第25話 真に不死身
空中で踊るアウナスの頭。そのまま無様に地面にでも落ちれば多少はスカッとするかと思ったんだが、その本体はピタリと空中で静止した。
キャンセルしてやろうかと一瞬思ったけど、意味ないし勿体無いからそれは止めておく。
「ははっ、まさか見破られるとはな!」
そして妙に愉しそうに喋りだしたな。何故かまだ余裕が感じられる。
「しかし、どうして判った?」
そして、こんな問いかけ。それに俺はとりあえず答える。
「デュラハンという魔物の事を思い出してな。それに首を切ったときに手応えがなかったと聞いてピンっときた」
「ほう、なるほど。確かにデュラハンも首と胴体が別だな。まあ、最もあれはここまで自由には動けないがな」
確かにゲームでもデュラハンは腋に頭を抱えてるだけだった。こいつみたいに頭が空中をふわふわ浮かんでるような気持ち悪いことはない。
「どや! うちとボスは以心伝心の関係やねん! 愛の勝利や!」
「あ、愛は関係ないだろ愛は!」
……カラーナもそういうことストレートに言うよな。いや、嬉しくないと言えば嘘になるけどな。でも、確かに今回はカラーナの言葉がヒントになった。本当いい仲間だよ彼女は。
でも、何故かアンジェのツッコミが激しいけどな。一体なんでそんなに不機嫌なんだ?
「ふん、だが、これで貴様も終わりだな。本体が頭だと判れば、後はそこを狙えばそれで終わりだ!」
で、カラーナに文句のようなものをいいながらも周囲のアンデッドを片付けつつアンジェが述べる。
セイラやフェンリィも頑張ってアンデッドを排除してるし、俺もボルトで爆破するのを忘れてない。
これで、かなり周囲のアンデッドも減っている。再生までも時間はあるしな。アンジェの言うようにこのまま本体を狙うのはそう難しくもないだろ。
「……なるほど、つまり本体さえ判れば、この私に攻撃が通ると、そう考えてるわけだな?」
「当然だ」
「くくっ、あ~っはっは! 全く、愚かな連中だ。だが、いいだろう、ならば少し、遊んでやるか!」
奴が突然笑いだし、かと思えば胴体の部分が動き出した。速い! 今まで動きが少なかったから気が付かなかったが、この鎧の身体、かなりの身体能力だ!
「くっ!」
胴体部分が一気に距離を詰め、アンジェに向けてその骨剣を振るった。宝剣で受け止めるアンジェだが、相手の方がパワーが上だ。
軽々と飛ばされる。しかし、そのまま纏った風を利用しアンジェが回転。そこから空中を蹴りアンジェの方から距離を詰める。
「シルフィードダンス!」
そして、アンジェがウィンガルグを纏っての踊るような五連撃。
だが、何かがおかしい――
「シューティングウィンド!」
連続攻撃が終わったかと思えば、アンジェはそこから更に攻撃をつなげていく。まさに疾風の如き足捌きですれ違いざまに百を超える剣戟を叩き込んだ。
だが――
「アンジェ! 避けろ!」
アウナスの胴体はあれだけの攻撃を全てまともに受けたにも関わらず、全く怯む様子も見せず振り向きざまに大剣を叩き込んでくる。
頭を低くしてなんとか避けたアンジェだが、ブォンッ! と轟音を奏でる剣戟の衝撃で海のような蒼髪が数本、宙を舞った。
「私の胴体にばかり気を取られていていいのかな? アビスハンドルーズ!」
いつの間にかアウナスの本体が鎧の背後にやってきていた。かと思えば何か魔法のようなものを発動、地面に円形の闇穴が開き、そこから無数の黒紫色の腕が伸びてくる。
この腕――何かヤバい!
「きゃ、キャンセルだ!」
腕の一本程度じゃ話にならない! だから範囲キャンセルで魔法の発動を強制的にキャンセルした。
だけど、これで魔法を再度キャンセルするには十五分の時間を有する。逆に言えばこの魔法はそれぐらい俺にとってヤバい魔法だったということだ。
「……なるほど、やはりお前は相手のスキルや魔法を消すことが出来る能力を持っているようだな。しかもその能力は使いようによっては他にも色々とできそうだ。気に入ったぞ――ヒット、やはりお前はすぐには殺さないようにしてやろう。色々と使い道がありそうだからな」
すぐには殺さない? 使い道? 何を言っているんだこいつは――
「だが、お遊びはここまでだ、【ブラックサンダーボルト】!」
こいつまた魔法か! 頭上に何か黒い光が迸る球体をふたつ現出させてきた。
「キャンセル!」
俺は、とりあえずキャンセルで球体の一つを消し去る。だが、もう一つはそのまま残ってしまった。範囲キャンセルが使えない以上仕方ないが――もう一つ分は自力で対処するしか無い。
「な、なんやこいつ!」
そして、残った一つの黒球からは、黒い稲妻が放たれ続ける。
どうやら相手の位置を探知して自動で攻撃を行っているらしい。
厄介だな――だけど。
「ははっ、どうかな? 私の魔法は? これでは手も足も出ないだろう?」
「馬鹿いえ、迂闊なんだよお前は――」
黒雷を避けながらも、俺はアウナスとの射線を確保。その薄汚い顔めがけてボルトを、射つ!
「な!?」
驚愕する奴の顔に、見事ファルコンの矢弾がヒット! 更にクイックキャンセルで連続爆破を起こし、轟音が辺りに鳴り響く。
流石に貫けなかったから、ボルトは戻せなかったが、念のため予備のボルトも腕のベルトに装着しているからそれを込め直す。
「ボス! これはやったで!」
「……だといいんだけどな」
カラーナの表情に笑顔が灯るが、アンデッドの動きが止まってない。雷の攻撃も続いている。やはりこれだけで倒すというのは甘かったか。
だが、流石にかなりのダメージは入って――
「中々抜け目ないな貴様は」
だが、煙が晴れ、視界に映ったその姿に、思わず目に力が入る。
まさか、そんな――
「だけどね、悪いけど私は不死身だ――」
冗談、だろ? 首から上も不死だったというのか?
俺を嘲笑うようにしながら、アウナスの頭が再度ふわふわと空中遊泳を決め始める。
俯瞰してくるその顔は、あまりに余裕に満ちていて腹立たしさを覚えた。
「くっ、どうなってる! こっちの胴体も全くダメージが通らない!」
「……鞭も魔法も駄目」
「クゥ~ン」
しかも、頭だけじゃない。胴体の方もどれだけ攻撃を加えても倒れない、怯まない、止まらない。
「ボス! アンデッドの連中がまた再生始めとる!」
カラーナが叫ぶ。折角片付けたゾンビやスケルトンといった奴らも起き上がり、活動を再開し始めた。
だが、どうする。文字通り相手が不死身なら、俺達には打つ手立てがない。
まさか、もしかしたら聖なる魔法しか通じないとか、そういうパターンか?
……いや、違う! それはおかしい。
そうだ、考えろ。何せあいつはあきらかにおかしい真似をしている。
その最たるものは、なぜアウナスは首と胴体が別々に動けることを隠そうとしていたのか? そう、間違いなくこいつはそれを隠そうとしていた。一見すると余裕を持っていて、ただ俺達を舐めていただけにも思えそうだが、それでも一度目のカラーナの攻撃で首を刎ねられた時、余裕を見せたいならもうそこからごまかす必要なんて無いはずだ。
素直に首と胴体で分かれて行動すればいい。ましてや今見た限りでも胴体はかなりの強さ。本体の頭だって強力な魔法を行使できる。
アンデッドだけで俺たちがどうにかできそうも無いのは、途中から攻撃に参加してきたところをみても明らかだ。
ならばなぜあの時点でその方法を取らなかった? ましてや不死身であるなら、あんなところで高みの見物を決め込むような真似をしなくてもいくらでもやりようがあっただろ。
つまりだ、こいつが完全な不死身であるなんてことはない。絶対にこれには何か不死身に見える秘密があるはずだ。
だったら――
「セイバーマリオネット――」
「むっ?」
俺は、ダブルセイバーのスペシャルスキルを行使。これによって俺の持つ双剣と全く同じ性能の複製が一組出来上がる。
「そんなもので一体どうするつもりだ?」
「さて、どうするかな――」
とにかく今は思いつく方法を試していくしか無い。そして、必ずお前の秘密を暴いてやるよ!




