第3話 アイラブおっぱい
「な、なんやねんこの変態は~~~~!」
突如現れ妙なソングを披露し始めた彼に真っ先に反応を示したのはカラーナだ。
やはり口調からして何となく感じていたけど、ツッコミをつい入れてしまうのは性分なのかもしれない。
「I LOVE Fカップ♪」
「は?」
すると、前に出て声を張り上げたカラーナに向けて、この男は更に歌詞を紡ぎ始めやがった。
カラーナも思わず目が点だぞ!
「君のおっぱいはFカ~ップ、FカップのFはFreedomのエッフ! そこに自由、僕は言う♪ そのわがままおっぱい自由で最高ラララ~」
『…………』
いやなんでちょいちょいラップ調なんだよ! そもそもこの世界にラップ文化があるのかよ! あったとしても上手くないよ! てか!
「最低やこの男ーーーー!」
先にカラーナに言われたーーーー!
「にゃんにゃん。なんなのにゃん? この男おっぱいのことばっかりにゃん」
「ラララララ~、それは当然僕は隠せない、おっぱいのことなら僕に聞け。趣味はおっぱい、興味もおっぱい、君のおっぱいも当ててみようイェイ」
「にゃにゃ!?」
どうやら次のターゲットはニャーコに決まったようだ。
「ランララランララ~、君のおっぱいEカップ、とてもい~ねEカップ♪ ついでにエロいねEカップ、エロくていい胸Eカ~ップ、ラララ~」
「内容が全然ねぇ~~~~!」
思わず声に出して突っ込んだぞ! なんだこいつ! なんだこいつ!
「で、でもカップはあってるにゃん……」
あってたのかよ。結構あるんだなニャーコ……いや、何いってんだ俺!
「ご、ご主人様……」
「大丈夫だメリッサ。よくわからないけど、こんなやつに手出しは――」
「Hカップ!」
「キャッ!」
突然男がメリッサの胸を凝視して叫びだした。今度は何だ!
「ラララララ~♪ 君の胸はHカップ、ホットでハードなHカップ、その谷間は底なし、その間に埋もれたいし♪ そんなHな夜はホット! 床はハード! 魅惑のおっぱいHカップ、ラララ~」
「あぅうぅううぅう……」
メリッサがめちゃくちゃ恥ずかしがってるだろ! てか、え、Hカップ? そんなにあったのか……。
「ご、ご主人様~違います、私、そんな、そんなHじゃ、あ、いえ、カップはそうなんですが……」
「だ、大丈夫だぞメリッサ! 判ってる判ってるから!」
「てか、メリッサそんなにあったんやね……恐ろしい子や!」
カラーナも何いってんだよ!
「き、貴様さっきからふざけたことばかり言っているんじゃない! 一体どういうつもりだ!」
そんなやり取りをしていると、ついにアンジェがキレ気味に男に詰め寄った。
だよな~騎士のアンジェがこんなの許すわけないもんな。破廉恥な! とか思ってそうだし。
「ユーはGカップ!」
「ふぇ!?」
ところがだ、グルンっと顔を向け目をクワッ! とさせて叫ぶものだからやっぱりアンジェが驚いた。
「ラララララ~♪ GはグレートのGカップ、そしてゴージャスなGカップ、その胸は大きい、その胸は高貴~♪ グレートでゴージャスなおっぱい、それがGカップ、ラララ~」
「うむむむ、ひ、ヒット! 一体なんなのだこいつは!」
「いや、俺に聞かれても……」
険しい目つきで何故か俺にふられたが、正直俺だってどうしていいか判らない。
「…………」
「クゥ~ン……」
いや! セイラそんな自分の胸をペタペタ触って物憂げな雰囲気出さないで! フェンリィも気を遣ってるから!
「君はAカップ!」
「……それがどうした」
直球で来たーーーー! アンジェが終わったと思ったら今度はセイラまでターゲットにして、しかもはっきりと言い放った!
いやいやセイラも、表に感情出さない子だけど、でもなんとなく判るから、そこデリケートなところだから!
「ララララ~♪ Aは愛溢れるA、そしてエースのA、愛溢れるエースは常にハートの側に、君の鼓動、その振動、身近に感じるその感動、何も恥じることないYO! 微乳も美乳、美しいおっぱいであることには変わらな~い♪ ハートに近いAは慈愛あふれるAカップ~ラララ~」
「…………」
な、なんか終わってみたらセイラもちょっとまんざらでもないような、そんな雰囲気醸し出してるな。
「エリンも聞きたいなの! エリンも教えてなの!」
「え!?」
「ちょ、ちょい待ちや! 流石にまだ」
「え、エリンにはまだ早いと思うぞ?」
「……(コクコク)」
「クゥ~ン」
「そ、そうだな。流石にエリンは年齢的に……」
「嫌なの! エリンも聞きたいなの! エリンだって立派なおとななレディなの!」
な、なんかムキになってしまったな……そういう年頃なんだろうか。
「ララララ~♪ 君のカップは∞カップ~♪ 未来溢れる夢のカ~ップ、今はまだまだ未成熟な果実、でもこれからまだまだ成長する果実~ラララ~」
「……よくわからないなの」
エリンがしゅんっとして残念そうに言った。
まぁ、確かにちょっとアレだが。
「エリンはこれからもっともっと成長するから無限大の可能性があるって言いたいんだと思うよ」
「エリンこれからなの?」
「せやで、エリンはこれからもっと成長して男の百人や二百人手玉に取れるぐらい美しくなる筈や。うちが保証するで!」
「凄いなの! エリン男を手玉に取るなの!」
「いや、手玉に取ったら駄目だぞ! カラーナも何を教えてるんだ!」
「にゃんにゃん、でも魔女になりそうな雰囲気はあるにゃん!」
「そんな、私はきっとエリンちゃんは天使のような女の子に成長すると思います!」
「ま、まぁ、魔女よりは天使の方がいいよな」
「……どちらにしろ、エリン次第」
「アン! アン!」
確かにセイラの言うようにエリンがどうなるかは自分次第なのかもしれない。
でも、男を惑わすような魔女には俺がさせない!
「ララララ~♪ 今日は最高、この出会いに感動、最後まで僕の歌を聞いてくれて感謝、だけどそろそろ退散~悲しいけどそれも運命、でもまた会えるその奇跡信じてアディオスグッバイ、ラララ~」
へ? な、なんか好き勝手歌ってたと思えば、今度は急に頭を下げて、踵を返して去っていったぞ……。
「……行ってもうたわボス」
「あぁ、そうだな」
「一体なんだったのだアレは?」
カラーナが呆れ眼で述べ、アンジェが首を傾げた。確かに正直何のために現れたのかさっぱりわからん。
いや、それ以前に何であんなのと出会ってずっと歌聞いてたんだっけか?
「あ、あのご主人様」
「うん? どうかしたかメリッサ?」
「その、女の子がいなくなってるのですが……」
「女の子?」
「にゃんにゃん、元々その子に助けを求められた筈にゃん」
「あ! そういえば!」
確かに女の子が逃げてきて、おかしなやつに追いかけられてると言っていたんだっけか。
で、確かにどこからどうみてもおかしなやつだったわけだが、それが唐突に去っていって、そして、少女もいない?
「……バッグ」
「うん? バッグ?」
セイラがふと呟く。何かと思い、俺は腰のあたりに手を回してみるけど、回してみるけど――
「……あ、あれ? あれれ?」
「いや、まさか思うけどボス――」
カラーナが口元をひくつかせ、半眼で述べる。周囲にも、もしや、といった不安そうな空気が漂う。
そして――それはまさに思った通りの結果なのであり。
「……バッグがない、もしかしたらあの少女に持って行かれたのかも――」
『ええええぇえええぇええ!?』
「……おわた」
「クゥ~ン……」
「ドジっ子なの! ヒットはドジっ子なの!」
やめて! その言い方なんか地味にきくから!
◇◆◇
「へっへっへ、上手く言ったよブルー、ほらこれどうやらマジックバッグみたいでさ、これだけでも上等ってもんさ」
少女はヒットの腰からバッグを奪った後、そっとその場から離れていた。
幸い、その場にいた全員がパートナーの歌に聴き入って(ある意味だが)いたため、バッグを掠め取る作戦は思いの外あっさりと上手くいき、彼女もほくほく顔であり。
「――う~ん、でもやはり僕はこういう手はあまり……」
「何いってるんだい! そんな悠長な事言っている場合じゃないじゃないのさ! こちとらあの砦を追われてから、ろくな物を口にしてないし、お金だって銅貨の一枚も持ってないんだからさ! 多少強引でも、手に入れるものは手に入れておかないと仕方ないだろ?」
「むぅ、確かにそうですが……」
少女が諭すように述べるが、やはりブルーは納得がいかないといった難しい顔を見せていた。
わけあって彼女と行動を共にするようになり、そして今回も背に腹は変えられないと一度は協力したが、どうしても割り切れないものがあるのだろう。
「……あのさブルー、あんたまるで清廉潔白みたいな空気出してるけど――ほれ」
「ワオ! デリシャスDカップおっぱ~い!」
少女が前を開けさせると、その瞬間飛び込み、胸をガン見するブルーであり――ハッ! と少女に再度向けたその顔は相当に締まりのないものであった。
「――これだからね、本当、胸のことになると欲望丸出しなんだからさ。説得力ないんだよ」
「う、うぅう……」
結局それ以上は何も言えないブルーなのであった――
骨がようやくくっつきました。指が曲がるのはまだ完全じゃありませんが執筆も本調子に戻せるよう調整していきたいです。




