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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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第22話 悪あがき

「舐めるなよ! 僕はマントスで唯一のエキスパート冒険者のビュートだ! お前みたいな雑魚とはレベルが違うんだよ!」


 これはまた――なんとも言えないセリフです。少なくとも強者が口に出すそれじゃないですね。これではエキスパートもたかが知れるといったところです。


 尤も他のエキスパート冒険者はもっとちゃんとしているとは思いますが。

 どう考えても、この男がアレなだけでしょうしね。


「これで終わらせてやる! 【死魂魍魎波(しこんもうりょうは)】!」


 そんな事を考えていると、ビュートがスキルの一つを行使してきました。


 鑑定によると、あれは周囲の屍に残っている魂を集め、魍魎に変えるもの。

 そして、それは確かにビュートの目の前で具現化し、大量の魑魅魍魎がこちらに向かって飛んできました。


 ニャーコさんの方へも飛んでいっているので、彼女が耳を立て、目を見開いて驚いてます。

 今の彼女は身を守る装備もありません! それなのにあんなのに襲われたら――


「――【鬼寄せ】」


 ですが、単身前に立つマサムネさんが、何かを囁くと、突如ニャーコさんに向かっていた魍魎が方向を変え、マサムネさん目掛けて飛んできました。


 いえ、ニャーコさんに向かったのだけではなく、全ての魑魅魍魎がまるで引き寄せられるようにマサムネさんの下へ向かっています。


「ふん、ば~か! 何をしたかしらないが、そいつらは実体のない魂だけの存在! 僕からすれば好都合さ、そのまま魍魎共に喰われてしまえ!」


 た、確かにそうです。あれは先程まで相手してたゾンビなどとは勝手が違います。魂だけの存在に直接攻撃は通用しません。


 ですが――


「鬼斬流抜刀術――刃嵐!」


 マサムネさんによる高速の剣技。先程骨の攻撃を退けた刃のような風の乱舞が再びマサムネさんの正面に現出し、迫る魍魎を問答無用で切り裂いていきました。


 なにせ魍魎は自分からマサムネ様に突っ込んでいってますから、この結果は当然でしょう。


「ば、馬鹿な! どうして、どうして実態のない魍魎が!」

「お主、阿呆でござろう? 今さっきメリッサ殿が骸どもに効き目のある薬を作ってくれたばかりであろうに。拙者の刀にもそれはかけさせてもらったでござる。その効果があれば、魂だけの魍魎だろうと切るのはわけないでござるよ」


 そう、マサムネさんにもニャーコさんにも渡しておりました浄化の薬は、アンデッド全般に効果のある薬です。


 当然それは魍魎に対しても同じなのです。そして、マサムネさんが私に向けて、助かったでござる、とお礼を言ってくれました。

 私の薬が役立ったのは素直に嬉しいです。


「メリッサにゃん、流石にゃん! そしてお前はざまあみろにゃん!」


 秘部を隠しながらもニャーコさんがビュートを罵倒します。本当に、ざまあみろ、ですね。


「……くっ、だったら! スカルクリエイト! スカルゴーレム!」


 再びビュートが骨で何かを創り出そうと考えたようです。そして、今度はビュートの傍ではなく、私やニャーコさんの傍で骨が組み上がっていく音。

 

 かと思えば、人形の骨が私やニャーコさんの横に――


「さあお前ら! そのふたりを捕まえろ! そして人質に――」

「鬼斬流抜刀術――鬼爪」


 ビュートが出来上がった骨の人形に命令します。ですが、それが動き出す前にマサムネさんの技によって、二体の骨人形が切り裂かれ打ち砕かれました。離れた位置からでも、マサムネさんの高速の剣技によって、斬撃が飛び私達を狙ってきたこの骨人形を破壊したようです。


「――なっ!?」


 ビュートが驚いてその目を見開きました。すると、マサムネさんは呆れたように肩を上下させ言い放ちます。


「……お主、今先程、その真意はどうあれ、メリッサ殿やニャーコ殿を傷つけるつもりはないと言ったばかりでござろう? にも関わらず、舌の根の乾かぬうちから、あの魍魎といい、この木偶の坊といい、全く見下げた男でござるな。性根が腐ってる証拠でござるよ。お主のような愚か者に比べたら、物の怪のほうがまだ可愛げがあるでござる」

「え~い! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるせぇ! もうそんなことはどうでもいい! 女なんてな! 後でいくらでもどうとでもなんだよ! 全員ぶっ殺してやる!」

「……底が知れたでござるな」

「最初から判ってたことにゃん」

「本当にそうですね。浅はかで、愚かな男だと、そう思います」


 ぐぎぎぃいえいあぎぇああぁ! とビュートが気持ちの悪い奇声を上げました。

 ですが、まだしぶとくあちらこちらに骨の人形を創りだしていきます。


「お前がどれだけ強くてもな! 一人じゃ限界があるんだよ! しょせん人間は圧倒的な物量には勝てないんだよ!」


 百体ちかい骨人形が向かってきます。ですが、再びマサムネさんが、鬼寄せ、と呟くと、骨人形は私やニャーコさんには目もくれずマサムネさんだけを狙いに押し寄せます。


 どうやらマサムネさんは敵の注意を自分に向けるスキルをもっているようですね。


 何か、凄く申し訳ない気持ちにもなりますが――ですがマサムネさんの戦いぶりを見ていると、そんな気持ちもどこかに吹っ飛んでしまいます。


 まさに一騎当千の圧倒的な実力。ビュートが随分と自信ありげに語ってましたが、あの程度の骨人形ではどれだけ創ろうと敵いそうにありません。


「ぐぅうぅう、なら、スカルクリエイト! 骨の牢獄!」


 ですが、ビュートには全く諦める様子がありません。今度はマサムネさんの周りの骨が小さな牢のような形に変化し、マサムネさんを閉じ込めてしまいました。


「はは、そうだ! 最初からこうすればよかったんだ! お前さえ閉じ込めてしまえばどうとでもなる!」


 ビュートが、マサムネさんを閉じ込めた牢獄を指差し、高らかに笑います。


 ですが何故か、全く不安を感じません。そして私の予想通り、亀裂が走る音が私の耳に届き、かと思えば骨の牢獄に線が走り、ズルリとずれ、そして砕け散りました。


「な、な、な――」

「貴様は小細工ばかりでござるな」


 蔑むような声で言い放ちます。ビュートは絶句して言葉もないといった様相です。

 もう、これで完全に追い詰めましたね。

 

「それで、もう幼稚な芸は終わりでござるか?」

「……くくっ、くふっ、あ~っはっはっは! 全く、やってくれるよ。いいよ、判った、そこまで言うなら見せてやるよ! この僕のスペシャルスキルをな!」


 激昂し、ビュートが怨嗟の篭った目でマサムネさんを睨みます。

 そして、宣言。そう、確かにこの男にはまだスペシャルスキルが残っています。


 ビュートは、それを使わなくても問題なく勝てると思っていたようですが、そんな悠長なことも言っていられなくなったということでしょう。


「マサムネさん! 先程も話しましたが――」

「判っているでござるよ。だけど、それならば――」

「喰らえ! ボーンドラゴ(荒れ狂う)カタストロフィー(暴骨龍の災厄)!」


 いよいよ、ビュートの奥の手が発動致しました。かなり広範囲の骨が一斉にビュートの下に集まり、その姿を凶悪な顔と長大な尾を有した龍の姿に変化させていきます。


 まさにそれは巨大な骨の龍。視界に入るもの全てを飲み干してしまいそうな、それほどの迫力。

 

 ですが、それ以上に――マサムネさんの周囲に渦巻く空気が、圧倒的な存在感を放っておりました。


 これまでのものと違う、強烈な何か。間違いなくマサムネさんも、何か奥の手を繰り出そうとしているような、そんな気がしました。


「さあ! 全てを喰らえ! 災厄の暴骨龍よ!」


 ビュートが指で私達を指し示し、完成した骨の龍に命じました。その口から悍ましい咆哮を上げ、思わず私の身も強張ります。

  

 ニャーコさんも同じなようで、どうやらそういった効果があるのかもしれません。


 ですが、マサムネさんにその影響はないようです。腰を落とし柄に手を添え、迫る骨の龍を迎え撃とうとしています。


 そして――


「鬼斬流抜刀術奥義――無常の刹鬼(むじょうのせっき)


 刹那――マサムネさんの手元から眩いばかりの光が溢れ、かと思えは光の奔流が一瞬にして骨の龍を飲み込みました。


「ぐ、ぐわあぁあぁああぁあああ!」


 そして、その直線状にいたビュートすらも光が飲み込み、呻き声が私の耳にまで届きました。


 そしてその光の一閃が収束したとき、骨の龍は完全に消え去っていました。骨の欠片すら残っていません。


 す、凄まじい威力です。


 そう、威力ですが――しかしビュートは鎧に守られていた為、命は助かった模様。壁に叩きつけられ、鎧もかなり破損してますが、意識もまだ残っているようです。


「はあ、はあ、くそ! 死んだかと思っただろ糞が!」


 そして、マサムネさんに向けて怒りの言葉をぶつけてきます。全く、しぶとい男です。


「そう簡単に死なせはせぬよ。お主には十二分に報いを受けてもらわねばいかぬからな」

「くっ、ふざけたこといいやがって! どうせお前は、これで勝てるとでも思ってるんだろうけどな! この鎧は骨さえあれば再生できる! どうだ? 驚いたか? お前が何をしようと――」

「お主こそ何を言っているでござる? よくみるでござるよ、まともな骨はもう残ってないでござるよ?」


 へ? と間の抜けた声をビュートが発します。そして周囲を確認し、ようやく気がついたようですね。


 ビュートの技はどれも骨を利用するものです。そして、同時にスキルで利用した骨はその場から消失してしまい再利用は出来ません。


 ビュートはマサムネさん相手にかなりの骨を利用しました。スカルクリエイトもそうですが、死魂魍魎波でもかなりの骨を消費し、おまけに今のボーンドラゴ(荒れ狂う)カタストロフィー(暴骨龍の災厄)です。


 あれは威力をあげようとすればするほど大量の骨を消費することとなります。

 

 そして、どうやらビュートはむきになって残りの骨を考慮せず技を行使してしまったようですね。


 もはやビュートには利用できる骨が残っていない状態です。完全にチェックメイトでしょうね。


「さて、どうするでござるか?」

「にゃん! そんなやつとっととやっちゃうにゃん!」


 離れた位置からマサムネさんを煽るニャーコさんです。裸にされた恨みも強そうですね――


 そしてビュートはというと、あ、あぁ、と狼狽した表情で呻く一方です。もはや手立ては何も残ってないといったところでしょうか?


 でも、何かが引っかかる気もしますが――


「ほ、本当に申し訳ありませんでしたーー! 違うんです! 僕、あ、あいつに、そう! あの魔族に脅されていて! それで、それで仕方なく言うことを聞いていただけなんですぅぅうぅう!」


 突如、ビュートが腰を折り、地面に頭を擦り付けてわめき始めました。

 

 正直、は? という感じです。どの口がそんなことを――この男の裏切りで死んでいった冒険者達を前にしても同じことが言えるのでしょうか? 

「随分と虫の良い話でござるな」


 そして、それはマサムネさんも同じ気持ちのようです。当然です!


「も、勿論僕だって本当はこんなことしたくなかったんだ! でも、痛めつけられて、脅されて、それでつい――」

「ふざけないでください! ついで貴方は仲間を裏切るんですか! 一体どれだけの方が貴方の裏切りで犠牲になったと思っているのですか!」

「まったくにゃん! 大体、さっきまでニャーコ達を辱めようだなんて言っていたくせに、どの口がそんな事を言うにゃ!」


 そうです。確かにこの男は私達を下卑た顔で見ていました。もし倒されていたらどんな目にあっていたか。


「だから、それは本当に悪いと思っているんだ。そう、もう僕はそんなこと思っていないんだ! だって、だって――お前たちはここで死ぬからな!」


 マサムネさんが更に数歩ビュートに近づくと、突然地面からがばりと顔を上げ、醜悪な笑みを浮かべます。


 かと思えば、残った鎧部分の口が大きく開き――そうです! 確かこの男にはもう一つ!


「【不浄の息吹】! これでお前らは全員終わりだ!」


 なんということでしょう。どうやらこの男、まだ切り札としてこの技を残していました。確かにこのスキルであれば骨を必要とせず発動可能です。


 開いた口からもわっとした紫色の煙が吹き出てきました。不味いですこれは――



「あ~っはっは! この息吹は全てを腐らせる! 生物も装備品もその全てをだ! 死ね! 全員死ね! それで、この僕の、勝ちだ!」


 勝ち誇ったように語気を強めるビュートです。煙は広がる速度がそこまで速いわけではありませんが、量が多く、骨の壁によって遮られ、密閉されたこの場所では逃げ場がありません。


 これは正直ピンチなのではないでしょうか? そう思っていた私ですが、突如突風がマサムネさんを中心に巻き起こり――そして煙は全て霧散してしまいました。


「――全く、救えぬ男でござるよ」

「な、そ、そんな! 僕の、僕の切り札が!」

「……阿呆はどこまでいっても阿呆でござるな。貴様の技などメリッサ様からとうに聞いていたでござる。お前のような屑が悪あがきに何を狙っているかも、すぐに判ったでござるよ」

「そ、そんな、ヒィ!」


 マサムネさんが近づきます。ビュートの口から短い悲鳴が漏れました。


「お、鬼――」

「覚悟は、決まったでござるか?」

「ゆ、許して、許してください! 本当に反省してます! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたく――」

「鬼斬流抜刀術――四生の苦輪!」


 命乞いを繰り返すビュートへ、容赦のない剣戟が降り注ぎました。

 短くて無様な悲鳴を上げて、ビュートが自らが作った骨の壁に突っ込んでいきます。


「どこまでも見苦しい男でござる」


 吐き捨てるようにマサムネさんが言います。

 ビュートが当たった衝撃で、鎧も壁も、その一撃を以て破壊されました。


 瓦解する骨の壁と地面に転がるビュート。ですが死んではいません。その代わり、地面を転げ回りのたうち回り、悲鳴を上げ続けています。


「ま、マサムネにゃん、一体何をしたにゃん?」

「あの男にはただ死をくれてやるのでは手緩いでござる。故に、無痛斬と全く逆の技を御見舞したでござる」

「ま、全く逆ですか?」

「そうでござる。四生の苦輪は与えた傷の再生と破壊を繰り返させる(・・・・・・)技でござる。故にあの男は、永遠に等しい苦痛を受け続けるでござるよ」


 な、なんだか凄い技ですね。つまりどれだけのダメージを負っても死ぬに死ねないというわけです。


 ですが、可哀想とは全く思いません。あれだけの事をしたのですから、当然の報いです!

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