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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第9話 反抗

「おいカール! お前は予定通りギルドに戻れ!」


 斧を構えたベアが、外のカールに向かって声を荒げた。扉が閉まっていた為、姿は確認できないが、走り去る音だけは聞こえてくる。


「全く、出来ればあいつを動かしたくはなかったが、本当に馬鹿な男だぜお前は」

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。あいつが動いたって事は人質代わりのあの女どもの無事は保証されないって事だからな」


 俺の問いかけに答えたのはヨンだ。やたらと引き剥がそうとしているからおかしいとは思ったが……。


「つまり、研修が別々というのも、冒険者以外ついてくるが駄目な理由も、全て人質を取るための嘘だったってことか」

「まぁ、そういうことだ。一応新入りがやってきた時には何かしら弱みを握っておく決まりでね。滅多にいないが、中にはヒット、お前みたいに融通の利かないのもいる」

「特に、女連れなんて自ら弱みを曝け出してるようなものだからな。しかも一人は餓鬼だが、残りふたりは上玉と来てる。お前がここまで馬鹿だと判っていたら、俺が代わりたかったぐらいだぜ」


 この様子だと、碌でもないことを考えているのは確かなようだな。


 まぁ尤も、それが出来ればの話だが。


「一応確認だが、俺の仲間についているだろう連中も、ベア、あんたぐらい強いのかな?」

「ははっ、ばかいえ。俺はこれでもギルドではかなり上の方だ、まぁそれでも俺まで後一歩ぐらいの連中は混じっているがな」

「そうか、それは良かった」

「……あん?」

「何言ってるんだお前は?」


 ベアとヨンが怪訝そうに眉を顰める。

 だけどな、それならこっちとしては何の心配もしてないのさ。


「まぁ、とにかくだ、命までは取るつもりはねぇから、人質の事が大事なら大人しく――」

「悪いが、流石にここじゃ迷惑がかかる、外に出てもらうぞ」

『は?』

 

 二人同時に間の抜けた声と顔を披露したところに、俺は先ずヨンに近づきコンボを決めた。


 左袈裟斬り→キャンセル→右水平斬り→キャンセル→ダブルスライサー


 ヨン相手にはこれで十分だった。通常攻撃をキャンセルで二回繋ぎ、トドメに武器スキルのダブルスライサーで四コンボといったところか。


 これだけで反応が遅れたヨンは入り口の外へ飛んでいった。


「テメェ! 仲間の事が大事じゃないのかよ!」

「大事に決まってんだろ」

「な!?」


 ベア相手には、グレイトダブルセイバーから覚えた疾風怒濤で瞬時に距離を詰め、闘双剣の強化版にあたる無双闘剣を纏わせ、一撃をまず叩き込むが、長柄の部分でガードを試みて来た。


 だが好都合、キャンセルでガードを外す。


「な! 何で俺のガードが――」

「ダブルスクリュードライブ!」


 戸惑うベアに、回転を加えた双剣の突きを浴びせてやった。


 ぐぉぉおおお! と声を上げ、ベアも入り口から外へ吹っ飛んでいく。


「よし、俺も出るから、すぐに扉を閉めて。鍵がないなら支えになるものでいいから何か噛ませて身を守るんだ」

「え? あ、はい。あ、あの、ありがとうございます!」

「あ、ありがとうお兄さん!」


 ふたりからお礼を言われ、俺は腕を上げて返した。外に出るなりドアの閉まる音。内開きだから中から何か支えさせておけば鍵代わりになる事だろう。


「……お前さては、ただのダブルセイバーではないな?」

「…………」

 

 俺は答えない。わざわざ手の内を明かす必要なんてないからな。


「それにしたってイカれた野郎だ。あんな今日初めてあった母娘の為に、仲間を見捨てるなんてな」

「俺は見捨ててなんかいないさ」

「ハッ、何を馬鹿な、現に今お前は」

「違う、俺は信じているだけだ。所詮お前ら程度の三下しかいないようなギルドの冒険者に、俺の仲間がやられるわけないからな」


 俺の言葉にベアの蟀谷が波打った。

 三下という響きが気に入らなかったみたいだな。


「全く、折角この俺が目をかけてやったと言うのに、お前も仲間も、もう終わったぞ?」

「さっきは油断したが、次はやらせはしねぇ……」


 ベアが長柄を握る手を強め、ヨンがトントンっ、と地面を軽く弾み始めた。 

 そして――


「ハッ!」


 先ずはヨンからの鋭い前蹴り、確かにさっきよりも威力が高そうだ。

 受けると後手に回りそうだし、キャンセルに頼りっぱなしは良くない。

 

 だから半身を引いて、ギリギリで蹴りを躱す。


「甘い! 旋風脚!」


 だが、そこからヨンが腰を回転させ、蹴りの軌道が変化。攻撃範囲の広い格闘スキル、旋風脚へと繋いでくるが、ここはキャンセルだ!


「なッ!?」

「いい反応だ――」


 旋風脚の動きが途中でキャンセルされ、攻撃を繰り出せないまま終わったことに驚くヨン。これで今度は俺のターンだ。


 手早く双剣による攻撃を繰り出す。ここから攻撃を繋げれば――と、思っていたら真横から斧が迫ってきた上半身を反らしそれを躱す。


 チッ、というベアの舌打ちが聞こえた。これは斧スキルのホークブーメランだな。

 投げた斧がブーメランのように手元に戻るという斧持ちの代名詞的な技のアレだ。


 ご多分に漏れず戻ってきた斧をベアが受け止めようとしたのでキャンセルをかける。


「グギャ!」


 受け取ろうとした手が強制的に引っ込み、キャッチ失敗。見事に自爆し呻き声を上げた。ちょっとはスッとしたな。


「お前――一体なんなん、ギャッ!」


 ヨンがバックステップを繰り返し、距離を取ろうとしたが、いい加減面倒なので逃げる相手にファル(改良版スパイラル)コン(クロスボウ)ボルト(矢弾)を撃ち込んだ。


 悲鳴を上げたヨンは、そのまま地面に倒れピクピクと痙攣する。

 放ったのはショックボルト。電撃の効果が付与されたボルトで、相手を感電させる。


 しかも、クイックキャンセルで、三度ばかり感電させたからかなり気持ちが良かった事だろう。


 クイックキャンセルは、攻撃専門に使えるキャンセルで、通常のキャンセルより短いスパンで攻撃をキャンセルし繰り返してくれる。


 その為当たりさえすればクイックキャンセルで更に攻撃を重ねる事が可能だ。

 強力だが、繰り返すと消耗が激しくなるから、一度の攻撃で最大五回が限界だ。


 勿論それが強力なスキルとの組み合わせになると更に消耗は激しいが。


「チッ、情けねぇ。所詮上位ランク止まりか」


 キャンセルでボルトを回収していると、舌打ち混じりにベアがぼやいた。

 今さっき自爆した分際でどの口が言っているんだか。


「悪いが、お前相手にも負けるつもりはないんでな」

「言ってろ! 【百本切り】!」


 むっ、中々の大技だな。百本切りは斧スキルの達人級の技だ。斧を勢い良く薙ぎ払うことで斬撃が扇状に広がる。


 対象が個であることが多い斧スキルの中では希少な範囲攻撃の一つだ。

 斬撃もかなり速いから、見てから避けるのは厳しい。かといって通常のキャンセルは発動後のスキルには効果がない。


 まぁ、でも――


「スキルキャンセル!」


 俺にはこれがある。キャンセラーから高位のハイキャンセラーになったことで覚えたスキル。


 これであれば発動したスキルでもキャンセル出来る。折角放ったベアのスキルによる斬撃も、見事に霧散した。


「馬鹿な、スキルが、消されただと? そんな真似出来るわけが――」

「あるんだなこれが」

「な、いつのまに!」


 今度はステップキャンセルでベアの横に移動する。移動するという過程をキャンセルして、移動したという結果のみが残るステップキャンセルは相手からすれば瞬間移動でもみたかのような感覚だろう。


 そしてそこから、疾風怒濤と無双闘剣を発動し、攻撃速度と威力を底上げしコンビネーションを仕掛ける。


縦斬り→キャンセル→左切り上げ→キャンセル→ダブルスライサー→キャンセル→ファングスライサー→キャンセル→ダブルスクリュードライブ→クイックキャンセル×3


 ダブルスライサーは双剣による連撃、ファングスライサーは双剣を牙に見立てた上下への素早い連続攻撃、そこから回転を加えたダブル突きにクイックキャンセルを追加したので、合計九コンボといったところだ。

 

 ベアが叫び声を上げながら後方一直線に吹っ飛んでいく。


「グハァ! こんな、こんな馬鹿なことが――」


 最後に攻撃を当てた腹部を押さえながらまた立ち上がってきた。

 流石バーバリアンだな。確か固有スキルのタフネスを取得していれば、かなりタフになるはずだし。


「だが、もうお前の手は見切った! 今度は逆にテメェが痛い目を見る番だ!」


 ドスドスという音を奏でながら、ベアがやってきた。ジョブ的にあまり動きが速いタイプではない。


 どちらかといえば鈍重な方だとは思うが、そんなベアが、ある程度近づいたところで腰を回し長柄を引いた。


 明らかに何かの予備動作であり。


「喰らえ! 【アックスソーサー】!」


 アックスソーサー――ホークアックスのように斧を投擲するスキルだが、命中すると暫くその場で斧が回転を続け、電鋸の如く対象を切り刻みつづけるという中々痛そうな技だ。


 しかも高速回転の影響で見た目より一回りほど効果範囲が広くなっている。

 正直この位置で使われると厄介な技と言えるだろう。


 だから、今回は技が発動する前に、キャンセルで潰すことに――


「ウオオォオオオオォオオオオオオォオオオオ!」


 その瞬間だった、俺がベアの動きに気を取られ、キャンセルを掛けようとした時、ベアが咆哮を上げた。


 これは、ハウリング系のスキルだ。しかも、俺の意識が一瞬飛び、頭の中が真っ白になる。


 ショックハウリングか、もしくはスペシャルスキルのマックスハウリングか。

 どちらにしろ、このスキルは対象の意識を一瞬飛ばしてしまう。


 更に、マックスハウリングだったなら、全てのハウリングの効果が一度で発生。

 バトルハウリングで攻撃力が、プロストハウリングで耐久力が、ビーストハウリングで体力が大きく向上し、その上ハウリングフィアーの効果で俺の身体能力が一時的にダウンしているはず。


 そして――俺の意識が覚醒する。時間にして、ほんの二、三秒の出来事だったのかもしれない。


 だけど、その時には既にベアの姿がほぼ目の前にあった。

 この姿勢を見るにチャージングアックスだろう。


 先ず体当たりで相手を怯ませ、そこから斧を振り上げる連続攻撃。

 しかも相手より軽い俺の場合、振り上げの一撃で浮くことになる。


 そうなればそこから追加攻撃も受けることとなるだろう。


「これで決まりだーーーー! て、何ぃいイイぃいい!」


 勿論、それも当たれば(・・・・)の話だが。


 ベアは驚きを隠せない様子。何せ突撃が当たることなく急停止したのだからな。


 だけど、それも当然だ。相手がバーバリアンだとわかっているのだから、俺だってハウリングには注意を払う。


 だから、仕掛けておいた。事前にキャンセルトラップ(設置型キャンセル)をな。 

 前もって指定した位置に仕掛けておけるこれは、罠にかかった相手の行動をその場でキャンセルする。


 魔法でもスキルでも掛かればキャンセルされる。設置できる数は最大で八だが、その多くを俺の周辺に設置しておいた。


 もし、ハウリング系のスキルを狙うなら、俺の意識を奪いに来るのは当然。

 そして意識を奪えば、その間に攻撃を仕掛けてくるのも当然だ。


「悪いがこの戦い、最初からずっと俺のターンなんだよ」

「ま、待て! 判った! 俺が謝る! ギルドにも上手く言って仲間も解放させてやる、だから!」

「必要ねぇよ、そんなものは、な!」


 急に許しを請うてきたベアだが、俺は容赦なく双剣を構え。


ファングスライサー→キャンセル→Xスライサー→キャンセル→フライスライサー→キャンセル――


 Xの字に斬りつけるXスライサーから、跳躍しながら二度切り上げるフライスライサーに繋ぐ。

 これで見事ベアの巨体が浮き上がってくれた、浮かんだ相手に向け、俺は腕のファルコンを向け、撃つ!


「グボラァアアァアアァ!」


 放たれたボルトはベアのリングメイルを貫き、更に爆発した。 

 

 魔法の力が込められたボルト、グレネードボルトの効果によるものだ。


……元々はドッカンボルトという名称だったんだけどな。俺が改名しておいた。


 貫通したボルトはしっかりキャンセルで回収し、倒れて動かなくなったベアを確認するが、やっぱタフなのか気絶してるだけだった。


 まぁこいつやヨンは武器になりそうなものは取り上げて、適当にロープでもつかって縛り上げるとして……大丈夫だと思うがやっぱギルドに残った三人の事は気になるな――

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