変更手続きをする必要はありますが。それを済ませれば中のお酒はアーツセントラルの街で納品を待っている方がいらっしゃいますので、そこまで運べば代金を受け取ることも可能ですが――」


 ふむ、そういう事か。ゲームでは当然そんな細かい事は判らなかったし、やはり助けて良かったかな。


 俺は早速その話を聞いて馬車の中を覗いてみたが、酒樽が一〇程積んであった。

 メリッサの話だと樽一つに付き二〇〇〇ゴルドの値が付くということだ。


 因みにゴルドは貨幣の単位。まぁこれはゲームと一緒だ。

 馬車の中には貨幣の入った袋も無造作に置かれていた。

 

 不用心だな。冒険者の護衛がいるからと随分余裕を持ってたようだな。

 まぁ五人もいればそう思うか。てかこの五人どんだけ弱いんだよ。


 ちなみに貨幣はゲームでは魔物なんかを倒した時にコインみたいのが出て来てそれを回収してたが、実際この世界でも銅貨、銀貨、金貨との事だな。


 これはメリッサに確認した。といっても素直に訊いたのではなくて、袋の中は金貨ばかりだったからな。

 銅貨、銀貨はないんだなって尋ねた時の反応で理解した感じだ。


 もし全く違えば首を傾げたり何かしら反応があるだろうけど、トルネロは金貨しか持ち歩かないので、という反応が返って来たし間違いない。


 貨幣にはしっかり単位も刻まれていて、金貨は五〇〇〇ゴルド金貨、一〇〇〇〇ゴルド金貨、二〇〇〇〇ゴルド金貨の三種類だ。

 価値の違いは恐らく含有量の違いなのだろう。


 実際価値のある方が若干大きくて重さも違う気がする。


「盗賊は首を持っていけば報奨金が貰えますね。それとその、命を失ってしまった冒険者の持ち物も、それぞれの冒険者証をギルドまで持っていけば、彼らの荷物をヒット様の持ち物としても文句は言われないはずです」


 ふむ、この辺はゲームとは違うか。

 まぁゲームでは死亡したところで復活して街に戻ってたわけだしな。

 それにゲームでは最初から冒険者ではあったが、冒険者証というのはなかった。

 ステータスで確認とれたしな。


 ちなみに冒険者証をもっていかないと、この冒険者達の死亡確認が取れないから、その持ち物をもっていると盗品扱いにされたりする場合があって面倒だそうだ。


 馬車や酒に関しても一緒だな。

 まぁ冒険者ギルドと商人ギルドに脚を運ぶことぐらいは別に手間じゃないが。


「そっか、じゃあとりあえず使えそうなのは全部持っていくとしようかな」


「あ、はい! 私もお手伝い致します!」


 そんなわけでメリッサ協力の下、冒険者の装備品を剥がし持ち物を確認していく。


 盗賊に関しては流石に女の子に首を刎ねさせるのも酷なんで俺がやった。

 勿論盗賊の持ち物なんかも自由にしていいみたいだからそれも確認する。


 それで商人のトルネロは、着ているものは中々いい生地みたいだけど、盗賊に切り刻まれているからもう価値はないだろうな。


 ただ指につけていた指輪は結構高価そうだ。貰っていくとしよう。

 

 盗賊は持っている武器が多少金になるかってところか。後は僅かな貨幣を所持してた。

 冒険者も似たようなもんだが、装備品は盗賊よりはましだ。

 

 とりあえず手当たり次第マジックバッグに詰めていく。


 貨幣も重くなるからバッグにいれていくか。

 ちなみに種類は銅貨は一ゴルド銅貨、五ゴルド銅貨、一〇ゴルド銅貨五〇ゴルド銅貨の四種。

 銀貨は一〇〇ゴルド銀貨、五〇〇ゴルド銀貨、一〇〇〇ゴルド銀貨の三種類だったな。


 銅貨が一種類だけ多くて全部で一〇種類の硬貨があるわけだ。

 これは混ぜるとめんどそうだな。


「あ、あの――」


 とりあえず戦利品をマジックバッグに詰め込んで、考えを巡らせていると、メリッサがどことなくモジモジした感じに声を掛けてくる。


「うん? トイレか?」

「ち、違います!」


 赤面した顔で怒鳴られた。

 ちょっとデリカシーに欠けてたかな。


「実は、その――ごめんなさい! やはりそれは無理ですね! 諦めます!」


 ……はぁ? いや俺何も聞いてないしいきなり諦めると言われてもな。


「言ってる意味がちょっと判らないな。ちゃんと説明してくれる?」


「え? あ、ごめんなさい。でもこんな事をお願いしたら迷惑でしょうし……」


 何だ何か願いがあったのか。まぁ無茶なのは困るけど色々教えてくれたしな。


「何? なんでも呑めるってわけでもないが、遠慮しないで言ってみるといい。言うだけならタダなんだから」


 彼女は妙にモジモジしていてはっきりしない感じだ。何だろう? そんなに厄介な事なのか?


 とりあえずこのままだと話は進まない。

 俺は目で、いいからいいなよと訴える。


「わ、判りました。でも、その難しいとは思うのですが、わ、私をヒット様の奴隷にして頂けたら! な、と――」


 ……はい? いや、奴隷の部分で叫んで語尾は萎んできたけど。

 なんか俺もきょとんって感じだよ。

 

 聞き間違い……じゃないよなやっぱ。

 奴隷にして欲しいっていったよなこの子?


「あ、あの、やっぱり厳しいですよね?」

 

 メリッサが上目遣いで確認してくる。その仕草はとても可愛らしいのだが、駄目とかいう以前に。


「いや、厳しいというより結構驚いてしまったんだが――一応聞くけどなんで俺の奴隷?」


「そ、それは助けていただいたというのもありますが、話してみて悪い人ではなさそうだなと……」


 悪い人でなさそうなら奴隷にして欲しいって考え方がよくわからん。

 悪い人でないならそもそも奴隷にしないだろうしな。


 いや、確かにゲームで奴隷制度はあったけど、この子も自分の意志があるのは間違いないし。

 ゲームみたいにプログラムで生きてるわけじゃないだろうに。


「そんな理由で簡単に奴隷にしてくださいとか言うものじゃない気がするんだがな――」


 とりあえず思ったことをそのまま告げる。


「も、勿論失礼なのは知ってます! 私みたいな汚れた女がヒット様のような聡明な方にこのような……」


「いや! 違うぞ! そういう事をいってるんじゃない。俺が迷惑とかじゃなくてな。君自身の問題だろ? せっかく理由はどうあれこうやって自由の身になれたんだ。それなのにわざわざまた奴隷に戻ることはないだろ?」


 俺は諭すようにいう。何か偉そうだが間違ったことはいっていないだろう。

 けど、うん? 何か、え? てずいぶんと驚いた顔をしているな?


「……あの、ヒット様は奴隷制度の事はもしかしてあまり詳しくはないのですか?」


 なんだ不躾に。一応は知ってるつもりだけどな――

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