第17話 冒険者のビュート
「それで、怪我人はどの辺りにいるんだ?」
「ああ、もう少し先にある部屋の近くだよ」
ビュートに案内され、それからしばらく歩き続ける。
その間も骨の魔物なんかが現れたりしたけど、それらは全員排除した。一応ビュートの戦いかたもみたが、流石エキスパート級の冒険者とあって腕前は中々のものだった。
正直この腕前で、さっきのただでかいだけの骨に追い掛け回されていたのが信じられないが、本人曰く、色男は脳筋に弱いらしい。
いや、あれ骨だけどな。まあ、それはそれとしてもこの男はいちいち気障ったらしい所作が鼻につくけどな。
まあ、顔もいいし、女にモテたらしいからこれまではこの振る舞いでもキャーキャー言われ続けたんだろうな。
尤もうちの女性陣には不評もいいところだけどな。メリッサも胸に向けられる視線が気になると眉を顰めていた程だ。同じ冒険者じゃなかったらはっ倒してるところだぞ。
「ほんま、ええ加減疲れるわ。こんな離れた場所にほんまおるんか?」
カラーナが愚痴をこぼす。散々あるき回されてるから当然か。しかも似たような道をぐるぐる回ってる気がするしな。
「そういうなカラーナ。今まさに困っているものがいるというのなら、放ってはおけまい」
「流石アンジェちゃんは見た目どおりいさまし――ヒッ!?」
「貴様にちゃん付けされる覚えなど無い! 騎士を愚弄する気か!」
「にゃ、にゃん! アンジェこそ落ち着くにゃん!」
アンジェ……冷静なようでやっぱりこいつの振る舞いにイラッと来てたのか? それにしてもここまで怒るとはな。まあ、俺がそんな呼び方をすることはないが一応気をつけるようにしよう。
「は、はは、綺麗な顔してるのに結構気性が荒いんだね……あはは、て、いた! 痛い痛い!」
アンジェから少し距離を取りつつ、何気にフェンリィを撫でようとしたビュートだけど、今度は噛まれた。中々災難なことだな。
「くっ! くそ! 離せ! このクソ犬!」
「ガルルルルルルルウゥウウ!」
「……フェンリィは犬じゃない、狼。それに賢い、心が綺麗なら噛まない」
セイラさん、それは暗にビュートの心が汚いって言ってるようなものですよ。うん、なぜか心がすっとするな。申し訳ないけど。
「くっ! くそ獣の分際で調子にのりや……て、あ、いやあ参っちゃったな~か、構ってほしかったのかな? あはは……」
後頭部を掻きながら取り繕うビュートだが、皆の視線が冷たいぞ。それにしてもこいつ、元の性格は絶対に悪いな。
大体フェンリィは人懐っこい方だしな。それなのに咬むなんて、きっと散々女を泣かしてきたようなそんな口なんだろうな。フェンリィは雌だから敏感に察したんだろう。
「それにしても確かに長すぎでござるな。本当にこっちであってるのでござるか?」
「え? あ、うん、そうだね。もう、すぐそこだよ」
そのままついていくと――妙にこじんまりとしたスペースに辿り着いた。天井も随分と低いな。
「ここにおるん?」
「いや、そこを出た先で待機してるからさ。ちょっとここで待っててもらえるかな? 呼んでくるからさ」
「それなら拙者達も一緒にいくでござるよ」
「いや、そこはここより更に狭いし、それに彼女たちも疑心暗鬼にかられてる。怪我も顔とか、それで気にしてる子もいるから僕が先ず話をしてから会ってもらった方がいいと思うんだ」
その為に自分が話した後ここまで連れてくるから、とビュートは言い残し俺達が入った方とは反対側に見える出入り口から出ていった。
それを見送った後、ビュートが仲間を連れてくるのを待つ俺達だが。
「なあボス、なんかうちあいつ好かんで。それに、正直信用できへんわ」
「ご主人様、実は私もあまり……それにずっと胸元ばかり見られてる気がして――」
カラーナはどうやらあいつに不信感を抱いているようだな。メリッサも嫌そうだ。そもそもメリッサがこうもはっきりと嫌悪感を示すのも珍しいな。よっぽど嫌だったなろう。
「カラーナとメリッサの気持ちも判るが、あの男はともかく、仲間の冒険者のことは気にする必要があるだろう」
「にゃん、むしろそっちの方が大事にゃん」
「……あいつは用が済んだら、置き去りにすれば、いい」
「アンッ! アンッ!」
アンジェはカラーナとメリッサを諭すように話しているが、実際のところあの男が気に入らないという点では同意っぽいな。
そして何気にセイラ酷いな! でもフェンリィも、そうだ、そうだ、と言ってるようにも聞こえる。噛まれてたしなあいつ。
「とはいえ置き去りは酷いでござるよ。一寸の虫にも五分の魂でござる」
「いや、マサムネもそれ結構なこと言ってるよな?」
いよいよ虫扱いだしな。まあ、とりあえず、あいつのことはともかく怪我してるという仲間が……。
――ガシャン。
うん?
「な!? ぼ、ボス! なんか出入り口が閉まったで!」
「こ、これは格子?」
「……なんだこれはどういうことだ?」
「ちょっ、落ち着け、今キャンセルで――」
とにかくすぐに格子にキャンセルをかければ戻るはずと、俺は下りてきた格子に向けてキャンセルを使おうと試みるが――その直後、地面が大きく揺れ始める。
なんだこれ、地震か? いや、違う、壁が崩れてるんだ。そして天井も合わせて落下してくる!? くそ!
「その落下! キャンセルだ!」
俺は崩れ落ちてくる天井にキャンセルを掛ける。それによって一旦天井が戻るが、だけど、これは所詮一時しのぎにしかならない。ただ、対応する暇はこれで出来たわけで。
「全員、また落下してくるから気をつけろ!」
「判っとるで」
「ふん、来るのが判っていれば対処など容易い」
「……フェンリィ」
「アオンッ!」
「にゃん、にゃん!」
「ふむ、いつみても不思議な技でござるな――」
口々にそんなことをいいつつ、落ちてくる天井にメリッサを庇いながら俺も双剣で対応。
宣言通り、メリッサを除けばこれぐらいの障害は判ってさえいれば問題なかったようで、それぞれが的確に対処した。
「ご、ご主人様ありがとうございます」
「仲間なんだから気にするな。メリッサにはいつも世話になってるわけだしな」
実際メリッサは戦闘タイプでない分、色々援護してもらっているからな。
しかし――これは一体どういうことだ? なぜ俺達が閉じ込められる。
それに、よく見ると崩れた天井や壁の後に残されたのは――檻。そう俺達を囲んでいるのは鉄格子であり、どうやら俺達がいたのは檻の中だったようだ。
どうりで天井が低いと思ったんだけどな……しかし、そうなると――
「う~ん、やっぱりこの程度じゃやられるわけもないか。まあ、想定内だけどね」
檻の外側に姿を見せたのが、案の定ビュートだった。
そして、その後ろには騎士の格好をした骸骨が見える。
「……スカルナイト、ビュートの傍にいるのはアンデッドタイプの魔物です!」
「チッ、なんか臭い思うとったけど、よりによって魔物と現れるなんてどないつもりやねん!」
「貴様! 我らを謀ったのか!」
カラーナ、メリッサ、アンジェが険の篭った瞳で睨めつける。ニャーコも猫のような唸り声を上げ、セイラは無言で鞭を取り出し、フェンリィも今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。
「ははっ、全くおめでたい連中だよね。こんな手に引っかかるんだからさ」
そして、ビュートは本性を現したかのような憎たらしい笑みを浮かべて俺達を小馬鹿にする。
……くそ! 今すぐここを脱出してぶん殴ってやりたいが、天井にキャンセルを使用した為か、もう格子に対してのキャンセルは使えない。
「……お主、最初から拙者達を嵌めるつもりだったでござるか?」
「そうだけど?」
何を言ってるんだこいつ? とでもいいたげな小憎たらしい表情でいいやがった。
もう誤魔化す気もないってことか。
「おい、だったら仲間の話も嘘だったのか? だけどお前が他の冒険者と攻略にきていたのは確かだろうが」
「ああ、そうだね。確かに彼女たちと一緒にここまで来たよ。僕だって最初は攻略する気マンマンだったからね。でも駄目だよ。あの方を目の当たりにしたらね、とても勝てる気しないし。だからこっち側につくことにしたのさ。その方が利口だろ?」
「……それで、一緒に来た仲間はどうしたでござるか?」
「そんなの差し出したに決まってるじゃ~~ん! お前らだって途中で見ただろ? 哀れな雌豚の末路をさ! あんな目にあうのはゴメンだからね。でもあの雌豚共も幸せだったと思うよ。だってほら、憧れの僕の身代わりに散っていったんだからさぁ」
こいつ――正真正銘の糞野郎だな……。




