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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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第6話 アクアマントスでの謁見

「どうぞこちらでお待ち下さい」


 領主の屋敷には、シャドウからの手紙を預かっていることを伝えるとわりとあっさりと通してもらうことが出来た。


 そして妙齢のメイドに案内され謁見用の部屋へと案内される。外観も立派な屋敷であったが、やはり部屋も広い。明かり取りもしっかりなされており、自然の優しい光が上質な空間を程よく照らしている。


 絨毯もふかふかで中心寄りに艶のある木製テーブルと革のソファーが設置されていた。

 俺たちは全員でそのソファーに腰をかけるが程よく沈み込み腰への負担を全く感じない。馬車の中は板床にずっと座り続けていたし正直どうしても尻が痛くなったからな。これはなんともありがたい限りだ。


「ボス! これすっごい柔らかいで! 尻も全く痛くならないやん! 尻が気持ちいいねん!」

「カラーナ、お前も女なのだからもう少しいい方ってものがあるだろ、端ない……」


 アンジェが顔を赤くさせながら尻を連呼するカラーナに注意した。その気持は俺もよくわかるぞ……大体尻が気持ちいいってお前……。


「全くアンジェは細かいこと気にするんやな。大体馬車にずっと揺られてたら尻がいたくなるねん。メリッサかてそうやろ?」

「え!? あ、私はその……」


 急にふられてもじもじしだすメリッサ。お尻のことに触れられて恥ずかしそうだ。その初々しいところがメリッサの可愛いところだな!


「ニャーコは大丈夫にゃん。でもこのソファはすわり心地がいいにゃん」

「あんたは好き勝手移動してたしな~幌の上に乗ったりしとったし」

「ニャーコは外の空気を吸わないとおちつかないにゃん」


 本格的に野良猫みたいだな。それでよく受付嬢やってたもんだ。


「仕事は別にゃん」


 ……心読めるのかこいつ?


「きゃははなの! すごく楽しいなの!」


 で、エリンはソファに腰掛けた状態でぴょんぴょん跳ねるようにしながらはしゃいでる。

 う~んもしかしたら注意したほうがいいのかもだが――はしゃいでる姿が可愛すぎる! 途中紅茶を注いでくれたメイドも頬を緩ませていた程だ。


 それにしても紅茶か……こういう時悩むな。喉は渇いているがやはりここは相手が来るまで手を付けず待つべきか……。


「うん、旨い紅茶やな」

「て、もう飲んでたし!」


 思わず声を上げちゃったぞ! そんな俺にブラウンの瞳を向けてカラーナが言う。


「毒味やで毒味。でも大丈夫やな! 遠慮せず飲むとええで!」

「いや、そこは少しは遠慮しろカラーナ! それに毒とか失礼だろ!」

「何言うとんねん。大体一番心配せなあかんのアンジェやろ!」


 う!? とアンジェが喉を詰まらせた。あ~確かにそう言われてみるとそのとおりなんだよな……。


「……いい紅茶」

「ウォン!」


 カラーナが飲んだのを認めてセイラも口をつけたな。なんかここまできたらもう飲まないほうが失礼な気がしてきた。


 だから俺も紅茶に口をつける。うん、旨い。


「いやあ、待たせてしまったね」


 それから紅茶を楽しみつつ待っていると、少しして入り口のドアが開き領主が顔を見せた。

 金色の髪をしっかりと整えた男性で、年の功は四〇代そこそこといったところだろう。

 温和な雰囲気漂う顔つきで縁無しの眼鏡を掛けている。

 

 中肉中背の彼は黒のスラックスに白の襟付きシャツ、その上からエンジ色のベストを羽織っていた。いかにも紳士といった風貌である。


 そして領主が来たとあって一旦ソファから全員で立ち上がるが、

「あ~どうぞどうぞ楽にして下さい」

と言われた為、再度腰掛け、領主もテーブルを挟んだ向こう側のソファに座る。


 これで厳つそうな相手ならちょっと空気が重くなりそうだが、彼であればそんなことにはならないな。領主としてそれがいいのかわるいのかは判らないが。


「初めまして、私はエド・マントス・エレメンと申します」


 そして席に着くなり俺達から名乗る前に相手から自己紹介してくれた。

 なので俺達もそれぞれが返礼した。


「冒険者のヒット殿とセントラルアーツの騎士であるアンジェ様、それに一緒に旅をしているメリッサ様、カラーナ様、ニャーコ様、セイラ様、フェンリィちゃん、エリンちゃんだね」

「う、うむ、しかしこちらから伺っておいて敬称も落ち着かぬ。私のことは普通に呼んでくれると嬉しい」

「うちもやな。様とか背中がかゆなるわ」

「エレメン卿、私もヒットと呼んで頂ければ」


 俺達がそう願い出ると、はははっ、とエレメンが朗らかな笑い声を上げた。


「だったら私のこともエドで構わないよ。実は私もそういうのは苦手でね」

 

 そう言って眼鏡の奥で片目を瞑った。中々愛嬌も備わっている人だな。話しやすいし、正直今まであってきた領主とか貴族はチェリオだったり魔族だったり王国騎士の豚蛙だったり碌なのがいなかったからな。


 正直初めてまともな貴族にあった気がするぞ。


「さてさて本題だけど、確かシャドウから手紙を預かっているという話だったね」

 

 その言葉に俺とアンジェがほぼ同時に、え? と驚いて声を上げた。

 俺たちは勿論、屋敷に入る前に会った執事にもシャトー・ライドからの手紙と伝えてある。だからシャドウなんて名前、裏の彼を知らないかぎり出てこないはずだ。


「うん? あ、そうかそうか。いや、実はシャドウを通して人を紹介してもらったことがあってね。その時からよく知っているんだよ。勿論裏の顔としてね」


 そう言って、はっはっは、と愉しそうに笑う。おかげで俺たちは納得できたが、まさか他の領地の主がシャドウとつながりがあったなんてな……結構顔が広いんだな。まあシャドウならそんなに不思議でもないけど。


「なんや、シャドウのこと知っとるんか。だったらあんま畏まる必要もなさようやね」

「お前は最初から畏まっていないだろ」


 後頭部に両手をやり何か損したと言わんばかりに口にするカラーナだけど、すぐさまアンジェの横槍が入った。

 まあ基本カラーナは自由だしな。最近それより更に自由なのが加わったが。


「……でも一体何をシャドウに?」

「アゥン」


 今度はセイラが質問。相変わらず表情の変化は乏しいけど気になることを積極的に聞いてくれたな。


「ま、わざわざシャドウに頼むっちゅうことは表では言えないような怪しい取り引きやろな」

「お、おいおい」


 はっきりと言ってくれるカラーナに俺も苦笑いを浮かべてしまう。確かに裏取引が専門のシャドウだからその可能性は高いのかもだけどな……


「う~ん、個人的にはそこまでやましいつもりはなかったんだけどね。だけどあの当時セントラルアーツはゴタゴタしていたから中々直で人の派遣をお願いするのは厳しくてね」


 すると俺達の考えを察したのかエレメンがそんなことを言ってきた。話を聞くに誰か来てもらいたい人物がいたということか。


「ということは、シャドウにお願いして誰かに来てもらったにゃん?」

「ええ、丁度セントラルアーツには精霊と魔法に卓越したエルフがいると耳にしましてね。それでシャドウにお願いしてエルフの魔道具師に口利きしてもらったのです」

「え? エルフの魔道具師というと、エリンギ先生ですか?」


 これにはメリッサが反応したな。確かにセントラルアーツでエルフの魔道具師といったらエリンギぐらいしかいない。


「うん、そうだね。その様子だと君たちもよく知っているのかな? それに先生って……」

「あ、はい。私が個人的にそう呼ばしてもらっているだけですが、薬草について色々と教えてくれたので」

「ああなるほど。確かに彼女は薬草についても造詣が深かったね」


 うんうんと頷きながらエドが言った。


「私のママなの~」


 するとピコピコと長耳を揺らしながらエリンが話に参加した。う~ん微笑ましい。


「おっとそうだったんだね。でも確かに言われてみればよく似ている」


 エレメンは目を細め優しい表情を覗かせつつエリンの顔に注目した。

 エリンギのことも思い出していそうだけど、俺は何故彼女を呼んだのかが気になる。


「でもエリンギに一体何を?」


 なのでもうこの際だからと俺も彼に訊いてみた。

 

「うん、実はうちの家系は代々精霊魔法に精通していてね。とは言ってもエルフに比べれば精通というのもおこがましいぐらいだとは思うんだけどね」


 あ~なるほど。確かに戦士系の体つきには見えなかったもんな。眼鏡もなんかそれっぽいし。いや偏見かもしれないけど。


「それで特にこの辺りは北の山脈にある【ウンディーネの湖】の恩恵で水の精霊の力が強くて、私の先祖が精霊契約でその内の一部に街に来てもらったのさ。街の外側とこの屋敷の周囲に堀を造って常に水を湛えているのはウンディーネにとって快適な環境を保つためでもあるんだけどね」

「へ~精霊ってそんなことも出来るんやな」

「うむ、私も風の精霊と契約して精霊獣として一緒に来てもらっている。その規模を大きくした形だな」


 アンジェが肩に乗ったウィンガルグを撫でながら説明してくれた。なるほど、流石にこのぐらいの話になると俺の知識じゃ分かり得ないことだな。


「うん、そうなんだけど、実はちょっと前に精霊達の元気がなくなってしまってね。その原因を探ったらどうにも堀に施した魔法式が弱まっているようでね。それで私も自分でなんとかできればと思ったんだけども、残念ながら私はご先祖様ほど腕は良くなくてね。それで困っていたところにセントラルアーツの彼女の噂を耳にしてね」


 なるほど。それでエリンギにお願いして魔法を施し直して欲しかったのだけど――その頃にはもうセントラルアーツはおかしくなり始めていたから普通に頼んでも取り合って貰えそうになく、裏の顔を持つシャドウにお願いしたってわけね。


「あの、その精霊の件は上手く解決したのですか?」


 メリッサが興味深そうに質問を重ねる。先生と慕っているエリンギのことだから気になるみたいだな。


「ええ、おかげさまで精霊は前よりもより元気になってくれてね。正直最初は堀に落ちて溺れそうになったり、眼鏡を頭にかけたまま眼鏡はどこにいったかしら? と探し求めてあたふたしたりと、大丈夫かな? と心配になった部分もあったけど仕事は完璧だったよ」

「……恥ずかしいなの」


 エリンが頬を赤くしながら俯いてしまった。しかしドジなのはここでも一緒だったか……。


「精霊が元気になった、か……ふむ――」


 するとアンジェが顎に指を添え考えている様子。

 何か気になることでもあったのか?

 なんとなくアンジェの様子が気になったりはしたが、とりあえず一旦この話は終わり、改めて失礼と口にし、エドが封を開け手紙の内容に目を通し始める。


 さて、一体何が書いてあるのやら……。

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