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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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第44話 キルビルとシャドウ

「ヒット達が居なくなるとやっぱ少し寂しくなるな」

「仕方ないですよ。彼らには彼らの役目がありますからね。それに、寂しがってる暇などありませんよ」


 人使いの荒いやつだな、とキルビルが肩をすくめた。今ふたりはセントラルアーツで密かに活動する盗賊ギルドで今後について話し合っている。


「それにしても盗賊の俺が言うのも変な話だが、王国の連中も随分と下衆な連中ばかりよこしやがるな」

「そうですね。尤も来ている連中には一つの特徴がありますが」


 特徴? とキルビルが目を丸くさせた。彼にはシャドウの言っていることにピンっとくるものがないようだ。


「いま来てる騎士は全てヴィダル・メソニア・ラース、つまり王国軍最高指導者である大元帥の息の掛かった者達です」

「は? それってかつての英雄と称されたあのラースかよ」

「英雄ですか……そう言えば聞こえは良いかもしれませんがね」


 どこか含みのある言い方をするシャドウ。確かにヴィダルはかつて北の帝国との戦いにおいてその才腕を振るい王国を何度も勝利に導いたと誉れ高い人物でもある。

 

「何かあるのか?」

「そうですね……色々と強引であったり怪しい噂も同じぐらい多い人物ですよ。それに何より今問題なのは彼の思想ですね。過激な態度を貫く強硬派でかつての帝国に近い考えの持ち主ですから」


 なるほどな、とキルビルが頷き。


「それでこの領地を軍事拠点にしたいと考えてるってわけか」

「ええ、少しでも拠点を増やし、他国を威嚇したいという目論見もあるのでしょうね」

「しかし、それを今の国王がよく許したな。確か王は穏健派でこれまでも外交重視の姿勢で周辺諸国との関係も深めていただろう?」

「えぇ、実際おかしなことが多いですからね。アンジェの件も含めて」

 

 暗殺か――とキルビルが神妙な顔で呟いた。


「それは確かなのか?」

「確実とは言えないですが、可能性は高かった。だからこそヒット達に護衛を任せたわけですからね」

「まあ、あいつらなら上手くやってくれると思うけどな。しかし、護衛はヒットに任せるとしてこっちはこっちで中々大変だな。向こうはシャドウを引きずり降ろそうと必死だろ?」

「でしょうね」

「軽く言うのな……だったらよ、もうこの際だから独立して国造ってしまうか! シャドウが本気なら俺は協力するぜ!」


 腕を曲げ上腕二頭筋を魅せつけるようにして声を上げるキルビルだが、シャドウは一つ息を吐きだし。


「……それこそ簡単に言ってくれますねといった話ではありますね」

「難しいのか?」


 頭を振った後、シャドウがその問いかけに答えた。


「それはそうです。国を造るなどはそう簡単なことではありませんよ。少なくとも現状では蓄えの面でも人の数も圧倒的に足りません。もしここで独立宣言などすれば間違いなく反逆者扱いされ、軍が攻めこむきっかけを作るだけです。自殺行為ですね」


「そっかシャドウならいけると思ったんだが……でもそれならどうするんだ? あいつらシャドウの言うことを聞いて諦めてくれるようなたまなのか?」


 残念そうに眉を落とした後、キルビルが更に質問を重ねた。既に今の状況はキルビルも彼から話を聞いてある程度知っている。


「それも難しいでしょうね」

 

 そしてそれに対して随分とあっさりとシャドウが言ってのけた。思わずキルビルが眉を顰める。


「おいおい、それじゃあ……」

「しかし、時間稼ぎは出来ます。と、言うよりも今はそれが一番大事ですね。その為に今回交換条件を提示したのです。一見すると無茶な話のようではありますが、資料とアンジェからの擁護もあり、彼らは簡単には無理だと言えなくなりました。案件を王城へ持ち帰り上に相談となればそれなりに時間を要しますし、その上で魔族の件もあります、それに――」

「それに?」

「アンジェの件も効いてくるでしょう。予定とは異なり別ルートで旅だったとあればそれへの対応も考える必要が出てきます。こうやって問題が積み重なっていけばより時間は稼げます」

「何かそれだけ聞いてると、ヒット達が体よく囮に使われているようにも思えるな」


 シャドウの答えにキルビルは肩を竦めてそう言った。


「ふふっ、否定はしませんよ。しかし、アンジェが危険なのは確かだと思われますからね。どちらにせよこの選択肢は避けられなかったと思いますよ。それに――ヒット達には他にも色々と重要なことがありますからね」


 シャドウのいう重要なこととは何か? キルビルにはそれがわからないといった様子であるが、その時部屋に一人の女の子の姿、シャドウを主と慕う獣人の犬耳娘、コアンである。


「主様、ただいま戻りました」

「おかえりコアン。それでどうでしたか?」

「はい、主様が頂いた手紙の通りになっております。今イーストアーツでは人々が病に倒れ騎士たちも混乱を来しているようですので」

「そうですか。では取り敢えず上手く言っているようですね」

「お、おいおい! 病が流行っててそれのどこが上手く言っているんだ?」

 

 コアンとシャドウのやりとりに、慌てた様子でキルビルが割り込んだ。

 確かに病となるとかなりの大事な気もするものだが。


「勿論それが本当のことであればそんな呑気な事を言っている場合ではありませんけどね」

「本当って……まさか虚言ってことか?」


 片眉を吊り上げ、怪訝な様子でキルビルが問う。


「えぇ、ですがただの虚言ではありませんよ。ふふっ、しかしこのような大胆な手を思いつくとは、エキという方も中々に侮れませんね」


 シャドウの大胆という言葉で、キルビルが疑問に満ちた表情を見せる。


「大胆って、ようはハッタリだろ?」

「そうですが……しかし言葉だけではないのですよ。人々は実際病と同じ症状に陥っていますからね」

「は? 虚言じゃないのか?」

「確かに虚言は虚言ですが……彼らはそれが怪しまれないように、毒で病の振りをしているのですよ」

 

 その返答に、キルビルが目を大きく見開き驚きの声を上げた。


「……は!? お、おいちょっと待て! それってつまり――」

「ええ、エキの作戦通りなら、イーストアーツの住人全員が自ら服毒し病と同じ症状を見せているということになります」

「……本当かよ、それ大丈夫なのか?」


 一瞬言葉を詰まらせた後、唖然とした表情でキルビルが問う。


「そればかりは私も大丈夫とはいいきれませんがね。しかし覚悟は感じられます。この作戦は毒が軽すぎても怪しまれるだけですし、勿論だからといって配分を間違えば死に至る危険も十分にあります。そのギリギリの線を見極める必要もありますからね。まあどちらにしろ、少しこちらも急いだほうがいいでしょう。コアン、エリンギにもすぐに知らせて出発の準備を、それとキルビルは――アレと同じ物を手配する必要がありますので、また協力をお願いします」

「アレってアレか? それはいいけどアレを運ぶのは簡単じゃないぜ。一体どれぐらいなんだ?」


 キルビルはアレだけでそれが何かを察したようだ。口ぶりから既にアレというのを運んだことがある様子。


「勿論今回はイーストアーツの分全てですよ」

「はっ!? お、おいおいマジかよ! 全てって――第一そんなにすぐ出来るものなのか?」

「一応前もって発注はしてます。そうでないと流石に間に合いませんからね。また彼に(・・)嫌味の一つも言われそうですがね。しかし、とにかく領土を越える必要がありますし、盗賊ギルドの皆さんの助けも必須ですので」


 不敵な笑みを浮かべつつもシャドウがキルビルに願い出ると、彼もやれやれと肩を竦めた。


「全く、本当に人使いの荒いやつだな。しかたねぇ、じゃああいつらのケツ蹴りあげて俺も動くとするかね――」


 

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