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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第19話 完璧な狙撃

「キャンセル! キャンセル!」

 

 俺は咄嗟にキャンセルを連続使用。アンジェとメリッサに向けて変化した網が元のボルトに戻った。

 

 しかもキャンセルによって矢の推進力も失われたようだ。網はボルトに戻り、そのままポトンっと地面に落ちる。

 

 危なかった――今回は逆に相手のボルトが変化するタイプだったから助かったといえる。それとメリッサのくれた薬の効果も。


 あの薬のおかげでどうやら動体視力も相当に強化されているらしく、ボルトが網に変わる瞬間まではっきりと見ることが出来た。


 それがなければキャンセルも間に合わなかったことだろう。流石に見えないものはキャンセル出来ないからだ。


「助かった。ありがとうヒット」

「流石ご主人様です。私が安心して戦いに集中できるのもご主人様のおかげです」

「いや、メリッサの薬があったからこそさ。あれのおかげで相手の攻撃を見切ることが出来たからな」

「うむ、確かに肉体が強化され、視る力も強化されている。あのボルトの変化は私にもしっかり確認出来たぞ」

「そ、そんな! でも、お役に立てたなら何よりです」


 メリッサが照れくさそうに言う。

 彼女の作る薬の効果はかなり大きい。戦闘の支援役としてはなくてはならないな。


「あんた、私のためにありがとうね」


 すると、今さっきまで箒で冒険者と渡り合っていたお婆ちゃんがお礼を言ってくる。


「それにしてもやるねぇ。全く、私があと二十歳若ければ放って置かないんだけどねぇ」

「おいおい婆さん、二十歳程度じゃ何も変わんねぇだろ」

「ふん! 何いってんだい! 二十歳若返れば、男が放っておかないよ」

「よく言うぜ」


 どっと笑いが起きる。全くまだ戦いは終わってないというのに、逞しい人達だ。


「まぁ、私はもう無理だけど、そっちの二人はキチンっと守ってあげるんだよ。その若さで、大切なものを失う悲しみなんて背負うもんじゃないさね」


 どこか淋しげに、お婆ちゃんが言った。

 もしかしたら、この人はその悲しみを背負って生きてきたのかもしれない……。

 

「いいかい、死ぬんじゃないよ?」

「……勿論ですよ。俺も仲間も絶対死なせないし、お婆ちゃんの事も、何度でも守ってみせますよ」

「ハハッ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」

「えぇ、ですので、お婆ちゃんも、他のみなさんもここは俺達に任せて――」

「馬鹿言ってんじゃねぇ」

「そうさ、本番はこれからだろ?」

「そうそう。私達はこの町を自分たちの手で取り戻すと決めたんだ。今更引き下がれだなんて、そんな酷なことを言うもんじゃないよ」

「いや、しかしその武器では――」

「気合だよ。気合さえ篭っていれば、箒だって刃に変わるのさ」


 アンジェがお婆ちゃんの身を案じたが、キェエエェエエイ! と声を張り上げ、箒を振り下ろした。


 た、確かに年齢を感じさせない迫力だ。


「それに、私のこともあんたがちゃんと守ってくれるんだろ?」


 お婆ちゃんがギュッと箒の柄を握る力を強め言った。

 まだまだ、引き下がる気はないって事か。


「判りました。でも、いざとなったら俺たちを置いて逃げてくださいね」

「ふん、そんなのはいざとならないように戦うもんさ」

 

 ご、ごもっともな意見だけどね――


 そして、俺達の戦いは続く。合図を頼りに、俺達は冒険者の各個撃破に努めた。


 その間も、あのボルトによる攻撃は繰り返されたが、メリッサの薬の効果で難は逃れている。


 しかし、あのボルト、どうやらターゲットを自動で追尾する効果も付与されてるみたいだ。

 それが結構厄介でもある。ただ、それを踏まえるとやはり建物の多い場所で戦ったのは正解とも言えた。


 建物を避けるように追尾してくる為か、その分こちらにも余裕が生まれるからな。


 町の人達の協力も大きい。多くの冒険者はそれで結構足止めを食らったりしている。

 だからこちらも御しやすい。今、流れは確実にこちらに向いている。

 

 連中の逃げ道も防ぎやすい分、回復に戻らせること無くトドメをさしていける。


 この調子なら――






◇◆◇


 通信の魔導具から怒鳴り声が響いていた。相手はグレイ、無表情で聞いているのはスコープである。


「……だから何度も言っているだろう。こんなまどろっこしい真似はせず、爆撃でもすればすぐに片がつく」

『馬鹿野郎、それだとあのアンジェまでくたばる可能性があるだろうが。生け捕りにしろという命令なんだよ。大体そういうときこそお前のスキルが役立つはずだろうが!』


 ふぅ、と一つため息をつく。確かにグレイの言うとおり、いつもならとっくに捕縛できていておかしくない。


 その為に、投網タイプの拘束具をボルトに変えて持ち歩いていた。

 だが、今回は様子がかなり異なる。なぜか放った攻撃の多くが命中する前に効果をなくしてしまっているのだ。


 勿論理由が全く思いつかないわけではない。さっきまであのヒットという男の戦いを見ていて、奴の力は何らかの方法で相手の攻撃を中断させるタイプのスキルではないかと当たりをつけていたからだ。


 ただ、それも見えている攻撃にとっさに対応するか、前もって何か仕掛けを施していないと使えないとスコープは考えていた。

 

 その為、路地に入って移動を続けているような状態であればそのスキルは使えない、と、そう考えてもいた。


 だが実際は、どうやらそれが可能であるらしい。しかもヒット自身だけではなく、仲間に迫る攻撃にも対応可能とあっては想定が大きく覆る。


 スコープが愛用しているのは特注の連射式の弩だ。これを十全に活かせれば、倒すだけなら簡単だ。


 今グレイに言ったように、マジックボム系の魔導具をばら撒いてしまえばいい。


 スコープは流石にそれまでは防げないと考えているからだ。もしそれが可能であれば先程の戦いでも魔法や矢相手にもっとうまく立ち回れたはずだ。

 

 それをしなかったということは、不可能か、もし出来るとしても何かしらリスクがあるかだろう。例えば一度使用したら暫く使えないなどだ。


 ならば数で押す方法を選べば間違いがない。しかし、今回は何よりアンジェという女の拿捕が最優先事項だ。


 そうなると、今やっていた網を利用した手になる。スコープは念のため、スペシャルスキルのパーフェクトスナイプ(完璧な狙撃)も使用していた。


 これにより一定時間放たれたボルトは、狙った獲物か地点を目指して突き進むようになる。つまり追尾する。


 だが、これもヒットの何らかのスキルで妨害されてしまっている。爆弾みたいに広範囲にばらまくのと違い、網の場合はターゲットを決めて撃つことになるので、連射してばら撒いても意味がなく、時間だけが無駄に過ぎていってしまう。


 とにかく、ボヤボヤもしていられない。もう間もなくスペシャルスキルの効果は切れる。そうなると暫く使用することは出来ない。


 スコープにしろスペシャルスキルともなれば、やはり使用する上でリスクも生じるのである。


「……グレイ、一つ質問だ。相手を拿捕できるなら、仲間に影響が出るような方法でも問題ないか?」

『なんだそんなことか。その程度で解決できるならどんどんやれ。アンジェを捕まえるためなら多少の犠牲は仕方がない』


 グレイは必要と考えれば仲間であろうと切り捨てることは躊躇わない。

 尤もそういう男だからこそ、ジェノサイダー(斬殺者)などというジョブを身に着けたのであろうが。


 とにかく、とスコープは弾倉を入れ替え、別な手で相手を封じ込める作戦に出る。

 

 構えを取り、スコープは引き金を引き、限界までボルトを連射した。


 これでおわりだ、そう確信する。そしてそれは現実のものとなった。

 

 視界に映る、ある一帯が、瞬時に靄掛かる。濃霧(ガス)がどんどん広がりを見せていく。


「終わった。俺の仕事はこれでほぼな。残りはそっちの仕事だ」

『なるほど、その手があったか。カカッ、上出来だ。丁度こっちも二十人程出てた連中が戻ってきたところだ。そいつらを向かわせれば決まるだろう』

「……眠り防止はしておくんだな」

『勿論判ってるさ。それようの魔導具は持たしておく――』


 そして、声が途切れた。スコープは壁によりかかり外の様子を眺めながらも、体力の回復に努めるのだった――






◇◆◇


「これは、霧か?」

「いえ、ただの霧ではありません。睡眠ガスです!」

「くそっ、次から次へと――」

 

 相手の狙いが急に変わったなとは思ったが、まさかこんな手でくるとは。


 どうやら今度は網ではなく、メリッサの言う睡眠ガスの詰まった瓶をボルトに変えて放ってきたのだろう。


 しかも相当な数を連続でだ。だから、至る所でガスが発生し、それがこの辺り一帯に一気に広がってしまった。


 既に俺達と一緒に来ていた住人も倒れ眠ってしまっている。しかし、まさか他の冒険者にも影響の及ぶような方法を取るとは。


 ただ、俺達に関して言えば――


「とりあえず、効果を中和するガスを発生させました。これでこの煙の範囲から出なければ大丈夫です」


 そう、メリッサが咄嗟に調合してくれた薬のおかげで、なんとか眠らずに済んでいる。

 何せ俺のキャンセルは完全にかかってしまった状態異常は治せない。


 だからこれは助かるが、しかし急なことで材料も足りず、睡眠に耐性をつけるような薬は作れなかったようだ。


 つまり、俺達はこの中和ガスの及んでる範囲外へは出ることが出来ない。


 だけど、相手が何も考えてないとも思えない……もし、睡眠効果に耐性をつけた連中がやってきたら、少々面倒なことになってしまいそうだが……。






◇◆◇


 一方、アドベンフットの町を見下ろせる丘の上では、褐色の少女やメイド姿の少女、そして猫耳の忍がその異変に気がついていた。


「なんや、やっとボスと合流できると思っとったら――また妙なことに巻き込まれとる感じかなボス?」

「姐さん! ボスというと、あの時一緒にいた男ですね!」

「せや。しかし元気やな」

「あたいは元気なことが取りえなんです!」


 もはやカラーナにべったりで離れようとしないアイリーンに、若干疲れた顔さえ見せる姐さんこと、カラーナであり。


「にゃん、でも本当ヒットはトラブルに遭うのが好きにゃん」

「……もはや宿命」

「アンッ!」


 メイド少女の横にいる狼も、同意するように吠える。


「とはいえ、確かに厄介そうかもしれませんね。あの町はただでさえいわくつきですから。ですが、これはもしかしたら好機かもしれませんよ」

「好機?」

「はい。ギルドは私達の存在を知らないでしょうから、それであれば――」


 そして謎の吟遊詩人の発言もあり、彼らもついに町に向けて動き出す――

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