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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第5話 盗人と山賊

 逃げた二人を追って、うちはセイラやニャーコと一緒に森を駆け抜ける。

 

 鬱蒼と茂る森は、緑の密度も高い。馬車で通れるような道はまだ良かったけど、一度脇にそれてまえば、視界もかなり狭くなる。


 せやけど、うちは盗賊や。逃げた相手を追うなんて朝飯前。おまけにフェンリィの背に乗ったセイラやシノビのジョブ持ちのニャーコもおる。


 これならそんなに苦もなく解決できるやろ。あのこそ泥連中を見つけるぐらいわけない。


 そう思ってたんやけどな。


「……この足跡から、あの二人の匂いする」

「アンッ! アンアンッ!」

「流石フェンリィにゃん。あっさりと痕跡見つけたにゃん」


 ニャーコの言うように、確かに明らかな足跡が二人分残っとる。

 匂いまでついているなら間違いないと、普通なら思ってまいそうやけどなぁ。


「……わかり易すぎや。これはちょっと怪しいで」


 屈みこんでじっくりと足跡を観察する。せやけどやっぱおかしいねん。


「……フェンリィの鼻が間違っていると?」

「クゥ~ン……」


 若干棘のこもった雰囲気感じるで。普通なら絶対気づかないぐらいの僅かな変化やけど、うちにはようわかる。


 フェンリィもしょんぼりしている気がして、何かすまん気もするけどなぁ。


「ちゃうねん。フェンリィの鼻は確かやねん。せやから、逆にそれを利用されとるんや」

「にゃん? 利用にゃん?」

「せや、大体みてみぃ。この足跡、あまりにキッチリしすぎとんねん。何の迷いもなく一直線に伸びてるんや。精々途中の障害物を避けてるぐらいやな。せやけど、素人でこれはありえへん、玄人でも足跡をそのまま残すなんてありえへん。つまりこの足跡は敢えて残されたんや。単純な手やけどな、敢えてこの方向に進んだ後自分の足跡を踏んで戻るんや。そして別の方向にでも逃げたんやろ」

「にゃん、でもそれにゃら、別の足跡が残るにゃん?」

「これぐらいの事を思いつくなら、相手はうちと同じ盗賊系のジョブ持ちやろ。それならわざわざ地面なんかに頼らなくても上に足場はある。仲間が盗賊系だったかまでは知らへんけど、あの変態は優男やったし、上手いこと一緒についてこさせたんやろ。もともと身軽だった可能性もあるけどな」


 うちの説明に、なるほどにゃん、とニャーコが納得を示す。


「……でも、匂いは残る」


 セイラからの指摘や。確かに枝から枝へ飛び移ったとしても匂いの問題はある。フェンリィの鼻であればそれぐらいは嗅ぎ取れる筈やしな。


「恐らくやけど事前に動物の毛皮を剥ぎ取って用意しとったかもしれへん。それを纏えば自分の匂いは消える。その上で魔道具かもしくは魔法の薬あたりの力を借りれば匂いを消すことそのものはそんなに難しい事ちゃう」


 尤もそこまで用意周到なら、盗賊としての経験はかなり高いかも知れへんけどな。


「それじゃあ追いようがないにゃん?」

「――大丈夫や、ニャーコうちとこのあたりで一番高い枝にのって、周囲を調べるの協力して欲しいねん。この条件に――」


 うちはニャーコにある条件を伝え、それにあった地形が近くにないか確認させる。

 これは完全にうちの経験からの直感やけどな。せやけど、相手がうちと同業なら、十分可能性はあるで。


「あったにゃん! 向こうに見えるにゃん」

「よっしゃ、ならそっちに向かうで」


 うちはセイラにも方向を示し相手が逃げたと思われる方へ疾駆する。


「……一体何を見た?」

「川にゃん」

「川?」

「せや、残された足跡とは違う方向で流れが緩やかで歩いて渡れそうな川や。匂いを残すこともしない連中やったら、締めに必ず川を利用し、匂いを洗い落とすことを考える。それに着替えもする筈や。それなら古い衣類も処分するのに川は最適や」


 セイラはそれ以上何かを聞くことはなかったけどな。表情から納得しておるんはなんとなく判るんや。

 

 それはそれやな、とにかくニャーコの見つけた川にたどり着いた。両岸に川辺がある持って来いの場所や。


 川幅は十メートルってところやな。


「うちは飛べるで、ふたりはどや?」

「これぐらいならニャーコもいけるにゃん」

「……愚問」


 ニャーコはともかくセイラも行けるんやなと思ったら、セイラは空中でフェンリィの背に乗って飛びおったねん。


 フェンリィも成長したなぁ。最初はあんなにちっこかったのに、頼もしくもありちょっぴり寂しい気もするねん。

 

「予想通りや、この辺り湿っとる」


 細かい石がゴロンゴロンしとるけど、その一部がよう濡れとる。

 ここで着替えたっちゅうことやな。油断が出とるで。それなりに経験はあるかも知れへんけど詰めは甘かったようやな。


 あとはこのあたりの地形を見て、ふたりが逃げていきそうな場所を目指すだけや。

 この調子なら間違いなくどこかで盗んだもんの中身を確認する。


 周囲から目立たないのがベストやけど、かといって木々や葉っぱに囲まれてるような場所は駄目や。


 そんな場所じゃしっかりと中身が確認出来へんからな。二人で少しだけ余裕があるぐらいの空間、それを見つけるはずや。


 せやけどその場所を普通ん見つけるのはうちでもキツい。なら――


「フェンリィ、ちょっとええか?」

「アンッ!」


 セイラと一緒にトコトコとフェンリィがやってきた。成長はしたけどやっぱかわえぇなあ。


「これは、少々難易度高いんやけど、重要な任務で恐らくフェンリィにしか出来へん。お願いしてえぇか?」

「アンッ! アンアンッアンッ!」


 おお、張り切ってくれとるで。嬉しいなぁ。


「それじゃあなフェンリィ、見つけてほしいのは水の匂いや、今飛んできた川の水を、それを浴びた人の匂いや」

「ふぇ? 流石にそれは難しすぎではないかにゃん? 大体水の匂いなんてあるのかにゃん?」

「勿論や。ホタルかて水の匂いを嗅ぎ分けるんやで?」

「そ、そうニャン? でも、だからってフェンリィにホタルと同じ事なんて出来るかにゃん?」

「……出来る、フェンリィは賢い、凄い」


 ニャーコが信じられないと言った目を向けるけど、セイラが即座に擁護したで。


「アンっ! アンアンっ!」


 そしてフェンリィもばかにしないでよ! と言わんばかりに吠えた。


 ニャーコは一瞬肩をビクッと揺らした後、すまんかったにゃん、と素直に謝る。

 素直なのはえぇことやな。


 そしてフェンリィが駆けていく。うちらもすぐに追いかけるで!





「アンッ! クゥ~ン……」


 どうやらフェンリィが見つけたようやな。うちらにだけ聞こえる程度の声で吠えて、草木の間から顔を出しとるで。


 それに倣って、うちらもフェンリィの吠えてる方を覗き込む。

 

 すると――






◇◆◇


「ようやく見つけたぜおふたりさん」

「全く、随分と手間を掛けさせてくれたもんだぜ」


 周囲を囲む山賊たちを睨めつけながら、アイリーンは、チッ、と忌々し気に舌打ちする。


 そんな様子を静かな面持ちで見ているのは、奇妙な吟遊詩人であるブルーだ。


「やっぱり、悪いことはするものじゃないね。きっとバチが当たったんだよ」

「そんなこと、今更言っても仕方ないでしょ!」


 アイリーンが怒鳴ると、痴話喧嘩かいお二人さん? と周囲の山賊たちが下卑た顔で笑いあげる。


「それにしてもまさかこんなところでマジックバッグが手に入るとはな、ラッキーだったぜ」

「うるさい! それはあたい達の戦利品だよ! 全く、物陰から掠め取るような真似して恥ずかしくないの?」

「ふん、そんなもんぼ~っとしてて盗られるテメェらが悪いんだろ?」

「うるさい! いいからさっさと返しな!」

「カカッ、返せと言われたって、もう仲間が先にアジトに持って帰ったからなぁ」


 肩をすくめる山賊たち。アイリーンは気分が悪そうに、ペッ、と地面につばを吐き。


「何が、お前らのアジトだ、あそこは親父の、土竜山賊団の拠点だ! テメェらみたいなド腐れがどうにかしていいものじゃないんだよ!」

「ハッ、本当威勢だけはいいな」

「あのクソみたいな偽善者の血を引いてるからだろうよ」

「だったら、その偽善者ぶりを俺たちを相手に発揮して欲しいねぇ。いい女は大体いつも頭が食っちまうからなぁ」

「ヘヘッ、違いねぇ。こいつならやることやった後は始末して首だけ持ち帰ればいいだろうからな」

「テメェら、やれるもんなら……」

「やれやら、さっきから私が蚊帳の外過ぎますね。これでも私、存在感はある方だと思ってたんですが」


 そういいつつため息を漏らす。すると囲んでいる山賊の目が一瞬点になり。


「あぁ、そういえばテメェみたいなのもいたなぁ優男」

「奇妙な演奏で、妙な事をやりやがるやつだったな」

「だけど、テメェもついてなかったな。お前の事は既に話に聞いている。だから、テメェが少しでも妙な動きを見せたら、問答無用でこいつらに矢を射たせる。それが嫌なら、大人しくその餓鬼が嬲りものにされるところを見学して置くんだな」


 二人を囲っている山賊には弓持ちも多くいた。アイリーンも弓使いだが、その数の差は大きく、迂闊に手は出せない状況でもある。


「な~に、テメェはもともとは俺達とは関係のない野郎だ。条件次第じゃ生かしておいてやってもいいと思ってる。だから大人しく」

「お断りします」

「……ハッ?」

「ですからお断りします。それに私はむさ苦しい男が嫌いでね」

「……いい度胸してるじゃねぇか。だがテメェ、状況判って物言っているのか?」

「えぇ、勿論判ってますよ。ですから、すみませ~ん、そろそろ助けて頂けると嬉しいのですが~」

「――へ? いやだちょっとブルー何言ってるの? 遂に頭が……」


 彼の発言に可哀想なものを見るような目を向けるアイリーンであったが、しかしその時――突如藪から飛び出した一頭の狼が次々と山賊の首を爪で引き裂き、メイド服の女性が魔法の火の玉で強襲、更に褐色の少女が投げナイフを次々投擲し、土の中から飛び出した猫耳の女の子が弓持ちの山賊を手持ちの小さな剣で次々と切り裂いていった。


「な、なななっ! なんだテメェらは!」

「う~ん、何やと問われれば、本当はうちらただの被害者なんやけど――ま、あぁ言われたら放ってもおけんしなぁ。まぁとにかくや、死にたくなかったら大人しくせいや?」

「……形勢逆転」

「アンッ!」

「にゃー! 勝ったも同然にゃん!」

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