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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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エピローグ

「にゃん! ヒットもっと離れるにゃん!」

「ぼ、ボスほんまごめんな?」

「う、うむ、なんというかその、悪かった」

「ご、ご主人様! 私は、私はこの程度の匂い、う……」

「……無理しない」

「クゥ~ン」

「ははっ、いやはやしかし、酷い匂いでござるな~」


 ……とりあえず無事ダンジョンからは脱出した。いや、正確に言えば無事ではないか。


 結論で言えば、俺はあのふざけた魔物の体液なのか何かしらないが汚水を一身に浴びることとなった。


 キャンセルは当然した。ああ、そうしたさ。だけど俺は肝心なことを忘れてた。

 

 俺のキャンセルは命に関わることは出来ない。つまり俺の双剣であっさり倒された魔物をキャンセルするということは、キャンセル前の状態に戻すことにつながり、それは蘇生してるのと同一だ。


 だから、俺のキャンセルは無効扱いとなり、結局俺の身体は穢れてしまったのさ、なんてこった。


 こんなことならキャンセルアーマーにしておけばよかったと今更後悔しても後の祭りだな。まあ、おかげで湖に流入していた水も止まったしな。


 後はエリンに湖までついてきてもらって精霊の力を呼び起こさせて穢れた水を浄化すれば元通り、精霊が心地よく住める綺麗な湖が戻るだろうさ。


 俺は穢れてしまったけどな……しかも予想以上に臭い。あれが吐き出していた水より臭いぞこれふざけるな!





「おかえりなの~ひぃ、くちゃいなの! 汚物は浄化するなの~~~~~~!」


 俺達が街に戻るとパタパタと相変わらずの可愛らしい走り方でエリンが駆け寄ってきたけど、俺の近くに来た途端、愛らしい顔をクシャクシャに歪めて逃げるようにして離れながらなんか精霊の力で水を大量にぶっかけられた。


 俺、ショックだよ……。





「ヒット、そう落ち込むな。エリンも事情を聞いて謝っていたではないか」

「でも、近づいては来なかったしな……」

「うむ、これだけ臭ければ仕方ないでござるな!」

「にゃん、マサムネそれは失礼にゃん」

「言うてもニャーコかて、近づこうとしないやん」

「カラーナも一緒にゃん」

「うぅ、ご主人様もうしわけありません……」


 ああ、別にいいのさ。慰めてくれたアンジェもちょっと離れた位置からだしな。


「ヒット様、お話はお伺いいたし、くさ!」

「すみません……とりあえずお風呂お借りしていいですか?」


 屋敷でエドが出迎えてくれたけど、反応は一緒だった。よっぽど臭いらしい。いや、自分でもそう思うけど、どうやら第三者からだとよりキツイようだな。


 仕方ないからお風呂を先に借りることにした。失礼かとも思ったけどあっさり貸してくれた。そこまでキツイか……。


「ボスーーーー! 背中流すでーーーー!」

「て、カラーナ何あっさり入ってきてるんだよ!」


 とにかく汚れを落とそうと風呂場で奮闘していたら、褐色美少女のカラーナが飛び込んできた。いやいや! 大胆すぎだろ!


「エリンもお手伝いするなの!」

「それは色々まずいだろ!?」


 美幼女エルフまで入って来たよ! これ、論理的にまずいから! 


「にゃん、にゃん、広くていいお風呂にゃん!」

「いや! なんでちゃっかりニャーコまでちゃっかり入って来てるんだよ!」


 お前ダンジョンで恥ずかしがってたアレはなんだったんだよ!


「あれでふっきれたにゃん!」

「あ、そう……」


 口には出してないんだけどな、表情で気持ちがバレたようだ。

 いや、そういう問題じゃないなこれは!


「ご、ご主人様、わ、私も、お、お背中を……」

「いや、メリッサ無理すんなって!」


 顔真っ赤にして、くそ! 可愛い!


「……フェンリィ、しっかり汚れ落とす」

「ウォン!」

「もう、何が何やら……」


 とにかくそんな感じでお風呂はめちゃくちゃだった。まあ、おかげで大分匂いは取れたけどね!





「いやはや、若いとは素晴らしいなお前」

「そうですわね貴方」


 そんなお風呂のドタバタを耳にしながらエレメン夫妻は微笑ましげだ。

 自分の屋敷の風呂場でドタバタな状況であるにも関わらずこの余裕。中々の鷹揚さである。


「うむ、アンジェ殿は行かなくてよかったでござるか?」

「な、なんで私がそんな、は、破廉恥な!」


 そして一人寂しそうにしていたアンジェに問いかけるマサムネであったが、顔を真っ赤にさせて反論されてしまうのだった。


「うむ、では代わりに拙者が……」

「行くな!」





「この度の件、改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました」


 お風呂から上がり、改めて客室に招かれ、エド卿にお礼を言われた。


「いえ、ですが、精霊も元気を取り戻しているということで良かったです」

「エリンも頑張ったなの!」

「うむ、エリンの留守番のおかげで私たちは安心してダンジョン攻略に望めたのだ」

「そや、偉いでエリン」

「エリンちゃん流石です!」

「……エリン頑張った」

「ウォン!」

「にゃん、ニャーコから見ても凄いと思うにゃん」

「わーい、褒められたなのーやったなの~」


 うん、皆しっかり空気読んでくれてるな。流石だ。


「あっはっは、いやはやエリン殿はめんこいでござるな」


 うん、マサムネだけ、どこかずれている気もしたけどまあ、いいか。


「うふふ、エリンちゃんのおかげで私も娘が出来たみたいで楽しかったですよ」

「ふむ、確かに……娘が、欲しくなったかもしれないな」

「ま、貴方ったら――」


 いや、頬赤らめて何やってんだこの夫妻、そういうのは後でたっぷりとやってください。


「何はともあれ、湖の穢れた原因を突き止め、排除して頂いたことに感謝いたしますよ」

「いえいえ、ただ、まだ最後の仕事が残ってますので、それにはエリンの協力も不可欠だけど、大丈夫かエリン?」

「勿論なの! 頑張るなの!」


 そんなわけでとりあえずこの日はもう遅いので、後日改めてエリンを連れて湖まで向かう事になる。


 そしてこの晩はエド伯爵が盛大な宴を開いてくれた。本当、久しぶりの豪勢な食事にありつけ――そしてその晩はふかふかのベッドでぐっすりと眠った。


 お酒も結構呑んだ。そして朝目覚めたら――何故か両隣にカラーナとメリッサとアンジェの姿があった。


 うん、アンジェは多分かなり酩酊していたからだな。実際かなり絡まれた。

 私の事は好きか~愛してるかヒット~! などとも言われた。アンジェは結構酒癖が悪い。


 そんなわけで一晩明かし、翌日エリンを連れて湖に向かい、精霊の力を借りて湖水を浄化した。エリン曰く、精霊さんが喜んでいるとのこと。


 それにしてもこうもあっさり浄化してしまうとはやはりエリンのポテンシャルは高いな。


 そして俺達はまた町に戻り、冒険者ギルドに顔を出す。


「おう! 領主様直々にやってきてうちのマスターと話して帰ったぜ。それにしても、あのビュートがな、いけすかねぇ野郎で男の冒険者からは嫌われていたが、本当に屑みたいな奴だったんだな」

「最悪にゃ! ニャーコも裸にされたにゃ!」

 

 おいおい……その発言に周囲の冒険者もざわめき出したぞ。マジマジとニャーコの肢体を見て鼻血吹いてるのもいるし、何想像してんだか……。


「にゃ、ニャーコ! そういうことを恥じらいもなく口にするのではない! 馬鹿者が!」

「にゃん! 馬鹿と言う方が馬鹿にゃん!」


 にゃんにゃんいいながらアンジェと言い争いになるニャーコだ。

 ま、じゃれ合いだな。


「でもなあ、とんでもない男だったのは確かやで」

「はい、多くの冒険者があの男の裏切りで……」


 メリッサがその瞳に悲しみを宿しながら言う。どうしようもなかったこととは言え、結局誰一人助けることは叶わなかったからな。


「……今回の件、拙者にも責任の一端はあるでござるよ。捕らえられた冒険者を救うどころか、拙者は斬り殺してしまったのでござるから。責任の必要があるのであれば、拙者今すぐ腹を――」

「ば、馬鹿やめろマサムネ!」

「とめるなでござる! さあ、介錯を!」

「……判った」

「アン!」

「判ったじゃない!」


 上半身を晒し、どこからか短刀を取り出して、セイラには刀も渡すマサムネ。


 いやいや、マジで洒落になってないから!


「……いや、むしろ俺は感謝してるぜ。他の連中だってそう思ってるはずだ」


 だけど、マサムネの決心を鈍らせたのは受付職員の言葉だ。


「話を聞いたが、そのままなら女たちは一生苦しみ続けるだけだったろうさ。だったらトドメを刺してやるのがせめてもの情けだ。だけど、他の連中じゃ中々そこまで割り切れず、結局苦しみを倍増させただけだろう。だから、あんた達が責任を感じる事じゃないさ。むしろ彼女たちの分まで精一杯生きてやって欲しい」

「……そうでござるか。しかし拙者は戦いに身を置く身の上でもあるでござる。いつでも死ぬ覚悟は出来ているでござるが――しかし、そうでござるな、これからも精一杯生きれるよう努力するでござるよ」


 立ち上がり受付の彼にそう返す。そう、誰ひとりとしてそのことを恨んでいるものなんていない。


 悪いのはビュートであり、あの魔族だ。そして俺達はそれを倒した、それが間違いのない事実だ。


 ただ、結果的に凄い金額の報酬を受け取ることになってしまったけどな。マサムネにも分けようとしたけど、最低限の分だけでいいと言ってそこまで多くは受け取ってくれなかったし。


 本当に最初の頃とは比べ物にならないぐらいお金が増えていくな。ここまでくるともう絶対にあの頃みたいに金に苦労することはなさそうだな、うん、間違いない。


 



「ところでこれからはどうするでござるか?」


 ギルドを出て道すらがマサムネがそんなことを聞いてきた。確かにこの地での事件は解決したし、昨日話した限りだと領主のエドもシャドウとは協力してやっていく決心がついたようだ。


 これはセントラルアーツにとってもかなり有利に働くとは思うけどな。

 ただ、俺達には本来の目的もある。


「一応後処理にもある程度付き合うから、二、三日は留まることになると思うけどな。ただ、その後は旅の再開だ。とりあえず西のレクター伯爵領を抜けて船に乗って王都に向かう予定だな」


 そこまで話した後、そういえばマサムネは? と問うが。


「拙者は逆でござるな。もともと拙者はヒット殿が向かう方向から来たでござる」

「そうなのか、うん? 逆だと俺達が来たアーツ地方に入ることになるぞ?」

「そうでござるな。それも面白そうでござる。それに、シャドウ殿にもますます(・・・・)興味が湧いたでござる」


 マサムネがそんな事を言う。エド伯との会話の席にはマサムネもいたから、シャドウの事は知っていてもおかしくないが、どこか気になる物言いだな……。


「しかし、あいつもあれで結構今は色々忙しいから、行ったからと会えるかはわからないと思うがな。何か紹介状でも書こうか?」

「いや、きっと大丈夫でござるよ。拙者こうみえて運はいいでござる」


 そう言って、がっはっは、と豪快に笑う。でもこれ、運とか関係あるか? う~ん、でも本当に構わなくていいと言ってるし、なんとなくマサムネなら本当になんとかしそうだな。


 まあ、それはそうと。


「でも、マサムネもすぐ出るわけじゃないだろ?」

「うむ、折角でござる。ヒット殿たちが出るのにあわせるでござるよ」

「……だったら、俺に剣の稽古をつけてもらえないかな?」


 俺は、思い切ってマサムネに頼んで見る。何せ彼の剣の腕は本物だ。ビュート戦のことも聞いたが、マサムネがいたからこそ勝利できたといっていいだろう。


「むむっ、拙者がでござるか? しかし拙者の剣は居合による抜刀術、ヒット殿とは型がだいぶ違うでござるが」

「それでもお願いしたいんだ。確かに違いはあるが、でもマサムネなら俺の足りない点を補ってくれそうな、そんな気がする」


 双剣と刀じゃ確かに勝手は違うが、しかし基本は一緒だろうし、それに今回の件もそうだが、今後魔族と戦うことになると考えると、俺自身まだまだ成長する必要がある。


「……真剣でござるな。そんな目で見られては無下に断れないでござるな。判ったでござる短い間ではあるでござるが、引き受けるでござるよ」


 俺は心から、ありがとう、と頭を下げてお礼を述べた。

 そしてそれからの三日間は、予想以上に容赦のない特訓が待っていたわけだが――


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