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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第17話 住人の決意

「――お前、本当にこのままでいいと思っているのか?」

「な、なんだよ爺さん、藪から棒に」


 一人の青年の下へ、白髪と白髭の老人がやってきて相手の心中を確認するように訴える。

 厳しい目つきであった。同時に落とした眉からはどこか自責の念も感じられる。


「だから、俺はお前の気持ちを知りたいんだ。本当に今のまま、あの悪辣な冒険者たちに好き勝手されて指を銜えて見ているだけで、それでいいのか?」

「……だって、仕方がないだろ。俺たちに、一体何が出来るってんだ」


 青年は、あの母娘に対しても、ヒットという冒険者に対しても、まるで全員を代表するように話していた。


 おそらく冒険者ギルドを除けば、この町の住人で発言権が強いのは彼なのだろう。


「お前はずっとそればかりだな。俺たちには何も出来ない。歯向かうだけ無駄。だが、本当にそれが正しいのか?」

「正しい正しくないじゃねぇんだよ! 現実を見ろ! そんな無謀な手段に出たところで、一体何が変わるってんだ!」

「そんなことはやってみないとわからないだろう」

「やっただろうが! あの母娘の父親が! 仲間を集めて無謀にも! でも無駄だった! 所詮何をやったって無理なものは!」

「やってねぇだろうが!」


 声を荒げ、可能性を否定する青年。

 だが、それ以上の叫び声で、老爺が咆えた。


 青年も思わず言葉をなくすほどの迫力。

 ギロリと青年を睨めつけ。


「何かをやったと誇れるのは、実際にやったことのある奴だけだ。お前はどうだ? この町のためにと勇気を振り絞って動いた男たちを、ただ見ていただけだろ? その結果だけを見て、駄目だと決めつけてるだけじゃねぇか」

「じゃあ、あんたは、動けば何か変わるとでも言うのか! この町が救われると言いきれるのか!」

「んなもんやってみなきゃわからねぇよ。だけどな、お前のいうどう考えても無謀な真似を、この町とは縁もゆかりもないような連中がしてやがんだ。困難に立ち向かってんだよ。普通に冒険者としてこの町のルールに従ってりゃ楽が出来たのに、この町の人間の為に怒り、救おうとしてたんだ。そして今も戦ってくれてやがるんだ。それなのにお前は、本当に何も思わないのか? 何も感じねぇか?」

「…………」

「それでも、何も感じないっていうなら、仕方がないさ。だけどな、俺はゴメンだ。ここは俺達の町だ。前にギルドに乗り込むときだって本当は俺も一緒に行きたかった。だけど、止められて諦めた。それから、結局俺も諦めっぱなしだった。だけど、もう嫌なんだ。俺だけじゃねぇ、声を掛けたら皆やるって言ってくれたよ。ゲンもバガルも、ダガンだってな」

「――ばっきゃろう。そいつら全員、あんたと変わんねぇか、下手したら更に年が上な連中ばかりじゃねぇか……」

「あぁ、そうだな。だけど、どうせ老い先短い命だ。だったら、この町の為に最後に一花咲かせてやるのも悪くねぇ。幸い、彼らが密かに残しておいてくれた武器だってある」

「武器と言ったて、あんな急ごしらえの投石機や弩でどうなるってんだ……」

「お前がそう思うならそれでいいさ。だが、俺達はもう黙ってなんて見ていられねぇ。最後のわがままだと思ってくれよ。じゃあな――」


 こうして一人の老爺が青年を残しその場を離れていった。さり際に見せた背中は、老いなど感じさせないほど広く、逞しく思えた。


 青年は自分の背中を擦る――あまりに弱々しく、なんて脆弱なのか、それが立ち向かうことを決めた漢と全てを諦めた男の違いなのか、と一人涙した――






◇◆◇


 くっ! 攻撃を受けた! 見えない位置からの攻撃。

 俺は、狙撃されたのか?   

 何かが砕けた音が聞こえたかと思えば、体中に鋭い痛みが走った。


 胸当てや具足は装備しているが、どれも軽鎧で保護してない箇所もあるわけだが、そこを的確に狙われた。

 

 突き刺さるソレを引き抜く。返しがついていて、抜くだけでも痛みが伴う。


 ダメージキャンセルを使うかどうか迷うところだが、あれは一度使うと暫くは無理だ。

 使い所は見誤れない。


 この攻撃一体どこから? いや、決まりきっている。あの櫓だ。当然あれが一番あやしい。


 だけど、ここから櫓までそうとう距離があったはずだ。そんなとこから狙い撃てるなんて、腕前は超一流すぎる。


 それからも、やはり何発か同じような攻撃。しかし、何発かは俺に当たる前に地面に落ちた。


 キャンセルトラップに引っかかったからだ。便利なスキルだが同時に十箇所という制限がある。


 念のため、メリッサの周辺にも撒いている。だから鉄壁ではない。


 だけど、少し妙だ。地面に落ちているのは、針の入ったガラス瓶。これは落下の衝撃で割れたが――キャンセルトラップにかかった瞬間、一瞬だけ普通のボルトが見えた。


 それが、この瓶に変化したんだ。

 と、いうことは――俺はあの時ベア達を貫いた槍を思い出した。


 アレももしかして、これと同じ方法だったのか? しかしだとしたら、厄介すぎるって、おいおい!


 突如、俺の頭上に巨大な岩石が無数に現れた。

 それが雨のように降り注いでくる。


「きゃぁああぁあ!」

「メリッサ! 大丈夫か!」


 メリッサの悲鳴に続くアンジェの頼もしい声。

 背後の雰囲気的に、アンジェがメリッサの側まで戻り、メリッサを助けたようだ。


 それにしても――もしこれが、俺のキャンセルトラップを見越しての攻撃だったとしたら、相当に厄介だ。相手は冷静に俺たちのスキルを見て、対処している事になる。


 冒険者側との数の差もある。このままでは俺達のほうが追い込まれかねない。


 そして、その悪い予感は当たった。

 次に飛んできたのは、岩石ではなく、マジックボムだったからだ。


「くそ! なんなんだ一体!」


 次々と怒る爆発の連鎖。もくもくと煙が立つ。しかも視界が悪くなったと同時に、冒険者の集団がメリッサとアンジェに襲いかかった。


 助けに行きたいが、俺の方にも重装の戦士が囲みにやってくる。


 キャンセルを掛けても、後ろには槍兵。並の相手ならどれだけの数できてもいくらでも蹴散らすが、こう組織的にこられると厄介なことこの上ない。


 メリッサは調合した薬も多用して、なんとか抗おうとしているようだし、アンジェもそう簡単にやられるほどヤワではない。


 だけど、この合間に飛んでくるボルトもいやらしい。


 針やら槍やら、車輪にも似た刃やら、そんなものが降り注いでくるんだからな。


 くっ、仕方ない!


「スペシャルスキル――【ダブルスタンダード】!」



 俺はここで初めて、グレイトダブルセイバーのスペシャルスキルを行使。

 すると、俺の中からもう一人、つまり分身体が現れメリッサとアンジェのフォローに向かってくれた。


「ヒット! ヒットなのか?」

「そいつは俺の分身体だ! それと協力してこの場を切り抜けてくれ!」


 分身体はあくまでグレイトダブルセイバーとしての分身体でしかなく、キャンセルは使えないが、それでも戦力にはなってくれるはず。


 そして俺は俺で、ダブルセイバーのスペシャルスキル、セイバーマリオネット(双剣操術)で手数を増やし、冒険者たちを切り伏せていく。


 だが、ダメージをある程度受けると逃げるという手を奴らはとるようになってきた。

 どうやら後ろには回復役も控えているらしい。


 逃げないようキャンセルなどを駆使して倒しに掛かるも、あの妙な狙撃に阻まれてしまい、中々うまくいかない。

 

 やべぇ、ダブルスタンダードは分身体の体力も俺が担っている――戦っても戦っても入れ替わるようにして攻められ、かなり疲労も困憊している。

 

 メリッサはポーションをなんとか飲ませようとしてくれているが、渡そうとすると狙撃で破壊される。


 狙撃がここまで厄介だとは――このままじゃ……。


「キャッ!」

「メリッサ!」

「おっと、あんたの相手はこっちだぜ!」

「くっ、どけろこの!」

「悪いが、こっちはあんたを連れて行くのが本命なんだ――」


 分身体が消えた――そこへ、冒険者たちが狙いを定めてきた。

 

「メリッサ! アンジェ!」


 目の前の敵を倒そうとする。だが、また狙撃。振り上げた肩に痛み。


 なんだってんだ、なぜここまで的確に攻撃があたる! 


「畜生が!」


 もう片方の手で無理くり剣を振り抜いた。悲鳴が上がり、相手のバランスが崩れる。

 

 二人に向かう動線が確保された。俺はキャンセルスキップで移動――


「ぐふっ!」


 だが、気づいた時には俺の腹に何かが突き刺さっていた。地面から飛び出した槍衾に似たトラップ、それによって、しまった、あの隙間はこれを見越しての、こんな単純な手に引っかかるなんて。


 思わず片膝をつく。思ったよりダメージが大きい。目の前で冒険者に捕らえられそうになるアンジェとメリッサ。


 このままじゃ――そう思ったその時、空が暗くなる。天を一瞥すると、岩石が浮いていた。

 

 また、狙撃なのか、そう思った矢先――


「う、うぁああぁあ!」

「な、なんだ、急に岩が!」

「これは、投石か!?」

「ぐふっ、矢だ、これは、ボルト? 誰かが弩で、俺達を狙ってやがる!」

 

 冒険者側から悲鳴が響き渡った。そう、この岩もボルトで狙ってるのも、ギルド側ではない。


 むしろ、この方向は、そうだ、俺達が避難しててくれといった住人のいた方向だ――

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