第2話 どうなるエリン!
「あのねなの、エリン、皆と離れたくなかったなの……」
馬車の中でお座りし、エリンが事情を説明してくれたが、やっぱ子供だけに単純な動機だった。
「エリン、このことをドワンとエリンギは知ってるのか?」
俺がそう問い詰めると黙ってふるふると首を横に振った。ちょこんと座って目を伏せてるところから、望ましい行動ではないことは、しっかり自覚してるようだな。
しかしやはり黙って付いてきたのか……まさか荷物の中に紛れてるとは俺も思わなかったしな。カラーナも気配には敏感なはずなんだが、エリンギは、精霊さんに助けてもらったなの、なんて言ってるから気配が読めなかったのはそれが原因なんだろうな。
「むう、しかしどうしたものか。流石にこのままというわけにはいかないだろう?」
「そ、そうですね。戻ったほうが宜しいですか?」
アンジェが一つ唸りながら困ったなといった表情を見せる。御者台からはメリッサが今後について問いかけてもきてるが……しかし既に街を離れて結構進んでしまったよな――キャンセルで戻るって手もないでもないが……。
「嫌なの! エリン皆と一緒にいたいなの!」
「いや、しかしエリン、パパとママが心配するではないか。駄目だぞ、ご両親を心配させるような真似をしては」
アンジェがめっ! といった雰囲気で厳しいことを言う。この辺りは流石に規律に厳しい騎士だけあるな。
「う! で、でもパパとママはきっと判ってくれるなの! それに可愛い子には旅をさせろなの!」
「おお~エリン良くそんな言葉知っとるな~えらいで~」
カラーナが優しくエリンの頭を撫でる。エリンが気持ちよさそうにしてるが、どうもカラーナはあんまり深刻には考えてないようにみえるな……。
「おいカラーナ、今は真剣な話をしてるのだぞ。可愛いからと甘やかしていい問題ではない」
「お~こわ。いややな~年をとると小うるさくてかなわんわ~」
「な!? だからお前と私はそこまで年は離れてないだろ!」
「いや、アンジェ今はそんな事を言ってる場合でもないだろ」
以前のような言い合いが始まりそうな気配を感じたからとりあえず口を挟んどく。
「むぅ、そ、そうであったな。とにかくだ! エリンをこのままというわけにはいかない。危険が伴うことだってあるのだ」
「大丈夫なの! エリンも頑張れるなの!」
「そやで、エリンもこう言ってるんやし別にええやろ。それにもう乗ってきてもうたんやし、今更戻るなんてそんなわけにもいかんやん」
……どうやらカラーナはエリンがついてくることに反対ではないようだな。そしてカラーナの擁護があったせいかエリンも元気を取り戻してきた。
……あれ? 意外と計算高いのかこの娘?
「あ、あのご主人様! カラスがカラスが空からやってきました!」
カラーナに寄り添い、戻る気はないと頑なに言い張るエリンに俺たちは困り果てていたが――そこへメリッサからの声が響く。
カラスって――もしかしてシャドウか?
馬車が一旦停車し、俺達は一旦外へ出ると、御者台に確かにシャドウが創ったものと思われるカラスが止まっていた。
『さてさて皆様、恐らくですが今エリンが馬車に乗っていたことが発覚しどうしようかと頭を悩ませるている頃だと思われますが』
で、カラスが喋り出したわけだが――当たり過ぎてて怖いぞ。どっかから見てるんじゃないのか?
『結論を申し上げますとエリンはそのまま連れて行って下さい』
「は!? しゃ、シャドウ貴様は何を言っておるのだ! こんな幼子を連れて行くなど、どんな危険が待っているかも判らないというのに!」
『と、言うと恐らくアンジェ様辺りが憤慨して声を上げると思いますが少々落ち着いてお話を聞いてください』
「……アンジェの行動バレバレみたいやな」
「す、凄いですね」
「……読心術?」
「いやセイラ、それにしても距離が離れてるしな。もっとなんかこう得体のしれない何かだと思うぞ」
「クゥ~ン……」
「くっ! 本当にこういうところは不気味なやつだ!」
『まあそう言わずに。それでですね、エリンを一緒に連れて行って欲しいと言ったのにはわけがあります。理由は実質こちらに皆様が戻ってくるのが不可能だからです』
「不可能だって?」
『はい、なぜなら既にこちらではアンジェ様が旅だったことは王国騎士団の連中に伝えております。それなのに今のこのこと戻られては折角奴らの目につかないように旅立って貰ったのに意味が無いのです』
う、た、確かにそう言われてみるとそうだな……もしここで戻って見つかりでもしたら厄介なことこの上ないだろう。
「し、しかしご両親が心配を!」
『その心配も無用です。エリンギもドワンも仕方がないと納得してくれてます。あ、ですが勿論危険が及ばないようアンジェ同様しっかり見ていてあげてくださいね』
「……簡単に言ってくれるぜ」
『ふふっ、それだけ私は皆さんを信頼しているってことですよ。それにエリンはまだ幼いですが精霊を利用した魔法の腕も大したものですし、それに力も子どもとは思えないほどです。勿論だからといって心配いらないという話ではありませんが、エリンも旅に出ることでいい経験に繋がるかもしれません。なのでどうぞ宜しくお願い致しますね。それでは私はこの辺で、皆様の旅のご武運をセントラルアーツからお祈りしております』
そこまで言って影で出来たカラスが消え去った。しかしこれ別にお互い会話してるわけじゃなく、シャドウが予め込めていた声をカラスが代弁してるだけなんだよな……そう考えるとすごく不気味だ。
「それにしても……全く勝手なことを言ってくれるものだな」
シャドウの話も終わり、俺が思わずそう呟くと、全くだ、とアンジェもため息を一つ吐き出すが。
「とは言え……そういう話ならもはや仕方あるまいな」
「お、ということはエリンも同行してえぇっちゅうことやな!」
「やったなの! エリン一緒に旅をするなの! 皆とずっと一緒なの!」
やったやったとカラーナと手を取り合って喜ぶエリン。その周りをアンッアンッ! と吠えながらフェンリィと……何故かアンジェの精霊獣のウィンガルグが一緒に駆け回ってるな。
「……エリンは精霊に愛されてるみたいだからな。ウィンガルグもエリンが傍にいると嬉しそうなのだ」
「へ~そういうものなんだな」
「ふふっ、でも何か微笑ましいです。やっぱり子供はいいですね、私もいずれ――」
そんなことを言っているメリッサの頬が紅い。俺が見ると今度は耳まで紅くした。なにこれ可愛い。
「……フェンリィも嬉しそう」
「うん? あぁ、そうだな。そういえばよくエリンの遊び相手にもなってたもんな」
あ、エリンがフェンリィに飛びついてゴロゴロしてるな。う~んそれにしてもフェンリィもこうしてみると結構成長したな。エリンぐらいなら楽勝で背中に乗ることが出来るだろう。
まぁ、何はともあれ、これで小さな旅の同行者が一人増えたってわけだけどな……。




