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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第23話 交渉のために

「クロートの娘を見つけただと?」

「へいダンデ副頭領」


 手下の一人の報告を聞きダンテは怪訝そうに眉を寄せた。

 クロートと言えば今はダンテに任されているこのモール砦を占拠していた男だ。

 そして元土竜山賊団の副頭であったダンテのボスでもあった。

 

 尤も今のダンテは土竜山賊団と縄張りを巡って頻繁に争っていた黒獅子盗賊団側の人間だが。

 何せクロートを裏切り死に追いやったのは間違いなくダンテだ。

 だが後悔なんて微塵もしていない。土竜山賊団を討ち取るのに貢献したという事で、黒獅子盗賊団内の副頭領という地位を授かった上、今はこのモール砦さえも任されているのだ。


 むしろ簡単に引っかかってくれてありがとうとさえ思っている。


 正直、黒獅子盗賊団になってからはダンテにとって愉快なことばかりだった。先ず実入りが圧倒的に違う。

 以前みたいに相手に遠慮する必要はなく、勿論荷も半分だけなどというケチくさいことは言わない。

 

 奪う時は全てを奪い、女以外は皆殺し、女も商品として使えそうなものを一部だけ残し、後は適当に犯してから処分しても責められることはない。

 

 本当に黒獅子盗賊団は彼らみたいな者にとって天国なような場所だった。裏切って寝返った他のメンバーも同じように思っていることだろう。


 ただ、一点だけ気がかりがあるとしたら、その娘のアイリーンの事であった。

 あの時、突如乱入してきたわけのわからない吟遊詩人と共に崖下に落ちていったのはダンデとて確認していたし、ブルートもこの高さなら助からないと言っていた。


 しかし、それでもダンデは気になり、あの後他の連中に崖下を捜索に向かわせたが、地面は勿論川の中からも二人の死体はでてこなかった。


 流れはそれなりに急であったし下流まで流された可能性は否定できなかったが、その事に妙な胸騒ぎを覚えていたのも確かであり。

 そこへ飛び込んできたのがこの報告である。


「……最近、こそこそと動き回るこそ泥みたいのが増えてると聞いてはいたがな……どうやらそれがあの二人だったって事だ。それで、始末はついたのか?」


 ギロリと手下を睨み、問う。するとどこかバツが悪そうな顔を見せ。


「それが、そいつはあの娘と吟遊詩人を見つけて追い詰める仲間のことを、枝から観察していたようなんですが――」


 報告に来たのはこの辺りの警備の為、巡回していた斥候のようだ。

 彼らはなにか異変があった際、優先事項は戦闘や援護より報告が上になる。


 なので戦闘の様子だけを見て戻ってきたのだろうが。


「どうやら、途中で邪魔が入り、それで二人を襲った連中は全滅したようです」

「全滅だと?」


 褐色の眉間に皺が寄った。明らかに不機嫌になってるのがわかる。


「その邪魔に入ったというのは誰なんだ?」

「へい、一人は褐色のいい女、もう一人は狼を連れて歩くメイド服姿のいい女、もう一人は猫耳のいい女だそうです」

「……とりあえずいい女だというのは判った」

「たまりませんなぁ」

「黙れよ」

 

 顔を歪めて嗜めるダンデである。


「まぁ、とにかくそのいい女三人は見つけ次第キープとして、一体何者なんだ?」

「副頭領も好きですね。何者なのかまでは……ただめっぽうエロくて強かったようですぜ」

「……そのエロいという情報はいるのか?」

「大事ですが、副頭領がいらないというなら」

「馬鹿が、そんなものは今度はどうエロいかもしっかり報告しろと言っておけ――とは言え、強いとはな」

「今後はスリーサイズも含めてしっかり報告させるとして、どう致しましょうか?」

「……そうだな。まだ近くにいるかもしれない。周辺の警備の人数は増やしておけ。念の為調査にも何人か向かわせて、見つけ次第……吟遊詩人以外は生け捕りにしろ」

「エロくていい女ですし当然でさぁ! 俄然やる気が湧いてきましたぜ!」


 何故か鼻血を出して気合を入れる手下であるが――


「ウゥ……」


 そんなふたりに目を向け続け唸る巨漢。瞬きなど一切せず、じぃっと見続けている。


「それにしても副頭領、あいかわらずこいつ、不気味ですね。襲ってこないかと心配でさぁ」

「安心しろ、そのクロート(・・・・)にはもう自分の意思は残ってねぇよ。カタベル様の手でアンデッドとして蘇らせただけだからな。全くそれにしてもセブンスってのは本当に凄いもんだ。俺の手でジョブを奪いたいぐらいだぜ」

「副頭領それは……」

「おっと口が滑っちまった。全く滅多なことは言うもんじゃねぇよな――それにしても、ハハッ、今思いついたぜ。アイリーンの奴、この親父崩れと無理やりまぐわせても面白いかもな」


 そんな事を口にしながら醜悪な笑みを零すダンテであり。


 こうして、元土竜山賊団のアジトであったモール砦でも新たな動きが見え始めていたわけだが――






◇◆◇


「あたいはやるよ! 砦に乗り込んで、親父の仇をこの手で討つんだ!」


 ブルーの計画を聞いたアイリーンの両目には復讐の炎が燃え上がっていた。

 事情はカラーナからも聞いた。アイリーンは土竜山賊団の頭であったクロートの娘だったのだが、そんな彼らと対立していた黒獅子盗賊団によって父の命は奪われたのだと。


 しかも、土竜山賊団はその時、内部からの裏切りにあい、内側から崩壊する結果となってしまったらしい。


 話によると土竜山賊団はカラーナが以前所属していたシャドウキャットと同じく、富のある商人や貴族からのみ金品を奪い、それらの大半を貧しい人々に配って回っていた、つまり義賊だったようであり。


 実際、話を聞いていたこの町の住人も以前はその御蔭で命拾いしたこともあったなどを口にしていた程だ。


 そしてだからこそ、その頭が死んだことを知り、悲痛な面持ちを見せていたりもする。


 それにしても本当この世界は、良い連中ばかりが早死し、悪党ばかりがのさばっていくな……


 とにかく、話を聞けば聞くほど、俺もその黒獅子盗賊団に関しては打ち倒してやりたいって気持ちが強まったわけだが。


「ところで、黒獅子盗賊団が許せないという点では私も同意なのだが、それを最優先にしたのには何か理由があるのか?」

「な、なんだいあんた! あたいの仇討ちに横槍入れようってのかい!」

「落ち着きぃ、アンにはアンの考えることがあるんよ。それにこういうときこそ冷静な目で見れるもんが必要なんや」


 カラーナになだめられ、アイリーンがおとなしくなる。

 本当カラーナを尊敬してるんだな。


 ただ、カラーナの言うことは尤もだ。仇討ちをしたい気持ちもわかるし、俺も許せないという思いもあるけど、こういうのは感情の赴くままにだけ進めてもいいことはない。


 俺にも色々思い出される事はあるしな……。


「それで、どうなのだろうか?」

「はい、勿論ありますよ。実はここであの砦を取り戻し、黒獅子盗賊団を排除することは、マントス領との交渉においても大事なのです」

「ふむ、というと?」

「黒獅子盗賊団は土竜山賊団の砦を奪い、あの周辺も牛耳ってしまってます。その結果、マントス側からやってくる商人が減ってしまいました。おまけにあの砦があることで、いざとなったら何かと理由をつけて、アクネがモール砦を拠点にし、マントス領を奪いにかかるかもしれない。この国が安定していれば、そのような真似に出れば国が歯止めを掛けるところでしょうが今はどうやら王国内も色々とごたついているようですからね。マントスを治めるエレメン伯爵にしても気が気ではないでしょう。ですが、ここで我々があの砦の奪取に成功することで、アクネはここぞというときの足がかりを失いますし、エレメン伯爵にしても懸念材料が一つなくなります」


 なるほど……この町にとってエドという後ろ盾があるのとないのとでは大違いだ。

 個人的にはエドなら、頼めば無碍にするような事はないと思うが、それは俺達に恩義を感じているからという部分が大きくなりフェアとは言えない。


 ブルーが求めているのもそういうことではなく、俺はあくまでキッカケでそこからはこれから先の事をよく考えた上で、互いに実りある交渉を進めて行く必要がある、とそういったところなのかもしれない。


 何せ俺たちはずっとこの町に留まっているわけじゃない。だけどこの町との関係は俺たちがいなくても続けていく必要があるわけだし、俺達がいなくなったらそれまでというのでは困る。


 だからこそ、こちらにも交渉の材料が欲しく、そのためには黒獅子団が占拠している砦が打って付けというわけだ――

諸事情によりこの作品を含めての全ての更新間隔が4月の上旬頃まで長くなりそうです。

出来るだけ短くなるよう頑張りたいとは思いますがどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m

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