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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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第24話 不死のアウナス

「キャンセル! キャンセル! キャンセル! キャンセルだカラーナーーーー!」


 俺は思わず声を張り上げ、力なく落下を始めたカラーナに向けて必死にキャンセルを唱えまくった。


 デス――元のゲームにもあったこの魔法は、死の魔法、文字通り相手の状態に関係なく、一定の確率でターゲットした相手を死に至らしめる。


 しかし、俺の知識ではデスが決まってもすぐに死ぬというわけではなく、死ぬまでのモーションの間にキャンセルの効くタイミングがあった。


 つまり、完全なる死を迎えるまでには多少なりとも余裕があったはずなんだ!


 だから、頼む! カラーナ!


「――ガハッ! て、え? あれ?」


 その願いは――届いた! 落下途中で咳き込み、カラーナが見事息を吹き返してくれた!


「カラーナ! 良かった無事だったのだな!」

「か、カラーナ、ち、畜生間に合った、間に合ったぞ! 心配かけさせやがって!」

「……カラーナ――早く動く、危ない」

「ウォン! ウォン!」


 アンジェと俺が安堵し声を上げる。やべぇ、涙でそうになった。

 だけど、セイラはこの状況でも冷静だ。そう、死は免れたが、カラーナは今まさに地面に向けて落下している途中だ。

 

 そして落ちた先にはアンデッドの群れ。流石にこの状況だと気配を消しても遅い。


「うわ! なんやこれ、危な!」


 が、しかしそれは杞憂だったな。フェンリィの鳴き声も良かったのかもしれない。とにかく、途中で今の状況に気がついたカラーナは、くるりと一回転しつつ、後ろに迫っていたゾンビの顔面を蹴り上げ、再びアンデッドの頭の上に位置を変えた。


 そしてカラーナは再びこちらに向けて駆けてくるが。


「それにしても、デスとは厄介だな――いまのはキャンセルが間に合ったけど、気をつけないといけない魔法が一つ増えてしまった」

「いや、それなら大丈夫だぞヒット」


 俺が死の魔法について心配していると、アンジェが余裕のある笑みを浮かべ答えてくる。

 でも、大丈夫とは一体?


「なんで大丈夫なんだ?」

「ふふっ、あのデスという魔法はな、別名初見殺し。ようは使ってくると判ってない相手にはほぼ確実に成功するが、相手がデスを使ってくるとこちら側が認識している場合、成功率は極端に低下する。そういう魔法なのだあれは」


 ……初耳だ。と、いうかそれはこの世界ならではのルールと言っていいだろうな。ゲームではあくまで確率だったし。

 

「ボス! キャッチや!」


 俺がそんな事を考えていると、頭上からカラーナの声が聞こえてくる。

 見上げると、アンデッドの頭を駆けてきたカラーナがすぐ傍まで迫っていて――ジャンプ! 俺に向かって手を広げて落下してきた。


 お、おいおい!


「あぶな! て、うぷ!?」

「ナイスキャッチやボス!」


 カラーナの褐色の身体を受け止めると同時に、彼女の両腕が俺の首に回り、キツく抱きしめてきた。いや、受け止めた時に胸が、胸が俺の顔に埋もれてくる、いや逆か! 胸に俺の顔が埋もれてるだ!


「うち、またボスに命助けられたんやね。嬉しいでボス――」

「ん――んー――」

「……カラーナ、今がどんな状況か判っているのか? イチャつくなら後にしろ!」

「え~、ええやん。こういう時やから燃えるんやろ?」


 いや! 燃える燃えない以前に苦しいんだって!


「……カラーナ、ご主人様そのままじゃ窒息」

「クゥ~ン……」

「ん? あ! 堪忍やボス!」

「ぷはぁ~!」


 く、空気が旨い。全く、メリッサやアンジェほどではないといってもカラーナは十分大きい方なんだからな! ま、まあ悪い気はしないし、健康的な汗の匂いも悪くは――て、何を考えているんだ俺は!

 

「おい! そろそろ頭を切り替えるんだ! アンデッドはまだまだいるんだぞ!」


 そして、アンジェの叫び。確かに彼女の言うように、まだまだアンデッドは多い。そもそも俺が倒した分もまた復活してるしな。


「ぐぅ!?」

「アンジェ!」


 しかも、あのアウナスの放った飛び道具がアンジェの身体を捉えてしまった。

 だが、アンジェは後ろに吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、着地と同時に周囲のアンデッドを切り裂いていく。


 勿論、トドメは刺さず四肢だけ刈り取るという形で、とりあえず一発程度なら致命傷に至るようなことはないようだが――


「大丈夫かアンジェ?」

「ああ、耐えられない程ではない。大丈夫だ」


 平気そうに見えるが――しかし軽く吹き飛ばすほどの威力は持っているんだ。

 そう何度も喰らって平気な代物ではないだろう。


「揃いも揃ってしぶといな。おまけに、まさかデスが効かないとはね。やっぱり君は中々面白い能力を持っているようだ」


 そして、そんなことを口にしながら、再びアウナスが件の飛び道具を放ってくる。


 キャンセルで消してもいいが、連続で撃ってくるから一発ぐらい消したところで効果は薄い。


「くそ! 何より首を切っても死なないってのが厄介過ぎる! もしかしてあの魔族も不死だったりするのか?」

「む、むぅ、確かに不死であるなら厄介だな――」


 遠距離からの魔族の攻撃を避けつつ、アンデッドの相手をしていたアンジュも、参ったなといった表情を見せている。


 実際不死だとしたらこちらとしてはどうしようもない。


「そのことなんやけどなボス。実はさっき首を刎ねた時、違和感があったんよ」


 ん? 違和感?


「どういうことだカラーナ?」


 俺は周囲のアンデッドを切り伏せながら、カラーナに問い返す。

 すると、一つ顎を引き。


「それがや、確かにうちの不意打ちで首は飛んだんやけど――手応えがまるでなかったんよ」

「手応えがない、だと?」


 アンジェの眉間に皺が寄る。不可解と言った感情がみてとれるな。


 そして、それは俺も同じだ。あいつがアンデッドと似たようなものだと考えれば、もしかしたら肉体が弱くなっているのかもと考えられなくもないが、ただ、今群がってきているアンデッドだってそれなりの手応えは感じる。


 なのに、手応えがまるでないなんてありえるのか?


 ……いや、待てよ。カラーナが切ったのは首だ。そしてその行為で首から上が飛んだ。


 だけど、あいつは首を刎ねられても生きていた。だから不死なのか? と疑問に思ったわけだけど――でも、俺は確かに知っている! それに当てはまる魔物がいたことを。


 そして、あのアウナスが同じ特性をもっているとしたら――試す価値はある!


「カラーナ! もう一仕事頼まれてくれないか?」

「勿論やボス! うちはいつだってボスの味方やで!」

「ありがとう。そしてアンジェとセイラも――」


 俺はアンデッドを駆除しながらも上手いこと三人にだけ聞こえるよう作戦を伝える。


 その上でさっきと同じように先ずは爆破の効果が込められたボルトで出来るだけ多くのアンデッドを駆逐していった。


「随分と無駄なことをしているじゃないか。何をしたところで私は不死身だ。アンデッドとていくらでも再生する」


 余裕の笑みを浮かべながら、アウナスが言う。本当にイラッとくる顔と口調だな。


 だが――そんな顔でいられるのも今のうちだ。


「――どうやらまた同じ作戦を狙っていたようだが、私に二度も同じ手が通用するとでも? 随分と舐められたものだ」


 アウナスが矛先を横の壁際に向けかえる。その位置には気配を消したカラーナがいた。


 しかし、いくら気配を消しているといってもやはり二度目だとすぐに気づかれてしまった。


 カラーナはアウナスの放ってくるスワロウソーガを上手く避けてはいるが、散らして放ってくる白色のソレが行く手を阻む壁となっていて、これでは背後に回ったりは厳しいだろう。


 だけど――今回の狙いは別に回り込んで不意打ちを喰らわすことじゃない。


 そして、既に奴はカラーナの射程範囲内にいる。


「いくでボス! ダークスペイスや!」


 そしてカラーナのスペシャルスキル、ダークスペイスが発動。


「ぬ? なんだと――」


 アウナスの口から戸惑いの声が漏れる。カラーナのスキルによって暗闇の空間に包まれたからな。


 唐突に闇が訪れれば、こうなることは自明の理。とは言え、相手は魔族、そう長く動きを止めることは出来ない。


 だから俺達は――


「今だ! 頼んだぞみんな!」

「判っている、エアロカット!」

「……頼まれた、ファイヤーボール――」


 アンジェが風の力がのった斬撃を、そしてセイラは魔法で火炎弾をそれぞれアウナスに向けて撃ち込んでいく。


 その間フェンリィは周囲のアンデッドが近づいてこないよう動き回り、そして俺もファルコンに込めた爆破のボルトを射ち――


「クイックキャンセルだ!」


 カラーナの創り出した闇の空間にボルトが吸い込まれ、爆発音が鳴り響くと同時にクイックキャンセルで更に爆発を重ね、大爆発を引き起こす。


 もし、相手がただの不死身ならこれも意味のないこと。だけど、俺の考えがあたっていれば――


「あ、ボスあれや!」


 カラーナが声を上げ指をさす。その方向に目を向けると、確かに一つの固まりが飛ばされ、空中を漂っているのが良く判る。


 そう、あれは、あれはまぎれもなくアウナスの頭! 正確に言えば、アウナスの本体(・・)だ!

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