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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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第11話 マサムネの実力

「しかし、拙者よもやこれだけ多くの仲間と旅ができることになるとは思わなかったでござるよ」


 マサムネがかっかっか、と高笑いをしながら俺達の後をついてくる。食べ物も分け終え話を一通り聞いた後、目的も一緒ということで結局このマサムネも一緒にダンジョンへと向かう事となった。


 この武士みたいな男の言っている事が本当なら、相当な実力者みたいだしちょっと変わったところもあるけど、悪い人間じゃなさそうだし。


 尤もギルドで話を聞いてすぐに飛び出ちゃうような男だからな。性格はむしろ良いほうなのかもしれないが。


「旅いうても依頼が被ってるというだけやないか」

「いやいや、例え短い間のことであったとしても、こうして知り合えたのは何かの縁、それに食べ物も分けてもらったでござるしな。こうなれば最早我らは一蓮托生。拙者、全身全霊を以って必ずお役に立ててみせるでござる」


 鼻息荒く決意表明するマサムネはどこか少し暑苦しくもあるな。

 ただ、さっき言っていたのはどうやら本当のようで、その為か全く魔物の気配が感じられない。そうなるとやはり腕は相当なものってことか。腰の刀で戦うのは間違いないと思うが、一体どれだけの腕なのか……。


「にゃん! マサムネどこ行く気にゃん!」

「ニャーコ殿、拙者こっちから抜けていった方が近い気がするでござるよ」

「え~い! 先程もそう言って妙な場所に出そうになったではないか! いいから御主は黙ってついてこい!」

「……こいつ、間違いなく方向音痴」

「ウォン! アゥ~ン……」


 ……まあこいつの場合、腕以外の部分で面倒くさいところもあるけどな。魔物を見つけて追っかけているうちに迷ったと言ってたけど、そもそもセイラの言っている通り方向音痴なようで、その癖に感覚でおかしな場所を通ろうとする。

 

 フェンリィも呆れた目で見てるぞ。アンジェも頭抱えてるし。


「ボス、今からでもええから、こいつ帰らせたほうがええんちゃう?」

「な、何を言うでござるか! これはあれでござる、ちょっとした冒険心でござるよ!」

「いや、そんな冒険心はいらないから……」


 俺も思わず突っ込んでしまった。大体山道を辿っていけば必ず目的地に着く筈の道程なのに、何の冒険だよ。


「あ、でもマサムネさんが魔物を退治してくれていたので、薬草採集が凄くはかどります。もうこんなに見つけてしまいました!」


 メリッサが両腕いっぱいに道々採取した薬草を抱えてやってきた。マサムネのおかげで魔物が全く出てこないので、メリッサも邪魔が入ることなく薬草採取が行えるとニコニコしているが、それにしてもかなりの量だな。


「なんや、凄い採ってきたんやな~これで一体何が出来るんや?」

「はい! こっちとこっちを組み合わせると色々な毒に対応する万能薬が、あとはこれは傷を塞ぐ――こっちは魔力を……」


 メリッサが手に入れた薬草類をカラーナに見せつつ嬉しそうに説明してるな。

 正直カラーナはそこまで興味なさそうだけど、聞いてしまった手前途中で中断するわけにもいかないって感じだ。魔物も出ないから歩きながらでも特に危険なく話せるしな。


「――それでね! こっちが凄いの! これは聖樹の葉って種類で磨り潰してから焼いて灰にすると聖灰と同じ効果があって、武器なんかに塗布するとアンデッドにもダメージが(・・・・・)――」


 う~んそれにしても嬉しそうだな。エリンギに貰った薬研も大事そうにしてるし、スポッターの能力ばかり目立つけど、基本はドラッガーだしな。

 ダンジョンに潜る前に薬を調合する時間作ってあげようかな。喜びそうだ――


――ガサガサガサッ。


 うん? 何か枝葉の擦れ合う音が聞こえたな……風、にしては大きいし、そもそも今はそこまで強い風は吹いていない――これは……。


「……気をつけるでござる。何やら強い力を感じるでござるよ。しかもこの匂い――獣でござる」

「ボス、うちも何か嫌な気配を感じるねん」

「にゃ、ニャーコもにゃん!」

「グルルルルルルルルゥウゥウウ!」

「……フェンリィも警戒してる」


 つまり……マサムネの倒しきれていない魔物がまだいたって事か? 

 それに全員の表情を見るにかなりレベルの高い相手な可能性があるな。


「来るぞ! 気をつけろ!」


 アンジェが叫ぶ。緊張感のある声で、その後すぐさまウィンガルグを纏った。臨戦態勢といったところか。俺も双剣を抜き、警戒を強めるが――


『グウォッォォオォォオォオオォオオ!』


 すると耳をつんざくような咆哮を上げながら、巨大な黒い影が目の前に降り立った。

 歯牙を露わに、鋭角に尖った黒瞳を光らせこちらを睨んでくる。


 その様相はかなり巨大な黒犬といったところか。顎門がやたら長く、鋭い歯が口内でひしめき合っている。


 しかし舌も黒いんだな。歯も黒いし、爪も含めて何から何まで黒で統一されている。


「ご主人様鑑定まで――一分ほどお時間を……」


 メリッサが言う。一分か――今のメリッサでそれだとやはり結構な実力を有しているのかもしれない。それにただの魔物とは違いそうだし、確かギルドで言っていたな、ここには魔獣が出ると。


「マサムネ、魔物をあらかた狩ったと言っていたけどその中に魔獣はいたか? このあたりにはたまに出るそうだが」

「……なるほど、拙者が斬り伏せた中にはそれらしき物はいなかったでござる上、それであれば納得が出来るでござる」


 決まりだな。こいつは魔獣で間違いなさそうだが、さて一体どんな攻撃を――


「ボス! こいつ尻尾が増えとるで!」


 カラーナの警戒を強めた声が届く。見てみると確かに尾の数が八本に増えていた。

 しかもだ、尻尾の先が鋭く変化していき――なんかいやな予感がしてきたぞ。


 刹那――風切音が数度、そして空間が切り裂かれたような錯覚。数本の黒尾が先頭に立っていた俺とアンジェの視界を横切る。


「こいつ! 尾を自在に操るのか!?」


 ウィンガルグの風にのって宙を漂いながらアンジェが叫ぶ。俺もギリギリで飛びのいて避けたが、かなり鋭い一撃だ。しかも尾は伸縮自在な様子。


「いやらしいやっちゃな!」


 するとカラーナが隠し持っていたダガーを投擲。更にムーランダガーがヒュンヒュンっという音を奏でながら、黒犬の横っ腹を狙う。


 だが――そのどれもが魔獣の尾によって阻まれ地面に叩き落とされた。

 鞭のようにもしなるんだな。変幻自在の攻撃はかなり厄介でもある。


「――フェンリィ」

「ウォン!」


 セイラがスキルでフェンリィを強化し、更に鞭スキルで魔獣の弱点を鞭打ちしつつ、ファイヤーボールによる追撃、そして俺達全員にも強化魔法を掛けてくれた。


 こうなると俺も負けていられないな。とりあえず迫る尻尾の一本をキャンセルだ! これで後はその隙を狙って、て危な!


「ご主人様!」

「ヒット大丈夫か!?」


 メリッサとアンジェの声。一本キャンセルしたのはいいが、その間に横から迫った尾の一撃に対応しきれなかったから心配してくれたんだろ。


 俺も随分と派手に飛んだが、身体能力も大分上がってきているせいか耐えられない痛みではない。

 空中で回転して着地。顎をぬぐいつつ相手を見やる。


 とは言え、あの鞭のような尾の攻撃はやはり厄介だ。伸縮自在な上動きも一本ずつバラバラだからキャンセルするタイミングを考えないと、今みたいに同時に別方向から来た攻撃には対応しきれない。

 

 こうなったらトラップをばら撒くか? ただ設置数に限りがあるし、実はメリッサに危害が及ばないよう既に彼女の周りにかなりの数撒いている。


 カバーするには少し弱いか。アンジェが大分頑張って攻撃を加えているが、やはり尻尾が壁になって決定打にはなっていないしな――


「ご主人様判りました! やはりあれは魔獣! 魔獣ガヴァスという名称で攻防一体の複数の尾による攻撃を得意として――その、最大で尾の数は一六本まで増えると……」


 は? いや魔獣なのは想定したとおりだが、今でも結構厄介なのに更に倍まで増えるのかよ……おいおい、こうなるとちょっとは考えて――


「お、おいマサムネ! 無闇に近づくと危険だぞ!」


 ……ん?


「心配はいらないでござるよ。拙者既にこやつの動きは見切ったでござる。もう――この太刀で斬ったも同然でござる」


『――ッ!?』


 その瞬間、俺の、いや見ている限りマサムネ以外の全員がそれに気が付き、言いようのない何かを感じた。


 そう、まさに鬼気迫る――それがマサムネの背中から感じられ……。


『グ、グオォォォオォオオォオオ!』


 それは相手にしても一緒だったのか、魔獣は一六本に増やした尾を全てマサムネに向けて突き、薙ぎ、叩き落とす。


「……鬼斬流抜刀術――【百蓮(びゃくれん)】」


 しかし、どこか甲高い音が周囲に広がると同時に、マサムネに迫った尾が全て切り刻まれ、地面に落ちるまもなく塵となり消え去った。


「ふぅ――終ったでござるよ」


 そしてマサムネがニコリと微笑んで俺達を振り返ったその瞬間、魔獣本体に幾つもの斬線が刻まれ、あっという間に細切れの肉片へと変わり果てていった――

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