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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第22話 初めてのチーム戦

 メリッサが戦闘に参加させて欲しいと懇願してきた。

 参ったな。俺としてはメリッサに戦闘で協力してもらおうとは思っていない。

 これまでのメリッサの才能を見る限り、戦闘系というよりは生産系や補助系に近いからだ。

 

 特に鑑定能力が高いので、上手く奴隷として一緒になる事が出来たなら、そっち関係のジョブにつけるよう調整しようと思ってたぐらいだ。


 だが、なまじ武器を贈ってしまった為、メリッサもその気持に応えたい! なんて思ってしまったみたいで、ちょっと裏目に出た感じだ。


 俺はメリッサに伝えている通り護身用のつもりでしかなかったんだけどな。


「メリッサ。別に俺は一人でも大丈夫だ。メリッサは怪我をしないように離れてみていてくれればいい」


「いえご主人様! それでは私ご主人様に申し訳が立ちません! このような素晴らしい武器まで頂いておいて戦闘のサポートすら出来ないようでは奴隷失格です!」


 あ~あ、やっぱり武器か。それで妙に気合入っちゃってるんだな。

 しかもこの目、もう絶対に引き下がりません! て感じだし。


 メリッサも強情なところあるからな。こうときめたらテコでも動かないみたいな。

 ご主人様と呼ばせてくださいといった時も強情な感じだったし。


「おいどうした! びびっちまったのか!」


 ……ちっ。向こうは向こうで挑発めいたことまで言い始めたし、ギャラリーも増えてきた上、早く始めろ~! なんて煽り始めてきた。


 ふむ、冷静に考えたらこの状況でメリッサに黙ってろというのも危険か。

 勿論何かあればメリッサ優先で助けるつもりだが、それならそれで動いて貰ったほうが安心かもしれない。


 俺は改めてメリッサの装備に目を向ける。

 ウィンドエストックにミラージュドレスか……これなら連中ぐらい、それにメリッサは多少なりとも剣術の心得があるといっていたしな。


「判ったメリッサ。ただし俺の言うとおりに動くというのが条件だ。出来るか?」


「はい! 勿論です! ご主人様のご期待に必ず添えてみせます!」


 相当気合入ってるな……よし! 信じてみよう。

 俺は掻い摘んでメリッサに作戦を伝える。それに頷いてわかりましたとメリッサも首肯する。


 よし! それじゃあ――


「お、やっと来やがったか。待ちくたびれたぜ」


「で、奴隷のネェちゃんはどうした?」


「おいおいあんなネェちゃんが戦闘に参加できるかよ。夜の戦闘ならともかくな」


 何が可笑しいのかその言葉で、ぎゃはぎゃは下品な笑いをあげている。 

 正直全く面白くはないが、やはりメリッサが少し引いたことで戦闘には参加しないと判断したか。


「さぁ来いよ。可哀想だから先ずは俺一人で相手してやるよ」

 

 腹の出たセカンドがそんな事を口走り、手で来いよとやりだしたな。

 まぁそれはそれでいいけどな。

 だが、後ろではアーチャーがしっかり弓を番えているのはどういう事だ?

 危なくなったら射つってとこだろうけど。


 ふむ、とにかく相手の力量を観るか。ランクから基本色のファイターとは判断してるが、とりあえず前に出て相手の懐に入る。


 さてどう来るか――


「けっ! 馬鹿が! 死ね兜割り!」


 ……ファーストが振り下ろしてきたメイスを俺は一歩横にずれて躱す。


「ほぉ。俺の兜割りを躱すとはやるじゃねぇか」


 そんな事をいいつつニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべてきたな。

 ちなみに兜割りはメイスの技――というか棍棒などの打撃系武器で使える基本的な技の一つで、只の振り下ろしに見えるが、一応インパクトの瞬間に体重を乗せることで衝撃をより良く伝えダメージを上げるという効果がある。


 また名前の示す通り兜の耐久値をよく減らす。そういう意味では基本技とはいえそう馬鹿にも出来ないんだが――


 ただ、こいつは馬鹿だ。もう紛れも無くな。

 そもそも兜割りは振り上げた武器を振り落ろすという動作が決まっている技だ。

 上段からの攻撃というのは唯でさえ隙が大きくモーションもでかい。


 にもかかわらずこの馬鹿。自分から兜割り! とか叫んで攻撃してきやがった。

 これがフェイントならちょっとは感心してもいいが、もうど直球、なんのひねりもない。


 なんというかこの時点で程度が知れたな。

 俺にとってこいつはもう只のモブ雑魚にしか過ぎない。

 まぁとはいっても流石に同じ手で二度はこないだろうけど――


「だが次は外さねぇ! 兜割り!」

「キャンセル」

 

 二度来たよ。馬鹿だよこいつマジで。

 たく、もう時間かけてても仕方ないからあっさりキャンセル掛けたよ。

 自信満々で繰りだそうとしていた技が使用できてなくて焦った表情見せてるな。


 で、俺はその隙に前にでて、自分がどれだけ愚かかを思い知らせてやることにする。

 さぁ先ずは右腕!


「ぶひょ! ぶはぁあぁあいてぇよぉおおおおお!」


 俺の右の剣戟が肩口にめり込みそこで動きを止める。

 やっぱ脂肪が厚いな。だが当然それをキャンセルして流れるような左の斬り上げで、脇下から更に刃を食い込ませそれをキャンセルした後にファングスライサーを使用し、メイスを持っていた右腕を斬り飛ばした。


 ファングスライサーは双剣で上下に挟みこむように斬るスキルだ。

 その見た目が、牙で襲いかかってるようだからこの名称がついてるようだ。

 

 最初から使っても良かったのだが、全体的に膂力に劣るキャンセラーだと、これぐらい脂肪が厚い相手の腕を一撃で斬り飛ばすのは難しい。

 なので最初にしっかり肉を抉ってから締めとして使う。

 

 そして腕を飛ばされたセカンドは当然苦痛、どころじゃないな。

 喧しいぐらい悲鳴を上げて残った手で肩口を押さえようとするが――


 右斬り下ろし【キャンセル】左斬り上げ【キャンセル】ファングスライサー!


「ぐぎぎぎいいいぎいいいォいいええェええェええええええええひいいいぎいいェいいあいいいいいぁいいいお"でのヴでがががががあぁああ!」


 断末魔の悲鳴を上げて、セカンドが後ろにドサリと倒れ動かなくなった。

 うん、死んでるなこれは。そりゃそうか。両腕を切断されて生きてる奴がいるはずがない。

 出血多量によるショック死ってとこか。なにせ肩口からバッサリだからな。

 夥しい量の血液が溢れでて地面に血の池が広がっていくぞ。


 靴に触れたら厄介だな。距離を置いておこう。


「て! てめぇ良くもセカンドを!」


 と、今度はキレたファーストがダガーを構えて睨んできてるな。

 まぁ別にこわかないけど。


「おいサード! もう容赦することはねぇ! 殺っちまえ!」


 あぁやっぱりそうくるか。でもな――


「メリッサ今だ!」

「はい!」


 女の子にしては雄々しい気合の声が耳に届く。

 その直後の風切音は、メリッサに渡しておいたナイフを相手に向かって投げつけた証拠。


「な!? て、てめぇこのアマ!」


 サードの声。それにファーストの黒目もぴくりと反応する。

 ならばその視界に入ったはずだ。俺の大事な仲間のメリッサが、果敢にサードに挑んでいってる様を。


「くっ! 奴隷も戦いに!」

「誰も俺しか戦わないとはいっていないがな?」


 尤もおれも元々は一人でやるつもりだったがね。まぁでもこいつらのこの思い込みが奇襲が成功する要因にもなったのは確かだな。


「ゆるさねぇぶっころ、な、なに! このアマ姿がブレて、くそ! どうなってやがる!」


 成功だな。上手く敵意を向けてくれたようだ。それでミラージュドレスの効果は発揮される。

 今のサードにはメリッサの姿が陽炎のようにぼやけて見えてるはずだ。


 俺はメリッサには最初から弓使いのサードだけ狙えといっておいた。

 残りふたりは俺がなんとかするから、合図したらまずナイフを投げろと。


 このナイフは当てる必要はなかった。ただ投げたナイフが自分に向けられたと認識させればいい。

 その上でメリッサが剣を抜いて前に出れば、狙われている事に嫌でも気がつく。

 

 そうなれば弓の狙いはメリッサにいくだろう。勿論敵意も向く。

 そうすればドレスの魔法効果が発揮され、確実に相手は戸惑う。


 俺の言ったとおりに従ってるなら、メリッサは右へ左へと矢の照準に合わないよう撹乱させるような足捌きで相手に向かっているはずだ。

 止まっている相手より動き回る相手の方が当然狙いにくい。


 メリッサにサードを相手にさせたのも矢が点の攻撃にしか過ぎないからだ。

 アマチュアレベルの相手なら、広範囲に矢をばら撒くように射つ弓スキルのワイドショットも使えないだろう。

 二発連続で射つダブルショットぐらいは可能性もあるが、それでも当たる確率は低い、いや当たらないはずだ! ただでさえ動く的は当てにくいのに、更に魔法効果でメリッサの姿は視認し難くなっている。


 これがもしさっきのセカンドや、今眼の前で構えているファーストだと、必ず無傷でいられる保証はない。

 確かにミラージュドレスの恩恵で視認されにくくはなるが、それでも接近されたのを察し武器を振り回されたら怪我の大小はともかく攻撃のあたる可能性はある。


 メリッサの美しい肌に僅かでも傷が残るのは耐え難い苦痛だ。

 だからアーチャーのみを狙わせた。それに弓は実際うざったいから弓使いを動けないようにすることには大きな意味がある。

 メリッサにも大役だと伝えておいた。

 自分は信頼されているんだ! と思わせてあげることは大事だ。それで人は何倍にも強くなれる。


「さてどうする? これでお前らの勝算は更に低くなったぞ?」


「うるせぇ! だったらてめぇをとっとと殺してその後あの女をヤる!」


 挑発混じりの言葉をぶつけてやったら、語気を荒らげて突っかかってきたな。

 大分頭に血がのぼってるように見えるが、ファーストはこのランクにしては素早い動きで懐に入り、左手でダガーを振ってくる。

 軌道は左下から右上への切り上げ。狙いは喉といったとこか。

 一撃で仕留めるつもりらしいが、だったらキャン……いやこの目は――


 俺は右手の剣を起こし相手の刃を受けようとする――が、そのダガーは剣にあたることなく、すり抜けて消えた……思ったとおりだ。


「馬鹿が! それはフェイントだ!」

「判ってたさ、キャンセル!」


 ファーストは俺がフェイントに引っかかり、視線を逸らしたと思い込んで背後に回り込んだ。

 そこから背中を狙って攻撃を仕掛けたんだろうが、俺は首だけ巡らせて相手の顔を視界に収めた後キャンセルをぶつける。

 相手の目が驚愕に染まった。動きも緩慢し次の行動に移れていない。

 そして俺はメリッサの事も心配なので速攻で止めを刺すことにする。


 双剣を水平に構え腰を畝るように思いっきり回転させ、まるで竜巻に巻き込むが如く剣戟を相手に何度も叩き込んだ。


「ぎ、ぎぇええええええええ!」


 下品な叫びを上げ、体中をズタズタに斬り刻まれたファーストは血しぶきをまき散らしながら地面に倒れた。

 当然もう息はない。

 

 しかしこの男、まだセカンドよりはマシだったか。技名を叫ばず頭に血が上ってそうにみえながら中々効果的なスキルも使用してきたしな。

 

 フェイントスラッシュ――それがこいつの使った技。フェイントといっても技術的なものではなく、俺が見たように残像による攻撃を行うスキルだ。

 そしてその残像に気を取られているあいだに、今みたいに後ろに回りこんで不意打ちを喰らわせるのが本来の目的。


 ただそれでもポーカーフェイスに徹しきれなかったのは甘かったな。攻撃に意識を向けた時、僅かに口角が吊り上がったのが見えた。

 それでフェイントの可能性を考えた。

 

 だから逆に利用して引っかかる振りをし、攻撃を仕掛けさせキャンセルを掛けたわけだ。

 そしてそこから双剣スキルであるハリケーンスライサーを決めた。

 これは双剣の中でもかなり上位のスキルで、竜巻のように回転しながら全方位の相手を斬り刻むことが出来る。


 さて、無事に俺の相手は片がついたが――


「ハッ!」

「ぎぃ! か、肩がぁ! 畜生!」

 

 俺がメリッサの方に目を向けると丁度、ウィンドエストックの効果によって生まれた風の刃がサードの肩を抉ったところだった。

 あの傷は深いな。矢を射つのはもう無理だろ。

 さて、これで勝負は決まったようなもんだが、メリッサに人殺しをさせるのは気が引ける。


 俺は愛用の双剣セイコウキテンを鞘に収め、サブウェポンとして携えていた投げナイフを抜き、サードに向けて投げつけた。


「へっ?」

 

 ナイフはサクッと相手の額に命中し、そのまま後ろに倒れ動かなくなった。

 当然キャンセルでナイフは回収。

 その出来事に追撃を仕掛けようとしたメリッサが動きを止め呆けている。


「よくやったメリッサ。助かったよ。こっちも片付いた。俺達の勝ちだ」

 

 俺がメリッサに向けて声を上げると、そこで彼女も止めの一撃が俺のものと気がついたようで、振り返りその顔に笑顔を湛えてくれた。

 いつのまにか相当増えていたギャラリーも、やんややんやと持て囃してくる。


 どうやら俺達の戦い方は、スラムの住人にかなり気に入ってもらえたようだ。


 まぁ何はともあれゲームでもソロがメインだった俺の、初めて行ったチームプレイは、見事勝利を収める形で終了となった――

 


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