第7話 手紙の内容
「……なるほど。いやはや全く――」
エドは眉を落としそう呟いた後、今度はクスリと笑顔を覗かせた。
手紙は畳んだし中身は確認したんだろうけど、一体何が書かれていたんだろな?
「その様子だと、中身は確認されていないのですね」
「うむ、封蝋もされていたし、我々は依頼された手紙を覗き見るような不敬はしない」
アンジェが凛とした態度で答える。流石お姫様だけにこういった時には貫禄が滲みでるな。
本当清廉潔白が服を着て歩いてるみたいだ。ただ、実は密かにカラーナがのぞき見ようとしてたりもしたけどな。流石に止めたけど。
「そ、そやな。手紙を勝手に見るなんて、さ、最低な行いや!」
いやいやカラーナ、凄いキョドってるし。
「手紙にはやはり秘匿しなければいけないような事が記されていたのでしょうか?」
すると、ここでメリッサがエドに尋ねた。ナイスタイミングだな。俺もそこが気になるところだし。
「いや、そんなことはないし、そもそも内容は君たちにも関わりがあることだ」
「にゃにゃ! ニャーコ達になのかにゃ? ま、まさかニャーコの身体をかにゃ!」
ニャーコが身動ぎしながらそんなことを口走ってるけど、なぜそうなる。
「……そんなことわざわざ手紙にするわけない。それに身体ならメリッサの方が立派」
「アンッ!」
「酷いにゃ!」
セイラ……中々辛辣だな。
「エリンも身体には自信があるなの!」
「お、お前たちがおかしなことを言うからエリンが変になってしまったではないか!」
アンジェがバンッと机を叩いて怒鳴った。彼女もエリンを可愛がってるからな……とりあえずエリンは一〇年後に期待かな。て、何を考えてるんだ俺は!
「ふふ、皆様仲が良さそうでこっちも楽しくなりますよ」
「あ、いや――」
エリンのことでむきになっていたアンジェが俯いて赤面した。でもそんなアンジェが妙に可愛く思う。
「さて、では本題となるけど、先ず手紙にはシャドウより同盟を結ばないか? という申し出がまず書かれてあってね」
「同盟? シャドウが同盟望んどるんかいな?」
「ちょっと待ってくれ。領主同士で同盟ってそんな勝手に決めていいものなのか?」
「うん? 別に珍しくはないぞヒット。国もそれは問題としていないしな。同盟を結ぶことで通行税などを免除にし商人の行き来を活性化させたりなどメリットも多いのでな」
……なるほど。例え同じ王国内であっても領地が変われば通行税や積んでいる荷に対しての税金が掛かったりするのはこの世界では珍しくないようだ。しかしそこで同盟を結べばお互いの領地の商人の行き来に関しては税金を免除し、それが市場の活性化につながったりするってわけだな。
「……だけど、それはマントス領側にメリットある?」
「クゥ~ン」
セイラが核心を突くことを言った。確かに――何せ今セントラルアーツは復興の最中だ。それに王国騎士とか厄介な連中もやってきてる。
シャドウ側からすれば、同盟を結ぶことで資材や食料の補給につながればメリットは大きそうだが、エド側のメリットがなさそうなんだが……。
「確かに言われている通り、このままでは同盟を組むにしてもこちらの利益にはつながりません。私としては以前お世話になったこともあり協力したいのは山々、ですがこちらに利がないことで同盟を結んでは他のものも納得しないでしょう」
なんかあんまりいい雲行きではない感じか? でも俺達もまさか同盟のことが書かれてるとは思わなかったからな……正直それを聞いたからといってどうしようも――
「そこで、皆様の出番です」
「へ?」
俺が色々黙考していると、ふいにエドがニコリと微笑みながらそんなことを言ってきた。
そういえば俺達にも関わりがある話だとは言っていたが――
「実は手紙にはこうも書かれておりまして、今手紙を届けた者達はとても腕が良い。きっと私の抱えている問題も解決してくれるだろう、とね。つまり皆様にこの領地で今まさに起きている問題を解決してもらうことを条件に、同盟を結ばないかということですね」
「……つまりそれは我々がシャドウに体よく同盟の道具として利用されたということか?」
「う~ん、まあ悪く言えばそのとおりですね」
「くっ! またしてもあの男め!」
アンジェが拳を握りしめて悔しそうに奥歯を噛んだ。あ~……そういえばアンジェはセントラルアーツに来た時も結局シャドウに上手く乗せられたんだったな……。
「でも、問題ってなんや? そんな問題ありそうには思えんかったで? 確かに道中魔物は出てきたけど、それはどこも似たようなもんやしな」
「確かに現在はまだ問題は表面化しておりません。ただ、精霊獣を使役しているアンジェ殿やエルフの娘さんならなんとなくわかるのでは?」
あ、そういえば確かにさっきアンジェが何かを気にしている様子だったな。それにエリンも判ること?
「……精霊さん、ちょっと怯えてるなの――」
するとエリンが伏し目がちに答えに繋がりそうなことを口にした。
すると、やはりそうか――と、アンジェも呟き。
「エリンの言うとおりここの精霊は一見元気そうだが、一部落ち着かない感情のようなものを私も感じていた。ただ私の場合そこまで明確にわかるわけではないのでな、確信はもてなかったがエリンの言葉で間違いないと判ったよ」
エリンが今の発言から若干表情を暗くさせ、アンジェは真剣な目をエドに向けた。
ふむ、どうやら問題は精霊絡みのようだな。
「流石ですね。手紙に書いてあった通り皆様はかなりの実力者のようだ。ならばお願いしてもいいかもしれない。今この領地で起きている問題の解決のために」
「それで、その問題というのは?」
俺が改めてそう問うと、はい、とエドが頷き説明を続ける。
「実はこの街にいる水の精霊は全て元々は北の湖を住処にしていた精霊達でね。それはそれは清らかな水を湛えた湖で、よそからもわざわざ観光に来る人もいた程なのだけど――その湖が北の山脈に生まれたダンジョンをきっかけに汚染されてしまったんだ」
「ダンジョン? ダンジョンが出来たのですか?」
「えぇ、少し前に地震があったのを覚えてますか? 結構な揺れではあったのだけど、それと同時にダンジョンが生まれてしまってね」
地震――そうだ! 確か俺達もセントラルアーツで魔物の駆除を行ってた時、地震が起きてたけど、あれでここにダンジョンができていたのか……。
「しかし、それで本当に湖が汚染されたのですか? 正直これまでの記録でもダンジョンの影響で魔物が溢れ出ることはあっても汚染という例は聞いたことがなかったのだが……」
「それは私も初めてのことだから戸惑ってはいるのだけど、でも確かにダンジョンが出来た直後から湖の汚染が始まり、精霊達も怯え始めたのだよ。その怯え方もダンジョンに対して酷い忌避感を覚えてるようでもあってね」
……なるほど。エドはある程度精霊の感情が読み解けるようだし、その情報でいけばダンジョンが原因と考えるのも当然か――
「ですが、ダンジョンが出来たのなら冒険者が向かったりはされなかったのですか?」
「確かに。この街ならギルドぐらいあるやろしな」
「ええ、確かにダンジョンが出来てすぐに冒険者ギルドから攻略隊が何組も派遣されました。ですが――誰ひとりとして戻っては来なかったのですよ」
「にゃにゃにゃ! 一人もにゃんか? 途中で戻ってきた冒険者もにゃん!?」
「はい。残念ながらダンジョンに潜った冒険者達は二度と出てくることはありませんでした――」
……どうやら思った以上に厄介な事件を取引材料に選んでしまったようだなシャドウは――




